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誘い
脱獄
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男らの声が聞こえると、少女は振り向き、格子に駆け寄る。
「来てくれてありがとう! 貴方たちの事を信じていたわ!」
はつらつとした元気な声。とても牢の中で縮こまっていた少女と同一人物とは思えない。
男らは親玉の安全を確認すると、手早く次の行動へと移った。
一人の男が、倒れた衛兵の胸元から鍵束を引き抜く。その束をばらばらに崩すと、方々に散った牢屋を解き放ち始めた。
「よぉ兄弟! 来てくれると思ってたぜぇ!」
「一時はどうなることかと思ったが間に合って良かった!」
次々と数を増やす盗賊たち。
そして遂に、少女が入った牢の鍵が開かれる。
牢屋を襲撃した男たちは、闇夜に身を隠すためか、真っ黒の服に身を包んでいた。顔のあたりも一部を隠しており、見えるのは目の周囲と髪の毛くらいだ。一方で、牢に捕まっていた者達は、まるで町人のような出立をしている。それらが入り混じって出来た一つの集団は、ラインハルトの眼から見ても異色の集団であった。
牢が開かれた瞬間、集団の中から数人の男が飛び出し牢屋の中に駆け込んだ。彼らの視線はまっすぐにラインハルトを見つめている。手には鈍く光る刀剣がちらほらと。そして牢屋に駆け込んだ内の一人が、ラインハルト目掛けて剣を振り下ろした。
男が振る剣の速度は、英雄の卵の物と比べ欠伸が出る程鈍い。その程度の攻撃を受けるのに、ラインハルトにとって武器すら必要としない。振り下ろされる刀剣。その柄を握る手の甲へ向け、ラインハルトは手刀を見舞う。
「ぐうっ!?」
手に掛かる衝撃に耐え切れず、男は剣を落とした。ラインハルトはすかさずその剣を奪い取ると、迫る男の波を睨みつけ剣を構える。
暫し両者は睨み合う。やがて、一連の攻防を見ていた少女が制止の声を上げた。
「やめなさい!!」
「だがお嬢!!」
男たちは渋って見せたが、少女の言葉は翻らない。
「止めろと言っているのがわからないの!?」
二度に渡る怒声を受け、漸く男らは渋々だが剣を下ろした。だが相変わらず眼光は鋭く、直ぐに襲い掛かってきてもおかしくはない。ラインハルトは十分に注意を払いながら、剣を構えたまま様子を見守った。
ラインハルトと男らを隔てるように歩み出る少女。彼女は腕を組んだまま、得意げに語り始めた。
「貴方、随分腕が立つようね」
「……」
ラインハルトは答えない。
「牢の中ではあれだけ紳士だったというのに、そのつれない態度は悲しいわ」
「……あれだけ不愛想だった奴に言われたくないな」
先の無言も合わせ、ラインハルトが失礼な言動をとる度に、周囲の男たちはいきり立つ。
だが凄む男らとは打って変わり、少女は楽しげに笑って見せた。
「あははは、確かにそうよね。……貴方、気に入ったわ。どう? あたしたちの仲間になる気はない?」
そして少女はあろうことか、兵士であったラインハルトに、賊の仲間にならないか、と尋ねたのだ。
当然ラインハルトは、その提案を拒絶する。
「ふっ……親玉が捕まるような腑抜けた連中の仲間に、一体誰がなるというんだ」
なお、挑発することは忘れない。
「なんだとう!?」
「こいつ……ふざけやがって!!」
案の定激昂する男たち。だが少女の態度はまだまだ余裕がある。
「あははは! 貴方本当に面白いわね。この状況でまだ強がれるなんて……大人しく仲間になった方が身のためだと思うんだけど?」
「全く冗談が上手いな。この程度の戦士、何百連れてこようと窮地にはならんよ」
ラインハルトの言葉は強がりではない。一騎当千とも謡われた英雄の卵、それを軽くあしらう力を持つ彼に、一介の兵士が十数人程度集まったところでなんら意味を成さない。
それは自他ともに認める共通の認識らしく、少女はラインハルトの言葉に同意して頷いた。
「だからあたしは貴方が気に入ったのよ。あたしたちは盗賊。盗みの腕も、隠密の技術にも自信がある。でもいざ戦闘となるとからっきしよ。皇国の、腑抜けた衛兵数人にすら敵わないんだもの」
ずっと微笑みを湛えていた少女の顔が僅かに曇った。悔し気に歯を噛みしめ、拳を握り締めている。しかしそれも一瞬の事。一転してまた笑顔の花を咲かせると、男を背後に従えたまま言葉を続けた。
「でも貴方が仲間に入ってくれたら、あたしたちに弱点はなくなる。それに牢屋の中での紳士な態度も気に入ったわ。まさか本当に手を出さないなんてね」
既に少女の中では、ラインハルトが仲間に加わることが決まっているのだろう。
どうしてそのような思考に行き着くのか、今度はラインハルトが表情を曇らせる番となった。
剣を持っているというのに、少女は警戒することもせずにラインハルトへと歩み寄り、手を差しのばした。
握手を求めているのだろう。
だがラインハルトにその手を取る気は一切ない。彼は手の代わりに剣振り上げ、少女の鼻先へと突き付けた。
「残念ながら俺はこの国の兵士だ。仲間になるどころか、お前たちをとらえる立場の者。そんなに仲間が欲しいのならば、他をあたるんだな」
「成程、兵士ならばあの紳士な態度も納得がいくわ。あら? でも変ね。兵士が何故牢屋の中に?」
剣を目の前に突きつけられているというのに、少女は一切怯まない。むしろ煽る様に言葉を続ける。
痛いところを突かれたラインハルトは、苦し気に言葉を絞り出した。
「少し……ほんの少し問題を起こしただけだ。直ぐに現場へ復帰する」
「そう、直ぐにね……ふふふ、復帰できたらいいわね」
意味深長な台詞に態度。ラインハルトは少女の真意がまるで読めない。
獲物を手にしたラインハルトに、恐れることは何もない。だというのに彼は、何故か実力行使に移せないでいた。
そうこうしていると、少女は再びくすくすと笑いだす。
「ふふふ、貴方がどう思おうと結果は変わらない。だって、貴方にはもう選択肢が無いんだもの」
「……何?」
思わせぶりな台詞も極まり、ラインハルトは顔を顰める。
丁度その時、彼の眼に、牢屋の入り口付近で動く影が目に入った。
「来てくれてありがとう! 貴方たちの事を信じていたわ!」
はつらつとした元気な声。とても牢の中で縮こまっていた少女と同一人物とは思えない。
男らは親玉の安全を確認すると、手早く次の行動へと移った。
一人の男が、倒れた衛兵の胸元から鍵束を引き抜く。その束をばらばらに崩すと、方々に散った牢屋を解き放ち始めた。
「よぉ兄弟! 来てくれると思ってたぜぇ!」
「一時はどうなることかと思ったが間に合って良かった!」
次々と数を増やす盗賊たち。
そして遂に、少女が入った牢の鍵が開かれる。
牢屋を襲撃した男たちは、闇夜に身を隠すためか、真っ黒の服に身を包んでいた。顔のあたりも一部を隠しており、見えるのは目の周囲と髪の毛くらいだ。一方で、牢に捕まっていた者達は、まるで町人のような出立をしている。それらが入り混じって出来た一つの集団は、ラインハルトの眼から見ても異色の集団であった。
牢が開かれた瞬間、集団の中から数人の男が飛び出し牢屋の中に駆け込んだ。彼らの視線はまっすぐにラインハルトを見つめている。手には鈍く光る刀剣がちらほらと。そして牢屋に駆け込んだ内の一人が、ラインハルト目掛けて剣を振り下ろした。
男が振る剣の速度は、英雄の卵の物と比べ欠伸が出る程鈍い。その程度の攻撃を受けるのに、ラインハルトにとって武器すら必要としない。振り下ろされる刀剣。その柄を握る手の甲へ向け、ラインハルトは手刀を見舞う。
「ぐうっ!?」
手に掛かる衝撃に耐え切れず、男は剣を落とした。ラインハルトはすかさずその剣を奪い取ると、迫る男の波を睨みつけ剣を構える。
暫し両者は睨み合う。やがて、一連の攻防を見ていた少女が制止の声を上げた。
「やめなさい!!」
「だがお嬢!!」
男たちは渋って見せたが、少女の言葉は翻らない。
「止めろと言っているのがわからないの!?」
二度に渡る怒声を受け、漸く男らは渋々だが剣を下ろした。だが相変わらず眼光は鋭く、直ぐに襲い掛かってきてもおかしくはない。ラインハルトは十分に注意を払いながら、剣を構えたまま様子を見守った。
ラインハルトと男らを隔てるように歩み出る少女。彼女は腕を組んだまま、得意げに語り始めた。
「貴方、随分腕が立つようね」
「……」
ラインハルトは答えない。
「牢の中ではあれだけ紳士だったというのに、そのつれない態度は悲しいわ」
「……あれだけ不愛想だった奴に言われたくないな」
先の無言も合わせ、ラインハルトが失礼な言動をとる度に、周囲の男たちはいきり立つ。
だが凄む男らとは打って変わり、少女は楽しげに笑って見せた。
「あははは、確かにそうよね。……貴方、気に入ったわ。どう? あたしたちの仲間になる気はない?」
そして少女はあろうことか、兵士であったラインハルトに、賊の仲間にならないか、と尋ねたのだ。
当然ラインハルトは、その提案を拒絶する。
「ふっ……親玉が捕まるような腑抜けた連中の仲間に、一体誰がなるというんだ」
なお、挑発することは忘れない。
「なんだとう!?」
「こいつ……ふざけやがって!!」
案の定激昂する男たち。だが少女の態度はまだまだ余裕がある。
「あははは! 貴方本当に面白いわね。この状況でまだ強がれるなんて……大人しく仲間になった方が身のためだと思うんだけど?」
「全く冗談が上手いな。この程度の戦士、何百連れてこようと窮地にはならんよ」
ラインハルトの言葉は強がりではない。一騎当千とも謡われた英雄の卵、それを軽くあしらう力を持つ彼に、一介の兵士が十数人程度集まったところでなんら意味を成さない。
それは自他ともに認める共通の認識らしく、少女はラインハルトの言葉に同意して頷いた。
「だからあたしは貴方が気に入ったのよ。あたしたちは盗賊。盗みの腕も、隠密の技術にも自信がある。でもいざ戦闘となるとからっきしよ。皇国の、腑抜けた衛兵数人にすら敵わないんだもの」
ずっと微笑みを湛えていた少女の顔が僅かに曇った。悔し気に歯を噛みしめ、拳を握り締めている。しかしそれも一瞬の事。一転してまた笑顔の花を咲かせると、男を背後に従えたまま言葉を続けた。
「でも貴方が仲間に入ってくれたら、あたしたちに弱点はなくなる。それに牢屋の中での紳士な態度も気に入ったわ。まさか本当に手を出さないなんてね」
既に少女の中では、ラインハルトが仲間に加わることが決まっているのだろう。
どうしてそのような思考に行き着くのか、今度はラインハルトが表情を曇らせる番となった。
剣を持っているというのに、少女は警戒することもせずにラインハルトへと歩み寄り、手を差しのばした。
握手を求めているのだろう。
だがラインハルトにその手を取る気は一切ない。彼は手の代わりに剣振り上げ、少女の鼻先へと突き付けた。
「残念ながら俺はこの国の兵士だ。仲間になるどころか、お前たちをとらえる立場の者。そんなに仲間が欲しいのならば、他をあたるんだな」
「成程、兵士ならばあの紳士な態度も納得がいくわ。あら? でも変ね。兵士が何故牢屋の中に?」
剣を目の前に突きつけられているというのに、少女は一切怯まない。むしろ煽る様に言葉を続ける。
痛いところを突かれたラインハルトは、苦し気に言葉を絞り出した。
「少し……ほんの少し問題を起こしただけだ。直ぐに現場へ復帰する」
「そう、直ぐにね……ふふふ、復帰できたらいいわね」
意味深長な台詞に態度。ラインハルトは少女の真意がまるで読めない。
獲物を手にしたラインハルトに、恐れることは何もない。だというのに彼は、何故か実力行使に移せないでいた。
そうこうしていると、少女は再びくすくすと笑いだす。
「ふふふ、貴方がどう思おうと結果は変わらない。だって、貴方にはもう選択肢が無いんだもの」
「……何?」
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