反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
46 / 153
9章 集う思い

非情な選択肢

しおりを挟む
 新たに革命軍の仲間となったガンフは、人形の館の周辺にある居住空間を見て辟易していた。
立派な建物がないからでは無い。毎食の泥臭い魚に腹を立てているわけでもない。
彼が怒りと呆れに支配されたのは、危機感の欠片もない民衆のせいであった。

 大陸の中央を陣取る大国バルドリンガ。
彼の国は今、周辺国を喰い漁っている。
そして、明日にでもこの場を嗅ぎ付け、乗り込んできても不思議ではないのだ。
だと言うのに、女は屯して自国の習慣の話に花を咲かせ、男は軽い見回りだけで満足してしまっている。
(これは……とてもではないが……)
敗北の二文字が頭に過り、ガンフはちらりと巨鎧兵を見た。

 パラミシアが崩落した時に、国を襲った巨大な鉄人形。
保有数には大きな差があるようだが、例え数は少なくても、味方としてあることがとても心強い。
 それに加え、パラミシアと双璧を成すほどの大国、オージェスの将来を担う魔法使いたちもいる。
そして大分昔に姿を消したという傀儡師。彼らが入り乱れるその光景は、王である前に、一人の戦士であるガンフの胸を高鳴らせた。
 戦力には圧倒的な差があるが、それでもガンフは、彼女らに僅かな可能性を見る。
(此方には文句もでないのだがな……さて、どうしたものか)
ガンフは再び、笑い会う民衆を冷めた目で見つめた。


 太陽が町の向こうへと沈んでいく。
辺りはどんどん暗くなり、一日の終わりが迫る頃あいだ。
ローゼリエッタはその日の仕事を切り上げ、シャルルと共に巨鎧兵の元から館へと戻ってきていた。
狭い隙間に籠りっぱなしで凝り固まった体を解しながら、少女が館の戸を開けようと把手に手をかけた時。
「ローゼリエッタ殿。少し話があるのだが」
険しい表情をしたガンフに引き留められた。

 館に招き入れられたガンフは、人形を作る作成部屋にて、ローゼリエッタへと苦言を呈す。
「聞きたくないことだろうが言わせて頂く。彼らをこの場から遠ざけるべきだ。これから私たちは、王国との壮絶な戦いに身を投じなければならない。だと言うのに、あれだけの数の足手まといがいるのでは、戦いどころの話ではない」
その言葉に、ローゼリエッタは驚き叫びを上げた。
「なっ……!何を言うのです!?国王であった貴方が、民を見捨てろと言うのですか!?」
「バルドリンガは、膨大な戦力を持つ大国だ。これに抵抗できる可能性がある国はもう一つもない。我々が、あの国の暴走を止める最後の砦なのだぞ!」
両者の叫びが館に木霊する。
「革命軍の最大の利点。それは少数の集団だけが持つ、奇襲性と機動性の高さにある。話を聞いたかぎり、これまでの戦果はこれの賜物だろう。だが一万近い人間を抱える今、戦えず、逃げることも満足にできぬ彼らのせいで、その利点が失われつつある。我々が置かれる今の状況が、非常に危険なものであることは、貴女も十分理解しているのだろう?」
ガンフの問いかけに対し、ローゼリエッタは答えを返さない。代わりに少女は、俯き悔しそうに拳を握りしめた。


 ローゼリエッタは、既に気が付いていた。
彼らがこれからの戦いで足を引っ張る存在であることに。
それは何も戦いの中だけに限らない。
既に樹木の伐採によって、森が持つ従来の隠匿性は失われつつあり、膨大な商品の買い占めが、常に王国へ居場所を報せている。
民の生活保全の為に、戦士の生活が圧迫されている気もあるだろう。
こういった問題を理解していながらも、ローゼリエッタを始めとした革命軍の者たちは、その事に一切口を出さなかった。
 彼女らは知っていたのだ。彼らがここを追い出された時、今後彼らに降りかかる災厄を。
これだけの数の人間が、例え王国全土に散らばったところで、目立たないわけがないだろう。
他の町に逃げた者は、名を捨て、身分を隠したうえで手に入る、極僅かな仮初の平和を謳歌した後、王国に捕虜として捉えられ、拷問、処刑されるのは明白だ。
つまり、彼らをここから追い出すということは、その者を殺すこととほぼ同意であった。


 王の威厳を放ちながら、正論と思われる言葉を連ねるガンフ。
それでもローゼリエッタは頷くことをしなかった。
「申しわけありませんが、今彼らを見捨てるつもりはありません。少なくとも……後二つの国の民を王国の手から守るまでは」
これが彼女の出した答えだった。
 ガンフは少女の答えに反論しようとした。
彼女が行おうとしていることは、問題の先送りに過ぎない。そして恐らく、その時では既に遅いだろうと。
だが彼の声を待たずして、ローゼリエッタは部屋を飛び出してしまった。
 残されたガンフは、王であった時は一度も経験したことが無かった『歯向かわれる』という行為に、若干の感動を覚えながら放心する。
(先日はあれだけ恐縮していたというのに……)
暫くして、取り残された男は呟いた。
「なんともまぁ、お優しきお嬢さんだ」
その口元に笑みが浮かんだことに、彼自身は気づいていない。


 元国王の忠告を受け、若き指導者は答えを出した。
付き従う者達はその答えに従い行動に移すのみ。
やがて、王国から二つの国に対し、侵略するとの声明が出される。
革命軍は二つの国の民を守るため、行動を開始した。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...