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8章 激動の時
始まりの邂逅
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団長だったローゼリエッタが行方不明になってから少しして、巨鎧兵団は新たな団長が宛がわれた。
だがものの数日もすると、その団長すらも行方不明となり、再び残された団員の中から、団長が選抜されることになる。
そこで名が挙げられたのが、“クロヴァト・ロックカイセン”という男だ。巨鎧兵団の中でも、魔力操作技術が上位に位置する、藍色の髪が似合う色男であった。
クロヴァトは、新たに赤き隊長機を渡され、五人の部下を連れて、遠くにある小国『シェンカ』へと向かう。
『歯向かうものに限らず、命乞いをする女子供までをも皆殺しにしてこい』
これが、ハルクエル王から承った命であった。
遠路遥々、クロヴァトらはバルドリンガの北東にある国境へと辿り着こうとしていた。
道中はとても退屈なものだった。
何せ魔力を込めた糸を、手の指で操るだけなのだ。
歩くだけであるのならば、寝転がりながらだって出来る。
だというのに、操縦席は狭いのなんの。そもそも座るようにしか作られていないから、ずっと座りっぱなしなのだ。
目的地にもう少しという地点まで来ると、皆体の節々が凝り固まってしまっていた。
「ああ……体が痛い、気が重い。早く暴れたいねぇ」
「全くですよ。もう何日目でしたっけ?地図的にはもうすぐのはずなんですが……」
部下のその知らせを受けて、クロヴァトは垂れる気を取り直す。
暫し、揺れを我慢しながら進むと、遂に国境が見えてきた。
隣接するシェンカが防壁を立ててくれている物だから、非常に分かりやすい。
「しめた。少しは体がほぐれそうだ」
クロヴァトはほくそ笑むと、だらしなく座っていた体を持ち直し、巨鎧兵の足を速めた。
少しは気の張った戦いが出来ると思った一行だったが、その願いは叶わなかった。
意気揚々と攻撃を仕掛けたが、防壁は一切の抵抗を見せなかったのだ。
それどころか、女子供に限らず戦士の一人すら見当たらない。
「どういうことでしょう?」
「大方、主要都市に引っ込んでいるんだろう。さぁ、さっさと終わらそう。王は気が短いようだからな」
彼の部下は少しだけ訝しんだが、クロヴァトは気にしない。
何故なら、巨鎧兵という兵器に匹敵する戦力は、他国に一つとしてありはしないのだから。
もしあるとすれば……今は無き魔法都市の魔導砲か、存在するかも怪しげな傀儡師の集団くらいだろうか。
クロヴァトにも前団長からの話は入っていた。
人が操る小さな人形が、巨鎧兵の糸を断ち切った。それにより少なくない数が無力化されたと。
だが彼は、それがどうしても信じられなかった。
(これ程の兵器が、小さな人形に?冗談じゃない!きっと何か見間違えたんだろう)
証拠が何一つ無かった、というのが大きい。
実際に彼は、占領された魔法都市に出向いてみたが、前団長が言った無力化された巨鎧兵など一機も無く、突入した際も人形を操る影は一つも無かったという話だ。
それで信じる方がどうかしていると、クロヴァトは心の内で、前団長を馬鹿にしていた。
更に奥へと進むと、国境に設けられた防壁よりも堅牢で巨大な壁が見えてくる。
この壁の中こそがシェンカ国の中枢。王城が設けられた都市である。
クロヴァトは携えた大剣を抜き放ち、暴れまわる準備を始めた。
しかし、部下の一人が何かに気が付く。
「だっ、団長!あそこになにかいます!!」
巨鎧兵の指が、ある一転を指さした。
今彼ら巨鎧兵団がいる地点と、目的地であるシェンカ国を繋ぐ線上に、突如として一体の鉄人形が姿を現した。
「な……なんだあれは……巨鎧兵……?」
それは、巨鎧兵に乗る彼らから見ても、異常な物であった。
真っ白な鎧装甲は、兵団にある一般機と同様の物だが、その背中に緑に輝く柱が見える。
それがいったい何なのか。彼らには理解が出来ない。
だが理解できないのはその一点だけで、眼前に現れた巨鎧兵が、脅威であることは何となく理解できた。
「総員!戦闘準備!!相手は一体だ!囲めぇ!!」
クロヴァトの怒声が響き、巨鎧兵は一斉に武器を抜き放つ。
戦闘は一瞬の事だった。
敵影目掛けて駆ける六つの巨鎧兵。
だがその道半ばにして、敵兵は目にもとまらぬ速度で駆け出したのだ。
加えて、背中にある緑の柱が光り輝き、無数の水弾をはじき出してきた。
余りにも唐突で、余りにも理不尽な攻撃。
どちらも同じ巨鎧兵であろうに、彼我の性能は全くかけ離れていた。
六機ある巨鎧兵のうち、一機が水弾をまともに浴び、後方に吹き飛んだ。
大地が抉れ、木々が倒れる音が響く。
その中で、残る五機の巨兵は水弾を辛うじて回避することが出来た。
しかし、抗えたのはそこまで。それで戦闘は終了する。
水弾を飛ばした巨鎧兵は、凄まじい速度で陣中に切り込むと、腰に差した二本の剣を抜き放つ。
それをクロヴァトが視認した時には、奴は両腕を伸ばしぐるりと一回転し、残り五機の巨鎧兵の腕を切り落としていた。
耳に障るけたたましい金属音。鉄の塊が大地に落ちる音が響く。
唐突に抵抗がなくなる指に焦り、クロヴァトは叫んだ。
「撤退だ!戦闘続行できる奴は前に!時間を稼げ!!」
「むっ!無理です!!右腕、切断されました!」
「同じく!左腕の切断を確認!戦闘続行は不可能です!」
返る声は全て同様で、水弾で弾き飛ばされた兵も、装甲がひしゃげてしまって満足に動けないという。
五機の巨鎧兵は我先にと駆け出した。
一機は今ももがいているが、そんなことを気にしてはいられない。
一瞬の攻防であったが、それだけで皆悟ってしまった。
現在の王国が保有する巨鎧兵では、太刀打ちが出来ない存在であると。
団長であるというのにクロヴァトは、部下の事など気にかけず一心不乱に逃げ出した。
彼らが正気に戻ったのは、国境まで戻ってきたときだった。
前方に見える崩壊した防壁を見て、クロヴァトは思わず立ち止まる。
背後を確認し、追手が来ていないことを確認すると、何が来てもすぐ対応できるように、注意深く王城の方を睨みつけた。
もっともそれは、いつでも逃げられるように身構えているに過ぎないのだが。
暫く王城のある方角を気にしていると、空が数度瞬いた。
何かの攻撃かと、クロヴァトは更に身構える。
ところが、その後どれだけ待っても異変のようなものは起きない。
「どうしますか?クロヴァト様……」
「……戻るしかあるまい。一機置いてきてしまったし、このまま帰っては王の怒りを買いかねん」
こんな状況であっても、彼が恐れるのは未確認の巨鎧兵ではなく、ハルクエル王の怒りであった。
それは部下も同様の様で、彼の決定に異を唱える者はない。
クロヴァトらが再びシェンカ国の王都に辿り着くと、異様な光景が広がっていた。
誰も……誰もいなかったのだ。
先程驚異的な戦闘能力を見せつけた巨鎧兵だけに飽き足らず、水弾を受け身動きが取れなかった筈の巨鎧兵の姿も、防衛の為に防壁上にいる筈の兵士の姿も無かった。
気味が悪くなった五人は、壁を乗り越え王都の中になだれ込む。
先に呟いたのはクロヴァトだ。
「な……なんだこれは……誰も……いない?」
その声に部下の声が連なる。
「近くの民家、大通りと思われる通り……どこにも人影がありません!」
「嘘だろ?だってそこのテーブルに……飲みかけのカップが置いてあるじゃないか!」
町の至る処には、先ほどまで人がいた形跡がありありと残っている。
だというのに、シェンカの町には人一人残っていなかった。
暫く町の中を探索し、無人であることと安全であることを確認すると、クロヴァトは言い訳をするかのように言い放つ。
「と、兎も角、王にこのことを伝えよう。なぁに、多少の被害は出たものの、シェンカ国は無事制圧できたんだ。堂々と胸を張って帰ろうではないか」
震える声でそういったクロヴァトは、部下二名を町に残し、駆け足でバルドリンガへと戻っていった。
この件を境に、王国の周辺都市から、突如として人がいなくなる事例が頻繁に報告されることになる。
だがものの数日もすると、その団長すらも行方不明となり、再び残された団員の中から、団長が選抜されることになる。
そこで名が挙げられたのが、“クロヴァト・ロックカイセン”という男だ。巨鎧兵団の中でも、魔力操作技術が上位に位置する、藍色の髪が似合う色男であった。
クロヴァトは、新たに赤き隊長機を渡され、五人の部下を連れて、遠くにある小国『シェンカ』へと向かう。
『歯向かうものに限らず、命乞いをする女子供までをも皆殺しにしてこい』
これが、ハルクエル王から承った命であった。
遠路遥々、クロヴァトらはバルドリンガの北東にある国境へと辿り着こうとしていた。
道中はとても退屈なものだった。
何せ魔力を込めた糸を、手の指で操るだけなのだ。
歩くだけであるのならば、寝転がりながらだって出来る。
だというのに、操縦席は狭いのなんの。そもそも座るようにしか作られていないから、ずっと座りっぱなしなのだ。
目的地にもう少しという地点まで来ると、皆体の節々が凝り固まってしまっていた。
「ああ……体が痛い、気が重い。早く暴れたいねぇ」
「全くですよ。もう何日目でしたっけ?地図的にはもうすぐのはずなんですが……」
部下のその知らせを受けて、クロヴァトは垂れる気を取り直す。
暫し、揺れを我慢しながら進むと、遂に国境が見えてきた。
隣接するシェンカが防壁を立ててくれている物だから、非常に分かりやすい。
「しめた。少しは体がほぐれそうだ」
クロヴァトはほくそ笑むと、だらしなく座っていた体を持ち直し、巨鎧兵の足を速めた。
少しは気の張った戦いが出来ると思った一行だったが、その願いは叶わなかった。
意気揚々と攻撃を仕掛けたが、防壁は一切の抵抗を見せなかったのだ。
それどころか、女子供に限らず戦士の一人すら見当たらない。
「どういうことでしょう?」
「大方、主要都市に引っ込んでいるんだろう。さぁ、さっさと終わらそう。王は気が短いようだからな」
彼の部下は少しだけ訝しんだが、クロヴァトは気にしない。
何故なら、巨鎧兵という兵器に匹敵する戦力は、他国に一つとしてありはしないのだから。
もしあるとすれば……今は無き魔法都市の魔導砲か、存在するかも怪しげな傀儡師の集団くらいだろうか。
クロヴァトにも前団長からの話は入っていた。
人が操る小さな人形が、巨鎧兵の糸を断ち切った。それにより少なくない数が無力化されたと。
だが彼は、それがどうしても信じられなかった。
(これ程の兵器が、小さな人形に?冗談じゃない!きっと何か見間違えたんだろう)
証拠が何一つ無かった、というのが大きい。
実際に彼は、占領された魔法都市に出向いてみたが、前団長が言った無力化された巨鎧兵など一機も無く、突入した際も人形を操る影は一つも無かったという話だ。
それで信じる方がどうかしていると、クロヴァトは心の内で、前団長を馬鹿にしていた。
更に奥へと進むと、国境に設けられた防壁よりも堅牢で巨大な壁が見えてくる。
この壁の中こそがシェンカ国の中枢。王城が設けられた都市である。
クロヴァトは携えた大剣を抜き放ち、暴れまわる準備を始めた。
しかし、部下の一人が何かに気が付く。
「だっ、団長!あそこになにかいます!!」
巨鎧兵の指が、ある一転を指さした。
今彼ら巨鎧兵団がいる地点と、目的地であるシェンカ国を繋ぐ線上に、突如として一体の鉄人形が姿を現した。
「な……なんだあれは……巨鎧兵……?」
それは、巨鎧兵に乗る彼らから見ても、異常な物であった。
真っ白な鎧装甲は、兵団にある一般機と同様の物だが、その背中に緑に輝く柱が見える。
それがいったい何なのか。彼らには理解が出来ない。
だが理解できないのはその一点だけで、眼前に現れた巨鎧兵が、脅威であることは何となく理解できた。
「総員!戦闘準備!!相手は一体だ!囲めぇ!!」
クロヴァトの怒声が響き、巨鎧兵は一斉に武器を抜き放つ。
戦闘は一瞬の事だった。
敵影目掛けて駆ける六つの巨鎧兵。
だがその道半ばにして、敵兵は目にもとまらぬ速度で駆け出したのだ。
加えて、背中にある緑の柱が光り輝き、無数の水弾をはじき出してきた。
余りにも唐突で、余りにも理不尽な攻撃。
どちらも同じ巨鎧兵であろうに、彼我の性能は全くかけ離れていた。
六機ある巨鎧兵のうち、一機が水弾をまともに浴び、後方に吹き飛んだ。
大地が抉れ、木々が倒れる音が響く。
その中で、残る五機の巨兵は水弾を辛うじて回避することが出来た。
しかし、抗えたのはそこまで。それで戦闘は終了する。
水弾を飛ばした巨鎧兵は、凄まじい速度で陣中に切り込むと、腰に差した二本の剣を抜き放つ。
それをクロヴァトが視認した時には、奴は両腕を伸ばしぐるりと一回転し、残り五機の巨鎧兵の腕を切り落としていた。
耳に障るけたたましい金属音。鉄の塊が大地に落ちる音が響く。
唐突に抵抗がなくなる指に焦り、クロヴァトは叫んだ。
「撤退だ!戦闘続行できる奴は前に!時間を稼げ!!」
「むっ!無理です!!右腕、切断されました!」
「同じく!左腕の切断を確認!戦闘続行は不可能です!」
返る声は全て同様で、水弾で弾き飛ばされた兵も、装甲がひしゃげてしまって満足に動けないという。
五機の巨鎧兵は我先にと駆け出した。
一機は今ももがいているが、そんなことを気にしてはいられない。
一瞬の攻防であったが、それだけで皆悟ってしまった。
現在の王国が保有する巨鎧兵では、太刀打ちが出来ない存在であると。
団長であるというのにクロヴァトは、部下の事など気にかけず一心不乱に逃げ出した。
彼らが正気に戻ったのは、国境まで戻ってきたときだった。
前方に見える崩壊した防壁を見て、クロヴァトは思わず立ち止まる。
背後を確認し、追手が来ていないことを確認すると、何が来てもすぐ対応できるように、注意深く王城の方を睨みつけた。
もっともそれは、いつでも逃げられるように身構えているに過ぎないのだが。
暫く王城のある方角を気にしていると、空が数度瞬いた。
何かの攻撃かと、クロヴァトは更に身構える。
ところが、その後どれだけ待っても異変のようなものは起きない。
「どうしますか?クロヴァト様……」
「……戻るしかあるまい。一機置いてきてしまったし、このまま帰っては王の怒りを買いかねん」
こんな状況であっても、彼が恐れるのは未確認の巨鎧兵ではなく、ハルクエル王の怒りであった。
それは部下も同様の様で、彼の決定に異を唱える者はない。
クロヴァトらが再びシェンカ国の王都に辿り着くと、異様な光景が広がっていた。
誰も……誰もいなかったのだ。
先程驚異的な戦闘能力を見せつけた巨鎧兵だけに飽き足らず、水弾を受け身動きが取れなかった筈の巨鎧兵の姿も、防衛の為に防壁上にいる筈の兵士の姿も無かった。
気味が悪くなった五人は、壁を乗り越え王都の中になだれ込む。
先に呟いたのはクロヴァトだ。
「な……なんだこれは……誰も……いない?」
その声に部下の声が連なる。
「近くの民家、大通りと思われる通り……どこにも人影がありません!」
「嘘だろ?だってそこのテーブルに……飲みかけのカップが置いてあるじゃないか!」
町の至る処には、先ほどまで人がいた形跡がありありと残っている。
だというのに、シェンカの町には人一人残っていなかった。
暫く町の中を探索し、無人であることと安全であることを確認すると、クロヴァトは言い訳をするかのように言い放つ。
「と、兎も角、王にこのことを伝えよう。なぁに、多少の被害は出たものの、シェンカ国は無事制圧できたんだ。堂々と胸を張って帰ろうではないか」
震える声でそういったクロヴァトは、部下二名を町に残し、駆け足でバルドリンガへと戻っていった。
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