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17章 崩壊の時
失われる命
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静まり返る三人の内、最初に反応を見せたのはゴルゾーンだ。
自身が賞賛した一人の人間の生きざまを、侮蔑ともとれる言葉で貶されてしまった。それはつまり、それを称えた自分を間接的に貶されたのと何ら変わらない。
人一倍誇り高い彼は、その言葉に無反応を決め込むことは出来なかった。
「ジェイク殿……今何とおっしゃった?」
聞き間違いであることに一縷の望みをかけ、静かに尋ねる。
だがその問いの答えはやはり、冷たい声しか聞こえない。
「身勝手極まりないといったのだ。その耳は飾りなのか?」
ジェイクが放ったその言葉は、ゴルゾーンの理性を奪うに十分な威力を放っていた。
案の定彼は、愛用の槍を持ち上げ高速でジェイクを貫こうとする。
「ふ、ふふふ……っ!!」
引きつった表情で笑うと、熱のこもった息を吐く。それと共に槍が風を切る音が鳴った。
「まっ、待て! ゴル……」
殺気を感じたハルクエルは咄嗟に制止の声を発したが、それすらも間に合わぬ程の素早い一撃。
ジェイクは微動だにせず、唯迫る一本の槍に微笑みかけている。
この場においても、ハルクエルはジェイクを信じていた。先の言葉には何かしらの深い意味が含まれているのだろう。そう思える程に、ハルクエルはジェイクと長い時間を共にしてきていた。
(間に合わん……!)
その言葉の真意を知ることなく、ジェイクが槍に貫かれるかと思われた時。
シュカッ!
小気味の良い音と共に、ゴルゾーンの首が宙を舞った。
広い謁見の間で、悠々と宙を舞う丸い肉の塊。
その表情は怒りのままで固まっていて、苦しむような表情は一欠けらもない。
「……え……?」
その声は誰の物か。残酷な景色に会わぬ間抜けな声が響く。
ぼたりと生々しい音がして漸く、ハルクエルとアンティラはその光景を認識した。
ゴルゾーンが突き出した槍は確かに目にもとまらぬ速さだった。そしてその軌道は確実にジェイクを貫く物であった。
だがジェイクはその槍を見切り、ほんの少し体をずらすだけで回避。そしてそれだけに飽き足らず、ジェイクはその右足でゴルゾーンの首を刈って見せたのだ。
暫く体勢を保っていた首なしの身体が力なく崩れ落ちる。
その光景を見て、その音を聞て、ハルクエルとアンティラは困惑と恐怖に包まれた。
ハルクエルは思わず、座っていた椅子から立ち上がり身を乗り出す。
「なっ……なっ!?」
余りに予想外の事が起き、上手く言葉に表せない。
(なんだ!? 一体何が起こった!?)
目の前で起こってしまった惨劇が信じられず、頭を失った体と体を失った頭を何度も交互に見やる。
一方アンティラは、鞘から剣を引き抜き、逃げ腰ながらもジェイクに向き直って剣を構えた。
「ジ、ジェイク様……一体何をしてらっしゃるのですか!」
気丈な態度を示してはいるが、その声は少し震えている。
王国を守る最強の三戦士。その内の一角が、一瞬のうちに殺されてしまった。
例え頭で理解できなくても、目の前で起きてしまったこの事実がアンティラの精神を蝕んでいく。
慌ただしくなる二人に比べ、ジェイクは何と静かな事か。
首を刈り取った右足で二度床を叩くと、何事も無かったかのように語り出した。
「全く、人間とて神が作り出した創造物。我らと同じ何らかの使命を背負っているかと思い様子を見ていたのだが……まさかここまで身勝手なものだったとは思わなんだ」
心底落胆したような大きなため息をつくジェイク。
これに対しハルクエルは意を決して語り掛ける。
「ジェイクよ……お前は一体……」
「我は精霊を束ねる者。神からは“アニム”と呼ばれている」
さも当然のように応答する。それもまた不気味な物だ。
「アニムですって? 一体どういうことなの!?」
アンティラの問いかけにもこたえていく。
「ふむ、まあよい。隠す必要もないからな。我は人間を監視するためにこの姿を借り、当時一番大きかったこの国に潜り込んだのだ。そうだな……百年ほど前の事になるだろうか」
話をつづけながらも、ジェイクの声が別の声へと変わっていくのに二人は気づいた。
今より百年程前、世界は完璧な形で保たれていた。だがその完璧な世界は、この時より少しずつ崩壊へと傾き始めていた。
世界を監視していたアニムの目に、一つの綻びが見えた。それは極小さなものだ。だがアニムには、それがどうしても気にかかってしまった。
その綻びの名は『人間』。神が作った完璧な世界を蝕む病魔の名だ。
神は世界を創造する際、世界を管理する者を同時に作り出した。
森を管理するエルフ、山を管理するドワーフ、草原を管理するセリオン、海を管理するマーマン、空を管理するハーピィ、他にも多種多様な管理者を作りだし、それぞれに世界を管理させることで完璧な世界を作り出した。
彼らは神より与えられたその使命を全うすることで、世界を常に完璧で平穏なものに整えていたのだ。
「だがここに、使命を持たぬ者が現れた。それが貴様たち人間だ。人間は生まれ落ちるや否や、世界の調和を乱し始めた。エルフが管理する森の木々を切り倒し、セリオンが管理する草原を掘り返しては醜い建造物を幾つも幾つも乱立させる。好き勝手に狩る物だから生態系は崩れ、資源を求めてそこら中は穴だらけだ」
ジェイクは……アニムは語りながら歩き出す。向かう先には剣を構えるアンティラ。
まるで散歩に出かける老人のように微笑みながら、戸惑うことなくアンティラに歩み寄る。そして。
シュカッ!
再び軽い音と共に、美しい顔が宙を舞った。
長い金の髪に包まれて、恐怖に染まる表情は隠れている。
「我は疑問に思った。何故神の創造物である筈の人間が、同じ神の創造物であるこの世界を乱すような真似をするのか。その疑問に我は、一つの答えを出したのだ」
人を殺しておきながら、アニムは淀むことなく語りつつも靴を鳴らす。
そして遂に、靴の先がハルクエルを向いた。
「その答えとは『もしや人間は、我々他の管理者の与り知らぬ特別な使命を神から個別に与えられたのではないか』というものだった。だから我は、その使命を探るべく百年の間、人間を真似てみた。ところが……」
コツコツとなる靴音は止まらない。だがいつしかその音は数を増やし、人の出す音ではなくなっていた。
アニムの姿が見る見るうちに変わっていく。
二足だった足は四足になり、背中からは真っ白い翼が生える。体は巨大化し、臀部からは大きく長い尾が姿を現した。
その表面は魚のような鱗で覆われていて、部屋を照らす魔法光を浴びて金属のような光沢を放つ。
明らかに自然界にあってはならぬ容姿。その姿を見たハルクエルは、思わず呟いた。
「ば……化け物め……!」
ハルクエルの忌々しそうな呟きに返る言葉はない。だがアニムは、大きく裂けた口から鋭い牙を見せ、確かに笑って見せた。
自身が賞賛した一人の人間の生きざまを、侮蔑ともとれる言葉で貶されてしまった。それはつまり、それを称えた自分を間接的に貶されたのと何ら変わらない。
人一倍誇り高い彼は、その言葉に無反応を決め込むことは出来なかった。
「ジェイク殿……今何とおっしゃった?」
聞き間違いであることに一縷の望みをかけ、静かに尋ねる。
だがその問いの答えはやはり、冷たい声しか聞こえない。
「身勝手極まりないといったのだ。その耳は飾りなのか?」
ジェイクが放ったその言葉は、ゴルゾーンの理性を奪うに十分な威力を放っていた。
案の定彼は、愛用の槍を持ち上げ高速でジェイクを貫こうとする。
「ふ、ふふふ……っ!!」
引きつった表情で笑うと、熱のこもった息を吐く。それと共に槍が風を切る音が鳴った。
「まっ、待て! ゴル……」
殺気を感じたハルクエルは咄嗟に制止の声を発したが、それすらも間に合わぬ程の素早い一撃。
ジェイクは微動だにせず、唯迫る一本の槍に微笑みかけている。
この場においても、ハルクエルはジェイクを信じていた。先の言葉には何かしらの深い意味が含まれているのだろう。そう思える程に、ハルクエルはジェイクと長い時間を共にしてきていた。
(間に合わん……!)
その言葉の真意を知ることなく、ジェイクが槍に貫かれるかと思われた時。
シュカッ!
小気味の良い音と共に、ゴルゾーンの首が宙を舞った。
広い謁見の間で、悠々と宙を舞う丸い肉の塊。
その表情は怒りのままで固まっていて、苦しむような表情は一欠けらもない。
「……え……?」
その声は誰の物か。残酷な景色に会わぬ間抜けな声が響く。
ぼたりと生々しい音がして漸く、ハルクエルとアンティラはその光景を認識した。
ゴルゾーンが突き出した槍は確かに目にもとまらぬ速さだった。そしてその軌道は確実にジェイクを貫く物であった。
だがジェイクはその槍を見切り、ほんの少し体をずらすだけで回避。そしてそれだけに飽き足らず、ジェイクはその右足でゴルゾーンの首を刈って見せたのだ。
暫く体勢を保っていた首なしの身体が力なく崩れ落ちる。
その光景を見て、その音を聞て、ハルクエルとアンティラは困惑と恐怖に包まれた。
ハルクエルは思わず、座っていた椅子から立ち上がり身を乗り出す。
「なっ……なっ!?」
余りに予想外の事が起き、上手く言葉に表せない。
(なんだ!? 一体何が起こった!?)
目の前で起こってしまった惨劇が信じられず、頭を失った体と体を失った頭を何度も交互に見やる。
一方アンティラは、鞘から剣を引き抜き、逃げ腰ながらもジェイクに向き直って剣を構えた。
「ジ、ジェイク様……一体何をしてらっしゃるのですか!」
気丈な態度を示してはいるが、その声は少し震えている。
王国を守る最強の三戦士。その内の一角が、一瞬のうちに殺されてしまった。
例え頭で理解できなくても、目の前で起きてしまったこの事実がアンティラの精神を蝕んでいく。
慌ただしくなる二人に比べ、ジェイクは何と静かな事か。
首を刈り取った右足で二度床を叩くと、何事も無かったかのように語り出した。
「全く、人間とて神が作り出した創造物。我らと同じ何らかの使命を背負っているかと思い様子を見ていたのだが……まさかここまで身勝手なものだったとは思わなんだ」
心底落胆したような大きなため息をつくジェイク。
これに対しハルクエルは意を決して語り掛ける。
「ジェイクよ……お前は一体……」
「我は精霊を束ねる者。神からは“アニム”と呼ばれている」
さも当然のように応答する。それもまた不気味な物だ。
「アニムですって? 一体どういうことなの!?」
アンティラの問いかけにもこたえていく。
「ふむ、まあよい。隠す必要もないからな。我は人間を監視するためにこの姿を借り、当時一番大きかったこの国に潜り込んだのだ。そうだな……百年ほど前の事になるだろうか」
話をつづけながらも、ジェイクの声が別の声へと変わっていくのに二人は気づいた。
今より百年程前、世界は完璧な形で保たれていた。だがその完璧な世界は、この時より少しずつ崩壊へと傾き始めていた。
世界を監視していたアニムの目に、一つの綻びが見えた。それは極小さなものだ。だがアニムには、それがどうしても気にかかってしまった。
その綻びの名は『人間』。神が作った完璧な世界を蝕む病魔の名だ。
神は世界を創造する際、世界を管理する者を同時に作り出した。
森を管理するエルフ、山を管理するドワーフ、草原を管理するセリオン、海を管理するマーマン、空を管理するハーピィ、他にも多種多様な管理者を作りだし、それぞれに世界を管理させることで完璧な世界を作り出した。
彼らは神より与えられたその使命を全うすることで、世界を常に完璧で平穏なものに整えていたのだ。
「だがここに、使命を持たぬ者が現れた。それが貴様たち人間だ。人間は生まれ落ちるや否や、世界の調和を乱し始めた。エルフが管理する森の木々を切り倒し、セリオンが管理する草原を掘り返しては醜い建造物を幾つも幾つも乱立させる。好き勝手に狩る物だから生態系は崩れ、資源を求めてそこら中は穴だらけだ」
ジェイクは……アニムは語りながら歩き出す。向かう先には剣を構えるアンティラ。
まるで散歩に出かける老人のように微笑みながら、戸惑うことなくアンティラに歩み寄る。そして。
シュカッ!
再び軽い音と共に、美しい顔が宙を舞った。
長い金の髪に包まれて、恐怖に染まる表情は隠れている。
「我は疑問に思った。何故神の創造物である筈の人間が、同じ神の創造物であるこの世界を乱すような真似をするのか。その疑問に我は、一つの答えを出したのだ」
人を殺しておきながら、アニムは淀むことなく語りつつも靴を鳴らす。
そして遂に、靴の先がハルクエルを向いた。
「その答えとは『もしや人間は、我々他の管理者の与り知らぬ特別な使命を神から個別に与えられたのではないか』というものだった。だから我は、その使命を探るべく百年の間、人間を真似てみた。ところが……」
コツコツとなる靴音は止まらない。だがいつしかその音は数を増やし、人の出す音ではなくなっていた。
アニムの姿が見る見るうちに変わっていく。
二足だった足は四足になり、背中からは真っ白い翼が生える。体は巨大化し、臀部からは大きく長い尾が姿を現した。
その表面は魚のような鱗で覆われていて、部屋を照らす魔法光を浴びて金属のような光沢を放つ。
明らかに自然界にあってはならぬ容姿。その姿を見たハルクエルは、思わず呟いた。
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