上 下
41 / 96

大切な女性(ひと)

しおりを挟む
 残された鈴となずな。

 対面で座り。どこか挙動不審な、なずなの動きが可愛いと思いつつ、鈴は。

「なずな? どうした? 落ち着いて?」

 と。言うと。

 なずなは、鈴の優しい声に心のざわめきが収まって。

 先ほどの、湖紗若の様子を鈴に伝える。

「なるほど……嬉しそうに楓禾姫に抱き付いた、純粋な湖紗若も。鋭い湖紗若も湖紗若だからな」

 そう答えた鈴。

「そうですよね。舌っ足らずなお可愛らしい湖紗若様なら、外喜様は警戒心をそこまで抱かれないでしょうし。 聡さを隠しておられる為。 けれど、楓禾姫様には 無邪気な姿見せておられるのですね」

 左目より溢れし涙を、指先で拭いながら答えるなずな。


「うん。でも、稜弥と詠史に見せつけるように楓禾姫に抱き付く術は侮れないがな(笑)」

 その言葉に、なるほど納得したというように、しかし、 涙の残る瞳で儚げに微笑んだなずなは。

「稜弥様と詠史殿の『湖紗若(様)は侮れませんよ』は、そこから来ていたのですね」

「楓禾姫も湖紗若も。なずなにだけは本音で『寂しい』と、さらけ出せるのだからな」

「はい。楓禾姫様と湖紗若様に安心して過ごして頂けますように、これからも努めて参ります」

 なずなの答えに、鈴は嘆息すると。


「それでは、なずなは、誰に。本音をさらけ出し甘えれば良いのだ?」

 なずなは鈴の言葉を反芻し。交わした言葉の内容を思い返してみる。 

 思い出して少し慌てふためきながら。 

「私は、母に本音をさらけ出して。そして甘えますゆえ」

「 確かに母の愛は偉大だからな。けど、私がなずなを守るぞ」

( 違う。湖紗若に言われたからじゃない)

「湖紗若に『なずなを守れ!』 言われたから守るのではないぞ。私が、私の意思で…… 大切だと思っている。なずなだからこそ。守りたいのだ」

(なずな……可哀相な位動揺して……)

 鈴は、とりあえず。なずなが冷静にな時にもう一度。話をしようと思った。

「なずな。約束してくれ! これから、外喜と決着付ける時が来たり、色々起こりそうな予感がする。とにかく些細な情報でも。何でもいいから私に伝えてくれ!」

「はい。鈴様……」

 いつも、健気ななずな。大切な存在の女性……


 自分の言った言葉を整理しているのだろうか? 涙ぐんでいるなずな。


(俺が守るから……)

 何か起こる予感……


 鈴は気持ちを引き締め、誓うのだった。
しおりを挟む

処理中です...