反魂の傀儡使い

菅原

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16章 休息の時

仮面の舞闘士 1

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 鉱山の地下にて悠々自適な生活を過ごす王国軍。
 食料は文句のつけようがない程に上質なものが与えられている。尤も王国の貴族が食べるような洗練された料理ではないが、捕虜に与えられる食料としては最上級だ。
 生活環境も然程悪くなく、快適と言っていい。強いて文句を上げるのならば快適過ぎるという点か。
 一般的な捕虜よりも優遇される現状に、多くの兵士が困惑せざるを得ない。中には要らぬ心配に気を病む者もちらほらと現れ、不穏な空気を孕みだす。


 先の戦いより十五日が過ぎる頃、パシウスの前に新たな来訪者が現れた。
「御気分はいかがです?パシウス様」
 不敵な笑みをたたえる女性。傀儡師隊に属し、革命軍の参謀的な立場にあったセリア・フォルオーゼだ。
 セリアは改良を施した新たな傀儡を従え、少々高圧的にパシウスに声をかけた。
「ああ、素晴らしい待遇に感謝している。正直な話、王国の兵舎で過ごすのと何ら変わらんよ。……あそこにいる見張りの存在を除けばだがね」
 パシウスは部屋の入口に立つ屈強なセリオン兵を見ては愚痴る。

 彼ら王国軍の兵士らは、最上の扱いを受けている。だが、それはあくまで『捕虜の扱い』の範疇での事であり、当然ながら自由に動き回る事まで許可されてはいない。
 捕虜であること。それは彼ら自身も重々承知の上なのだが、この十五日間一度も日の目を拝めていないのだ。また、彼らは元々武器を取り命を奪い合う生粋の戦士である。彼らがこれだけの期間を唯じっとして過ごしていたことなど一度もない。
 先のパシウスの発言は、非常に贅沢なことなのだが、一種の欲求不満が祟りつい口から出てしまった心の声だったのだ。

 捕虜の立場をわきまえない発言は、即刻首を跳ねられても文句は言えない。
 だがその言葉を聞いたセリアは、わざとらしく表情を作って語り掛ける。
「そうですか……実は貴方にお願い事があってきたのです。そのお願い事を聞いて頂ければ、貴方たちの拘束を幾分か和らげてくれるよう我が軍の指導者に提言しても良いのですが……」
 この言葉を聞き、パシウスは困惑した。
(どういうことだ? 更に拘束を緩めるだと? 一体何を企んでいるんだ)
 困惑していることを悟らせまいと、努めて平静を装うパシウス。本来であればここで必死に頭を働かせ、相手の策謀を看破しなければならないのだが……彼は一瞬でその悩みを捨て去った。
「……一体何を企んでいるのかは知らないが、ある程度の自由が得られるのであれば、聞くのもやぶさかではない。勿論内容にもよるがね」
「ふふふっ、無理難題はお願いしませんよ。では明日、また来ますね」
 妖艶に微笑みながら、セリアは去っていった。

 セリアが去ってからも、パシウスは何処か楽観的になっていた。
 そもそも彼は王国に忠誠を誓った騎士ではなく、命を懸けた戦いを望むだけの狂戦士。元からそんなに頭が切れる訳ではなく、あれこれ考えるより剣を振る方が性に合っている。そんな彼が、一体どんな頼み事であれば断れるというのか。
 例えば……『大事な配下を自らの手で殺めろ』という命令ならば、即断で首を振ることが出来る。だが『反乱軍に寝返ろ』と言われれば、嬉々として頷いてしまうだろう。同じ三将と称される猛者と戦える機会を、狂戦士である彼がみすみす見逃す筈が無い。
 全てはその内容を聞いてから。パシウスはそうやって考えることを放棄した。
 ……もう一つ、彼には考えがあった。
 反乱軍の指導者は噂に違わぬ聖女である。敵軍の命すらをも救わんとする慈愛の心。そして捕虜に対する手厚い対応。これらを実行した少女が、非人道的な頼みごとをするとは到底思えなかったのだ。


 明日。捕虜となった王国軍は、ドワーフの町の外にある平原に集められた。
 同時に革命軍の上層部に当たるエルフ、セリオン、ドワーフの族長、数名の傀儡師にリエントを始めとした数名の魔法学校生徒、そしてガンフを始めとしたパラミシアの兵士数名が一堂に会する。
 久しぶりの日の光に喜びながらも、敵軍の錚々そうそうたる顔ぶれに一体何事かと狼狽える王国兵士たち。
 その中、ガンフが代表して声を張り上げた。
「これより、侵略軍の指導者パシウス殿に模擬戦を行ってもらう! 試合の結果は問わぬが、こちらの戦士は全力を尽くす故、命を奪われぬように覚悟されたし!」
 そう叫びが上がると、パラミシアの兵士らが四方に散りパシウスを中心に円形の試合場を作り出す。

 続いてガンフは、パシウスに向けて彼の持ち剣を放り投げた。
 くるくると回転した剣はパシウスの眼前で地面に刺さり、主が手を伸ばす瞬間を待つ。その剣はドワーフの手により修繕され、元の綺麗な形に戻っている。
 殺傷能力のある剣を差し出され、パシウスはまたしても困惑した。
「……木剣でなくてもいいんだな?」
「木剣では実力の程がわからぬのでな。それに貴殿にはまだ利用価値がある。死なれては困るのだ」
 ガンフのその声を聞き、パシウスは戦士の血が滾る感覚を覚えた。

 革命軍はこれまで、パシウスの強大な力を存分に味わって来た筈だ。
 強者であった傀儡師や守護者の命を容易く奪った彼を、今更過小評価するわけがない。
 だというのに真剣を持っての試合で全力を尽くせという。ガンフのこの言葉が、強者の存在を匂わせた。
(……ふふっ……素晴らしい! 自由になる条件が強者との試合とは……これまでの欲求不満を存分に発散させてもらおうではないか!)
 突き刺さった剣を掴み引き抜いたパシウスは、闘志を瞳に宿し剣を構える。


 対戦相手の戦闘準備ができたと感じたガンフは、その場を退き後方を見た。
 すると彼の後ろに立っていた者達も同様に道を開け、戦士の花道を作り出す。

 パシウスは、その先に戦うべき相手を見た。
(……? あれは……仮面か? 服装は踊り子、武装は……籠手だけ? ううむ、どんな戦法を取るのか、一切読めん。あんなもので一体どうやって戦うのだ?)
 現れたのは仮面をつけた人間。背は相当小さい。動きやすそうな薄手のズボンは裾が少し膨らんでいて、上に着ているのは袖の長い舞踏服のような衣装だ。
 仮面は顔の上半分を覆い隠し、頭に被ったフードで口元しか見えない。それでも服装の上から見える体の線から、相手が女であることが分かった。

 仮面の少女が円の中へと入ると、ガンフが再び声を上げる。
「試合の決着はこちらで決める。制止の声がかかるまで存分に戦うと良い。では……始め!」
 ガンフの声が響き、両者は動き出す。
 
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