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24章 断罪
夜明け
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度重なる攻撃により白龍の足は傷つき、身体の大部分は炎に包まれて見ることが出来ない。
だが白龍は微動だにせず、降りかかる雷の矢に氷の槍、更に絶え間ない斬撃を甘んじて受け続けている。美しく輝いていた鱗は次々に欠け飛散し、純白の身体は大小数多の傷で傷ついていった。だがそれでも、白龍は一切動くことをしない。
どれだけ続いただろうか。
けたたましい金属音と魔法の発動音、炎や雷が放つ破裂音が鳴り響いている。まるで大国同士がぶつかり合う戦争の、一角を切り取ったような音だ。確かに戦力で言えば両者とも軍と変わらぬ力を有するだろう。だが実際は、片方だけが攻めるという異常な戦いであった。
だがそれもこれで終わる。
白龍は徐に翼を広げるとゆっくりと一つ羽ばたいた。ただそれだけで、戦況は一変することになる。
一瞬にして炎が消え去った。その炎は全てを焼き尽くすまで消える筈のない魔法の炎だった筈だ。だがその炎が、一切の形跡を残すことなく消え去ってしまったのだ。続けて白龍を襲う雷の矢、氷の槍も、霞の如く消え去ってしまう。
「なっ!? そんな!!」
リエントは突き出した枯れ木の腕を引き寄せると、続いて新たな魔法の詠唱に入る。だがその詠唱を終えた後も、魔法は姿を現さない。
「何でいきなり……何で!? 」
少年は慌てて次なる魔法を唱えるが、魔力は忽ち霧散し消滅していく。見えぬ物を掴むように、何度も何度も手を差し伸べては手繰り寄せる。
リエントが必死にそうしていると、頭上から鈴のような声が響いた。
『……クハハ……精霊を束ねる我に精霊の力を借りた魔法が通用するとでも思ったか? まぁ、確かに上手く使ってはいるが……見ているがいい』
炎の陰から現れたアニムは口角を釣り上げると、傷だらけの足で一回地面を鳴らす。
突如動き出した白龍に驚き、一時離脱するセリアとガンフ。
三人は一纏まりに固まると、荒れた息を整えつつ白龍の動向を伺う。
変化は足元から始まった。
鱗が弾け飛び傷だらけだった足の周りに、きらきらとした光が集まり始める。明滅する光は輝きを失った鱗に吸い込まれ、気付けば傷ついた足は元の綺麗な状態に治ってしまった。
その魔法はつい先ほど、リエントがローゼリエッタにかけたものと同じものだった。だが、その効力には大きな差がある。まず魔法の発動までにかかった時間、次に効果を終えるまでの時間、そして効力の強弱、その全てがリエントの物よりも数段勝っていたのだ。
「嘘だ……これじゃあまるで……」
時を巻き戻したようだと呟くリエント。それを見ていた他の二人も同じことを思った。
『これが本当の魔法だ。お前たちの扱う真似事とは違う、本来の精霊の持つ力である。次は……そうだな。これが良いか』
そういったアニムは、鋭い視線でリエントを睨みつけると、風の精霊を呼び出し命令を下す。主の指示を受けた精霊は、自身の力を開放し、標的めげかけて風の刃を飛ばした。
風故に目視できぬその刃が、リエントの枯れ木の腕を切り飛ばす。
「うぅっ!!」
通常の人間であればその一撃により、多量の出血で命に関わる大きな傷となるだろう。だが切断されたリエントの左腕からは一滴の血も滴ることはなく、切断面を手で押さえてはいるが痛みに泣き叫ぶといったことも無い。
「う……ウアアアア!!!」
代わりに挙げたのは雄たけびだった。僅かに人間離れした音の混ざる声を上げ、リエントは体内の魔力を操作する。すると切り落とされた腕は瞬く間に生え直り、先程の物よりも僅かに凶悪な形となって再び姿を現した。
それを見たアニムは、大きくため息をついて更に冷たい視線を向ける。
『全く、それのどこが人間の姿だというのだ? 真っ当な化け物そのものではないか』
今この瞬間のリエントを見て、彼が人間だと断言できる人間は少ないだろう。だがしかし、彼と共に戦う者達は迷うことなくそれを否定できる。
ガンフが叫んだ。
「どの口が言うのだ!! 私たちは唯、毎日を平和に生きていただけだ! それを害しようという存在が現れたから、抗う力を身に着けただけの事。例えこのまま体が魔物に蝕まれようと……心は、心だけは人間のままなのだ!」
自らの腕を忌々しく握りしめ、恨みの籠った視線で龍を睨みつける。
そんな視線を受けても、アニムは鼻で笑って人間を見下ろすのみだった。
治癒魔法により白龍の身体が輝きを取り戻し、辺りは再び光に包まれる。加えて夜空に浮かぶ満天の星。そして夜空に浮かぶ月の明かりにより、周囲はまるで夜明けのような明るさだ。
セリア、ガンフ、リエントの内、リエントが既に戦力外となりつつあるこの状況で、それでも三人は戦う意思を失いはしない。
だが対峙するアニムはと言えば、ガンフの叫び声を聴いて少々うんざりとしていた。
魔法が効かぬことを示した。多少の傷が無駄であるとも示した。また、それだけの傷をつける難しさも示した。だというのにだ。魔法使いである枯れ木の少年ですら、戦う意思を少しも崩してはいない。
(全く……諦めが悪いと言えばいいのか、聞き訳が無いと言えばいいのか……仕方のない)
アニムは思った。人間の、彼らの心を折るには、この程度の力では足りないのだと。であるのならば、残された選択肢は一つだけだ。
(ならば更なる力を持って、絶望を味合わせてやろうぞ)
身動きせぬ三人を一瞥し、アニムは夜空を見上げた。
『神は、世界の管理者を作る際それぞれに『使命』と『贈り物』を与えた。エルフで言えば森の管理が前者であり、魔法の扱い方が後者となる。さて……では我の使命と贈り物は何か分かるか?』
思わせぶりな台詞と態度。問の答えに見当もつかない三人は、一様に首を横に振る。
するとアニムは、煌々と輝く翼を大きく広げ、夜空を見上げたまま一言呟いた。
『‶天回”』
突如、夜空に浮かんだ満天の星と月が、高速で移動を開始する。白い軌跡を残し、全ての光が西へ、西へと動いていく。そしてそれらが遠くに見える山の頂に隠れる頃、逆の方角から眩い光が射し始めた。
星を追って西を注視していた三人は、唐突に刺した光に驚き咄嗟に東の空を向く。そこには……
「な……なんだと!? まさか……太陽が……」
四人の小さな人間と、一匹の大きな龍を太陽の光が照らし出す。
だが白龍は微動だにせず、降りかかる雷の矢に氷の槍、更に絶え間ない斬撃を甘んじて受け続けている。美しく輝いていた鱗は次々に欠け飛散し、純白の身体は大小数多の傷で傷ついていった。だがそれでも、白龍は一切動くことをしない。
どれだけ続いただろうか。
けたたましい金属音と魔法の発動音、炎や雷が放つ破裂音が鳴り響いている。まるで大国同士がぶつかり合う戦争の、一角を切り取ったような音だ。確かに戦力で言えば両者とも軍と変わらぬ力を有するだろう。だが実際は、片方だけが攻めるという異常な戦いであった。
だがそれもこれで終わる。
白龍は徐に翼を広げるとゆっくりと一つ羽ばたいた。ただそれだけで、戦況は一変することになる。
一瞬にして炎が消え去った。その炎は全てを焼き尽くすまで消える筈のない魔法の炎だった筈だ。だがその炎が、一切の形跡を残すことなく消え去ってしまったのだ。続けて白龍を襲う雷の矢、氷の槍も、霞の如く消え去ってしまう。
「なっ!? そんな!!」
リエントは突き出した枯れ木の腕を引き寄せると、続いて新たな魔法の詠唱に入る。だがその詠唱を終えた後も、魔法は姿を現さない。
「何でいきなり……何で!? 」
少年は慌てて次なる魔法を唱えるが、魔力は忽ち霧散し消滅していく。見えぬ物を掴むように、何度も何度も手を差し伸べては手繰り寄せる。
リエントが必死にそうしていると、頭上から鈴のような声が響いた。
『……クハハ……精霊を束ねる我に精霊の力を借りた魔法が通用するとでも思ったか? まぁ、確かに上手く使ってはいるが……見ているがいい』
炎の陰から現れたアニムは口角を釣り上げると、傷だらけの足で一回地面を鳴らす。
突如動き出した白龍に驚き、一時離脱するセリアとガンフ。
三人は一纏まりに固まると、荒れた息を整えつつ白龍の動向を伺う。
変化は足元から始まった。
鱗が弾け飛び傷だらけだった足の周りに、きらきらとした光が集まり始める。明滅する光は輝きを失った鱗に吸い込まれ、気付けば傷ついた足は元の綺麗な状態に治ってしまった。
その魔法はつい先ほど、リエントがローゼリエッタにかけたものと同じものだった。だが、その効力には大きな差がある。まず魔法の発動までにかかった時間、次に効果を終えるまでの時間、そして効力の強弱、その全てがリエントの物よりも数段勝っていたのだ。
「嘘だ……これじゃあまるで……」
時を巻き戻したようだと呟くリエント。それを見ていた他の二人も同じことを思った。
『これが本当の魔法だ。お前たちの扱う真似事とは違う、本来の精霊の持つ力である。次は……そうだな。これが良いか』
そういったアニムは、鋭い視線でリエントを睨みつけると、風の精霊を呼び出し命令を下す。主の指示を受けた精霊は、自身の力を開放し、標的めげかけて風の刃を飛ばした。
風故に目視できぬその刃が、リエントの枯れ木の腕を切り飛ばす。
「うぅっ!!」
通常の人間であればその一撃により、多量の出血で命に関わる大きな傷となるだろう。だが切断されたリエントの左腕からは一滴の血も滴ることはなく、切断面を手で押さえてはいるが痛みに泣き叫ぶといったことも無い。
「う……ウアアアア!!!」
代わりに挙げたのは雄たけびだった。僅かに人間離れした音の混ざる声を上げ、リエントは体内の魔力を操作する。すると切り落とされた腕は瞬く間に生え直り、先程の物よりも僅かに凶悪な形となって再び姿を現した。
それを見たアニムは、大きくため息をついて更に冷たい視線を向ける。
『全く、それのどこが人間の姿だというのだ? 真っ当な化け物そのものではないか』
今この瞬間のリエントを見て、彼が人間だと断言できる人間は少ないだろう。だがしかし、彼と共に戦う者達は迷うことなくそれを否定できる。
ガンフが叫んだ。
「どの口が言うのだ!! 私たちは唯、毎日を平和に生きていただけだ! それを害しようという存在が現れたから、抗う力を身に着けただけの事。例えこのまま体が魔物に蝕まれようと……心は、心だけは人間のままなのだ!」
自らの腕を忌々しく握りしめ、恨みの籠った視線で龍を睨みつける。
そんな視線を受けても、アニムは鼻で笑って人間を見下ろすのみだった。
治癒魔法により白龍の身体が輝きを取り戻し、辺りは再び光に包まれる。加えて夜空に浮かぶ満天の星。そして夜空に浮かぶ月の明かりにより、周囲はまるで夜明けのような明るさだ。
セリア、ガンフ、リエントの内、リエントが既に戦力外となりつつあるこの状況で、それでも三人は戦う意思を失いはしない。
だが対峙するアニムはと言えば、ガンフの叫び声を聴いて少々うんざりとしていた。
魔法が効かぬことを示した。多少の傷が無駄であるとも示した。また、それだけの傷をつける難しさも示した。だというのにだ。魔法使いである枯れ木の少年ですら、戦う意思を少しも崩してはいない。
(全く……諦めが悪いと言えばいいのか、聞き訳が無いと言えばいいのか……仕方のない)
アニムは思った。人間の、彼らの心を折るには、この程度の力では足りないのだと。であるのならば、残された選択肢は一つだけだ。
(ならば更なる力を持って、絶望を味合わせてやろうぞ)
身動きせぬ三人を一瞥し、アニムは夜空を見上げた。
『神は、世界の管理者を作る際それぞれに『使命』と『贈り物』を与えた。エルフで言えば森の管理が前者であり、魔法の扱い方が後者となる。さて……では我の使命と贈り物は何か分かるか?』
思わせぶりな台詞と態度。問の答えに見当もつかない三人は、一様に首を横に振る。
するとアニムは、煌々と輝く翼を大きく広げ、夜空を見上げたまま一言呟いた。
『‶天回”』
突如、夜空に浮かんだ満天の星と月が、高速で移動を開始する。白い軌跡を残し、全ての光が西へ、西へと動いていく。そしてそれらが遠くに見える山の頂に隠れる頃、逆の方角から眩い光が射し始めた。
星を追って西を注視していた三人は、唐突に刺した光に驚き咄嗟に東の空を向く。そこには……
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