反魂の傀儡使い

菅原

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9章 集う思い

勇敢なる戦士

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 錬金術師の加入により、革命軍の持つ巨鎧兵は更なる強化が可能となった。
中でも一番の大きな変化は、装甲がひしゃげて使い物にならなかった巨鎧兵の修理をすることが可能となったことだ。
ジェシリカ……ジェシーは革命軍に合流した翌日には、巨鎧兵の前に立ち修理を開始する。

 錬金術というものは、物質の形状変化、性質変化に特化した魔術の一種である。
元は唯の石から金を作り出そうとする俗な考えから生まれた技術だったが、現在では多くの物に流用されている。
この力を使うことで、この世界にある物質は、無限大の可能性を手に入れたと言ってもいいだろう。
 錬金術師でありながら、魔法も操るジェシーは、錬金術師の中でも優秀な部類に属し、彼女が存分に力を振るうことで、巨鎧兵の修理が可能となったのだ。


 日を追うごとに戦力が増えていくこの状況で、一番の不安要素は一万近くいる人間の、衣食住の確保であった。
それだけの人間が住む空間を作るために切り倒した樹木は数知れず。そのせいで、見渡す限り新緑に包まれていた森は所々に穴が開いてしまい、以前よりも潜伏に適さなくなっている。
加えて、森にある果物、川からとれる魚だけでは、彼らの食事全てを賄えない為、町への依存度が極めて高くなってしまっていた。
幾ら国の外れとはいえ、町はバルドリンガ領の中にある。優秀な執政であれば、直ぐにでもその異常性に気付くだろう。

 革命軍は、人数の増大により様々な問題を抱えていたが、それでも人形の館には続々と兵士が合流する。
合流すればその分人間の数が増え、当然その分の衣服や食事は町の商品に頼ることになるだろう。
今はまだ、皆逃げる時に持ち出した金銭があるからいい。
だがそれが無くなるより前に、革命軍は何かしらの手を打たなければならなかった。


 問題だらけの生活環境とは打って変わり、巨鎧兵の修理は順調に進んでいった。
同時にローゼリエッタとシャルルによる改良も行われ、革命軍の戦力は着々と整えられていく。
やがて、残り数体を修理すれば全て終了する頃、人形の館へ異色の一団が姿を現した。

 傷だらけの身体に鎧。携えた剣は錆び付き、どれもこれも刃毀れしている。背にはずだずだに引き裂かれた外套を羽織り、体中泥で真っ黒だ。
周辺国から逃げてきた兵士らの装備も、長旅によってそれなりに草臥れてはいたのだが、彼らの装備と比べればどれだけ上等に映るだろうか。
二百余りいるその集団は、人形の館目前まで来ると、地面に身体を投げ出した。

 ローゼリエッタは、一体何事かと様子を見に姿を現す。すると集団の中から一人の男が立ち上がり、少女に歩み寄ってきた。
「貴女がローゼリエッタ殿か?」
ローゼリエッタにはその顔に見覚えがない。
短く波打つ茶色の頭髪。筋肉粒々の逞しい体。顔は泥で真っ黒だが、どことなく育ちの良さが漂う。

 何故名前を知っているのか怪訝に思ったローゼリエッタは、警戒しながら男に言葉を返した。
「確かに私の名はローゼリエッタですが……貴方方は一体何方様でしょうか?」
少女のこわばった表情を見た男は、慌てて名乗りを上げる。
「これは失礼した。私は、今は亡きパラミシア国の王“ガンフ・ゴゾーディオ”という。近くの町で、ある貴族から貴女の名を耳にした。なんでもバルドリンガに抗おうとしているそうな。あの国は我が国の敵。ぜひ我々も同行させてもらいたい」
男が口にしたその名を聞き、驚きの声を上げたのは傍から様子を見ていたセリアだった。
「ガンフ王ですって!?バルドリンガはパラミシア王の死を確認したって言ってるわよ!?」
彼女の荒げた声を受け、周囲が俄かにざわめいた。

 両者の話が本当であるのならば、今ここにいる男は、滅亡した国の王の亡霊ということになる。
だがそんなことあるはずがない。何せガンフは今、二本の足で立っているのだから。
 周囲が騒がしくなる中、ガンフは落ち着いた様子で皆を宥めた。
「その亡くなったパラミシア王は私の影武者だ。……尊い命を賭して、私の身代わりになってくれた。彼だけではない。バルドリンガとの戦争に敗北してから、多くの者達が私の命を守る為に死んでいった。その者達の為にも……どうか、共に戦わせてくれないか?頼む」
王は、ローゼリエッタに向かって真摯に頭を下げる。
その態度に、その場にいる者は皆息をのんだ。


 人目を気にしたローゼリエッタは、落ち着いて話ができるようにガンフを屋敷に招き入れた。
だが話し合いの前に、やらなければならないことがある。
先ずは湯を提供し、泥だらけの身体を清めさせる。続いて食事を与え、腹の虫を黙らせた。
これによりガンフ王の表情も大分穏やかなものとなり、いよいよ二人は話し合いの席を設ける。

 ぼろぼろな状態で頭を下げた姿も相当なものだったが、汚れを落とし小綺麗な格好になると尚更高貴な雰囲気が滲み出る。
例え安物の服に身を包んだと言えども、王として育ったその品格を隠すことは出来ないようで、椅子に座る佇まいからも王の風格が漂っていた。
 ガンフはまず、風呂と食事を用意してくれたことに感謝する。
「心あるもてなしを感謝する。身を清めたのなどいつぶりだろうか。それにここまで心置きなく食を楽しんだのも久しい。兵たちも良くしてくれたようだし、感謝の言葉しかでない。ありがとう」
そういって彼は、姿勢を正すと一つ頭を下げた。

 彼のこの言葉は、心からの発言である。
パラミシアが滅亡してからこれまで水浴びをする余裕などなかったし、身を隠すために泥を浴びたのも事実である。
そして限られた食料を皆で分け、命からがらこの地までたどり着いたのだった。
だが、そういった細事を知らぬローゼリエッタは、その言葉を真に受けない。
「そ、そんな……とても王様の口に合うものではなかったでしょうに」
少女は頭を下げる王に向かって、頭を下げ返した。
 ガンフに出された食事は、切り分けられた果物に泥臭い川魚を塩で焼いただけの物だ。オージェスの民ですら、来たばかりの時は顔を顰めるような食事であった。それを楽しめたなどというガンフの言葉が、少女にはどうしても真実だとは思えなかった。

 暫し互いに頭を下げ合い、私の方が、と言い連ねる二人。
埒が明かないと感じたガンフは、呆れながらも願いを口にする。
「さて本題だが、我々パラミシア軍も、君たちの軍勢に加えては貰えないだろうか?あの巨大な鎧人形には歯が立たないかもしれないが、白兵戦ならば自信がある」
「それは心強いです。ぜひご助力お願いしたします」
そういって、また互いに恭しく一礼する。
何とも堅苦しいやり取りに、ガンフは頭をかいた。


 革命軍に加わりたいというガンフの要望はあっけなく了承された。当然の事だろう。戦力が整ってきているとはいえ、革命軍はまだまだ戦力を欲している。
自ら戦おうとするものを拒絶する理由など、彼女らには何処にもないのだ。
 程なくしてパラミシア軍の生き残り百九十三名は、正式に革命軍に加入を果たす。
更に数日もすると、全ての巨鎧兵の修理が終わり、改良までをも施し終えた。
できうる限りの補強が終わった革命軍は、いよいよ次の策を決行する。
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