異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊

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ナイトメア

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 ......誰だっ!?

 まだ残党がいたのか?

 全部倒したと思って油断してたわぁ......ノーダメだけど、時折こういう事があるからマイエンジェルたちは怒るんだろうな......いつもごめんなさい。

 それにしても、敵意も殺意も完全に感じさせない不意打ちとか......なんでコイツがボスじゃねぇんだよ!?


 反撃しようと思い、振り向いた俺の視界に入ってきたのは立派な角。

 ......角?

 帰還石は確か、敵は巻き込まない設定だった筈だし、これは敵でも攻撃でもないのか?


 よく見てみると見覚えのある角。

 キメラやんけ!!

「お前、どういうつもりだよ......」

『ツイテク』

 ......ちょっと何言ってるかわからない。何がコイツの琴線に触れたんだ?

「えーっと、何がどうなったらそんな結論に至るんですかね......」

『カン』

 カン......暗槓ですか? それとも明槓ですか?
 四槓子を全部暗槓で、そして最後は嶺上開花で上がりたいよね。四槓子のおまけに四暗刻単騎も付いてくる素晴らしいアガり。
 純正九蓮宝燈、十三面国士無双と共に一度はアガってみたい役満ベストスリー。四位は七対字一色。五位は發無し緑一色。

 ......うん、現実逃避はやめよう。麻雀打ちたい。

「勘って......まぁいいや。別にお前が嫌いな訳じゃないし、連れていくのは吝かではない。だけど俺にはもう既に大事な子たちがいるから、その子たちが許可しなければ諦めてもらう事になるけどいいか?」

『ダイジョブ』

「......許可されなかった時は大人しく去る、一切の情報を漏らさない......この二点は絶対に守ってもらうから」

『ダイジョブ』

 威圧を込めて睨むも怯む様子は見せないから信用してもいいかな。恐怖は感じていたっぽいし。

 俺とする会話だけだとコイツの真意を測りかねるから、連れてってピノちゃんと話しをしてもらえばすぐわかるだろう......
 最悪の場合は逃がさずに馬刺しコースだろうけど、コイツもそれは覚悟の上だろ。きっと。

「じゃあ拠点まで帰るから俺に触れてろ。行くぞ」

 ピトッとくっ付くキメラと共に、懐かしの我が家へと帰還した。



 ◇◇◇



 懐かしの景色。随分と雪が積もったなぁ。
 あぁ......そうだ、この景色だよ......足りないのはこの真っ白な景色に彩を添える天使たちだけだ。



 おー!
 愛しのエンジェルたちの気配がどんどん近付いてきている......お出迎えだね、嬉しいよ!!

 急にテンションが上がった俺に困惑した視線を向けてくるキメラを華麗にスルー。後数秒で天使たちはここに辿り着くだろうが、その数秒が惜しいので俺も駆け出す。

 世界一可愛いあんこの姿がはっきり見える......見えるぞ!!

 あぁぁぁぁ......俺の生み出していた幻影では、この子の可愛さの1%も表現出来ていなかったとわからされたよ......!!

 夢にまで見た生あんこと生ピノちゃんと生ツキミちゃんと生ダイフク。あ、ヘカトンくんも来てるみたいだ。
 あんこの尻尾がぶんぶんしてますよ!!  かわいい!!

 トップスピードのまま俺に飛びついてきたあんこをしっかりと受け止めようとしたけど無理でした。
 俺と接触する瞬間、大型になったからだ。

 抱き締める前に押し倒されちゃったけど......これはこれでイイネ!!
 でもね、俺だって我慢してたんだよ。だから抱き締めさせろ!  触らせろ!  スリスリさせろォォォォ!!


 大興奮で両手を広げ、抱き締めようとする俺。ツーアクション。
 プニプニでプリティな肉球を俺に向けて突き出すあんこ。ワンアクション。

 どちらの行動が先に相手に届くか......まぁ、後者であろうね。久々の生あんこにテンションの上がった俺の行動が、いちいち大袈裟になっていたのも敗因の一つだった。

 巨大なあんよと肉球が俺の顔に押し付けられる。思っていたよりも力強く、取ろうとしていた行動がキャンセルされて地面に体全体が押し付けられる。

 そして始まるマウントポジションからの殴打......もとい、ご褒美。

 スパンッスパンッと肉球をぶつけているとは思えない音が辺りに響く。

「ありがとうございますっ......ありがとうございますっ!!」

 一体の変態が吐き出す感謝の言葉もついでに響き渡った。

 知らない人が見たらドン引いてしまう地獄絵図のような現場。実際にキメラはなんとも言えない顔をしていた。そこへ四つの影が追加される。
 いち早く飛び出していったあんこのトップスピードは流石に早すぎて追い付けなかったらしく、遅れる事数十秒......ようやくマイエンジェルたちが勢揃いしたのだ。

 まず俺にお帰りと言ってくれたのは、ピノちゃんだった。続いて鳥ちゃんズが、そしてヘカトンくんも『おかえり』と文字で表現。
 現在もご褒美を与え続けているあんこからもお帰りと言ってもらえた。

 涙で前が見えなくなる。パパね、君たちと会えなくて寂しかったけど、単身赴任頑張ってきたんだよ!

 帰って来れて本当によかった。もうこの子たちと一時的にでも離れるのは嫌だ。
 送り出した時は激おこだったけど、俺の帰還を心待ちにしてくれていたのがわかる。君たちも寂しかったんでちゅねー♪

 あんこの肉球プレスを受けながら両手を広げてエンジェルたちを呼ぶ。

「ただいま。色々言いたい事があるんだろうけど今は我慢してくれないかな......寂しくて死にそうだったから、先に皆を抱きしめさせてください。お願いしますっ!!」

 ......どうやらこの情けない俺の心の叫びは、しっかりこの子たちに届いたらしい。
 あんこが小さくなって俺の胸に引っ付いてきて、間髪入れずに三つの衝撃。それからはもうてんやわんやだった。

 皆、『もっと早く終わらせらたでしょ』『時間かけすぎ』『なでなでして』など、寂しかったんだろうなと思わせてくれる小言や御言葉をたくさん頂いた。

 俺は天使たちを泣きながらモフった。
 心の隙間がドーンドーンと埋められていく。幸せだ。

 あんこのもふもふがもふもふしてて幸せ。さっきまで攻撃してきたプニプニ肉球が、俺の頭を撫でてくれていてゴーゴーヘブン......今ならどこまでも逝ける。
 ピノちゃんのスベスベ美蛇肌が気持ちよくて幸せ。蛇舌で舐められて、独特な感触を味わえてやばい。
 ツキミちゃんのふわふわな羽毛が顔面にめり込んで幸せ。ダイレクトな甘えっぷりが俺の心に突き刺さる。
 ダイフクのモッチモチがモチモチしていて心がモチモチする。でもドリルくちばしを仕掛けてくるのはやめてほしい。

 きっとこの後はガッツリお説教されると思うので、今は無心で幸せに浸る。
 見つめ合うと素直にお喋りできないので、心を込めてモフり倒した。思い出はいつの日もモフ。



 ◇◇◇



 どれくらいの時間が経ったのかわからない。
 体感では刹那にも満たない時間のように思えた。残りの人生全てをこの幸せな時間に捧げたいとすら思っていた。

 そんな幸せの最中、この中で唯一冷静だったヘカトンくんからストップが掛けられてしまった。
 キメラを見つめながら『アレどうするの?』と聞いてきたのだ。

 ............。

 ........................。

 やっべ。すっかり忘れてたわ。
 キメラのつぶらな瞳が俺を見つめている。捨てられた子犬のように、おめめをうるうるさせながら見てくる。

 悪かった......悪かったよ。
 ちょっとだけ感動の再会が長引いちゃっただけなのさ。許してくれ。

「あー......えーっと、紹介します。こちら馬型のキメラくんです。トカゲ共に捕まってて......なんだろう......色々あって懐かれちゃったでいいのかな?」

 この事にあんまり驚いていない皆さん。なんでだろう。

 まぁこれなら話もしやすいからいいか。

『オンカエス、ヤクニ、タチタイ』

 喋らなくなっちゃったと思ってたら急に喋った。なかなかいじらしい事を言ってくれるわ。

「とまぁ、こんな感じらしいのよ。俺は別にいいかなーって思ったけど、あんこたちとの相性もあるし見極めてもらおうかなと思い、ここに連れてきた所存でございます」

 俺の腕の中にいる天使たちに説明。

 ......あっ、やだやだ!  だめっ!

 モゾモゾと体を捩り、俺の腕の中から飛び出してキメラの所へ行くあんことピノちゃん。
 喪失感がやばい......俺にだっこされたままでもええやん......ウウッ......

 項垂れる俺の顔にモフっとしたモノが押し付けられる。
 ツキミちゃんとダイフクは応援に行かずに俺の所に留まってくれた。優しい。

「君たちはキメラを見定めなくていいの?」

 こんな言葉を投げかけるも、俺の腕は鳥ちゃんズをホールドしている。優しく優しく、しかし絶対に離さないという意志を込めて。ダイフクは呆れ顔。

 ごめんね。心と体は別物なの。

『あんことピノに任せとけば問題ない』

 どうやら鳥ちゃんズの意見はこれで一致しているようだ。なら遠慮なく一緒に居ようねー♡

『あ、でもこの後は覚悟しておいた方がいいよ』

 んんんんー?
 なんで今そんな不穏な事を言うのかなー?

『僕、【千里眼】使っての監視を任されていたから......色々見て、そのまま報告してた』

 ......ほぅ。時折感じる寒気と、キメラを報告した時の驚きの無さはそれが原因か。お説教はあると想定していたけど、考えが甘かったみたいだな。
 どうしよう。破滅フラグがギンギンにおっ勃ってる気がする。やばたにえん。

「......ちゃうねん」

 追い詰められた俺は、それしか捻り出せなかった。
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