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24章 断罪
力対力
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夜明けの日差しを受け、三人は放心していた。
月はまだ頂点を抜けたあたりで、夜も深い時間だった筈だ。だというのに今は星も月も姿を隠し、対となる眩い太陽が顔を覗かせている。
空を見上げれば青い空。あたりは俄かに暖かくなり、爽やかな風が吹き抜けた。
青空を見上げた三人に向けて、澄んだ声が響く。
『我が神から贈られた物は『神言』だ。世界の理を変える、神が使う言葉である。そして我が神に与えられた使命は、この世界の『時』と『空間』の管理することだ。‶招集”』
二つ目の言葉が発せられると、白龍の前に何度目かの黒穴が現れた。それは全てを吸い込み、全てを吐き出す次元の裂け目。白龍の意思によって開き、白龍の望む物を自由に運ぶ洞穴である。
アニムはその裂け目を使い、膨大な数の病魔を食らう物を呼び出した。現れたのは、千、万にも及ぶ魔物の大群だ。瞬く間に地表を埋め尽くし、奇声を上げながら犇めいている。
次々と数を増やす魔物を前に、ガンフが呟いた。
「なぁリエントよ。魔物の力を手に入れたお前には、あんなことが可能か?」
その言葉には淡い希望が込められていた。ただ一言、私にも出来ますよという言葉を期待した。
魔物の力を手に入れたリエントは、少数の長距離転送を可能としていた。更に短い距離ならば一都市にも近い数の転送が可能となっており、その力を使って彼らはこの場所までやってくることが出来たのだ。だからガンフは、リエントでも白龍と同様の現象が可能であるという言葉を期待したのだった。しかし。
「ははは……無理に決まってますよ。これだけの数の魔物が一か所に集まってるわけないですし、多分世界各地から集めてるんでしょうね。神様の力と言われても納得です」
絶え間なく湧き出る魔物を見て、諦めを含んだ乾いた笑いが漏れる。
「ふふっ、でも諦めるわけにはいかないでしょう? 力を貸してくれたみんなの為にも……さぁ、もうひと踏ん張りしましょう」
セリアも少年の微笑みにつられて微笑むと、二人を鼓舞し先頭に立つ。
「リエントはロゼの護衛を! ガンフさんは私とあれへの道を切り開くわよ!」
「おう!」
「はい!」
頭脳による指令を受け、手が、足が呼応を始める。
リエントは近くでへたり込むローゼリエッタの下へ駆けよった。同時に体内の魔力を操り、魔物の力を更に開放する。すると枯れ木の腕は、更に戦闘に適した形へと変化していき、やがて少女の下へと辿り着くリエントの姿は、大人の倍はある枯れ木の化け物に変わっていた。
変貌したリエントを見て僅かな身動ぎで狼狽えるローゼリエッタ。リエントはその前に立ち、群がる魔物へと数種の魔法を打ち込む。
「炎よ! 氷よ、風よ、雷よ! 我が意に従い全てを打ち抜け! 全てを蹴散らせ!!」
両の手から放たれる色鮮やかな光が四方に飛び散り、魔法が幾つも同時発動される。
地面を焼く爆炎。隆起する氷柱。更に風が逆巻き雷が迸った。
元から優秀な魔法使いであり、加えて魔法に長けた魔物を取り入れたリエントの力は、エルフなどをとうに超え、恐るべき領域に足を踏み入れていた。特に大群を相手にした時は凄まじく、まさに一騎当千ともいえる力を持つ。
魔法の攻撃により黒い影が幾つも吹き飛び、地に落ちる前に煙のように消えていった。気付けばリエントとローゼリエッタを中心に、小さな空間が出来上がっている。
その光景を、アニムは遠くから冷ややかに見つめていた。
一方セリアとガンフは、自らが持つ圧倒的戦闘力をもって、白龍に向けて愚直の直進を計る。
龍との間に群がる魔物たち。黒狼、巨蛇、獣人、怪鳥。様々な形の魔物が、二人の行く手を阻む。
だが二人は止まらない。その黒い腕が放つ斬撃が、その黒い鎧が放つ突撃が、多くの魔物を蹴散らして行く。
「うおおおお!!!」
黒獅子の手が握るは世界で尤も強力な剣。振れば振る程に白く輝き、黒い塊を断ち切る。
一振りで三匹の狼が死に、二振りで馬の頭をした怪物が死ぬ。三太刀目には周囲から魔物の姿が消え、ガンフは大きく前進をしていく。
続いて巨大な傀儡人形が、巨大な剣を振り新たに近寄る敵を一刀で両断する。
しゃがむだの飛び越えるだのといった回避行動が一切間に合わぬほどの高速攻撃。風を切る音が鳴り、幾つもの悲鳴が途絶えた。更に肉を絶つ音、骨を砕く音と共に、黒い飛沫が辺りに飛び散る。
「私たちも舐められたものね。今更こんなのを相手にさせられるなんて……」
その中を舞う黒いドレスを着た女は、妖しくも艶やかな笑みを湛え周囲を一瞥。そして悠々と立ち振る舞う白龍を睨みつけた。
一連の攻防を見て、アニムは得心がいかなかった。
確かに抗う三人の力は強力で、呼び出した病魔を食らう物もまるで歯が立たない。
だがその力も、白龍に対しては十分と言える代物でないことは誰の目にも明らかだ。
(……一体何を企んでいる? 例え我の下に辿り着いたとしても、真面な戦いにならぬのは奴らも知っているだろうに……)
悩めども疑問は解決しない。だが、その動揺を表に出してしまえば、要らぬ隙を作りかねない。だからアニムは、細心の注意をもって抗う三つの影を追い続けた。
激戦が続いた。
如何に一方的な戦いと言えども、無尽蔵に湧き出てくる魔物に対し三人は明らかに辟易としていた。セリア、ガンフ、リエントの体力、魔力は共に有限であり、延々と戦うことなど不可能だ。
だが三人は、一つの希望を心の頼りに必死に力を振るう。
「はぁっ! はぁっ! ……ふふ……流石にこれだけ長時間ともなると、堪えるね。……ガンフさん、急いでくださいよ!」
リエントは魔法を唱えつつ、黒波に漂う二人の姿を見つめた。
月はまだ頂点を抜けたあたりで、夜も深い時間だった筈だ。だというのに今は星も月も姿を隠し、対となる眩い太陽が顔を覗かせている。
空を見上げれば青い空。あたりは俄かに暖かくなり、爽やかな風が吹き抜けた。
青空を見上げた三人に向けて、澄んだ声が響く。
『我が神から贈られた物は『神言』だ。世界の理を変える、神が使う言葉である。そして我が神に与えられた使命は、この世界の『時』と『空間』の管理することだ。‶招集”』
二つ目の言葉が発せられると、白龍の前に何度目かの黒穴が現れた。それは全てを吸い込み、全てを吐き出す次元の裂け目。白龍の意思によって開き、白龍の望む物を自由に運ぶ洞穴である。
アニムはその裂け目を使い、膨大な数の病魔を食らう物を呼び出した。現れたのは、千、万にも及ぶ魔物の大群だ。瞬く間に地表を埋め尽くし、奇声を上げながら犇めいている。
次々と数を増やす魔物を前に、ガンフが呟いた。
「なぁリエントよ。魔物の力を手に入れたお前には、あんなことが可能か?」
その言葉には淡い希望が込められていた。ただ一言、私にも出来ますよという言葉を期待した。
魔物の力を手に入れたリエントは、少数の長距離転送を可能としていた。更に短い距離ならば一都市にも近い数の転送が可能となっており、その力を使って彼らはこの場所までやってくることが出来たのだ。だからガンフは、リエントでも白龍と同様の現象が可能であるという言葉を期待したのだった。しかし。
「ははは……無理に決まってますよ。これだけの数の魔物が一か所に集まってるわけないですし、多分世界各地から集めてるんでしょうね。神様の力と言われても納得です」
絶え間なく湧き出る魔物を見て、諦めを含んだ乾いた笑いが漏れる。
「ふふっ、でも諦めるわけにはいかないでしょう? 力を貸してくれたみんなの為にも……さぁ、もうひと踏ん張りしましょう」
セリアも少年の微笑みにつられて微笑むと、二人を鼓舞し先頭に立つ。
「リエントはロゼの護衛を! ガンフさんは私とあれへの道を切り開くわよ!」
「おう!」
「はい!」
頭脳による指令を受け、手が、足が呼応を始める。
リエントは近くでへたり込むローゼリエッタの下へ駆けよった。同時に体内の魔力を操り、魔物の力を更に開放する。すると枯れ木の腕は、更に戦闘に適した形へと変化していき、やがて少女の下へと辿り着くリエントの姿は、大人の倍はある枯れ木の化け物に変わっていた。
変貌したリエントを見て僅かな身動ぎで狼狽えるローゼリエッタ。リエントはその前に立ち、群がる魔物へと数種の魔法を打ち込む。
「炎よ! 氷よ、風よ、雷よ! 我が意に従い全てを打ち抜け! 全てを蹴散らせ!!」
両の手から放たれる色鮮やかな光が四方に飛び散り、魔法が幾つも同時発動される。
地面を焼く爆炎。隆起する氷柱。更に風が逆巻き雷が迸った。
元から優秀な魔法使いであり、加えて魔法に長けた魔物を取り入れたリエントの力は、エルフなどをとうに超え、恐るべき領域に足を踏み入れていた。特に大群を相手にした時は凄まじく、まさに一騎当千ともいえる力を持つ。
魔法の攻撃により黒い影が幾つも吹き飛び、地に落ちる前に煙のように消えていった。気付けばリエントとローゼリエッタを中心に、小さな空間が出来上がっている。
その光景を、アニムは遠くから冷ややかに見つめていた。
一方セリアとガンフは、自らが持つ圧倒的戦闘力をもって、白龍に向けて愚直の直進を計る。
龍との間に群がる魔物たち。黒狼、巨蛇、獣人、怪鳥。様々な形の魔物が、二人の行く手を阻む。
だが二人は止まらない。その黒い腕が放つ斬撃が、その黒い鎧が放つ突撃が、多くの魔物を蹴散らして行く。
「うおおおお!!!」
黒獅子の手が握るは世界で尤も強力な剣。振れば振る程に白く輝き、黒い塊を断ち切る。
一振りで三匹の狼が死に、二振りで馬の頭をした怪物が死ぬ。三太刀目には周囲から魔物の姿が消え、ガンフは大きく前進をしていく。
続いて巨大な傀儡人形が、巨大な剣を振り新たに近寄る敵を一刀で両断する。
しゃがむだの飛び越えるだのといった回避行動が一切間に合わぬほどの高速攻撃。風を切る音が鳴り、幾つもの悲鳴が途絶えた。更に肉を絶つ音、骨を砕く音と共に、黒い飛沫が辺りに飛び散る。
「私たちも舐められたものね。今更こんなのを相手にさせられるなんて……」
その中を舞う黒いドレスを着た女は、妖しくも艶やかな笑みを湛え周囲を一瞥。そして悠々と立ち振る舞う白龍を睨みつけた。
一連の攻防を見て、アニムは得心がいかなかった。
確かに抗う三人の力は強力で、呼び出した病魔を食らう物もまるで歯が立たない。
だがその力も、白龍に対しては十分と言える代物でないことは誰の目にも明らかだ。
(……一体何を企んでいる? 例え我の下に辿り着いたとしても、真面な戦いにならぬのは奴らも知っているだろうに……)
悩めども疑問は解決しない。だが、その動揺を表に出してしまえば、要らぬ隙を作りかねない。だからアニムは、細心の注意をもって抗う三つの影を追い続けた。
激戦が続いた。
如何に一方的な戦いと言えども、無尽蔵に湧き出てくる魔物に対し三人は明らかに辟易としていた。セリア、ガンフ、リエントの体力、魔力は共に有限であり、延々と戦うことなど不可能だ。
だが三人は、一つの希望を心の頼りに必死に力を振るう。
「はぁっ! はぁっ! ……ふふ……流石にこれだけ長時間ともなると、堪えるね。……ガンフさん、急いでくださいよ!」
リエントは魔法を唱えつつ、黒波に漂う二人の姿を見つめた。
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