反魂の傀儡使い

菅原

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19章 世界の審判

悪夢の始まり

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 巨鎧兵の巨剣が振るわれる。
 地面を這う化け物諸共大地の一部が抉り取られ、大量の土塊が宙を舞った。その土塊は他の地を這う化け物を生き埋めにし、何匹も無力化していく。
 
 戦闘に置いて、体格差は勝敗に直接かかわる程重要な点となる。
 人はそれを補う為に武術や剣術といった『技』を学ぶものだが、地を這う四つ足の化け物には技の概念が一切ない。故に一個当たりの力量差は圧倒的で、巨鎧兵が化け物を吹き飛ばす様はまるで、蟻を蹴散らす子供のようであった。尤も、仮に技を扱えたとしても、体の大きさが十倍も違えば、意味を持たせることも難しいだろうが。

 戦闘している巨鎧兵の内、大半は王国軍の巨鎧兵団に属していた黒の巨鎧兵である。彼らは、革命軍の持つ巨鎧兵よりも巨体であり頑丈だ。ただ一方で魔法を扱うことが出来ない為、戦術に幅がない。
 だがその欠点は、同格の者相手で漸く欠点となる者であり、遥か眼下に蠢く者相手には欠点になりえない。
「うおおお!! 幾らでも来やがれ! 王国の敵討ちだ!!」
 各機、身に着ける武装を駆使し、大地を覆う化け物を屠っていく。


 戦闘は至極単純な物だった。
 迫る黒波を巨鎧兵が蹴散らし、後続に漏れた飛沫を歩兵、傀儡師が潰していく。相変わらず山の向こう側から続く黒塗りの絨毯は途切れることはないが、戦い自体は革命軍の圧倒的有利な状況で進んでいた。

 だが一方で、人知れず変わった行動に移る化け物も現れる。
 一匹の化け物が群れを外れ、牧草地にいた牛に襲い掛かった。爪で切り裂き、牙で噛みつく。牛も死ぬまいと必死に抗っては見せたが、やがて抵抗空しくその命は失われてしまった。
 続いて化け物は、動かぬ肉の塊となった牛を貪り始めた。
グチャグチャグチャ
 気持ち悪い租借音が響く。
 するとどうしたことだろうか。鋭い爪を持った細い足は、瞬く間に鍛え上げた戦士の腕のように筋肉で太り、その先は牛の蹄へと変わっていくではないか。そして狼のようだった頭も、牛の首を挿げ替えたような姿に変化したのだ。

 甲高い声に交じる牛の嘶き。
「ブオオオオ!!」
 突如真っ黒の波の一角で、地面が爆ぜる。先までのやせ細った足ではない、筋肉粒々の逞しい足が生み出す強大な力。そのたった一匹の突進が、巨鎧兵の足を打ち抜いた。

 ドゴォォォオオン!!

 その衝撃たるや。従来の物よりも更に大きな黒い巨鎧兵。その巨体を支える大きく頑丈な足が、掬われる程の一撃。
 体勢を崩した一機の巨鎧兵は、何匹もの化け物を下敷きにしながら、地面に倒れ込んでしまう。
「うぉおお!? なんだ!?……一体何が……」
 操者は突然視界が回り混乱する。
 周囲を見渡し、そして正面を見た時、視界に移る化け物を見て恐怖した。

 牛の顔をした化け物が更に巨鎧兵の頭目掛けて突進を始めた。
 二度目の衝撃。すると巨鎧兵の顔は容易くちぎれ、遥か遠方まで吹き飛び数度地面を跳ねる。
 後は……地獄絵図だ。
 巨鎧兵の中は糸を張り巡らせるために空洞である。つまり、首がちぎれたことにより、化け物が入る入口が出来てしまった。
「キィィイイイ!!」
 気味の悪い鳴き声が、空洞の鎧の中で反響する。
「ひぃっ……ま、まさか!」
 発生源が近づいてくることに恐怖し、また精神を蝕む奇声を受け、操者の精神状態は正常とは言い難い。巨鎧兵の体を起こすという単純な解決策も出来ず、無意味な悲鳴を上げ続けている。
 やがて、操者が入っている精霊石の繭も食い破られ、真っ黒い獣が操者の眼前に姿を現した。
 化け物は繭の亀裂から無理矢理首を伸ばし、鋭い牙で噛みつこうとする。
 操者はそれに腕をかざすことで頭をかばう。
「くそっ! 来るんじゃねえ!! 出ていきやがれぇ!!」
 ガギン。
 化け物は目の前に差し出された両腕を遠慮なくかみ砕く。牙が骨に食い込む音と共に、想像を絶する痛みが両腕に走り、操者は悲鳴を上げ悶絶した。
「ギャアアアア!!!」
 その悲鳴は鎧の中を反響し、首のあった場所から外側に漏れる。
 するとその音に惹かれ、更に多くの化け物が鎧の中に入り込む。
 逃げることなどできない。それから幾らもしないうちに、数多の化け物に食い殺され中の兵士は跡形もなくこの世から消え去った。


 操者が死ぬまでの悲鳴は、通信魔法石を通して、別の兵士の下へと届けられる。
 戦いは圧倒的に有利だったにも関わらず、その悲鳴によって彼らの心が揺さぶられる。
「おいおい! 一体何が起こったんだ!? 何であいつは倒れた!?」
 一機の巨鎧兵が、化け物を蹴散らしながら必死にその原因を見つけようと視界を揺らす。
 その直後。

 ドゴォォォオオン!!

 馬の頭をした化け物が足を吹き飛ばした。


 牧草地の牛を食らい変化した化け物と同様に、馬や羊といった別種を食らった化け物も、同様の変化を遂げていた。
 その力はやはり変化前とは比べ物にならず、自身より何倍も大きく、自身より何倍もの質量を持つ筈の巨鎧兵の足を、揚々と吹き飛ばす程強大だ。それでいて従来の牛や馬が持つ速度も併せ持つ。
 その速度は到底人間が敵う物ではなく、巨鎧兵だけにあらず歩兵までもが何人も吹き飛ばされていく。

 本当の悪夢はここから始まった。
 吹き飛ばされた人間に群がる化け物。狼の様だった化け物は二足へと変化し、小柄な人型へと姿を変える。下腹部が膨らんでいて、口から牙が生えたその顔は醜悪極まりない。それらが群れを成し迫りくる光景は、とてもこの世の物とは思えなかった。

 一方で、巨鎧兵を倒す程の力を持つ動物の頭を持った化け物までもが、更なる変化を遂げていた。
 前者同様四つ足だった体制は二足に変わり、手足が更に太く張り詰める。手足の先は蹄のままで、頭も牛のままだ。しかしその目は血走り、それぞれが明後日の方角を向いている。そしてその体は人間の成人男性より二回りほども大きく、遠くからでも一目でその異常性がわかった。
「ブォォオオオオ!!!」
 戦場に響く牛の嘶き。
 三度大地が爆ぜた時、目視も叶わぬ速度で巨鎧兵の足が吹き飛ぶ。後は先程までと同様だ。
 貪り食われる兵士。変化する化け物。そしてまた新たな犠牲者が生まれていく。

 悪夢はこれだけでは終わらない。
 巨鎧兵の中にいる人間を食らった化け物。奴らもまた、鎧の中で新たな変異を見せていた。
 操者を食らった化け物は、人型の姿へと変異した。それに加え、周囲に屯していた獣型の化け物は、付近にある精霊石の糸を食らい始める。食らった者から人型の化け物と同化を始め、新たな化け物へと姿を変えていく。
 そうして出来上がったのは、巨鎧兵の鎧を着こんだ、巨大な人間の姿をした化け物だった。
「う……そ……でしょ?」
 その姿はまさに巨人と言えるもので、その巨体故に嫌でも人の目を集める。ローゼリエッタもやはりその姿を見ていて、絶望言葉を呟いた。

 巨人は徐に立ち上がると、一番近くにいた巨鎧兵に殴りかかった。
「ガアアアア!!!」
 体と同じく血を震わせるほどの大きな雄たけびを上げながら、右の拳が巨鎧兵へと迫る。
「なっ、なんだこいつは!」
 迫る巨人の拳に対し、巨鎧兵は剣を振るって応戦した。だが不幸にも、巨人が身に着ける巨鎧兵の鎧によって、その剣は届かない。
 唸る豪右腕が巨鎧兵の腹部へと突き刺さった。操者は一瞬で、帰らぬ者と変わり果てる。
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