反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
100 / 153
17章 崩壊の時

失われる命

しおりを挟む
 静まり返る三人の内、最初に反応を見せたのはゴルゾーンだ。
 自身が賞賛した一人の人間の生きざまを、侮蔑ともとれる言葉で貶されてしまった。それはつまり、それを称えた自分を間接的に貶されたのと何ら変わらない。
 人一倍誇り高い彼は、その言葉に無反応を決め込むことは出来なかった。
「ジェイク殿……今何とおっしゃった?」
 聞き間違いであることに一縷の望みをかけ、静かに尋ねる。
 だがその問いの答えはやはり、冷たい声しか聞こえない。
「身勝手極まりないといったのだ。その耳は飾りなのか?」
 ジェイクが放ったその言葉は、ゴルゾーンの理性を奪うに十分な威力を放っていた。
 案の定彼は、愛用の槍を持ち上げ高速でジェイクを貫こうとする。
「ふ、ふふふ……っ!!」
 引きつった表情で笑うと、熱のこもった息を吐く。それと共に槍が風を切る音が鳴った。
「まっ、待て! ゴル……」
 殺気を感じたハルクエルは咄嗟に制止の声を発したが、それすらも間に合わぬ程の素早い一撃。
 ジェイクは微動だにせず、唯迫る一本の槍に微笑みかけている。
 この場においても、ハルクエルはジェイクを信じていた。先の言葉には何かしらの深い意味が含まれているのだろう。そう思える程に、ハルクエルはジェイクと長い時間を共にしてきていた。
(間に合わん……!)
 その言葉の真意を知ることなく、ジェイクが槍に貫かれるかと思われた時。

 シュカッ!

 小気味の良い音と共に、ゴルゾーンの首が宙を舞った。

 広い謁見の間で、悠々と宙を舞う丸い肉の塊。
 その表情は怒りのままで固まっていて、苦しむような表情は一欠けらもない。
「……え……?」
 その声は誰の物か。残酷な景色に会わぬ間抜けな声が響く。
 ぼたりと生々しい音がして漸く、ハルクエルとアンティラはその光景を認識した。
 ゴルゾーンが突き出した槍は確かに目にもとまらぬ速さだった。そしてその軌道は確実にジェイクを貫く物であった。
 だがジェイクはその槍を見切り、ほんの少し体をずらすだけで回避。そしてそれだけに飽き足らず、ジェイクはその右足でゴルゾーンの首を刈って見せたのだ。
 暫く体勢を保っていた首なしの身体が力なく崩れ落ちる。
 その光景を見て、その音を聞て、ハルクエルとアンティラは困惑と恐怖に包まれた。

 ハルクエルは思わず、座っていた椅子から立ち上がり身を乗り出す。
「なっ……なっ!?」
 余りに予想外の事が起き、上手く言葉に表せない。
(なんだ!? 一体何が起こった!?)
 目の前で起こってしまった惨劇が信じられず、頭を失った体と体を失った頭を何度も交互に見やる。
 一方アンティラは、鞘から剣を引き抜き、逃げ腰ながらもジェイクに向き直って剣を構えた。
「ジ、ジェイク様……一体何をしてらっしゃるのですか!」
 気丈な態度を示してはいるが、その声は少し震えている。
 王国を守る最強の三戦士。その内の一角が、一瞬のうちに殺されてしまった。
 例え頭で理解できなくても、目の前で起きてしまったこの事実がアンティラの精神を蝕んでいく。

 慌ただしくなる二人に比べ、ジェイクは何と静かな事か。
 首を刈り取った右足で二度床を叩くと、何事も無かったかのように語り出した。
「全く、人間とて神が作り出した創造物。我らと同じ何らかの使命を背負っているかと思い様子を見ていたのだが……まさかここまで身勝手なものだったとは思わなんだ」
 心底落胆したような大きなため息をつくジェイク。
 これに対しハルクエルは意を決して語り掛ける。
「ジェイクよ……お前は一体……」
「我は精霊を束ねる者。神からは“アニム”と呼ばれている」
 さも当然のように応答する。それもまた不気味な物だ。
「アニムですって? 一体どういうことなの!?」
 アンティラの問いかけにもこたえていく。
「ふむ、まあよい。隠す必要もないからな。我は人間を監視するためにこの姿を借り、当時一番大きかったこの国に潜り込んだのだ。そうだな……百年ほど前の事になるだろうか」
 話をつづけながらも、ジェイクの声が別の声へと変わっていくのに二人は気づいた。

 
 今より百年程前、世界は完璧な形で保たれていた。だがその完璧な世界は、この時より少しずつ崩壊へと傾き始めていた。
 世界を監視していたアニムの目に、一つの綻びが見えた。それは極小さなものだ。だがアニムには、それがどうしても気にかかってしまった。
 その綻びの名は『人間』。神が作った完璧な世界を蝕む病魔の名だ。

 神は世界を創造する際、世界を管理する者を同時に作り出した。
 森を管理するエルフ、山を管理するドワーフ、草原を管理するセリオン、海を管理するマーマン、空を管理するハーピィ、他にも多種多様な管理者を作りだし、それぞれに世界を管理させることで完璧な世界を作り出した。
 彼らは神より与えられたその使命を全うすることで、世界を常に完璧で平穏なものに整えていたのだ。
「だがここに、使命を持たぬ者が現れた。それが貴様たち人間だ。人間は生まれ落ちるや否や、世界の調和を乱し始めた。エルフが管理する森の木々を切り倒し、セリオンが管理する草原を掘り返しては醜い建造物を幾つも幾つも乱立させる。好き勝手に狩る物だから生態系は崩れ、資源を求めてそこら中は穴だらけだ」
 ジェイクは……アニムは語りながら歩き出す。向かう先には剣を構えるアンティラ。
 まるで散歩に出かける老人のように微笑みながら、戸惑うことなくアンティラに歩み寄る。そして。

 シュカッ!

 再び軽い音と共に、美しい顔が宙を舞った。
 長い金の髪に包まれて、恐怖に染まる表情は隠れている。
「我は疑問に思った。何故神の創造物である筈の人間が、同じ神の創造物であるこの世界を乱すような真似をするのか。その疑問に我は、一つの答えを出したのだ」
 人を殺しておきながら、アニムは淀むことなく語りつつも靴を鳴らす。
 そして遂に、靴の先がハルクエルを向いた。
「その答えとは『もしや人間は、我々他の管理者の与り知らぬ特別な使命を神から個別に与えられたのではないか』というものだった。だから我は、その使命を探るべく百年の間、人間を真似てみた。ところが……」
 コツコツとなる靴音は止まらない。だがいつしかその音は数を増やし、人の出す音ではなくなっていた。

 アニムの姿が見る見るうちに変わっていく。
 二足だった足は四足になり、背中からは真っ白い翼が生える。体は巨大化し、臀部からは大きく長い尾が姿を現した。
 その表面は魚のような鱗で覆われていて、部屋を照らす魔法光を浴びて金属のような光沢を放つ。
 明らかに自然界にあってはならぬ容姿。その姿を見たハルクエルは、思わず呟いた。
「ば……化け物め……!」
 ハルクエルの忌々しそうな呟きに返る言葉はない。だがアニムは、大きく裂けた口から鋭い牙を見せ、確かに笑って見せた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...