反魂の傀儡使い

菅原

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8章 激動の時

成果

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 空間通門の魔法石が完成する頃、ローゼリエッタの理想を象った巨鎧兵も丁度完成を果たした。
その知らせは革命軍全員に知らされ、両者の試運転をすることになる。
先ずは、改造した巨鎧兵だ。


 聳え立つ巨鎧兵は、外見を見るだけで、以前とは違うと一目瞭然だ。
装甲自体は現在手の加えようがない為に代わり映えしないが、その背中には緑に輝く支柱が六本、突き刺さっている。
また内面に至っては、以前の巨鎧兵とは比べ物にならない程手が加えられていた。
 ローゼリエッタは巨鎧兵に手を加える過程で、本来は貴重な精霊石の糸を、動かぬ鉄人形から引っ張り出し、ふんだんに使って見せたのだ。
これによって以前より魔力の伝達速度が向上し、その性能は従来の二倍近くまで跳ね上がっている。

 二人乗りの巨鎧兵に乗り込んだのは、シャルルとリエントだった。
各々、備え付けられた椅子に座り、特殊な眼鏡を取り付ける。
「これには物見の魔法がかけられていて、外の様子が見えるようになっているの」
「『魔法道具マジックアイテム』だったんですね……これは……目ですか?」
眼鏡に映し出される景色は、高さは違えども人間の目がある位置からの情報と似ていた。
人型である巨鎧兵を操るうえで、自身の身体と同じ視点を見ることによって、操作性を向上させようとした工夫である。
リエントがそれをかけてみれば、装甲で覆われた繭の中だというのに、外にいるローゼリエッタの手を振る姿が映し出された。
視覚情報が無事伝達されたことが確認されると、いよいよ試運転が始まる。

 試運転は森の奥側で行われた。
最初はシャルルによる動作確認だ。少女は一つずつ四肢の動きを確認する。動かなかった右手と左足は念入りに。
そこに問題がないことを確認すると、巨鎧兵は腰につけた剣を引き抜き、縦に、横に素振りを始めた。
更に身を翻し袈裟に、後ろに下がりながら横に、踏み込んで突きもする。
そこまで問題がないことを確認したところ、巨鎧兵の目の前に大きな木が召喚された。

 それは所謂案山子であった。
その木を敵に見立て、一連の動きを熟してみようというのだ。
眼前に現れた巨木目掛けて、巨鎧兵は上段から剣を振り下ろす。
袈裟に振り下ろされた剣は木を斜めに叩き割る。
続いて剣が横に振られると、木は四つに切り分けられた。
それが地面に落ちる前に、リエントは精霊石の糸に魔力を流す。

 彼が操るのは背中に仕込まれた魔法を制御する機構だ。
発動と同時に精霊石の支柱が幾つか光り、円形の魔法陣が現れる。
それが真っ赤に輝くと、剣を振った体勢の巨鎧兵の背から、炎の槍が飛び出した。
 轟轟と燃えるそれは、人が放つ物より何倍も大きい。
放たれた炎の槍は、四つに斬れた巨木をいとも簡単に焼き払ってしまった。
その威力たるや凄まじいの一言。人間兵には脅威と言える水準であり、巨鎧兵同士であっても無視できるものではないだろう。

 度重なる巨木の召還を受け、二度三度と繰り返しながら、見事に四肢の動きと魔法の発動を連携させるその姿に、人形の館周辺にいるものは皆歓声を上げた。
 ローゼリエッタはそれらを見て胸をなでおろす。
彼女としても、上手くいくかどうか不安でならなかったのだ。
特に問題が起きないことを喜ぶ少女だったが、この運転が成功したことにより、残りの九機にも同様に改良を施すことに決まった。


 次は空間通門の魔法石を試す番だ。
リエントが、森の奥側で試運転していた巨鎧兵から降り、道具袋から石を四つ取り出す。
その石こそが、空間通門が封印された魔法石である。
 リエントは緊張に胸を高鳴らせながら、地面に四つ、魔法石を並べた。
続けて少年が小さな詠唱を唱えると、石は光り輝き、魔法陣を形成していく。
魔法都市で見た街を覆うほどの大きさではないにしろ、千の人を運ぶ程度の大きさは十分にある。
 魔法陣はさらに輝きを増し、周囲を白く染め上げる。
やがて魔法が完全に開放されると、眩い光の明滅が始まり、巨鎧兵とそれに乗り込んだシャルル、そして魔法石を使用したリエントが、人形の館の傍にある即席の広場に転送された。

 この魔法石を作るうえで、リエントら魔法学校の生徒たちは、転送する対象を大まかに二つ取り決めた。
 一つは人間だ。
この魔法石を作る最大の目的。それは、王国に蹂躙される前の、小国に住む民を非難させること。
それを可能とする為に、人間の転送が最低条件であった。
 二つ目は精霊石である。
元は王国のものではあるが、貴重品であることに変わりはなく、革命軍の保有する物資の中では飛び抜けて重要な品となる。
 当然だが、この二つだけを転送するわけではない。
人が転送されると同時に、身に着けている服や手に持っている物も転送されるし、精霊石の糸を覆う巨大な鎧も転送されるようになっている。
流石に家の壁を掴んだからと言って、家屋までを運ぶことは出来ないが、必要最低限の物資は持ち替えることが出来るだろう。

 こうして二つ目の試運転も無事成功し、再び歓声が沸き上がった。
あとはこれらを可能な限り量産することで、彼ら、革命軍が動き出す準備が整う。


 試作品の動作確認が終わってから数日もすると、人形の館周辺は大きく様変わりしていた。
森の木が幾つか伐採され、出来た空き地にテントを張ることで、簡易的な居住空間が確保されている。
そこに住むのは六百余りのオージェスの民。
 本来であれば、彼らがこの地に滞在する必要はない。
オージェスの民であることを隠し、各地に散って新たな人生を歩むことが出来れば、比較的平和に生活を送ることが出来るだろう。
だが彼らは知っている。
オージェスの王が、命を賭して希望を残したのが誰なのかを。
その思いを無碍にしないためにも、彼らは革命軍と共に歩むことを選んだ。


 巨鎧兵の改造と、空間通門の魔法石量産に明け暮れる日々。
その間も国が発行する忌々しい広報により、周辺国の滅亡が知らされている。
食料の買い出しと、足りない備蓄品。そしてその広報を持ち帰ったウルカテは、それを見ては顔を顰めた。
「これで三つ目だ……早く行動に移さないと、救える命の方が無くなってしまう」
それに答えたのは、彼の相方であるセリアだ。
「仕方ないわ。私たちはまだまだ力不足。万全の準備が出来ないことには、身動きなんか取れないもの」
彼女もまた、悔し気に顔を崩す。

 事実はそうではない。
先にできた巨鎧兵数体と、幾つか出来ている魔法石を手に行動すれば、一つか二つは救える可能性があるだろう。
だがそれは、あまりにも危険すぎる行為であった。
まだ戦力が整わないうちに行動を起こし、もしこの地が王国にばれてしまえば、逃げることも叶わずに押しつぶされてしまう。
せめて、可能な限り万全な体制を取ってからでなければならない。
皆、必死に作業を進めていた。彼女らが動き出す時も近い。
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