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10章 救出作戦
コーンウェル救出作戦 3
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迫る三千の軍勢。
対するは十五の人影。彼女らはまるで舞踏会に赴くような服装で、戦場に似つかわしくない笑みを湛え恭しくお辞儀をする。
「存分にお相手して差し上げましょう。さあ皆さん。劇の時間です!」
セリアの上げた声にはじかれる様に、五人の演者は踊り出す。
真っ先に、漆黒の騎士がバルドリンガ軍目掛けて駆け出した。
彼我の距離は瞬く間に縮まり、戦いの始まりを告げる第一撃が放たれる。
セリアの操る『漆黒の騎士』は、人間の背丈と同じくらいある剣を振り回し、バルドリンガ兵を両断する。
その力は凄まじく、敵が鉄の鎧を身に着けていようとおかまになしだ。
たったの一振り。その一振りで、敵兵の五人が吹き飛び、接触により十人が戦闘不可能となった。
その傀儡を相手にする兵士からすれば堪ったものではない。
人の倍はある体躯。その鎧は黒鉄で作られていて、鉄の剣など容易く弾き返してしまう。
それだけの防御力を有しながらその巨兵は、一瞬で視界から消え去るように動き回るのだ。
初激の攻防を受け、バルドリリンがの兵士は一瞬動くことをやめてしまった。
そして見てしまう。悠然と人を見下ろす漆黒の騎士を。
その時間は、瞬きを一つする程度のほんの僅かな時間だった。
しかしその一瞬の硬直によって、いくつもの命が帰らぬものとなってしまう。
傀儡人形を作るにあたって、これと言った決まりごとは無い。
大前提として、糸を用いて人形を操ることがあげられ、それに当てはまれば傀儡人形と扱われる。
だから当然、その造形も十人十色。作る者の趣向によって、様々な特徴を持つ。
中には彼らのように、四つ足の物や六つ足の物、人ならざる者の姿を真似て作る者もいた。
それらの傀儡が戦場をかける姿は、異様の一言に尽きる。
硬直する兵士目掛けて、馬のような四つ足に、人間の上半身を繋いだような、異形の傀儡が迫る。
手に持つ武器は槍の亜種。突くよりも薙ぎ払うことに重きを置いた特注品だ。
皆一様に漆黒の騎士を見上げる中、その傀儡が静かに槍を振るった。
槍は正確に、一人の兵士の頭をもぎ取る。
飛び散る鮮血、倒れる体。そして、上がる悲鳴。槍を構えるその姿もまた、兵士たちの恐怖を掻き立てる。
驚くべきは異形の傀儡を操る者だ。
齢八十に迫ろうかともいう老人で、とうに髪は抜け落ち、残った自慢の髭を揺らす御大である。
「よそ見してると危ないぞい!ほれ!『四つ足の美丈夫』よ!存分に暴れまわるが良い!」
老獪に笑う顔は皺だらけ。そんな年おいた者ですら、戦場で戦う権利を有するのは、傀儡師だから可能なことと言えるだろう。
爺は、暴れまわる傀儡人形を見て満足そうに笑うと、豪快に舞い踊る。
四つ足の傀儡人形と時を同じく動き出したのが、老婆の操る六つ足の傀儡人形だ。
こちらは他の物よりも更に異質で、人間と似通った部位が一切見当たらない。
体は低く横に広い。頭と腹に六本の足。その姿は蜘蛛を巨大化したものと等しく、尻から糸を出しても何ら不思議ではない。
動きもまるで蜘蛛の様で、その傀儡を見ているだけで嫌悪感を覚えてしまう。
「ほっほっほ。そこな爺に負けてられるかい!『六つ足の麗人』!断ち切ってしまい!」
六つ足の傀儡人形は、地を這うように兵士に近づくと、鋭い刃がついた二つの前足を振り回す。
傀儡人形が獲物を捕食する度に、婆は手を叩いて喜んだ。
バルドリンガ軍は、正味度肝を抜かれた。
敵兵は高々十五。その中には今にも倒れてしまいそうな老人もおり、勝敗は一瞬で決すると思っていたのだ。
だが蓋を開けてみればどうだ。戦場を暴れまわる傀儡人形は強力無比。一騎当千ともいえる力を持っている。
人形の背後で優雅に踊るその根源を立とうとしても、腕の立つ兵士がそれを拒む。
先陣を切っていた五百の兵は瞬く間に敗れ去り、それだけの数を消費していながら、バルドリンガ軍は傀儡師の一人も減らすことが出来なかった。
傀儡師隊は戦闘の中で、誰もがこう思っていた。
我々ならば、三千の兵を全滅させられるだろうと。
その思いを実現すべく、傀儡師たちは只管兵士を殺し続ける。
王都の中で熾烈な戦いが行われていた丁度その頃、王都の外で戦っていた巨鎧兵隊に動きがあった。
シャルルとリエントが操る赤鉄の騎士の力は素晴らしく、十機の巨鎧兵を瞬く間に無力化してしまう。
後は王都の中にいるセリアらと合流し、離脱を計るのみ。
だがそこへ、防壁の近くで注意を払っていた巨鎧兵隊の一人が声を上げた。
「隊長!西の方角より敵影です!数は……なんだあれは……!に、二百はあるかと!」
報せを受け、西の方角を見たシャルルとリエント。そこには、二百五十機の巨鎧兵が列を成していた。
距離はまだあるが、人の何倍もある巨体を考えれば、十分に離れているとは言い難い。
冷静に敵集団を観察し、シャルルは呟いた。
「……どうやら奴さん、私たちが来るのを分かってたみたいね」
いかに彼女らが乗る巨鎧兵が高性能であろうとも、たった三機で二百五十の巨鎧兵と渡り合うのは危険極まりない。
殲滅戦ならいざ知らず、この戦いは民を助ける戦いだ。優先されるのは勿論、コーンウェルの民の安否である。
早く逃げなければ。そう判断した彼女の行動は早かった。
シャルルはすぐに、外へ声を拡散し、王都の中にいる仲間へと指示を出す。
「二百を超える巨鎧兵を確認!離脱しないと危険よ!急いで!」
振り向いた彼女は、西門目掛けて駆けてくる民の姿を見た。
巨鎧兵隊はすぐさま、離脱の準備を始める。
シャルルの報せを受け、セリアは戦いの中で『あるもの』を諦めた。
コーンウェルの民は、まだ巨鎧兵の下へたどり着いていない。
その中には年寄りや足の不自由な者もいて、それを手助けする兵士らも一つ遅れてしまっているのが現状だ。
今傀儡師隊が撤退を始めたのでは、皆が離脱する前に敵兵に追いつかれ、殺されてしまうだろう。
そうでなくても、セリアらが少しでも戦線を下げてしまえば、敵兵が転送魔法の範囲に入ってしまう。
だから彼女らは、少なくとも転送魔法の発動が確認され、大多数の民がこの場から逃げ果せるまでは、離脱することが出来ないのだ。
だが恐らく、それが完遂される頃には、二百を超える巨鎧兵が、コーンウェルの町に押し寄せてくるだろう。
作戦の目的はコーンウェルの民を救うこと。ならば、彼女らの取る選択肢は既に決まっていた。
「傀儡師隊!皆が逃げ切るまでここで軍を引き留めます!腹を決めなさい!」
セリアらは、自身の命を諦めた。
対するは十五の人影。彼女らはまるで舞踏会に赴くような服装で、戦場に似つかわしくない笑みを湛え恭しくお辞儀をする。
「存分にお相手して差し上げましょう。さあ皆さん。劇の時間です!」
セリアの上げた声にはじかれる様に、五人の演者は踊り出す。
真っ先に、漆黒の騎士がバルドリンガ軍目掛けて駆け出した。
彼我の距離は瞬く間に縮まり、戦いの始まりを告げる第一撃が放たれる。
セリアの操る『漆黒の騎士』は、人間の背丈と同じくらいある剣を振り回し、バルドリンガ兵を両断する。
その力は凄まじく、敵が鉄の鎧を身に着けていようとおかまになしだ。
たったの一振り。その一振りで、敵兵の五人が吹き飛び、接触により十人が戦闘不可能となった。
その傀儡を相手にする兵士からすれば堪ったものではない。
人の倍はある体躯。その鎧は黒鉄で作られていて、鉄の剣など容易く弾き返してしまう。
それだけの防御力を有しながらその巨兵は、一瞬で視界から消え去るように動き回るのだ。
初激の攻防を受け、バルドリリンがの兵士は一瞬動くことをやめてしまった。
そして見てしまう。悠然と人を見下ろす漆黒の騎士を。
その時間は、瞬きを一つする程度のほんの僅かな時間だった。
しかしその一瞬の硬直によって、いくつもの命が帰らぬものとなってしまう。
傀儡人形を作るにあたって、これと言った決まりごとは無い。
大前提として、糸を用いて人形を操ることがあげられ、それに当てはまれば傀儡人形と扱われる。
だから当然、その造形も十人十色。作る者の趣向によって、様々な特徴を持つ。
中には彼らのように、四つ足の物や六つ足の物、人ならざる者の姿を真似て作る者もいた。
それらの傀儡が戦場をかける姿は、異様の一言に尽きる。
硬直する兵士目掛けて、馬のような四つ足に、人間の上半身を繋いだような、異形の傀儡が迫る。
手に持つ武器は槍の亜種。突くよりも薙ぎ払うことに重きを置いた特注品だ。
皆一様に漆黒の騎士を見上げる中、その傀儡が静かに槍を振るった。
槍は正確に、一人の兵士の頭をもぎ取る。
飛び散る鮮血、倒れる体。そして、上がる悲鳴。槍を構えるその姿もまた、兵士たちの恐怖を掻き立てる。
驚くべきは異形の傀儡を操る者だ。
齢八十に迫ろうかともいう老人で、とうに髪は抜け落ち、残った自慢の髭を揺らす御大である。
「よそ見してると危ないぞい!ほれ!『四つ足の美丈夫』よ!存分に暴れまわるが良い!」
老獪に笑う顔は皺だらけ。そんな年おいた者ですら、戦場で戦う権利を有するのは、傀儡師だから可能なことと言えるだろう。
爺は、暴れまわる傀儡人形を見て満足そうに笑うと、豪快に舞い踊る。
四つ足の傀儡人形と時を同じく動き出したのが、老婆の操る六つ足の傀儡人形だ。
こちらは他の物よりも更に異質で、人間と似通った部位が一切見当たらない。
体は低く横に広い。頭と腹に六本の足。その姿は蜘蛛を巨大化したものと等しく、尻から糸を出しても何ら不思議ではない。
動きもまるで蜘蛛の様で、その傀儡を見ているだけで嫌悪感を覚えてしまう。
「ほっほっほ。そこな爺に負けてられるかい!『六つ足の麗人』!断ち切ってしまい!」
六つ足の傀儡人形は、地を這うように兵士に近づくと、鋭い刃がついた二つの前足を振り回す。
傀儡人形が獲物を捕食する度に、婆は手を叩いて喜んだ。
バルドリンガ軍は、正味度肝を抜かれた。
敵兵は高々十五。その中には今にも倒れてしまいそうな老人もおり、勝敗は一瞬で決すると思っていたのだ。
だが蓋を開けてみればどうだ。戦場を暴れまわる傀儡人形は強力無比。一騎当千ともいえる力を持っている。
人形の背後で優雅に踊るその根源を立とうとしても、腕の立つ兵士がそれを拒む。
先陣を切っていた五百の兵は瞬く間に敗れ去り、それだけの数を消費していながら、バルドリンガ軍は傀儡師の一人も減らすことが出来なかった。
傀儡師隊は戦闘の中で、誰もがこう思っていた。
我々ならば、三千の兵を全滅させられるだろうと。
その思いを実現すべく、傀儡師たちは只管兵士を殺し続ける。
王都の中で熾烈な戦いが行われていた丁度その頃、王都の外で戦っていた巨鎧兵隊に動きがあった。
シャルルとリエントが操る赤鉄の騎士の力は素晴らしく、十機の巨鎧兵を瞬く間に無力化してしまう。
後は王都の中にいるセリアらと合流し、離脱を計るのみ。
だがそこへ、防壁の近くで注意を払っていた巨鎧兵隊の一人が声を上げた。
「隊長!西の方角より敵影です!数は……なんだあれは……!に、二百はあるかと!」
報せを受け、西の方角を見たシャルルとリエント。そこには、二百五十機の巨鎧兵が列を成していた。
距離はまだあるが、人の何倍もある巨体を考えれば、十分に離れているとは言い難い。
冷静に敵集団を観察し、シャルルは呟いた。
「……どうやら奴さん、私たちが来るのを分かってたみたいね」
いかに彼女らが乗る巨鎧兵が高性能であろうとも、たった三機で二百五十の巨鎧兵と渡り合うのは危険極まりない。
殲滅戦ならいざ知らず、この戦いは民を助ける戦いだ。優先されるのは勿論、コーンウェルの民の安否である。
早く逃げなければ。そう判断した彼女の行動は早かった。
シャルルはすぐに、外へ声を拡散し、王都の中にいる仲間へと指示を出す。
「二百を超える巨鎧兵を確認!離脱しないと危険よ!急いで!」
振り向いた彼女は、西門目掛けて駆けてくる民の姿を見た。
巨鎧兵隊はすぐさま、離脱の準備を始める。
シャルルの報せを受け、セリアは戦いの中で『あるもの』を諦めた。
コーンウェルの民は、まだ巨鎧兵の下へたどり着いていない。
その中には年寄りや足の不自由な者もいて、それを手助けする兵士らも一つ遅れてしまっているのが現状だ。
今傀儡師隊が撤退を始めたのでは、皆が離脱する前に敵兵に追いつかれ、殺されてしまうだろう。
そうでなくても、セリアらが少しでも戦線を下げてしまえば、敵兵が転送魔法の範囲に入ってしまう。
だから彼女らは、少なくとも転送魔法の発動が確認され、大多数の民がこの場から逃げ果せるまでは、離脱することが出来ないのだ。
だが恐らく、それが完遂される頃には、二百を超える巨鎧兵が、コーンウェルの町に押し寄せてくるだろう。
作戦の目的はコーンウェルの民を救うこと。ならば、彼女らの取る選択肢は既に決まっていた。
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