異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊

文字の大きさ
159 / 183

悩み解消

しおりを挟む
 陰鬱な気分のままトカゲ肉の塊を切り分けていった結果、俺の目の前にはスライスされたお肉がドーンと山になっている。

 生肉派なキメラ用の塊肉も、もちろん用意してある。生で食っても美味しそうだと思われる部位を選別したつもり。どこが本当に美味しい部位なのかは謎なので、どの部位が気に入る部位は、食べている時の反応を参考にしようと思っている。


 さぁて......まだあの子たちは会議しているみたいだし、今のうちに下味を付けちゃおう。 早く会議終われー。



 ◇◇◇



 肉の下拵えを終わらせても未だにエンジェルたちは戻って来ない。その事を寂しく思っていじけていると、しっかり者コンビがこちらへやってきた。

 ......あれ?

 つぶらな瞳がチャームポイントなキメラの個性が死んでいる。まぁ何となく何があったのかは察せた......。
 ヘカトンくんは意外と鬼畜でスパルタな教官だったんですねー。

 放心状態のキメラの頭を撫でた後、ヘカトンくんも撫でてあげる。ここまで牛の管理を頑張ってくれていたご褒美として、ヘカトンくんの大好物の飴ちゃんを大量に収納袋に忍ばせておく。
 後で袋の中身を確かめた時に驚いてくださいませ。

 さて、それではヘカトンくん......キメラをこんな状態にした説明をお願いします。

『訓練してムキムキになっているオスの牛達の中で一番弱いのにすら勝てない。だからこれは必要な措置』

 なるほど。なるほど。
 その可能性は完全に頭から抜けてたわ。あの牛、今そこまで強くなっていたのね。

「ごめん、ごめんよ......」

 とりあえず謝罪。
 そこから色々と今後の方針を話し合い、キメラが進化するまでは劇物を食わせ続けるって結論に落ち着いた。

 キメラはアレを頑張って食べてほしい。チワワみたいに俺を見つめてきているけど、ここはしょうがないんだ......諦めてくれ。

 早めに進化出来るといいね
 ちなみに今日はここまでに五つ食わされたらしい。

 ヘカトンくんにドナドナされていくキメラを見送る。

 この後もあの劇物を食わされる気がする。夜はお肉だからね......頑張って......



 ◇◇◇



 また完全にひとりぼっちになった。
 劇物の新たな犠牲者を見れたおかげなのか、現在心は落ち着いている。

 夜まではまだまだ時間もある事だし、お風呂に浸ってリラックスしながら頭の中の整理でもしようかと考える。
 途中で乱入してきてもいいんだよと心の中で呟き、お風呂へと向かう。

 お湯を張り直し、かけ湯をしてから浸かる。

 しんしんと降り積もっていく雪を眺めながら脱力して目を閉じる。開放的でとても気持ちいいんだけど何かが足りない。


 露天風呂、一面の雪景色とくれば......足りない物は、そう......お酒だ。あんこたちがいない現状はもう諦めている。


 この際だから開き直ってソロ温泉を満喫してやろうと、特別な日本酒を取り寄せた。

“酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて”という信念の元に造り上げられた日本酒。

 カワウソの祭。日本酒の美味しさがよくわからないと言うガキンチョだった俺に、日本酒の美味さを教えてくれたお酒。
 懐かしい......初めて飲んだ時には物凄い衝撃を受けたなぁ。日本酒が苦手な人や、日本酒初心者に是非とも飲んでみてもらいたい。



 徳利に注ぎ入れ、木桶にお猪口と共に置いて風呂に浮かべる。自身の頭には手拭いを置き、風呂を満喫する日本人スタイルになる。

 お猪口に手酌で注ぎ、先ずは一杯クイッと一気に飲み干す。

 口の中に広がるフルーティな香りと甘み、飲み込んだ後も続く余韻が心地良い。

 高い酒は水のように飲めてしまい、いつの間にはベロベロになんていう事態になりかねないので要注意。何が言いたいのかと言うと、コレすげぇ飲みやすい。



 さて......一息ついた所でゆっくり考え事に興じるとしようか。

 一つ目、ここに住み始めて数ヶ月が経過し、単身赴任から帰ってきて先ず感じた事はここが俺の家なんだっていう感覚。
 あんこたちが居るからってだけではないのがミソ。
 ......これは春を待つまでもなく、ここに住居を構えてもいいと、俺が真剣に考えていると思っていいのかな?
ㅤあんこたちもこの場所が気に入っているのは理解している。
 ただなぁ、絶対に誰も来ない場所じゃないのだけが気がかりなんだよな。

 ここら辺はあんこたちと要相談だろうな。現在の俺は8:2でここに棲み家を構えていいと思えている。悩むわぁ。

 二つ目、キメラの名前。
 これはもう二つに絞れているけど、どちらも悪くはなさそうに思える。
 決定的な何かが欲しい。まだ時間的な猶予はあるから焦らずに決めよう。

 三つ目、このままキメラを牛の管理に回していい物かという事。
 飛べるシカウマ......これは空中からの監視やパトロールをさせるべきではないか。ツキミちゃんとダイフクにフォローしてもらえれば監視体制はパーフェクトだと思う。多分。

 トカゲの巣のような隠蔽機能や、悪意のあるヤツらだけを弾ける結界みたいのがあればなぁとは思う。

 来年辺り少しお出かけしてダンジョン攻略してもいいかな。


 ......ダンジョン?

 ......ちょっと待て。そういえばダンジョンで一つだけお願いを叶えてくれるオカモチを手に入れていたな。

 オカモチにソレらを頼めば手に入る可能性大やんけ!!!
 そうだよ。なんでそんな重要なブツを忘れていたんだろう。

 結界装置を頼むか、隠蔽機能を頼むか......これも後で要相談だ。そういえば地獄風温泉魔道具も手に入れていた。やばいな、これは早急に家族会議を開かなければ。



 ふぁぁぁ......悩み事が一気に解決へ向かうこの感じ、クセになりそうな程気持ちいいな。本当は悩み事なんて無い方がいいんだけど。

「広い風呂でリラックスしながらの考え事ってイイもんだわぁ......昔の文豪の方々が温泉宿に長期滞在していた気持ちがわかる気がする」

 上機嫌になれば当然酒もグイグイ進んでいく。あっという間に空になった徳利に酒を追加。
 体が熱くなりすぎたら雪へ全裸ダイブし、体を冷ましてからまた風呂に浸かる。

 酒だけなのに物足りなさを感じたので炙った鮭の皮を収納から出して肴に。これが大当たりで酒がまぁ進む進む。鮭恐るべし。

 飲み方も楽しみ方も、湯治に来ているおっさんの領域になっているのは気にしたら負けだと思う。
 これでいいんだ。場にそぐわない飲み方をするよりは全然いいよね。うん。

 他にも考える事あったかもしれないけど、一番の問題が片付いたと言ってもいい状況になった事を喜ぼう。露天風呂飲み最高!





 今日の露天風呂飲みをして確信した。俺は古き良き温泉宿みたいな家屋を建ててそこに住みたいと。

 風呂上がりの一服をしながら黄昏れる。
 辺りは暗くなり始めているので、そろそろ夕飯の準備に取り掛からないといけないけど、イマイチやる気が起きない。
 昼間っから風呂で飲んだ所為で完全にオフモードになっちゃったのが悪いんだけど、俺を完全に放置するあの子たちも悪い。

 どんだけ長く会議をしてるつもりなんだよぉ......



 ◇◇◇



 面倒に思いながら先程用意したトカゲ肉を焼いていき、肉を粗方焼き終えた頃にはもう真っ暗になっていた。

 未だ会議が続いている訳はないだろうと、【千里眼】であんこたちの様子を覗く。皆で固まってソファで寝ていた。話し疲れて寝ちゃったのかなー。アハハハハ......

 はぁ......寂しい。

ㅤ流れでヘカトンくんの方も覗いてみると、めちゃくちゃ笑顔で劇物をキメラに押し付けているやばい映像が見えた。

 なんか見ちゃいけないモノを見てしまった気がする。流石に止めないとキメラの心が死んでしまいそうなので止めに向かう。

「はーいご飯できたから遊びはおしまい。あんこたちはすやすやだから、今日はここで俺も食べさせてもらおうかな」

 一緒にご飯で喜ぶヘカトンくんと、縋るような目でこちらを見てくるキメラ。ごめんね、遅くなって。

「お肉焼いてきたから食べよ。キメラの分もどうぞ」

 皿に乗せた生肉と焼肉を、それぞれの前に置いていく。さぁお食べ......お口直しにどうぞ。

 涙を流しながら食べるキメラを他所目に、ヘカトンくんに質問をぶつける。

「何個食べさせたの?」

『20』

 おぉふ......そりゃ泣くわな。容赦ないねヘカトンくん。これで合計25個か。栄養過多になってないか心配。それと、なんか今の泣いているキメラの姿を見てたら悩んでいた名前問題に、第三の選択肢が颯爽と現れて解決してしまった。

「あ、そうそう。キメラの名前はワラビね」

『ワラビ......』

「嫌ならもう一つの案があるけど」

『ワラビ』

 気に入ってくれたのか気に入ってないのか判断しかねる。嫌だって言ってこないから、これで大丈夫と思っていいよね?

 ずっとワラビと呟くキメラくんを眺めながら、ヘカトンくんと一緒に焼いた肉を貪った。

 キメラの名前はわらび餅から。
 それにした理由はキメラシカの首を切り落としたら、わらび餅みたいなプルプルした物が溢れ出してきそうだなーって思ったから。

 結局名前が甘味ベースになったけど後悔は無い。

 これからよろしくね。

 ちなみに爆睡していたエンジェルたちは朝まで起きる事はなかった。
 きっとこの子たちは俺のいない間、不規則な生活をしていたんだろう。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...