反魂の傀儡使い

菅原

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14章 新たな力

森の民の贈り物

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 もうすぐ戦争が始まろうかというのに、平和な日々が続く。朝目覚め飯を食い、日が暮れるまで鍛錬をし、酒をかっくらって眠りにつく。そうした日常繰り返す中で、連合軍は着実に戦力を増強していった。
 魔法使い、戦士、巨鎧兵、そして皆が身に着ける武具の数々。それらは彼らが、ドワーフの集落を訪れた時とは、比べ物にならない程に強化されている。この時点でまだ、予定する期日の半分も時間が残っている為、彼らは更なる進化を実現することだろう。

 この状況で自身の立場を憂いたのは、連合軍を束ねる立場にあるローゼリエッタだった。
 多くの者が力をつけていく中で、彼女ら傀儡師は、他を圧倒する奇策を得たわけでなく、新たに何らかの技術を手に入れたわけでもなく、喜ばしい新発見もない。他者が進化を続けているのに、傀儡を操る者らだけが停滞し続けているのだ。焦るなと言われても無理な話だし、気にするなと言われても無理な話である。
 彼女らも別に遊んでいたわけではない。魔法使いと同じくらい頭を使い、戦士と同じくらい組手を行った。ドワーフのように鉄を叩いてもみたのだが、どれもこれも大した成果は得られなかったのだ。
 傀儡師が停滞を余儀なくされた最大の要因は、その技術が専門的過ぎた事にある。
 魔法使いには師たるエルフがいて、戦士には師たるセリオンがいる。巨鎧兵隊に師はいないが、ドワーフが助言を呈すことで、様々な改善がなされていた。ところが、傀儡技術に対し助言をできるものは、この場に誰一人いなかったのだ。
 
 傀儡師の戦い方とは、かなり特殊なものだ。
 戦場における傀儡師の立ち位置は魔法使いと同様で、敵と大きく距離を置く。しかし操る人形は戦士と同様で、敵と接触する距離まで近づかなければならない。二つの特性が当てはまる特殊な戦力と言えるだろう。
 二つの特性を持つのならばその両者……魔法使いと戦士から、それぞれ技術を教えて貰えば良いと考えるかもしれないが、残念ながらそれは出来ない。
 傀儡技術とはもともと、見せることが目的の技術だ。その動きの中には、戦士では到底理解出来ない類の物が多分に含まれていて、戦場に生きる生粋の戦士には口の出しようがないのだ。
 具体的に言えば……傀儡師の操る人形は、剣を振り下ろした後体を一回転させる。これは、人形の力強さと華麗さを見せつける為の行動であるが、剣士からすればこんなことはありえない。命を取り合う戦場で、一瞬とはいえ敵に背を向ける行為は、自殺行為に他ならないのだ。その剣戟で倒せればよいが、倒せなかった場合は逆に背中から切り捨てられてしまう。
 傀儡人形であれば、こういった動作を取ることがむしろ利と働く。
 人間よりも力が強く動きが早い。それでいて、剣戟を受けてものことがない。鎧の隙間に剣を突き刺されても、何事も無かったかのように襲い掛かるその様は、敵兵に大きな恐怖を抱かせるだろう。
 こういった戦術のずれが重なり、戦士は誰も口を挟むことが出来なかった。


 ある日のことだ。伸び悩む傀儡師の前に、エルフの長老カーシンが現れた。なんでも各部隊、大きな変動の時を終え後は地道な研鑽を積む領域に入ったらしい。この報告は、ローゼリエッタの気持ちを更に焦らせる。
 老いたエルフは、まるで全てを知っているかのように声をかけた。
「ローゼリエッタ殿。少々お話があるのだが……」
「はい? 何の御用でしょうか」
「実は、貴女方に贈り物をご用意した。ちょっと付いて来て貰えないだろうか」
 彼は少女の返事を待たずに、背を向けて歩き出す。思惑通り進むことを至極当然と考えるのが、彼の欠点だ。とはいえ、ローゼリエッタも特に用事があるわけでなく、贈り物を頭から断るような失礼な真似をするつもりもない。結果、彼の思惑通り、少女は後に続く事になった。

 二人が辿り着いたのは、あの日巨鎧兵の秘密が明かされた一つの工場だった。
 そこには多くの人が集まっていて、セリオン、ドワーフの姿も見える。
 少女が辿り着くと、聞きなれた老人の声が彼女を迎え入れた。
「おお、やっときなさったか。さぁ皆! 道を開けろ!」
 立ち並ぶ人はその号令により左右に別れ、ローゼリエッタの前に道を作る。その時少女は気づいた。前方にある大きな四角の机の上に、布でくるまれた大きな塊があることに。
 カーシンはそのまま歩き、白い布に手をかける。その後ローゼリエッタが傍に来たことを確認すると、一気に布を引き払った。
「こ……これは……?」
 そこにあったのは、一つの大きな木材だった。日の光を浴びているせいか、淡く輝いているように見える。
 困惑の声を上げる少女に、カーシンは告げた。
「これは、私たちが住んでいた場所。世界樹の苗木の木片だ」
 バルドリンガ軍の魔導砲によって真二つに折れた世界樹の苗木。雨が降りしきる中、王国が来ているかもしれない危険を顧みず、彼らはその場へ戻って持ち帰ってきたのだという。
「世界樹とは、精霊石によく似た素材なのだ。木材でありながら、魔法物にみられる性質とよく似た特徴を持つ。……どうだろうか。この木材で、新たな傀儡人形を作ってみては」
 その提案は酷く魅力的な話で、ローゼリエッタは思わず気持ちの高鳴りを覚えた。だが、それを失ってしまったエルフの事を思えば、素直に受け取れるわけがない。
「そ、そんな貴重な物受け取れません!!それは、エルフの方々と長い時間共に過ごしてきた大切な物です。それを人形にしようだなんて……」
 少女は首を振り、後ずさっては自信の身体を抱きしめた。まるで、喜ばんとする体を押さえつけるかのようだ。
 そんな彼女を見ておいて、エルフの長は笑って語る。
「そんな大層なものではないよ。これも所詮は大きな樹木の欠片にすぎん。大事なのは世界樹ではなく、我々が行っていた作業の方なのだから。……君の兄は、我々の命と、この子を守ってくれたのだ。あの兵器が二つ放たれていれば、私たちはこの世にいなくなっていただろう。そのことを思えば、この程度何でもない。むしろこの子も喜ぶだろうて」
 カーシンは、布の下にあった木材を一つ、愛おしそうに撫でた。
 無論彼にも、心残りがないわけではない。生きてきた六百近い年月を、共に過ごしてきたのだ。会話こそできぬもの、彼らの声を聞き、蔦を這わせることで互いに通じ合って来た。そんな愛する家族を、彼はこのまま朽ちさせるには惜しいと思ったのだ。

 少女はカーシンの願いを聞き、贈り物を丁重に受け取ることに決めた。
「今はまだこれしかないが、暫く待ってもらえば、全員分の木材が手に入るだろう。少しだけ待っていて貰いたい」
「有難うございます、カーシンさん。早速ですがマシリオンさん。作業場を少し貸して頂けませんか!?」
「ああ、巨鎧兵の改修も大体が終わって、後は細かな作業ばかりだから、自由に使ってくれて構わんよ」
 了承の声を受け、木材は、セリオンらによって工場内に運ばれていく。
 ローゼリエッタに伝えられたその話は、すぐに傀儡師たちに伝えられ、傀儡師たちはそれぞれ、自分に合う傀儡人形の作成に取り掛かる事となった。
 
 人形を作るうえで大切な事は、身体を形成する素材の選択にある。木材で作れば温かみを感じる優しい人形が出来上がり、鉄で作れば冷たく頑強な騎士が出来上がる。布で作れば柔らかく遊び相手に最適だ。石で作る場合もあり、この場合は人型よりも異形型によく使われていた。この素材選びで作品の方向性が決まり、その用途が決定すると言っても良いだろう。
 戦闘に関して言えば、強度の問題から、木で作る物よりも鉄で作る物の方が秀でているとされていた。だが全てが木製に勝るというわけではなく、優秀な強度と引き換えに、目を瞑れぬほどの重量が課せられてしまう。
 その点、話を聞く限りでは、世界樹の木材が全ての問題を解決してくれそうだ。魔法物質の性質を持つ故に、物理衝撃には滅法強く、木材故に鉄よりも軽い。その軽さは驚くことに、鉄の十分の一以下である。
 更に魔法物質に類似するということは、魔力の伝導率も鉄の比ではなく、工夫次第ではいくらでも強化が可能となるだろう。
 この驚異的な素材を手に入れ、傀儡師たちは小躍りするのだった。


 ローゼリエッタは、作業に没頭する中で胸を撫で下ろす。私たちも更なる進化を遂げることが出来る、このまま足手まといにならずに済むと。
 作業に入ってから一月程の時間をかけて、彼女らの新たな傀儡人形が出来上がった。後は残された時間を使って、可能な限り手に馴染ませていく作業を残すのみだ。
 革命軍は、限られた時間を限りなく有効に使い、大きな進化を遂げた。仕上げは上々。後は戦いの時を待つだけだ。
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