反魂の傀儡使い

菅原

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5章 傀儡大会

決勝戦 1

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 二つの試合が終わり、決勝戦が始まる前に昼食の時間が設けられる。
その時間でローゼリエッタは、アトラーの不具合を修正し、万全の体勢を整えなければならない。
 更に、再び誰かに悪戯をされない為にも、ローゼリエッタは昼食を取らず控室に引き籠った。
腹が減っては何とやらというが、そんな悠長なことは言ってられない。
次の試合の勝敗によっては、少女の兄アルストロイの身の安否が決まるのだ。
ローゼリエッタは時間が許す限り、アトラーの整備を続けた。


 同刻。国王ハルクエルは王城にて、豪華な昼食を楽しんでいた。
長いテーブルに数えきれない程の皿が並び、王は一人舌鼓を打つ。
 フォークを肉に突き立て、ナイフで切る。肉汁滴るそれを上品に口に運び、彼は何度も租借し味を楽しんだ。
食事する王の背後にはジェイクの姿もあり、二人は午後にある決勝戦について語らう。
「よく勝ち残ったものだ。左腕が効かなかったようだが、あの程度では苦にならんということか?だとすれば、ゴーレムと傀儡師の間には歴然とした実力の差があるようだ」
王は先の試合を思い出し、白の騎士の戦いぶりに思いをはせる。

 主の独り言に、ジェイクは同調する。
「いやはや……苦戦はしていたようですが、まさか人形自らが魔法を扱うとは思いもしませんでした」
「うむ。あれには私も驚いた。ゴーレムであれをやろうとしたら、上級精霊ハイエレメントクラスを呼び出さねば不可能だろう。加えて特別な素体だろう?そこまで手をかけるのであれば、今度はゴーレムの利点である手軽さも失われる。まったく……素晴らしい技術力だよ」
ハルクエルは、果実酒の入ったグラスを手で回し言葉を重ねる。
「いずれにしても、だ。決勝戦のカードは私の予想通りとなった。どちらが勝っても損はしないのだから、暫し難しいことは忘れて、余興を楽しむとしよう」
従者もそれに同意し、彼は再び試合までの暇つぶしである食事を再開する。
二人しかいない大きな食堂に、食器のこすれる音だけが響いた。


 決勝戦の開始時刻が来た。
ローゼリエッタは完調のアトラーと共に、会場内へと足を踏み入れる。
これまでの度重なる試合によって、少女と、少女が操る鉄の騎士は相当な人気を得られたようで、頭上から降りかかる声は以前よりも多い。
対岸に人影は無く、対戦相手はまだ来ていないようなので、少女は暫し、歓声に手を振って応対を繰り返した。

 暫くして、対岸にある演者の入場口で、大きな音が響いた。
巨大な魔法人形の入場にも耐えうる造りであった、控室と会場を繋ぐアーチ状の大きな門が、石壁と共に吹き飛ぶ。
ぽっかりと空いた大きな穴からは、巨大な黒い塊が姿を現した。
這うように出てきたそれは、青空の下に姿を晒すと、両足で立ち上がる。
 それは、巨大な鎧人形であった。
今回の人形劇で一番大きかった魔法人形クレイマンの、倍はありそうな巨大さだ。
色は混ざりっ気のない黒で、パッと見ただけでも、鉄よりも強度があることが判る。

 仁王立ちする黒の鎧人形は右の手を開き、それを大衆に見せびらかした。
それは一つの人影。長く伸びた黒髪を一つに束ねた、黒装束を着込んだ一人の男がそこにいた。
彼こそが、ローゼリエッタが戦う決勝戦の相手だ。
 男は眼下に佇むローゼリエッタとアトラーを見ると、興味深そうに声を上げた。
「なんだい!貴様も傀儡師かよ!」
彼は舌なめずりをすると、右の手でわざとらしく顔を掻く。
その右の手の指には、ごてごてに装飾された五つの指輪が見て取れた。


 会場に、抑揚のない女の声が響く。
「マリオネット・バトル・ワルツ、最終試合が始まります。選手のご紹介を致します。傀儡師ローゼリエッタが操るは、鉄の鎧人形アトラー。対しますは同じく、傀儡師グエノースが操る、黒の鎧人形バッソ。観客の皆様方。心行くまでお楽しみください」
紹介にあやかって、ローゼリエッタは慣れた仕草で恭しくお辞儀をした。
 一方グエノースは、歓声を上げる大衆を睨みつけ、鼻で笑った。
「はっ!どいつもこいつも、気楽なもんだ。馬鹿面ぶら下げて笑ってやがる。……おい、貴様は何家だ?少しは腕に覚えがあるんだろうな?」
その態度が信じられず、ローゼリエッタは驚いて目を見開く。

 グエノースの態度は、傀儡師として許されないものだ。
人形とは人々に笑顔を与える存在。ならば必然、見る者が必要となる。
だというのに彼は、その観客を馬鹿にしたのだ。
 ローゼリエッタは、怒りをこらえながらも名乗りを上げる。
「……ローゼリエッタ・トレットと申します。お見知りおきを」
少女は、言葉に表さなくとも態度で語った。傀儡師はこうあるべきだと。
その為に少女は、心にもない言葉を語尾に着け、下げたくもない頭を下げた。

 グエノースは、ローゼリエッタの言動を見聞きし、機嫌よく叫ぶ。
「トレット?……ははは!そうかそうか!トレット家の傀儡師様でいらっしゃるか!これは運が良い!」
トレット家の名はやはり、傀儡師の中では有名な部類の様だ。
だがいかに有名であろうとも、ローゼリエッタは、グエノースがトレットの名を呼ぶことに嫌悪感を感じた。
祖母に教わった他者を敬う神経を持ち合わせない。観客がいてこその人形劇だというのに、その観客を蔑ろにする男。

 苛立ちを漏らしながら、ローゼリエッタは声を張り上げた。
「貴方も名乗ったらどうです!?グエノース!傀儡師であるならば、家名くらい持ち合わせているでしょう!?」
少女は鋭い視線で睨みつけて、精一杯の威圧をかける。
それがグエノースは気に入ったようで、気分良く名乗りを上げた。
「いいねぇ、その顔。楽しい人形劇になりそうじゃないか。……俺の名前はグエノース・アンシエラ。よろしく頼むぜぇ宗家様よぉ!」
グエノースは傀儡を操作し、巨大な手から大地に降りる。
 両者の準備が出来たことを確認し、空に爆炎魔法が放たれた。
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