反魂の傀儡使い

菅原

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5章 傀儡大会

決勝戦 2

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 グエノースの操る傀儡バッソは、黒鉄くろがねで作られた人形だ。
基本的に鉄と黒鉄は同一の物を指す言葉であるが、グエノースの傀儡に用いられた黒鉄は、鉄とは少々違う。
加工の際に変色したわけでは無く、鉄と一緒に魔鉱石を少量混ぜ込んだ混合鉄を用いた素材を使用しているのだ。
魔鉱石の性質を受け継いだその金属は、鉄よりも固く、柔軟性に富み、魔力の伝導率も高い。
加えて長年培った魔力操作の力によって、グエノースは自身の何倍もある傀儡を操ることが出来た。

 試合開始の合図が会場に響くと、一層高鳴る観客の声援と共に、二つの騎士が動き出す。
両者はそれぞれ双剣と大剣を抜き放ち、高速で戦闘を開始した。
 広大な戦場を、所狭しと駆け巡る白と黒の騎士。
飛び散る火花、輝く傀儡糸。
その光景は、観客が言葉を失うのに十分な物であった。
 同じ傀儡師が操る人形だというのに、両者はなんと対照的なことか。
片や真っ黒で片や真っ白。方や見上げる程巨大で片や人間と変わらぬ大きさ。
そしてその戦い方も、対照的な物であった。

 例えるなら、黒の騎士は力の剣士。
比較的鈍重な動きは圧倒的な力で補い、巨大な大剣を一薙ぎするだけで、身の毛もよだつ轟音を発する。
並大抵の力では到底受けきることは出来ず、もし人間がその剣を浴びてしまえば、十の命は軽く潰えてしまうだろう。
 例えるなら、白の騎士は技の剣士。
圧倒的速さで繰り出される攻撃は、全て見切ることなど不可能。
そしてその機動力をもってすれば、あらゆる攻撃を華麗に躱しきる。
戦場でその姿を見た者は、気づかぬうちに命を刈り取られるだろう。

 対照的な両者であったが、その中で最も大きく違うところは、戦術の幅にあった。
バッソは巨大な剣を振り回すだけだが、アトラーは内部に埋め込まれた魔法石を解放することで、数種の魔法を放つことが出来るのだ。
彼に許された魔法は三つ。防御魔法の『英雄の盾』、炎属性攻撃魔法の『ファイアーボール』、風属性攻撃魔法の『エアブレード』。
これらを駆使し、アトラーは巨大な鎧人形を翻弄し続けた。


 試合は意外にも、終始ローゼリエッタが圧倒していた。
それもその筈で、バッソは高速で動くアトラーを捉えきれず、唯一直撃すると思われた攻撃も、防御魔法によって防がれる。
更には、アトラーは遠距離攻撃が出来るがバッソには出来ない。
これだけの違いを、力と体の大きさだけで補うことは出来なかった。

 放たれる火炎球を、グエノースは巨大な剣を盾にすることで受け止める。
「ぐぅぅ!!魔法だと!?小癪な……!」
その文句を全て言うことは出来ない。
魔法を受けとめる為に剣を使用した為、バッソは今、剣を構えたまま無防備に突っ立っているのだ。
 その隙を狙い、アトラーは高速で地を駆ける。
続いて放たれるは風属性魔法。
刀剣から放たれた風の刃は、バッソの足に無数の傷をつける。
その傷目掛けて、アトラーは二つの黒剣を振り抜いた。

 いかに強靭な素材であろうとも、バッソの身体を形成する黒鉄は鉄の成分を含む為、真っ当な魔鉱石に勝てる筈も無い。
耳を劈く金属音を鳴らしながらも、白の騎士は眼にもとまらぬ速さで、黒の騎士の足を断ち切った。
 支えを失ったバッソは体勢を崩し、剣を大地に突き刺し、片手を地面につける。
その姿はまるで、主に仕える騎士が首を垂れる姿そのもの。
 ローゼリエッタは動くことを止めた騎士と、その操者に言い放った。
「見る者への感謝を忘れた貴方に、傀儡師を名乗る資格はありません」
グエノースは何か言い返そうと口を開いたが、従者はもう戦えず、例え立ち上がったとしても、不完全な状態の傀儡でトレット家と渡り合うのは不可能であると、頭が理解してしまう。
遂に彼は、悔しそうに地面を殴りつけた。


 試合の全行程が終わり、見せかけの表彰式が始まる。
会場には全ての演者が集められ、優勝者であるローゼリエッタの名が読み上げられた。
湧き上がる歓声。拍手喝采。
 この時を持って、大陸全土に住む人々は、大陸一の技師としてまだ若い少女の名を覚えることになった。
そして、彼女に課せられた使命も成し遂げられる。

 ローゼリエッタが控室に戻ると、アルストロイの姿があった。
「兄さん!!」
「ロゼ!」
時間にして約一月。されどそれだけの時間を離れ離れに過ごしたことがない二人は、こみ上げる感情を抑えきれずに抱きしめ合う。
涙を流し、喜びの声を上げ、もう離すまいと。
 そこへ水を差すように、老人のしゃがれた声が響いた。
「感動の再開の処を失礼いたします」
声の方を向けばジェイクの姿。右手を胸に当て、頭を下げている。
 少女は、無粋な客人に対しぶっきら棒に答えた。
「……分かっています。約束は守ります。何時からお邪魔すればよいんですか?」
「今から、でございます」
もはやローゼリエッタはその理不尽な答えに驚きもしない。
一つため息をつくと、再び兄との別れを惜しむ。
「はぁ。分かりました。兄さん……もう少しだけ待っていてください」
二人のやり取りを無視して、ジェイクは部屋を後にした。


 夜。
明かりも無くなった祭り会場に、三つの人影があった。
一つは大会で決勝戦を戦った傀儡師、グエノース。
もう一つは国王に使える従者、ジェイク。
最後の一つはその従者の主、ハルクエル。
その異様な会合を見る者は、他に誰もいない。

 役者がそろったことを確認すると、グエノースはハルクエルに詰め寄った。
「約束は守った。早く“エイン”を返してくれ」
その申し出に、王は首を傾げる。
「約束を守った?何を言っているのだ貴様は」
突如として、グエノースの顔が真っ青に染まった。
「俺に課せられた使命は、大会への参加だった筈だ!」
「だが貴様はその後こういったよな?『そんな大会簡単に優勝してやる』と」
「そ、それは……まさかトレット家が参加しているだなんて……!」
見る見るうちに、グエノースの態度が崩れていく。

 数合のやり取りの後、うんざりといった感じに、ハルクエルはため息をついた。
「……分かった分かった。私は優しいからな。返してやろうじゃあないか。なぁジェイク?」
王は背後に立つ従者を見る。
するとジェイクは、何かを放り投げた。
 ぼたぼたと、鈍い音が響く。
金属や石といった鉱石の類ではない。
地面を転がる丸い物は、うまい具合にグエノースの足下で止まった。
それを見た彼は、声にならない悲鳴を上げる。

 それは、女の頭だった。
苦痛の表情で歪んだその顔は、グエノースが良く知った顔。
「エイン!あああ!!なんてことを!!」
彼女はグエノースの守護者。
幼き頃から共に生きて来た愛しき人。
「ははは!ほうら、返してやったぞ!?大事に抱えて帰るといい!はははは!!」
夜空に響くは狂人の笑い声。
この日を境に、大陸の平穏は次第に崩れ去っていく。

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