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魔法都市
二人目の問題児
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朝は早かった。学校を取り囲む霊峰から太陽が見えるよりも早く、一同は目を覚まし一枚の扉の前に集まる。
「ここから先は、はるか遠くにある世界が広がっている。エルフとドワーフ、獣人といった亜人種に加え魔族、魔物がそれぞれの国を育んでいるんだ。おそらく人間の方が数は少ないと思うから覚悟してね」
不思議な装飾の施された扉の把手に手をかけるルインはそう言って、ゆっくりと扉を開いた。
不思議なのは装飾だけでは無かった。現在は雪がちらほらと見え始める初冬。更に山の頂に近しいこのあたりは、既に息が白くなる程に冷え込む。だというのに扉の向こうからはうだるような熱気が感じられるのだ。また、見える景色は然程変わらぬ廊下だが、窓から差し込む日の光が明らかに扉のこちら側とは違う世界であることを証明していた。
そんな景色を前にしながらも、ラインハルトの興味はカイネルらに注がれていた。カイネルとエアー、パルシオは決断を下した。一度各々がそれぞれの道を歩み、より精神を円熟させてから再び相まみえることを約束する。家族であることをやめるわけではない。他人になるわけでもない。より硬い絆を得るために、彼らは離れることを選んだ。
言葉数は少なに三人は、互いの顔を見やると一度だけ頷く。そしてエアーとパルシオの二人は、扉の向こう側へと消えていった。
その場にいたアネシアルテが、同行するために扉の向こう側へと入る。それから幾らもすることなく扉が閉まると、三人の姿はどこにも見えなくなってしまった。
扉をじっと見つめるカイネルに、ルインが声をかける。
「とまぁ仰々しくなっちゃったけれども、安心しなさい。転送魔法陣と違ってこの扉はいつでも出入りすることができるからね。寂しくなったらいつでも帰ってこれる。君も時々訪ねてくるといいよ」
まだ小さな肩を二回優しくたたき、彼はその場を離れていった。
扉を見つめていたラインハルトとカイネルは、仲間との別れに思いをはせる。
カイネルからすれば十数年片時も離れなかった者たちだ。ラインハルトからしてもここの数か月で大分打ち解けた頃合いだった。
「……あまり気にしない方がいい。もう二度と会えないわけでは……」
気休めの言葉を投げかける。それを全て聞く前に、カイネルは歩き出す。
「さぁ、旅の準備をしないと。これから寒くなる時期ですし、女の人が加わるのですからこれまで通りともいきません」
傍から見れば大して影響がないように見える。しかしラインハルトの目には、必死に考えぬようにしている風に見えた。勿論それを指摘する必要はないし、そのつもりもない。足早に立ち去るカイネルに続き、ラインハルトもその場を後にした。
英雄ネイノート・フェルライトの嫡子に見られた病魔の気。それは精神的なものではあったが到底看過できるものではなかった。だが強硬策とはいえ一応の処置を施すことに成功した。次は英雄ルイン・フォルトの愛娘の番だ。
英雄ルイン・フォルトの愛する子もまた、一種の精神的な病気を患っていた。
自身の知的欲求を満たすため、あらゆるものを蔑ろにする傾向がある。それは睡眠、食事といった生活に必要なものにまで及び、次第に肉体的にも弱まり始めている状況だ。またそれに影響され、一部を除く他人に殆ど興味を持たず、魔法に関すること以外のあらゆるものに興味を示さない。これを直すために、ルインは強硬手段にでたのだ。
ルインの娘、シェインは生粋の本の虫だった。そのきっかけは父である救世の魔法使いの偉業を捩って描かれた物語を目にしたことに始まる。人を滅ぼすために蘇った邪竜。地面を覆いつくす魔物の大群。星を襲う三つの星。それらを打ち破った大賢者が描かれたものだ。
その本を読んだシェインは、酷く魔法に魅入られた。素晴らしい才能を持っていたことも拍車をかけたのだろう。当初は魔法行使のためによく外に出ていたのだが、幸か不幸か、魔法学校に入学したとたん外に出る必要がなくなってしまった。広大な館内には魔法行使に耐えうる部屋がいくつもあり、その隣の部屋にはあらゆる知識が貯蔵された巨大な図書館が存在する。まるで夢のような場所に当時のシェインは小躍りし、寝る間も食う間も惜しんで本を読み漁った。
そうして出来上がった異質の魔法使いを連れていくのだから、この先の旅も少々難しくなるだろうことはラインハルト、カイネル共に分かっていた。ただでさえ男旅の中に女が入ってくるのだ。これだけでも、それまでは許された、良かったことが幾つか難しくなってしまう。尤もその女は精神的な部分が一般的な女と違っていて、一般的な女が気にするような個所にはとんと無頓着であったが、彼ら二人はシェインの抱えた病を知らぬから頭を悩ませてしまう。
不思議な扉の前を去ったラインハルトらは、再び昨晩宴の開かれた部屋へ向かう。そこにはルインと、若干身だしなみを整えたシェインの姿。
じゃあよろしくね、というルインの軽い言葉を受けながら、ラインハルト、カイネルはシェインをつれて魔法学校を後にした。
「ここから先は、はるか遠くにある世界が広がっている。エルフとドワーフ、獣人といった亜人種に加え魔族、魔物がそれぞれの国を育んでいるんだ。おそらく人間の方が数は少ないと思うから覚悟してね」
不思議な装飾の施された扉の把手に手をかけるルインはそう言って、ゆっくりと扉を開いた。
不思議なのは装飾だけでは無かった。現在は雪がちらほらと見え始める初冬。更に山の頂に近しいこのあたりは、既に息が白くなる程に冷え込む。だというのに扉の向こうからはうだるような熱気が感じられるのだ。また、見える景色は然程変わらぬ廊下だが、窓から差し込む日の光が明らかに扉のこちら側とは違う世界であることを証明していた。
そんな景色を前にしながらも、ラインハルトの興味はカイネルらに注がれていた。カイネルとエアー、パルシオは決断を下した。一度各々がそれぞれの道を歩み、より精神を円熟させてから再び相まみえることを約束する。家族であることをやめるわけではない。他人になるわけでもない。より硬い絆を得るために、彼らは離れることを選んだ。
言葉数は少なに三人は、互いの顔を見やると一度だけ頷く。そしてエアーとパルシオの二人は、扉の向こう側へと消えていった。
その場にいたアネシアルテが、同行するために扉の向こう側へと入る。それから幾らもすることなく扉が閉まると、三人の姿はどこにも見えなくなってしまった。
扉をじっと見つめるカイネルに、ルインが声をかける。
「とまぁ仰々しくなっちゃったけれども、安心しなさい。転送魔法陣と違ってこの扉はいつでも出入りすることができるからね。寂しくなったらいつでも帰ってこれる。君も時々訪ねてくるといいよ」
まだ小さな肩を二回優しくたたき、彼はその場を離れていった。
扉を見つめていたラインハルトとカイネルは、仲間との別れに思いをはせる。
カイネルからすれば十数年片時も離れなかった者たちだ。ラインハルトからしてもここの数か月で大分打ち解けた頃合いだった。
「……あまり気にしない方がいい。もう二度と会えないわけでは……」
気休めの言葉を投げかける。それを全て聞く前に、カイネルは歩き出す。
「さぁ、旅の準備をしないと。これから寒くなる時期ですし、女の人が加わるのですからこれまで通りともいきません」
傍から見れば大して影響がないように見える。しかしラインハルトの目には、必死に考えぬようにしている風に見えた。勿論それを指摘する必要はないし、そのつもりもない。足早に立ち去るカイネルに続き、ラインハルトもその場を後にした。
英雄ネイノート・フェルライトの嫡子に見られた病魔の気。それは精神的なものではあったが到底看過できるものではなかった。だが強硬策とはいえ一応の処置を施すことに成功した。次は英雄ルイン・フォルトの愛娘の番だ。
英雄ルイン・フォルトの愛する子もまた、一種の精神的な病気を患っていた。
自身の知的欲求を満たすため、あらゆるものを蔑ろにする傾向がある。それは睡眠、食事といった生活に必要なものにまで及び、次第に肉体的にも弱まり始めている状況だ。またそれに影響され、一部を除く他人に殆ど興味を持たず、魔法に関すること以外のあらゆるものに興味を示さない。これを直すために、ルインは強硬手段にでたのだ。
ルインの娘、シェインは生粋の本の虫だった。そのきっかけは父である救世の魔法使いの偉業を捩って描かれた物語を目にしたことに始まる。人を滅ぼすために蘇った邪竜。地面を覆いつくす魔物の大群。星を襲う三つの星。それらを打ち破った大賢者が描かれたものだ。
その本を読んだシェインは、酷く魔法に魅入られた。素晴らしい才能を持っていたことも拍車をかけたのだろう。当初は魔法行使のためによく外に出ていたのだが、幸か不幸か、魔法学校に入学したとたん外に出る必要がなくなってしまった。広大な館内には魔法行使に耐えうる部屋がいくつもあり、その隣の部屋にはあらゆる知識が貯蔵された巨大な図書館が存在する。まるで夢のような場所に当時のシェインは小躍りし、寝る間も食う間も惜しんで本を読み漁った。
そうして出来上がった異質の魔法使いを連れていくのだから、この先の旅も少々難しくなるだろうことはラインハルト、カイネル共に分かっていた。ただでさえ男旅の中に女が入ってくるのだ。これだけでも、それまでは許された、良かったことが幾つか難しくなってしまう。尤もその女は精神的な部分が一般的な女と違っていて、一般的な女が気にするような個所にはとんと無頓着であったが、彼ら二人はシェインの抱えた病を知らぬから頭を悩ませてしまう。
不思議な扉の前を去ったラインハルトらは、再び昨晩宴の開かれた部屋へ向かう。そこにはルインと、若干身だしなみを整えたシェインの姿。
じゃあよろしくね、というルインの軽い言葉を受けながら、ラインハルト、カイネルはシェインをつれて魔法学校を後にした。
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