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9章 集う思い
非情な選択肢
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新たに革命軍の仲間となったガンフは、人形の館の周辺にある居住空間を見て辟易していた。
立派な建物がないからでは無い。毎食の泥臭い魚に腹を立てているわけでもない。
彼が怒りと呆れに支配されたのは、危機感の欠片もない民衆のせいであった。
大陸の中央を陣取る大国バルドリンガ。
彼の国は今、周辺国を喰い漁っている。
そして、明日にでもこの場を嗅ぎ付け、乗り込んできても不思議ではないのだ。
だと言うのに、女は屯して自国の習慣の話に花を咲かせ、男は軽い見回りだけで満足してしまっている。
(これは……とてもではないが……)
敗北の二文字が頭に過り、ガンフはちらりと巨鎧兵を見た。
パラミシアが崩落した時に、国を襲った巨大な鉄人形。
保有数には大きな差があるようだが、例え数は少なくても、味方としてあることがとても心強い。
それに加え、パラミシアと双璧を成すほどの大国、オージェスの将来を担う魔法使いたちもいる。
そして大分昔に姿を消したという傀儡師。彼らが入り乱れるその光景は、王である前に、一人の戦士であるガンフの胸を高鳴らせた。
戦力には圧倒的な差があるが、それでもガンフは、彼女らに僅かな可能性を見る。
(此方には文句もでないのだがな……さて、どうしたものか)
ガンフは再び、笑い会う民衆を冷めた目で見つめた。
太陽が町の向こうへと沈んでいく。
辺りはどんどん暗くなり、一日の終わりが迫る頃あいだ。
ローゼリエッタはその日の仕事を切り上げ、シャルルと共に巨鎧兵の元から館へと戻ってきていた。
狭い隙間に籠りっぱなしで凝り固まった体を解しながら、少女が館の戸を開けようと把手に手をかけた時。
「ローゼリエッタ殿。少し話があるのだが」
険しい表情をしたガンフに引き留められた。
館に招き入れられたガンフは、人形を作る作成部屋にて、ローゼリエッタへと苦言を呈す。
「聞きたくないことだろうが言わせて頂く。彼らをこの場から遠ざけるべきだ。これから私たちは、王国との壮絶な戦いに身を投じなければならない。だと言うのに、あれだけの数の足手まといがいるのでは、戦いどころの話ではない」
その言葉に、ローゼリエッタは驚き叫びを上げた。
「なっ……!何を言うのです!?国王であった貴方が、民を見捨てろと言うのですか!?」
「バルドリンガは、膨大な戦力を持つ大国だ。これに抵抗できる可能性がある国はもう一つもない。我々が、あの国の暴走を止める最後の砦なのだぞ!」
両者の叫びが館に木霊する。
「革命軍の最大の利点。それは少数の集団だけが持つ、奇襲性と機動性の高さにある。話を聞いたかぎり、これまでの戦果はこれの賜物だろう。だが一万近い人間を抱える今、戦えず、逃げることも満足にできぬ彼らのせいで、その利点が失われつつある。我々が置かれる今の状況が、非常に危険なものであることは、貴女も十分理解しているのだろう?」
ガンフの問いかけに対し、ローゼリエッタは答えを返さない。代わりに少女は、俯き悔しそうに拳を握りしめた。
ローゼリエッタは、既に気が付いていた。
彼らがこれからの戦いで足を引っ張る存在であることに。
それは何も戦いの中だけに限らない。
既に樹木の伐採によって、森が持つ従来の隠匿性は失われつつあり、膨大な商品の買い占めが、常に王国へ居場所を報せている。
民の生活保全の為に、戦士の生活が圧迫されている気もあるだろう。
こういった問題を理解していながらも、ローゼリエッタを始めとした革命軍の者たちは、その事に一切口を出さなかった。
彼女らは知っていたのだ。彼らがここを追い出された時、今後彼らに降りかかる災厄を。
これだけの数の人間が、例え王国全土に散らばったところで、目立たないわけがないだろう。
他の町に逃げた者は、名を捨て、身分を隠したうえで手に入る、極僅かな仮初の平和を謳歌した後、王国に捕虜として捉えられ、拷問、処刑されるのは明白だ。
つまり、彼らをここから追い出すということは、その者を殺すこととほぼ同意であった。
王の威厳を放ちながら、正論と思われる言葉を連ねるガンフ。
それでもローゼリエッタは頷くことをしなかった。
「申しわけありませんが、今彼らを見捨てるつもりはありません。少なくとも……後二つの国の民を王国の手から守るまでは」
これが彼女の出した答えだった。
ガンフは少女の答えに反論しようとした。
彼女が行おうとしていることは、問題の先送りに過ぎない。そして恐らく、その時では既に遅いだろうと。
だが彼の声を待たずして、ローゼリエッタは部屋を飛び出してしまった。
残されたガンフは、王であった時は一度も経験したことが無かった『歯向かわれる』という行為に、若干の感動を覚えながら放心する。
(先日はあれだけ恐縮していたというのに……)
暫くして、取り残された男は呟いた。
「なんともまぁ、お優しきお嬢さんだ」
その口元に笑みが浮かんだことに、彼自身は気づいていない。
元国王の忠告を受け、若き指導者は答えを出した。
付き従う者達はその答えに従い行動に移すのみ。
やがて、王国から二つの国に対し、侵略するとの声明が出される。
革命軍は二つの国の民を守るため、行動を開始した。
立派な建物がないからでは無い。毎食の泥臭い魚に腹を立てているわけでもない。
彼が怒りと呆れに支配されたのは、危機感の欠片もない民衆のせいであった。
大陸の中央を陣取る大国バルドリンガ。
彼の国は今、周辺国を喰い漁っている。
そして、明日にでもこの場を嗅ぎ付け、乗り込んできても不思議ではないのだ。
だと言うのに、女は屯して自国の習慣の話に花を咲かせ、男は軽い見回りだけで満足してしまっている。
(これは……とてもではないが……)
敗北の二文字が頭に過り、ガンフはちらりと巨鎧兵を見た。
パラミシアが崩落した時に、国を襲った巨大な鉄人形。
保有数には大きな差があるようだが、例え数は少なくても、味方としてあることがとても心強い。
それに加え、パラミシアと双璧を成すほどの大国、オージェスの将来を担う魔法使いたちもいる。
そして大分昔に姿を消したという傀儡師。彼らが入り乱れるその光景は、王である前に、一人の戦士であるガンフの胸を高鳴らせた。
戦力には圧倒的な差があるが、それでもガンフは、彼女らに僅かな可能性を見る。
(此方には文句もでないのだがな……さて、どうしたものか)
ガンフは再び、笑い会う民衆を冷めた目で見つめた。
太陽が町の向こうへと沈んでいく。
辺りはどんどん暗くなり、一日の終わりが迫る頃あいだ。
ローゼリエッタはその日の仕事を切り上げ、シャルルと共に巨鎧兵の元から館へと戻ってきていた。
狭い隙間に籠りっぱなしで凝り固まった体を解しながら、少女が館の戸を開けようと把手に手をかけた時。
「ローゼリエッタ殿。少し話があるのだが」
険しい表情をしたガンフに引き留められた。
館に招き入れられたガンフは、人形を作る作成部屋にて、ローゼリエッタへと苦言を呈す。
「聞きたくないことだろうが言わせて頂く。彼らをこの場から遠ざけるべきだ。これから私たちは、王国との壮絶な戦いに身を投じなければならない。だと言うのに、あれだけの数の足手まといがいるのでは、戦いどころの話ではない」
その言葉に、ローゼリエッタは驚き叫びを上げた。
「なっ……!何を言うのです!?国王であった貴方が、民を見捨てろと言うのですか!?」
「バルドリンガは、膨大な戦力を持つ大国だ。これに抵抗できる可能性がある国はもう一つもない。我々が、あの国の暴走を止める最後の砦なのだぞ!」
両者の叫びが館に木霊する。
「革命軍の最大の利点。それは少数の集団だけが持つ、奇襲性と機動性の高さにある。話を聞いたかぎり、これまでの戦果はこれの賜物だろう。だが一万近い人間を抱える今、戦えず、逃げることも満足にできぬ彼らのせいで、その利点が失われつつある。我々が置かれる今の状況が、非常に危険なものであることは、貴女も十分理解しているのだろう?」
ガンフの問いかけに対し、ローゼリエッタは答えを返さない。代わりに少女は、俯き悔しそうに拳を握りしめた。
ローゼリエッタは、既に気が付いていた。
彼らがこれからの戦いで足を引っ張る存在であることに。
それは何も戦いの中だけに限らない。
既に樹木の伐採によって、森が持つ従来の隠匿性は失われつつあり、膨大な商品の買い占めが、常に王国へ居場所を報せている。
民の生活保全の為に、戦士の生活が圧迫されている気もあるだろう。
こういった問題を理解していながらも、ローゼリエッタを始めとした革命軍の者たちは、その事に一切口を出さなかった。
彼女らは知っていたのだ。彼らがここを追い出された時、今後彼らに降りかかる災厄を。
これだけの数の人間が、例え王国全土に散らばったところで、目立たないわけがないだろう。
他の町に逃げた者は、名を捨て、身分を隠したうえで手に入る、極僅かな仮初の平和を謳歌した後、王国に捕虜として捉えられ、拷問、処刑されるのは明白だ。
つまり、彼らをここから追い出すということは、その者を殺すこととほぼ同意であった。
王の威厳を放ちながら、正論と思われる言葉を連ねるガンフ。
それでもローゼリエッタは頷くことをしなかった。
「申しわけありませんが、今彼らを見捨てるつもりはありません。少なくとも……後二つの国の民を王国の手から守るまでは」
これが彼女の出した答えだった。
ガンフは少女の答えに反論しようとした。
彼女が行おうとしていることは、問題の先送りに過ぎない。そして恐らく、その時では既に遅いだろうと。
だが彼の声を待たずして、ローゼリエッタは部屋を飛び出してしまった。
残されたガンフは、王であった時は一度も経験したことが無かった『歯向かわれる』という行為に、若干の感動を覚えながら放心する。
(先日はあれだけ恐縮していたというのに……)
暫くして、取り残された男は呟いた。
「なんともまぁ、お優しきお嬢さんだ」
その口元に笑みが浮かんだことに、彼自身は気づいていない。
元国王の忠告を受け、若き指導者は答えを出した。
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