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5章 傀儡大会
二回戦 2
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腕を持ち上げたプロトは、再び高速で移動を始める。
その速さは尋常ではなく、刹那の見切りを可能とする戦士ですら漸く捉えられる速度だ。
傀儡師であり、尚且つ実践経験が皆無のローゼリエッタには、少々酷な物であった。
それでも、アトラーを同程度の速度で操ることが出来る少女は、必死に視界から消える人形を追い続ける。
魔法人形の最大の欠点。それは細かな指示を理解できないところにある。
故に、剣を振る、盾で攻撃を防ぐといった、道具を使うようなことは出来ず、攻撃は殴る蹴るの短絡的な物に限られてしまう。
当然ジェシーの従者であるプロトもその例に洩れず、高速で動きながらも、攻撃はずんぐりとした腕による殴打のみだ。
その攻撃も、虚実を混ぜ戦う拳闘士とは程遠く、素直で直線的な攻撃ばかり。速さに目を瞑れば、少し注意するだけで誰でも躱すことが出来るだろう。
それでもローゼリエッタは注意しなければならない。
プロトの身体は、アトラーと同じく鉄で作られており、何の防護策もなしに受けてしまえば、例えアトラーと言えども損害は必至なのだから。
一日目の試合とは打って変わって、目まぐるしく動く高速戦闘に、観客らは息をのんだ。
真上から、そして遠目からでなければ、到底動きを捉えることは出来なかっただろう。
白い異形の魔法人形の拳が、鎧の人形の黒剣に受けとめられる。
反撃で剣を横に振る頃には、そこに標的はもういない。
その度に、人形を操る少女は悔しそうに歯噛みした。
この戦闘に疑問を覚えたのはジェシーであった。
彼女の観察眼では、少女が操る鎧人形は、プロトと同程度の機動力を持っている。
その事にも驚きを隠せないが、何よりも不可解なのは、試合が余りにも一方的であることだ。
(どういうことかしら……防戦一方過ぎる。何か企んでいるの?)
高速戦闘は相変わらずだが、両者の攻防は必ず、プロトの一撃から始まるのだ。
鎧人形は、その攻撃を受け流し、それから剣による反撃を仕掛けてくる。
ジェシーに対峙する二つの影は、戦いに対して明らかに消極的だった。
ローゼリエッタは必死に抗っていた。
気を抜けば視界から消え去る白い魔法人形。
長年の鍛錬により、思考しながら傀儡を操ることが出来る彼女であっても、ここまでの高速戦闘は経験したことは無く、ましてや想定外であった。
加えて、現在アトラーは左腕が効かない状態だ。
二本あれば攻防に一本ずつ回せるのだが、一本ではそれで両方を補わなければならない。
全てを加味した上でローゼリエッタは、防御態勢からの反撃で試合を制しようとしていた。
だが思った以上に苦戦を強いられている。
動かせるのが片腕だけでは、どうしても攻撃と防御の間に隙が生まれてしまうのだ。
更に、ローゼリエッタの集中力は有限だが、魔法人形であるプロトは不眠不休で事に当たれる。
次第にアトラーは、プロトに押され始めた。
ダメ押しと言わんばかりに、ジェシーはプロトに翻弄されるローゼリエッタ目掛けて杖を振った。
「……ファイアーボール!!」
杖の先からは小さな火炎球が飛び出し、必死に人形を操る少女に襲い掛かる。
「えっ!?」
突然視界に入った赤い炎。
身の危険を感じたローゼリエッタは咄嗟に、地面を転がり回避行動をとる。
「くぅぅ!!」
受け身の練習など碌にしていない物だから、不格好に転がり、体を強かに打ち付けてしまった。
これが魔法人形最大の利点。主も戦闘に参加することが出来るのだ。
魔法人形が自ら動くからこそ可能な芸当である。
これにより、魔法人形を操る者は一対二の状況を作りやすい。
ローゼリエッタは更に追い込まれていく。
アトラーとローゼリエッタは、突如行動を変えた。防戦一方から、更に逃げ回るようになったのだ。
攻撃を受け流した後の反撃も儘ならず、ひたすら回避行動を繰り返す。
そこに美しさは欠片も無く、少女が身に着ける美しい黒のドレスも擦り切れ泥だらけだ。
「あはは!何それ!?傀儡師ってそんなものだったの?」
その切迫した表情から、芝居でないと察したジェシーは、気分良く煽り出す。
ローゼリエッタはその声に歯を食いしばって堪え続けた。
遂に、ローゼリエッタは追い詰められてしまう。
背後には高くそびえる壁。頭上には身を乗り出す観客たち。
前方には既にプロトが肉薄していて、その腕を振り上げている。
更にはジェシーの放つ炎属性魔法も視界にうつった。
絶体絶命ともいえるこの状況で、アトラーはなんと、手に握る魔鉱石の剣を地面に突き立てた。
「潔いわね!貴女はここで負けるの!」
二つの脅威がアトラーを襲う。
突然の光の明滅。それは、魔法発動の証。
アトラーは右手を前にかざし、備えられた機能を発動する。
セリアの提案により内部に埋め込まれた、魔法石の一つを解放したのだ。
発動される魔法は防御魔法に属する『英雄の盾』。
物理攻撃と魔法攻撃。どちらにも対応する万能の防御障壁が、鎧の騎士の眼前に現れる。
速度に特化したプロトの力は、通常の魔法人形よりも弱い。
更には技術者が扱う魔法も、本職の物に比べれば大したものでは無い。
二つの脅威は、アトラーの放った防御魔法に防がれた。
「なっ……人形が魔法を!?プ、プロトォ!」
指示を出すよりも早く、アトラーは地面に突き刺した剣を抜き取り、横に薙ぎ払う。
白く細い四肢が、黒剣によって断ち切られる。
速度に特化したその体は、防御力までもが極端に低下していて、易々と刃は斬り進んだ。
初太刀で左腕と胴体を半ばまで、返す刃で右足を。
体勢を崩し地面に崩れ落ちるプロト。
最後にアトラーは、真っ黒な穴の開いた顔に剣を突き立てた。
埋め込まれた核が砕かれ、少しもがいたプロトは、やがて物言わぬ人形へと変わる。
苦戦の末、ローゼリエッタは何とか試合に勝利した。
傀儡師としては美しさが少しも感じられないこの戦いを誇ることは出来ない。
しかし、頭上から降りかかる声は何と暖かなことか。
誰もが少女の勝利を喜び、讃えている。
アトラーの力を認めたジェシーは、ローゼリエッタの前まで歩み寄ると手を差し伸べる。
「負けたわ。でもこれで終わりじゃないわよ。この子は試作品。まだまだ改良の余地ありだもの」
試合前と試合中の様子からは打って変わり、優し気な表情を浮かべるジェシー。
そう思ったのもつかの間、握手した少女の手を引き寄せると、彼女は眼を爛々と輝かせローゼリエッタに詰め寄った。
「ところで!その子、少し分解させてくれないかしら!?」
「ええ!?お、お断りします!」
「そんなぁ、せめて腕だけでも!」
会場には僅かに笑い声が漏れる。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ女二人は、次の試合の妨げとなる為、職員によって試合会場から追い出された。
その速さは尋常ではなく、刹那の見切りを可能とする戦士ですら漸く捉えられる速度だ。
傀儡師であり、尚且つ実践経験が皆無のローゼリエッタには、少々酷な物であった。
それでも、アトラーを同程度の速度で操ることが出来る少女は、必死に視界から消える人形を追い続ける。
魔法人形の最大の欠点。それは細かな指示を理解できないところにある。
故に、剣を振る、盾で攻撃を防ぐといった、道具を使うようなことは出来ず、攻撃は殴る蹴るの短絡的な物に限られてしまう。
当然ジェシーの従者であるプロトもその例に洩れず、高速で動きながらも、攻撃はずんぐりとした腕による殴打のみだ。
その攻撃も、虚実を混ぜ戦う拳闘士とは程遠く、素直で直線的な攻撃ばかり。速さに目を瞑れば、少し注意するだけで誰でも躱すことが出来るだろう。
それでもローゼリエッタは注意しなければならない。
プロトの身体は、アトラーと同じく鉄で作られており、何の防護策もなしに受けてしまえば、例えアトラーと言えども損害は必至なのだから。
一日目の試合とは打って変わって、目まぐるしく動く高速戦闘に、観客らは息をのんだ。
真上から、そして遠目からでなければ、到底動きを捉えることは出来なかっただろう。
白い異形の魔法人形の拳が、鎧の人形の黒剣に受けとめられる。
反撃で剣を横に振る頃には、そこに標的はもういない。
その度に、人形を操る少女は悔しそうに歯噛みした。
この戦闘に疑問を覚えたのはジェシーであった。
彼女の観察眼では、少女が操る鎧人形は、プロトと同程度の機動力を持っている。
その事にも驚きを隠せないが、何よりも不可解なのは、試合が余りにも一方的であることだ。
(どういうことかしら……防戦一方過ぎる。何か企んでいるの?)
高速戦闘は相変わらずだが、両者の攻防は必ず、プロトの一撃から始まるのだ。
鎧人形は、その攻撃を受け流し、それから剣による反撃を仕掛けてくる。
ジェシーに対峙する二つの影は、戦いに対して明らかに消極的だった。
ローゼリエッタは必死に抗っていた。
気を抜けば視界から消え去る白い魔法人形。
長年の鍛錬により、思考しながら傀儡を操ることが出来る彼女であっても、ここまでの高速戦闘は経験したことは無く、ましてや想定外であった。
加えて、現在アトラーは左腕が効かない状態だ。
二本あれば攻防に一本ずつ回せるのだが、一本ではそれで両方を補わなければならない。
全てを加味した上でローゼリエッタは、防御態勢からの反撃で試合を制しようとしていた。
だが思った以上に苦戦を強いられている。
動かせるのが片腕だけでは、どうしても攻撃と防御の間に隙が生まれてしまうのだ。
更に、ローゼリエッタの集中力は有限だが、魔法人形であるプロトは不眠不休で事に当たれる。
次第にアトラーは、プロトに押され始めた。
ダメ押しと言わんばかりに、ジェシーはプロトに翻弄されるローゼリエッタ目掛けて杖を振った。
「……ファイアーボール!!」
杖の先からは小さな火炎球が飛び出し、必死に人形を操る少女に襲い掛かる。
「えっ!?」
突然視界に入った赤い炎。
身の危険を感じたローゼリエッタは咄嗟に、地面を転がり回避行動をとる。
「くぅぅ!!」
受け身の練習など碌にしていない物だから、不格好に転がり、体を強かに打ち付けてしまった。
これが魔法人形最大の利点。主も戦闘に参加することが出来るのだ。
魔法人形が自ら動くからこそ可能な芸当である。
これにより、魔法人形を操る者は一対二の状況を作りやすい。
ローゼリエッタは更に追い込まれていく。
アトラーとローゼリエッタは、突如行動を変えた。防戦一方から、更に逃げ回るようになったのだ。
攻撃を受け流した後の反撃も儘ならず、ひたすら回避行動を繰り返す。
そこに美しさは欠片も無く、少女が身に着ける美しい黒のドレスも擦り切れ泥だらけだ。
「あはは!何それ!?傀儡師ってそんなものだったの?」
その切迫した表情から、芝居でないと察したジェシーは、気分良く煽り出す。
ローゼリエッタはその声に歯を食いしばって堪え続けた。
遂に、ローゼリエッタは追い詰められてしまう。
背後には高くそびえる壁。頭上には身を乗り出す観客たち。
前方には既にプロトが肉薄していて、その腕を振り上げている。
更にはジェシーの放つ炎属性魔法も視界にうつった。
絶体絶命ともいえるこの状況で、アトラーはなんと、手に握る魔鉱石の剣を地面に突き立てた。
「潔いわね!貴女はここで負けるの!」
二つの脅威がアトラーを襲う。
突然の光の明滅。それは、魔法発動の証。
アトラーは右手を前にかざし、備えられた機能を発動する。
セリアの提案により内部に埋め込まれた、魔法石の一つを解放したのだ。
発動される魔法は防御魔法に属する『英雄の盾』。
物理攻撃と魔法攻撃。どちらにも対応する万能の防御障壁が、鎧の騎士の眼前に現れる。
速度に特化したプロトの力は、通常の魔法人形よりも弱い。
更には技術者が扱う魔法も、本職の物に比べれば大したものでは無い。
二つの脅威は、アトラーの放った防御魔法に防がれた。
「なっ……人形が魔法を!?プ、プロトォ!」
指示を出すよりも早く、アトラーは地面に突き刺した剣を抜き取り、横に薙ぎ払う。
白く細い四肢が、黒剣によって断ち切られる。
速度に特化したその体は、防御力までもが極端に低下していて、易々と刃は斬り進んだ。
初太刀で左腕と胴体を半ばまで、返す刃で右足を。
体勢を崩し地面に崩れ落ちるプロト。
最後にアトラーは、真っ黒な穴の開いた顔に剣を突き立てた。
埋め込まれた核が砕かれ、少しもがいたプロトは、やがて物言わぬ人形へと変わる。
苦戦の末、ローゼリエッタは何とか試合に勝利した。
傀儡師としては美しさが少しも感じられないこの戦いを誇ることは出来ない。
しかし、頭上から降りかかる声は何と暖かなことか。
誰もが少女の勝利を喜び、讃えている。
アトラーの力を認めたジェシーは、ローゼリエッタの前まで歩み寄ると手を差し伸べる。
「負けたわ。でもこれで終わりじゃないわよ。この子は試作品。まだまだ改良の余地ありだもの」
試合前と試合中の様子からは打って変わり、優し気な表情を浮かべるジェシー。
そう思ったのもつかの間、握手した少女の手を引き寄せると、彼女は眼を爛々と輝かせローゼリエッタに詰め寄った。
「ところで!その子、少し分解させてくれないかしら!?」
「ええ!?お、お断りします!」
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会場には僅かに笑い声が漏れる。
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