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皇国の日常
休日の過ごし方 ―大衆食堂―
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ラインハルトは先程手に入れた槍を身に着け大通りを歩く。
足取りは頗る軽い。新たな玩具を手に入れ年甲斐も無く気持ちが高ぶっているようだ。
いつもは出来るだけ邪魔にならないようにと気を遣うラインハルトだというのに、今では見せびらかすように肩に担いで練り歩く。
陽の光を浴び輝く、柄と穂先の境目に刻まれた名匠アガツマの印。それを見た戦士、町人はそろって振り向き注視した。中には隣の者とひそひそと話し出す者もちらほらと。
その人らをちらりと見て、ラインハルトは小さくこう呟く。
「とてもさっきまで埃をかぶっていた品だとは思えないな」
そして一つ笑ってから、愛おしそうに開いた手で柄を撫でた。
基本的に戦士は、武器を携える為に『武装帯』と呼ばれる補助道具を用いる。
これは肩や腰に掛け使う特殊なベルトのようなもので、それに武器を取りつけることで、両手を開けた状態で武器を持ち運べるようになるのだ。
大抵の場合、剣を扱う戦士は腰に、槍や斧といった、長く重い物を扱う戦士は肩から斜に掛ける。そして彼の場合は、背負うような形で武器を取りつける。
実はラインハルトも自身の武装帯を持っているのだが、今日は休息日。槍も持たずに宿舎を飛び出してきたため、今は身に着けていなかった。
尤も、例え武装帯があったとしても、今の彼は槍を肩にかけ練り歩いていただろうが。
ラインハルトが次に向かったのは、やはり大通りから少し離れた場所に立つ、とある大衆食堂だった。これもまた最近の散策で発見した穴場である。『大衆食堂 酔いどれ亭』。実にべたな名だが、手ごろな値段で旨い料理がたらふく食える素晴らしい飯屋だ。
時刻は昼時。午前の仕事で空になった腹を満たそうと、数多の人間が食い物を求め跋扈する時間帯。しかし大通りより外れたこの店は、人が溢れるほど混むことは滅多にない。店側としてはそれでは困るのだろうが、それこそが、ラインハルトがこの店で一番気に入ってるところだ。
店前に置かれた商い中の看板の横を通り、店内に繋がる押戸を開く。
途端、鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。店の出入口から見える厨房からは、ぱちぱちと何かを焼く音が聞こえてくる。
客入りは……程々といったところか。頭数はそれなりにいるが、所々空席も見える。
空腹状態に加え旨そうな匂いと音。ラインハルトは辛抱堪らず、空いている席を見つけてそそくさと座った。
程なくして、何時もの若い女性店員が注文を取りに現れた。常連客との会話を盗み聞いたところ、どうやらこの店の娘らしい。天真爛漫で見てくれも悪くなく、この店の看板娘となっているようだ。
「あら、何時も御贔屓に。今日は何にします? またいつものですか?」
「そうだな……うん、やっぱりいつもので宜しく」
向こうもラインハルトの顔を覚えているらしく、何時からか『いつもの』で通じるようになってしまった。
いまでは彼も、常連の一員だ。
「かしこまりました! ムト肉の香草焼き一つ、パンはダブルでお願いしまーす!」
女の元気な声が店に響く。
飯屋というのは、待つ時間も一種の楽しみがある。
向こうの客が頼んでいるまだ食べた事のない料理を見てはその味を想像し、あちらの客が飲んでいるまだ飲んだことのない飲み物を見てはその味を想像する。
そうして次はあれとあれを頼もうと決めるのだが……次に来店した時は、腹がいつものやつを要求してくるのだ。
周囲の客が食べている料理を物色していると、厨房から油の弾ける音が響いた。次いで肉の焼ける音、そして何度も嗅いだことのある香草の香りが、店中に充満する。
「ああ、腹減った」
ぐぅとなる腹をさすり、ラインハルトは視線を持ち上げると厨房を見つめた。
それからさらに少し経ち、漸くラインハルトの注文した料理が届く。
「はい! ムト肉の香草焼きです! 今パンをお持ちしますね!」
店員が両手で抱えて持ってきたのは、一枚の大きな鉄板だ。
主役は鉄板の上にのせられた巨大な葉っぱの塊。それをナイフで切り開けば、中から先程の芳醇な香りと、蒸し焼きにされたムト肉が姿を現す。
茜色の甘辛いタレ。塩と香辛料で味付けされた肉が、パンと相性抜群だ。付け合わせも彩りよく、数種類にわたって網羅されている。
続いてラインハルトの下へ、小さなバケットにこんもりと摘まれたパンが置かれた。パンはいつも二個付きで、倍を頼む彼の下には全部で四個の柔らかなパンが届く。だが彼がこれを頼むといつも、店員の計らいで一個おまけがついてくる。
「お待ちどうさまです。今日も一個、おまけしておきましたから」
「ああ、有難う」
バケットを置く女性店員に向けて、堪らず感謝の言葉が飛び出した。
すると店員は、頬を染めて厨房へと引っ込んでいく。その後ろ姿を見送ると、彼はナイフに続きフォークを手に取った。
漸く、待望の昼飯だ。
足取りは頗る軽い。新たな玩具を手に入れ年甲斐も無く気持ちが高ぶっているようだ。
いつもは出来るだけ邪魔にならないようにと気を遣うラインハルトだというのに、今では見せびらかすように肩に担いで練り歩く。
陽の光を浴び輝く、柄と穂先の境目に刻まれた名匠アガツマの印。それを見た戦士、町人はそろって振り向き注視した。中には隣の者とひそひそと話し出す者もちらほらと。
その人らをちらりと見て、ラインハルトは小さくこう呟く。
「とてもさっきまで埃をかぶっていた品だとは思えないな」
そして一つ笑ってから、愛おしそうに開いた手で柄を撫でた。
基本的に戦士は、武器を携える為に『武装帯』と呼ばれる補助道具を用いる。
これは肩や腰に掛け使う特殊なベルトのようなもので、それに武器を取りつけることで、両手を開けた状態で武器を持ち運べるようになるのだ。
大抵の場合、剣を扱う戦士は腰に、槍や斧といった、長く重い物を扱う戦士は肩から斜に掛ける。そして彼の場合は、背負うような形で武器を取りつける。
実はラインハルトも自身の武装帯を持っているのだが、今日は休息日。槍も持たずに宿舎を飛び出してきたため、今は身に着けていなかった。
尤も、例え武装帯があったとしても、今の彼は槍を肩にかけ練り歩いていただろうが。
ラインハルトが次に向かったのは、やはり大通りから少し離れた場所に立つ、とある大衆食堂だった。これもまた最近の散策で発見した穴場である。『大衆食堂 酔いどれ亭』。実にべたな名だが、手ごろな値段で旨い料理がたらふく食える素晴らしい飯屋だ。
時刻は昼時。午前の仕事で空になった腹を満たそうと、数多の人間が食い物を求め跋扈する時間帯。しかし大通りより外れたこの店は、人が溢れるほど混むことは滅多にない。店側としてはそれでは困るのだろうが、それこそが、ラインハルトがこの店で一番気に入ってるところだ。
店前に置かれた商い中の看板の横を通り、店内に繋がる押戸を開く。
途端、鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。店の出入口から見える厨房からは、ぱちぱちと何かを焼く音が聞こえてくる。
客入りは……程々といったところか。頭数はそれなりにいるが、所々空席も見える。
空腹状態に加え旨そうな匂いと音。ラインハルトは辛抱堪らず、空いている席を見つけてそそくさと座った。
程なくして、何時もの若い女性店員が注文を取りに現れた。常連客との会話を盗み聞いたところ、どうやらこの店の娘らしい。天真爛漫で見てくれも悪くなく、この店の看板娘となっているようだ。
「あら、何時も御贔屓に。今日は何にします? またいつものですか?」
「そうだな……うん、やっぱりいつもので宜しく」
向こうもラインハルトの顔を覚えているらしく、何時からか『いつもの』で通じるようになってしまった。
いまでは彼も、常連の一員だ。
「かしこまりました! ムト肉の香草焼き一つ、パンはダブルでお願いしまーす!」
女の元気な声が店に響く。
飯屋というのは、待つ時間も一種の楽しみがある。
向こうの客が頼んでいるまだ食べた事のない料理を見てはその味を想像し、あちらの客が飲んでいるまだ飲んだことのない飲み物を見てはその味を想像する。
そうして次はあれとあれを頼もうと決めるのだが……次に来店した時は、腹がいつものやつを要求してくるのだ。
周囲の客が食べている料理を物色していると、厨房から油の弾ける音が響いた。次いで肉の焼ける音、そして何度も嗅いだことのある香草の香りが、店中に充満する。
「ああ、腹減った」
ぐぅとなる腹をさすり、ラインハルトは視線を持ち上げると厨房を見つめた。
それからさらに少し経ち、漸くラインハルトの注文した料理が届く。
「はい! ムト肉の香草焼きです! 今パンをお持ちしますね!」
店員が両手で抱えて持ってきたのは、一枚の大きな鉄板だ。
主役は鉄板の上にのせられた巨大な葉っぱの塊。それをナイフで切り開けば、中から先程の芳醇な香りと、蒸し焼きにされたムト肉が姿を現す。
茜色の甘辛いタレ。塩と香辛料で味付けされた肉が、パンと相性抜群だ。付け合わせも彩りよく、数種類にわたって網羅されている。
続いてラインハルトの下へ、小さなバケットにこんもりと摘まれたパンが置かれた。パンはいつも二個付きで、倍を頼む彼の下には全部で四個の柔らかなパンが届く。だが彼がこれを頼むといつも、店員の計らいで一個おまけがついてくる。
「お待ちどうさまです。今日も一個、おまけしておきましたから」
「ああ、有難う」
バケットを置く女性店員に向けて、堪らず感謝の言葉が飛び出した。
すると店員は、頬を染めて厨房へと引っ込んでいく。その後ろ姿を見送ると、彼はナイフに続きフォークを手に取った。
漸く、待望の昼飯だ。
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