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14章 新たな力
ドワーフと巨鎧兵 2
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現れたのは翠の繭。それは日の光を浴びてキラキラと輝く。
これを見て顔を顰めたのはマシリオンだ。再び驚愕の表情で固まり、眼球だけが忙しなく動く。それからたっぷりの時間をかけ、彼は漸く答えを見出した。
「これは……精霊石か……? なんて膨大な量だ……」
僅かに震える声。続いて手も微かに震えだす。
精霊石は、地下にある鉱石が精霊の力に影響され変質したものである。その希少性は言わずもがな、幸運にも視認できぬ精霊が住む領域を見つけだし、幸運にも変質した鉱石を発見し掘り出すことで、漸く手に入る代物だ。
これを意図的に入手しようとするのならば、広大な大地を無尽蔵に掘り進め、精霊が住むと思われる領域の鉱石を掘りつくす工程を、何度も何度も繰り返さねばならない。
それだけ貴重な鉱石を、惜しむことなくふんだんに使用している光景は、ドワーフの技師にとって桃源郷のような景色であった。
マシリオンの疑問は、糸状に加工された精霊石を見て全てが氷解した。糸で操るという少女らの言葉も、固定されていなくとも自立する巨大な鎧も、全て妥当な事だったのだ。
「そうか……分かったぞ! わしは騙されていたようだ!!」
明るい表情で巨鎧兵を見つめる老ドワーフ。その顔には僅かに狂気すら感じる。
「一体何が……」
思わず尋ねたローゼリエッタに、マシリオンは熱弁して見せた。
「あれは、お前さん方が操っている傀儡人形の類ではない。あれは恐らく……」
「魔法人形、でしょう?」
不意に聞こえたのは女性の声。二人が咄嗟に声の方を向けば、黒い髪を靡かせたジェシーの姿があった。
思いもよらぬ人物の発言を受け、ローゼリエッタは驚く。だがそれ以上に驚愕したのはやはりマシリオンだ。
「なんと! 知っている者がおったのか!?」
「なんとなくでしかないけど……だって私が駆り出されるのよ? 魔法人形と考える方が自然じゃない」
ジェシーは以前、魔法人形の作成技術を買われて王国に勧誘されたと言っていた。それはつまり、単純な家事技術だけで再現することが出来ず、唯一、彼女しか持ちえない技術ないし知識が必要だったからだ。当時は言われたことだけを熟していたジェシーだったが、それでも自身が選ばれたことから、なんとなしに、巨鎧兵の正体を掴んでいたようだ。
マシリオンとジェシーは、互いに理解の色を示す。だが話が呑み込めないローゼリエッタは、首をかしげるばかりだ。
「あの……一体何がどうなって?」
「いいかね。精霊石とは、精霊の力を宿した特殊な鉱石だ。その性質は物質の定義に当てはまらず、どちらかと言えば魔法の定義に近い。魔力で形状を変えたり、どんな物理的衝撃を与えてもひび一つはいらんようにな。これを、糸状とはいえ鎧の中に敷き詰める。これは、魔法人形の作成法と酷似しているのだ」
続いてジェシーも教鞭をとる。
「魔法人形の作成方法は、仮初の肉体となる素体の形成。そこへ心臓部となる魔力の宿った鉱石を埋め込み、内となる精霊を召喚し付与するの。精霊石は精霊の力を宿した鉱石……それを用いることで、疑似的な魔法人形が出来たんでしょうね」
三人はそろって、頭上を覆う巨鎧兵を見た。
本来魔法人形は、指示を与えることで、内に宿る精霊がその指示を遂行しようとする。ところがこの不完全な魔法人形は、指示を理解する知能を持たず、そもそも自ら動くこともしない。偶発的に発生したこの現象は、巨鎧兵を作り上げたバルドリンガでも知りえぬ事実であり、制作陣の中でこれに気付いた人物は、魔法人形を操るジェシーのみであった。
事の真相は、かなり惨たらしい。
巨鎧兵を操る操者たちは、物言わぬ魔法人形の体内に入り込み、各所へ指示を伝える伝達神経を弄ることで、巨鎧兵を操っていたのだ。
マシリオンはその行いを、寄生虫のそれと何ら変わらぬと言った。
全ての説明を受けたローゼリエッタは、暫し傷心にかられる。
彼女もまた、物言わぬ操り人形を自身の意のままに操る存在だ。巨鎧兵を操る者が寄生虫とされるのなら、彼女もまた寄生虫だと言われてもおかしくない。
しかしこれに異を唱えたのが、魔法人形を操るジェシーであった。
「寄生虫は撤回して欲しいわね。この魔法人形は、一人じゃ何もできない子供なの。頼まれたことを熟せない、そもそもそういった思考がない、かわいそうな子供。そんな子たちに、生まれてきた意味を与え、体を動かす手助けをしてくれる彼女らは、決して寄生虫なんかじゃないわ」
ジェシーは、いつの間にか傍に寄り添う、愛する魔法人形を撫でる。それはローゼリエッタが自身の人形にする行為とよく似ていた。優しく、愛情のこもった、我が子にするような仕草。その行為は、決して寄生虫と言われる存在の行いではない。
巨鎧兵の正体が明かされると、いよいよ戦力の強化が始まる。当初の予定では、ドワーフの鍛冶技術を用いて、装甲の強化、武装の充実等を大体的に行う筈だった。
ところが、巨鎧兵が唯の鎧人形ではなく魔法人形であるとなると、話は大きく変わってくる。
魔法人形とは存外繊細な物であり、完成した後の素体を挿げ替えることは、実は難しい。生まれ落ちた時にあった腕が、別の物に入れ替わるのだから当然だ。だからバルドリンガも、武装の充実に力を入れ、形状を大きく変えることをしなかった。……いや、出来なかった。
何故なら、巨鎧兵の素体形成に関わった錬金術師は、王国を離れ今この場にいるのだ。
彼女の力を存分に発揮することで、巨鎧兵は更なる進化が可能となる。また、巨鎧兵が扱う武装品については、ドワーフがその腕を存分に振るってくれるだろう。
バルドリンガは過ちを犯した。不要なものと決めつけ早々に切り捨てるという過ちを。それを知ることが出来るのは、次両軍が相まみえる時だ。
「ようし! 作業開始だ! 野郎ども! 装甲の一部を引っぺがせ! お嬢ちゃんは魔法人形視点からの調整だ。おい! 誰かエルフを呼んで来い!」
マシリオンの号令が飛び、辺りは騒がしくなる。
様々な技術者の力を借り、巨鎧兵は新たな姿に生まれ変わっていく。
これを見て顔を顰めたのはマシリオンだ。再び驚愕の表情で固まり、眼球だけが忙しなく動く。それからたっぷりの時間をかけ、彼は漸く答えを見出した。
「これは……精霊石か……? なんて膨大な量だ……」
僅かに震える声。続いて手も微かに震えだす。
精霊石は、地下にある鉱石が精霊の力に影響され変質したものである。その希少性は言わずもがな、幸運にも視認できぬ精霊が住む領域を見つけだし、幸運にも変質した鉱石を発見し掘り出すことで、漸く手に入る代物だ。
これを意図的に入手しようとするのならば、広大な大地を無尽蔵に掘り進め、精霊が住むと思われる領域の鉱石を掘りつくす工程を、何度も何度も繰り返さねばならない。
それだけ貴重な鉱石を、惜しむことなくふんだんに使用している光景は、ドワーフの技師にとって桃源郷のような景色であった。
マシリオンの疑問は、糸状に加工された精霊石を見て全てが氷解した。糸で操るという少女らの言葉も、固定されていなくとも自立する巨大な鎧も、全て妥当な事だったのだ。
「そうか……分かったぞ! わしは騙されていたようだ!!」
明るい表情で巨鎧兵を見つめる老ドワーフ。その顔には僅かに狂気すら感じる。
「一体何が……」
思わず尋ねたローゼリエッタに、マシリオンは熱弁して見せた。
「あれは、お前さん方が操っている傀儡人形の類ではない。あれは恐らく……」
「魔法人形、でしょう?」
不意に聞こえたのは女性の声。二人が咄嗟に声の方を向けば、黒い髪を靡かせたジェシーの姿があった。
思いもよらぬ人物の発言を受け、ローゼリエッタは驚く。だがそれ以上に驚愕したのはやはりマシリオンだ。
「なんと! 知っている者がおったのか!?」
「なんとなくでしかないけど……だって私が駆り出されるのよ? 魔法人形と考える方が自然じゃない」
ジェシーは以前、魔法人形の作成技術を買われて王国に勧誘されたと言っていた。それはつまり、単純な家事技術だけで再現することが出来ず、唯一、彼女しか持ちえない技術ないし知識が必要だったからだ。当時は言われたことだけを熟していたジェシーだったが、それでも自身が選ばれたことから、なんとなしに、巨鎧兵の正体を掴んでいたようだ。
マシリオンとジェシーは、互いに理解の色を示す。だが話が呑み込めないローゼリエッタは、首をかしげるばかりだ。
「あの……一体何がどうなって?」
「いいかね。精霊石とは、精霊の力を宿した特殊な鉱石だ。その性質は物質の定義に当てはまらず、どちらかと言えば魔法の定義に近い。魔力で形状を変えたり、どんな物理的衝撃を与えてもひび一つはいらんようにな。これを、糸状とはいえ鎧の中に敷き詰める。これは、魔法人形の作成法と酷似しているのだ」
続いてジェシーも教鞭をとる。
「魔法人形の作成方法は、仮初の肉体となる素体の形成。そこへ心臓部となる魔力の宿った鉱石を埋め込み、内となる精霊を召喚し付与するの。精霊石は精霊の力を宿した鉱石……それを用いることで、疑似的な魔法人形が出来たんでしょうね」
三人はそろって、頭上を覆う巨鎧兵を見た。
本来魔法人形は、指示を与えることで、内に宿る精霊がその指示を遂行しようとする。ところがこの不完全な魔法人形は、指示を理解する知能を持たず、そもそも自ら動くこともしない。偶発的に発生したこの現象は、巨鎧兵を作り上げたバルドリンガでも知りえぬ事実であり、制作陣の中でこれに気付いた人物は、魔法人形を操るジェシーのみであった。
事の真相は、かなり惨たらしい。
巨鎧兵を操る操者たちは、物言わぬ魔法人形の体内に入り込み、各所へ指示を伝える伝達神経を弄ることで、巨鎧兵を操っていたのだ。
マシリオンはその行いを、寄生虫のそれと何ら変わらぬと言った。
全ての説明を受けたローゼリエッタは、暫し傷心にかられる。
彼女もまた、物言わぬ操り人形を自身の意のままに操る存在だ。巨鎧兵を操る者が寄生虫とされるのなら、彼女もまた寄生虫だと言われてもおかしくない。
しかしこれに異を唱えたのが、魔法人形を操るジェシーであった。
「寄生虫は撤回して欲しいわね。この魔法人形は、一人じゃ何もできない子供なの。頼まれたことを熟せない、そもそもそういった思考がない、かわいそうな子供。そんな子たちに、生まれてきた意味を与え、体を動かす手助けをしてくれる彼女らは、決して寄生虫なんかじゃないわ」
ジェシーは、いつの間にか傍に寄り添う、愛する魔法人形を撫でる。それはローゼリエッタが自身の人形にする行為とよく似ていた。優しく、愛情のこもった、我が子にするような仕草。その行為は、決して寄生虫と言われる存在の行いではない。
巨鎧兵の正体が明かされると、いよいよ戦力の強化が始まる。当初の予定では、ドワーフの鍛冶技術を用いて、装甲の強化、武装の充実等を大体的に行う筈だった。
ところが、巨鎧兵が唯の鎧人形ではなく魔法人形であるとなると、話は大きく変わってくる。
魔法人形とは存外繊細な物であり、完成した後の素体を挿げ替えることは、実は難しい。生まれ落ちた時にあった腕が、別の物に入れ替わるのだから当然だ。だからバルドリンガも、武装の充実に力を入れ、形状を大きく変えることをしなかった。……いや、出来なかった。
何故なら、巨鎧兵の素体形成に関わった錬金術師は、王国を離れ今この場にいるのだ。
彼女の力を存分に発揮することで、巨鎧兵は更なる進化が可能となる。また、巨鎧兵が扱う武装品については、ドワーフがその腕を存分に振るってくれるだろう。
バルドリンガは過ちを犯した。不要なものと決めつけ早々に切り捨てるという過ちを。それを知ることが出来るのは、次両軍が相まみえる時だ。
「ようし! 作業開始だ! 野郎ども! 装甲の一部を引っぺがせ! お嬢ちゃんは魔法人形視点からの調整だ。おい! 誰かエルフを呼んで来い!」
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