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西の都
旅の目的地
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魔法都市を立ってから二月の時を経て、ラインハルトらは西の都にたどり着く。旅は安全極まるものであった。しかしその道程は順調とは程遠い。
ラインハルトとカイネルは、今回の旅が少々難しいものになるであろうことはわかっていた。いままでの旅は人間と魔物の混合編成であり、加えて人間は男ばかりで、野宿することにも地べたに寝ることも、誰も文句を言わなかった。また水浴びをして身を清めることも、衣服の洗浄も、数日の間が空いこうが誰も文句を言わなかった。
ところがここに、女性が一人はいるだけで話は一変する。朝起きてからの旅の準備にも男以上に時間がかかるだろうし、更には寝るにも食うにも、汚らしい話では排泄行為に至るまで、男同士だけで許されることも許されなくなる。故にこの旅路、彼らは端から通常の二倍、三倍の旅期間がかかることを覚悟していた。
結論から言えば予定より倍の時間が必要だった。要するに一月で済むところを二月掛けて移動したことになる。このようなことは、商人あたりなら声を大にして文句を連ねていただろう。しかしラインハルトらはそれを想定していたし覚悟もしていた為、怒りを抱くことはなかった。尤も遅れた理由が予想とは全く異なるものであったので、怒りよりも驚きが先行したというのも事実だ。
シェインは、生粋の箱入り娘であった。幼き頃は外に出ることもあったが、魔法学校に入学してからというもの殆どは学校内にこもりっきりだ。だから彼女は、学校の外の世界を殆ど知らない。だが本をかたっぱしから読み漁ったおかげで知識ばかりは豊富にある。故に彼女は、森や草原を歩く際そこらに自生している草木の中から、本に描かれたものと同じ特徴のものを見つけては立ち止まり、摘み取ってみたり、匂いを嗅いでみたり、口に入れてみたりを繰り返した。また動物の残した痕跡を見つけては一喜一憂し、それを追いかけるなどして寄り道も多かった。こんなことを何度も繰り返すせいで、彼らの旅路は見る見るうちに遅れていったのだ。
そうして時間を潰す一方で、彼女は女性らしい理由での時間は殆ど取らなかった。朝起きて顔を洗うことも、水浴びも、寝食にすら殆ど時間をかけず、文句ひとつ言わない。旅をするにあたって危惧していたことの大半が杞憂と終わり、男らは胸をなでおろすとともに驚き、脱力してしまった。
こうした旅を経て西の都にたどり着いたとき、ラインハルトはある種の達成感に包まれた。たどり着くのに倍の時間がかかったということもある。だがその大部分は、如何に手がかからなかろうとも女と一緒に旅をしたからだ。
いくら口や頭で女であることを気にしないと決め込んでも、自然に我慢と気遣いが付いて回り、それまでの旅に比べラインハルトは確実に疲弊していた。だがその疲れも西の都が見えた時は一瞬で吹き飛ぶ。漸く一息つける。そう思えば道を行く足も軽くなるというものだ。
目的地とした西の都は、あまり大きいものではなかった。広さにして王国の三分の一にも満たない。だが活気はあまりあるものがあり、どこから集まったのか多くの人が行き交っている。
目を見張るはその往来する人の出で立ちだ。これまでの町とは一風変わり、町人よりも鎧に身を包むものが多いように見える。またその者らの屈強な肉体を見れば、ラインハルトらと同類の人間であることが分かった。
小さいながら活気のある町の姿に圧倒されつつも、ラインハルトは次なる手を模索する。
「とりあえず拠点を探そう。カイネル、頼めるか?」
町の大通りと思われる通りに差し掛かる頃、ラインハルトはカイネルにそう頼んだ。
「はい、分かりました。じゃあ見つかり次第シェインさんに連絡しますね」
カイネルは直ぐに頷くと宿を探すために人混みの中に消えていってしまう。残された二人は、そのまま大通りを歩きつつ、町の散策を開始する。
ラインハルトがカイネルに用事を頼んだのは他でもない。個人的にシェインへ幾つか質問があったからだ。
「この二ヶ月間、ずっと気になっていたんだが、それまで引きこもりっぱなしだったのに何故俺たちに付いてこようと思ったんだ?」
ラインハルトの問いかけに、シェインはローブで顔を隠したまま答える。
「……お父さんしか持っていないものがあるの。旅に付いていったらそれをくれるっていっていたから……」
「だから付いてきたと? ふむ……長年外に出ていなかったお前がでるのだから、よっぽど凄い物なんだろうな」
英雄ともなれば、人の信念を変えるほどの品くらい持っていても不思議ではない。そう思ったラインハルトは、自身の槍をしげしげとみた。
(成程、分からなくはない。現にこの槍を貰えるともなれば、大抵のことは了承してしまうだろう)
ローブに隠れていてシェインの顔は見えない。だがどこか恥ずかしがる気配を感じ取ったラインハルトは、それ以上疑問をぶつけることはしなかった。二月たった今でもまだ、顔を会わせて話すのは苦手らしい。結局その後は会話もなく、カイネルの連絡を待ちながら散策をつづけた。
ラインハルトとカイネルは、今回の旅が少々難しいものになるであろうことはわかっていた。いままでの旅は人間と魔物の混合編成であり、加えて人間は男ばかりで、野宿することにも地べたに寝ることも、誰も文句を言わなかった。また水浴びをして身を清めることも、衣服の洗浄も、数日の間が空いこうが誰も文句を言わなかった。
ところがここに、女性が一人はいるだけで話は一変する。朝起きてからの旅の準備にも男以上に時間がかかるだろうし、更には寝るにも食うにも、汚らしい話では排泄行為に至るまで、男同士だけで許されることも許されなくなる。故にこの旅路、彼らは端から通常の二倍、三倍の旅期間がかかることを覚悟していた。
結論から言えば予定より倍の時間が必要だった。要するに一月で済むところを二月掛けて移動したことになる。このようなことは、商人あたりなら声を大にして文句を連ねていただろう。しかしラインハルトらはそれを想定していたし覚悟もしていた為、怒りを抱くことはなかった。尤も遅れた理由が予想とは全く異なるものであったので、怒りよりも驚きが先行したというのも事実だ。
シェインは、生粋の箱入り娘であった。幼き頃は外に出ることもあったが、魔法学校に入学してからというもの殆どは学校内にこもりっきりだ。だから彼女は、学校の外の世界を殆ど知らない。だが本をかたっぱしから読み漁ったおかげで知識ばかりは豊富にある。故に彼女は、森や草原を歩く際そこらに自生している草木の中から、本に描かれたものと同じ特徴のものを見つけては立ち止まり、摘み取ってみたり、匂いを嗅いでみたり、口に入れてみたりを繰り返した。また動物の残した痕跡を見つけては一喜一憂し、それを追いかけるなどして寄り道も多かった。こんなことを何度も繰り返すせいで、彼らの旅路は見る見るうちに遅れていったのだ。
そうして時間を潰す一方で、彼女は女性らしい理由での時間は殆ど取らなかった。朝起きて顔を洗うことも、水浴びも、寝食にすら殆ど時間をかけず、文句ひとつ言わない。旅をするにあたって危惧していたことの大半が杞憂と終わり、男らは胸をなでおろすとともに驚き、脱力してしまった。
こうした旅を経て西の都にたどり着いたとき、ラインハルトはある種の達成感に包まれた。たどり着くのに倍の時間がかかったということもある。だがその大部分は、如何に手がかからなかろうとも女と一緒に旅をしたからだ。
いくら口や頭で女であることを気にしないと決め込んでも、自然に我慢と気遣いが付いて回り、それまでの旅に比べラインハルトは確実に疲弊していた。だがその疲れも西の都が見えた時は一瞬で吹き飛ぶ。漸く一息つける。そう思えば道を行く足も軽くなるというものだ。
目的地とした西の都は、あまり大きいものではなかった。広さにして王国の三分の一にも満たない。だが活気はあまりあるものがあり、どこから集まったのか多くの人が行き交っている。
目を見張るはその往来する人の出で立ちだ。これまでの町とは一風変わり、町人よりも鎧に身を包むものが多いように見える。またその者らの屈強な肉体を見れば、ラインハルトらと同類の人間であることが分かった。
小さいながら活気のある町の姿に圧倒されつつも、ラインハルトは次なる手を模索する。
「とりあえず拠点を探そう。カイネル、頼めるか?」
町の大通りと思われる通りに差し掛かる頃、ラインハルトはカイネルにそう頼んだ。
「はい、分かりました。じゃあ見つかり次第シェインさんに連絡しますね」
カイネルは直ぐに頷くと宿を探すために人混みの中に消えていってしまう。残された二人は、そのまま大通りを歩きつつ、町の散策を開始する。
ラインハルトがカイネルに用事を頼んだのは他でもない。個人的にシェインへ幾つか質問があったからだ。
「この二ヶ月間、ずっと気になっていたんだが、それまで引きこもりっぱなしだったのに何故俺たちに付いてこようと思ったんだ?」
ラインハルトの問いかけに、シェインはローブで顔を隠したまま答える。
「……お父さんしか持っていないものがあるの。旅に付いていったらそれをくれるっていっていたから……」
「だから付いてきたと? ふむ……長年外に出ていなかったお前がでるのだから、よっぽど凄い物なんだろうな」
英雄ともなれば、人の信念を変えるほどの品くらい持っていても不思議ではない。そう思ったラインハルトは、自身の槍をしげしげとみた。
(成程、分からなくはない。現にこの槍を貰えるともなれば、大抵のことは了承してしまうだろう)
ローブに隠れていてシェインの顔は見えない。だがどこか恥ずかしがる気配を感じ取ったラインハルトは、それ以上疑問をぶつけることはしなかった。二月たった今でもまだ、顔を会わせて話すのは苦手らしい。結局その後は会話もなく、カイネルの連絡を待ちながら散策をつづけた。
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