反魂の傀儡使い

菅原

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15章 神域戦線

反魂の傀儡使い 2

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 傀儡師らの傀儡は、全てが世界樹の苗木の木材によって作られている。その全ては自然治癒能力を持ち、魔力の伝達速度が従来の比ではない。これにより多くの傀儡師が、これまでに比べ大幅な戦力増強をされていて、誰もが素晴らしい戦果を挙げていた。
 ローゼリエッタの傀儡も皆と同様、世界樹の苗木の木材を使っているのだが、唯一彼らと違うところが一つだけある。彼女の傀儡パンドラの胸部で輝く黄色の宝石だ。
 それは以前、アルストロイの身体に芽吹いた世界樹の種が芽吹いた物。兄の魂が込められたというその石を組み込むことで、彼女は亡き兄の現身にしようとしたのだ。


 胸の前で燦然と輝く黄色の結晶。アルストロイの魂が込められたその結晶は、世界樹の性質を受け継ぎ、魔力とより親密に繋がることが出来る。本来は寿命を迎えたエルフの魂を封じ込める為にある物だったが、これを人間に使ったことはこれまでに一度もない。
 使った末に出来上がった物がこれだ。
 精霊の力とアルストロイの魂がまじりあい、人工ともいえる新たな精霊が出来上がる。そしてそれは親和性の高い世界樹の樹木で出来た素体と共鳴し、魔法人形のような存在へと変化した。

 世間一般に流布される魔法人形と違う所は、内に込められた精霊の質だ。
 通常の魔法人形には、意思を持たぬ下位の精霊が選出される。何故ならば魔法人形とは、命令を聞いてこそ意味を成すものとされているからだ。意志を持ってしまっては自ら要らぬ事に手を貸しかねない。あまつさえ命令を無視するといったことも起こりかねない。だから人間は、意志を持つ前の段階の『精霊の子供』に類似する存在を選び、素体に召喚、付与をする。
 しかしその場合の魔法人形とは従順ではあるが酷く鈍重で、難しい命令を受け付けない。更には大雑把な仕事しかできず、仕上がりに質は求められない。
 一方で意思を持つ上位の精霊を付与すれば、唯一命令を受け付けない可能性があるくらいで、他の全ての問題が解決される。ましてや今回素体となった素材は、魔法物質と呼んでも過言ではない世界樹の樹木。この体を使えば、精霊はまさに意のままに動くことが出来るだろう。


 黄色の棘が幾本も突き出た雷腕が、立ち竦むパシウスに迫る。その速さ尋常ではなく、彼の意識では反応できない。だが彼の優秀な反射能力が働き、体が自然と攻撃に対して防御を始めた。
 剣を持ち上げ、その拳を受けるように眼前に掲げる。だが両者がかち合う直前、パシウスの思考が漸く追いついた。
(馬鹿か私は! あれは明らかに物質ではない! 避けねば……避けねば!!)
 雷で出来た腕に実体はなく、剣を盾にしようともすり抜けるのが落ちだ。
 寸でのところでそれに気づけたパシウスは、咄嗟に身をよじり右方向に転がり避ける。だが完全に避けるに至らず、僅かに肩口を掠めパシウスは絶叫することになった。
「があああああ!!」
 体を貫く雷撃。一瞬気を失いかけるが、身体が地面に叩きつけられることで強制的に覚醒される。そのまま数度視界が回転し、運よく立ち上がれる体制を取ることが出来た。
(だ……駄目だ! あの腕に触れてはならない!)
 虚ろな視線がパンドラの右腕と左足に移る。それから唸り続ける無表情な顔を見つめた。

 パンドラの動きには美しさの欠片も感じられない。粗暴で野蛮。どちらかと言えばセリオンの戦い方に近い。
 幾ら人外の強さを持つパシウスと言えども、散々傷を負い血を流し、万全とは言い難い現状でほぼ全快のセリオンが現れたとなれば、絶体絶命と言えるだろう。ましてやそのセリオンは、触れるだけで害を及ぼす猛毒の武器を持っているのだ。パシウスには到底、自分が勝てる姿が見いだせない。
 パシウスがどう凌ごうか悩んでいると、パンドラは唸り声を上げながら攻撃を仕掛けた。
「ガアアア!!」
 もはや言葉と言っていいかもわからぬ雄たけび。その声だけで、周囲の兵士は身を震わせる。

 高速の乱打攻撃。右腕を突き出し、左腕で払う。大地を蹴っては右足で飛び蹴り、着地と同時に左で回し蹴る。
 目まぐるしい攻防。パシウスは防戦一方だが、辛うじて一命をとりとめていた。
 最大の要因は、アルストロイがまだ精霊として覚醒していないことだ。生まれたての赤子と言ったらいいだろうか。彼を突き動かすのは僅かに残った生前の記憶で、それ以外の事については判断がつかない状態だ。だから有用な雷腕、雷脚を重点的に使わずに、樹木の腕脚も多用する。そしてそれは洗練された一撃とは程遠いから、パシウスも辛うじて回避することが出来ていた。……だがあくまで辛うじてであり、完全に回避するには至らない。
 高速で振られる右腕が歪んだ鎧を叩き、払われる雷腕が体を貫く。その度にパシウスは、顔を顰めくぐもった悲鳴を発する。


 決着は程なくついた。
 パシウスは遂に力尽き、剣を杖代わりにしてもたれかかる。
「ぜぇっ! ぜぇっ! ぜぇっ! ……」
 腕は鉛のように重く、頭は靄がかかったように濁っている。視界はぼやけ息をするのも億劫だ。このまま目を瞑れば……そんな事さえ考えてしまう。
 既に勝敗は決した。だがパンドラは……アルストロイには分からない。
「ア”ア”ア”アアア!!!」
 悲鳴とも取れる狂声を上げながら、左腕を振りかぶりパシウスに迫る。これが振り下ろされた時、一つの命は潰えてしまうだろう。
(万策尽きたか。まぁ……戦いの中で死ねるのならば本望だ)
 死を覚悟してパシウスは目を瞑る。既に四肢は感覚が無くなり、立っているのか倒れているのかもわからない。少なくとも苦しい最後にはならないだろう。その事を喜び、だが少し残念がりながらもその時を待つ。しかし、再び戦いを遮る存在が現れた。

 兄の拳を振りかぶる姿が見える。それが振り下ろされた時、人が死ぬということも分かった。
 戦いを傍観していたローゼリエッタは、思わず駆け出す。
 悲痛な死を遂げた兄。その兄が、今まさに人の命を奪おうとしている。それをさせることが少女にはどうしても耐えられなかった。
「だめえええ!!」
 両者の間に身を滑り込ませるローゼリエッタ。その叫び声と姿を見たアルストロイは、雷腕の軌道を大幅に変え、誰も居ない地面を強打する。
 
 バリバリバリィッ!

 雷腕が突き刺さった地面が弾け飛び、小さな円形の穴が出来上がった。更に地表を稲妻が走り、すぐそばにいるパシウスとローゼリエッタを襲う。
「きゃあああ!!」
 体を貫く衝撃。意志の強さではどうしようもないその衝撃に、ローゼリエッタの意識は一瞬で途絶える。
 パシウスもまた、自身を守ろうとする少女の背中を見ながら意識を失った。

 各軍の対象二人が気を失い、残されたパンドラからは雷腕、雷脚が消え去り、物言わぬ人形となって地面に転がり落ちる。
 それぞれの軍が指導者の安否を気遣い群がる。
 丁度その頃、遠くでは遂に最後の巨鎧兵が無力化され、それが決定打となり長き戦いの終結となった。
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