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4章 融合
最後の難関
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ローゼリエッタが大会に参加する為に必要な傀儡は完成した。
美しさの中に力強さを兼ね揃えた、素晴らしい一品となっている。
だがしかし、このままでは傀儡が完成しただけで、大会で優勝するには程遠い。
何しろ今のローゼリエッタでは、作り上げた白の騎士の、腕一つ動かすことが出来ないのだ。
兎も角今は、一にも二にも魔力操作の訓練をしなければならない。
至福の時をたっぷりと堪能した翌日。ローゼリエッタは一般的に使われる傀儡糸を使って、魔力操作の特訓を始めた。
魔力に敏感な精霊石の糸では動かすことが出来たが、通常の糸ではやはり難易度が跳ね上がる。
当然思い通りいくわけもなく、少女は再び物言わぬ糸と睨めっこをしなければならなかった。
昼食を終えた昼下がり。
人形の館に喧しい来客が現れる。
「セリア様!ここにいるのですか!?」
傷も癒え、行動できるまでに回復した、セリアの守護者ウルカテだ。
入口から駆け込んだ彼は、大きな音を立てて廊下を走る。
それを部屋で聞いていたセリアは、ため息をついて部屋から出ていった。
セリアに引き連れられたウルカテは、部屋に入るや否や地べたにひれ伏す。
「申し訳ありませんでした!守護者でありながら、守るどころか逆に守られてしまうなんて……なんて不甲斐ない!」
彼は悔しさの余り涙を流し、床を手で数度叩いた。
確かに彼は、守るべき対象に命を救われた。しかし、それは幾分仕方の無いことだ。
人形技術が本職である筈の傀儡師が、使い手を守る手段として、苦肉の策で生み出したのが守護者という存在である。
そこに技術の伝承は一切なく、守護者として与えられるのは『命を賭して傀儡師を守護せねばならぬ』という心のみ。
そこから先は、独学による研鑽でしかない。
洗練された技術を持たぬ、唯我武者羅に振るうだけの幼稚な剣が、長き年月研ぎ澄まされてきた技術を持つ、屈強な戦士の剣に勝てるわけがなかったのだ。
それでもウルカテは、意識を失い、人質として扱われてしまった事を酷く恥じ、酷く後悔した。
頭を下げたままのウルカテに、セリアのはきはきとした声が降りかかる。
「何時までくよくよしているのよ!やることは沢山あるのよ?しょげてる暇なんかないわ!」
セリアはウルカテを無理矢理立たせると、矢継ぎ早に用件を伝えていく。
ウルカテに任せられた仕事は二つ。
その仕事を遂行するべく、彼は町へととんぼ返りしていった。
ウルカテに与えられた仕事の一つ目は、後に迫る人形劇、その開催期日の確認。
ローゼリエッタとセリアが町を出る時はまだ、明確に何時とは告知されていなかった。
それから既に十日以上もたっている。
町では何かしらの情報が流れていても不思議ではない。
二つ目は、ローゼリエッタの操る傀儡用武具の作成依頼だ。
白の騎士は鉄の塊であるから、無手で殴ってもそれなりの威力が期待できるだろう。
だが、筋肉隆々の戦士が剣を握るように、傀儡もまた武具を身に着けることで、更なる戦力を得ることが出来る。
ローゼリエッタはこれに、奮発して魔鉱石を用いることにした。
ウルカテが町へと出かけている間、セリアとローゼリエッタは、いよいよ傀儡操作の練習を始めた。
少女は、綺麗な十の指輪をそれぞれの指に着け、必死に魔力を練りながら指を動かす。
ところが、白の騎士は指一つ動かない。
「まだ早いみたいね……焦っても仕方がないし、ウルカテが戻るまで魔力操作の特訓を続けましょ」
そう言って席に戻るセリアだったが、ローゼリエッタは項垂れたまま、後に続くことをしなかった。
「私……優勝なんてできるのかな」
少女は自身の傷だらけの手を見つめる。
ローゼリエッタの手は、人形を作る過程で出来る、真新しい切り傷や擦り傷でぼろぼろだ。
この傷だらけの手こそが、少女がまだ未熟である何よりの証拠であった。
幼き頃からローゼリエッタは、人形を操ることが大好きで、作ることも大好きだった。
好きこそものの何とやら。僅かな才能が認められたこともあり、魔力を用いぬ傀儡技術には惜しむことなく努力してきた。
長年続けてきた傀儡技術でもそれだというのに、才能が無いとされる魔力操作技術が、僅か数十日で物になるとは思えない。
(もし……もしこのまま、傀儡を操れなかったら……兄さんは……)
最悪の事態が頭の中をよぎる。
セリアは、ローゼリエッタが暗い表情を浮かべていることに気付いた。そして恐らく、兄の身を案じているのだろうと。
しかしそれに気づいていながら、その点に関しては何も口を挟まない。
セリアが少女にしてやれることなど高が知れている。
王が求めるのはトレット家の技術であり、フォルオーゼ家の技術ではない為、代わりに大会に出場する、なんてことも出来ない。
彼女に今出来る事は、自身の知り得る知識の譲渡。それに加え厳しい態度、厳しい言葉で叱咤激励するのみ。
「何弱音吐いてるのよ!そうやって手を止めてる暇があったら……ほら!」
セリアは再び、緑色に輝く精霊石の糸を取り出し少女に手渡す。
「休んでる暇なんかないわ!少し厳しくいくわよ!!」
「は……はい!」
強めの言葉を受けて、反射的に返事をしたローゼリエッタは、糸を握り締めてテーブルに座った。
心持新たにローゼリエッタは糸へと向き直る。
今の少女に、あれこれ考えているような猶予はない。
美しさの中に力強さを兼ね揃えた、素晴らしい一品となっている。
だがしかし、このままでは傀儡が完成しただけで、大会で優勝するには程遠い。
何しろ今のローゼリエッタでは、作り上げた白の騎士の、腕一つ動かすことが出来ないのだ。
兎も角今は、一にも二にも魔力操作の訓練をしなければならない。
至福の時をたっぷりと堪能した翌日。ローゼリエッタは一般的に使われる傀儡糸を使って、魔力操作の特訓を始めた。
魔力に敏感な精霊石の糸では動かすことが出来たが、通常の糸ではやはり難易度が跳ね上がる。
当然思い通りいくわけもなく、少女は再び物言わぬ糸と睨めっこをしなければならなかった。
昼食を終えた昼下がり。
人形の館に喧しい来客が現れる。
「セリア様!ここにいるのですか!?」
傷も癒え、行動できるまでに回復した、セリアの守護者ウルカテだ。
入口から駆け込んだ彼は、大きな音を立てて廊下を走る。
それを部屋で聞いていたセリアは、ため息をついて部屋から出ていった。
セリアに引き連れられたウルカテは、部屋に入るや否や地べたにひれ伏す。
「申し訳ありませんでした!守護者でありながら、守るどころか逆に守られてしまうなんて……なんて不甲斐ない!」
彼は悔しさの余り涙を流し、床を手で数度叩いた。
確かに彼は、守るべき対象に命を救われた。しかし、それは幾分仕方の無いことだ。
人形技術が本職である筈の傀儡師が、使い手を守る手段として、苦肉の策で生み出したのが守護者という存在である。
そこに技術の伝承は一切なく、守護者として与えられるのは『命を賭して傀儡師を守護せねばならぬ』という心のみ。
そこから先は、独学による研鑽でしかない。
洗練された技術を持たぬ、唯我武者羅に振るうだけの幼稚な剣が、長き年月研ぎ澄まされてきた技術を持つ、屈強な戦士の剣に勝てるわけがなかったのだ。
それでもウルカテは、意識を失い、人質として扱われてしまった事を酷く恥じ、酷く後悔した。
頭を下げたままのウルカテに、セリアのはきはきとした声が降りかかる。
「何時までくよくよしているのよ!やることは沢山あるのよ?しょげてる暇なんかないわ!」
セリアはウルカテを無理矢理立たせると、矢継ぎ早に用件を伝えていく。
ウルカテに任せられた仕事は二つ。
その仕事を遂行するべく、彼は町へととんぼ返りしていった。
ウルカテに与えられた仕事の一つ目は、後に迫る人形劇、その開催期日の確認。
ローゼリエッタとセリアが町を出る時はまだ、明確に何時とは告知されていなかった。
それから既に十日以上もたっている。
町では何かしらの情報が流れていても不思議ではない。
二つ目は、ローゼリエッタの操る傀儡用武具の作成依頼だ。
白の騎士は鉄の塊であるから、無手で殴ってもそれなりの威力が期待できるだろう。
だが、筋肉隆々の戦士が剣を握るように、傀儡もまた武具を身に着けることで、更なる戦力を得ることが出来る。
ローゼリエッタはこれに、奮発して魔鉱石を用いることにした。
ウルカテが町へと出かけている間、セリアとローゼリエッタは、いよいよ傀儡操作の練習を始めた。
少女は、綺麗な十の指輪をそれぞれの指に着け、必死に魔力を練りながら指を動かす。
ところが、白の騎士は指一つ動かない。
「まだ早いみたいね……焦っても仕方がないし、ウルカテが戻るまで魔力操作の特訓を続けましょ」
そう言って席に戻るセリアだったが、ローゼリエッタは項垂れたまま、後に続くことをしなかった。
「私……優勝なんてできるのかな」
少女は自身の傷だらけの手を見つめる。
ローゼリエッタの手は、人形を作る過程で出来る、真新しい切り傷や擦り傷でぼろぼろだ。
この傷だらけの手こそが、少女がまだ未熟である何よりの証拠であった。
幼き頃からローゼリエッタは、人形を操ることが大好きで、作ることも大好きだった。
好きこそものの何とやら。僅かな才能が認められたこともあり、魔力を用いぬ傀儡技術には惜しむことなく努力してきた。
長年続けてきた傀儡技術でもそれだというのに、才能が無いとされる魔力操作技術が、僅か数十日で物になるとは思えない。
(もし……もしこのまま、傀儡を操れなかったら……兄さんは……)
最悪の事態が頭の中をよぎる。
セリアは、ローゼリエッタが暗い表情を浮かべていることに気付いた。そして恐らく、兄の身を案じているのだろうと。
しかしそれに気づいていながら、その点に関しては何も口を挟まない。
セリアが少女にしてやれることなど高が知れている。
王が求めるのはトレット家の技術であり、フォルオーゼ家の技術ではない為、代わりに大会に出場する、なんてことも出来ない。
彼女に今出来る事は、自身の知り得る知識の譲渡。それに加え厳しい態度、厳しい言葉で叱咤激励するのみ。
「何弱音吐いてるのよ!そうやって手を止めてる暇があったら……ほら!」
セリアは再び、緑色に輝く精霊石の糸を取り出し少女に手渡す。
「休んでる暇なんかないわ!少し厳しくいくわよ!!」
「は……はい!」
強めの言葉を受けて、反射的に返事をしたローゼリエッタは、糸を握り締めてテーブルに座った。
心持新たにローゼリエッタは糸へと向き直る。
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