89 / 124
西の都
選別試合 5
しおりを挟む
「トージェス対シェイン。試合開始!」
フロベルティが開始の合図を出した。周囲からなど目になるかわからない歓声が上がる。これまでの戦いは素晴らしいものだった。この試合もきっと、素晴らしいものになるだろうと期待してのことだ。だが……試合は一瞬のうちに終わることになる。
開始の合図とともに走り出すトージェス。サーベルを手に全身を立派な鎧で固める姿は、とても迫力があり鬼気迫るものがある。それに対しシェインはたった一つの魔法を放った。放たれた魔法は雷。振りかぶられたサーベル目掛けて迸ったそれは、鉄で出来た刀剣を駆け抜け、サーベルを握るトージェス自身に襲い掛かったのだ。その威力は凄まじく、周囲にばりばりという不快な音が響き渡る。周囲からは悲鳴が上がり、若干の焦げ臭さに顔を顰める町人ら。トージェスは悲鳴を上げることもできずに昏倒してしまい、目を見張る攻防など無いままに、試合は終わってしまったのだ。
トージェスはシェインを侮っていた。理由はやはり有利と思われた組み合わせ。今回催された試合の条件下において、最も有利なのは武器を振るう戦士たちである。試合開始時の距離的に、魔法使いや弓使いが攻撃に移るよりも早く戦士が攻撃対象に到達することができる。またその距離は接近戦を常とする戦士らにとって、圧倒的優位に立つことができる距離でもあった。そういった状況に加え、歴戦の戦士と自負するトージェスは、仮に魔法が放たれたとしても回避する自信を持っていた。だからこそ最短距離でシェインの元まで駆け寄ったのだ。しかし、シェインの魔法を操る力はそれらをすべて上回っていた。
始まったばかりの試合が早々に終わり、呆然とする町人達。今まで試合の前後で起きていた歓声も聞こえることはなく、余りにも一瞬の出来事で何が起こったのか理解できずに唯々戸惑うばかりだ。だが、頭上から眺めるフロベルティは全てを見ていた。
実に恐ろしきはシェインの選んだ魔法である。トージェスが持つ剣は、固く踏み固められた地面に容易く突き刺さる程の切れ味を持つサーベルだ。それが目の前で高速で振られるのであれば、誰だって恐怖に身がすくみ防御に移りたくなるものだろう。だがシェインはそれをしなかった。それどころか迫るサーベルを凝視し、更にはそのサーベルに手をかざしたのだ。
試合開始までの一連のやり取りを見て、シェインが魔法使いであると判断したフロベルティは、この光景を見た時、シェインが防御魔法を展開するとばかり思っていた。そうすれば、例え不完全といえどもトージェスの一撃をいなすことが出来た筈である。しかしシェインが選んだ手は守りではなく攻めの一手だった。攻撃をいなし万全の体勢で迎え撃つことができたというのに、その戦法を選ばなかったのだ。結果として成功したからよかったものの、もし失敗していたらかざした手から真二つに切り捨てられたかもしれないというのに。
静まり返った会場に、シェインの声が響く。
「あの……まだ試合は続くのですか?」
対戦相手は気絶しており勝敗は明らかだ。だがそれでも試合終了の声が掛からないことに、シェインは疑問を呈した。
観衆同様呆気にとられていたフロベルティは、その声で我を取り戻すと改めて階下を見下ろす。トージェスは身動き一つせず、完全に気を失っている。一方で困ったような顔で見上げるシェインの姿があった。
「あ、ああ、すまない。勝者、シェイン!」
試合の終わりを告げる声が響いても観衆静かだった。
そのことを気にもかけずに、シェインは倒れたトージェスを引きずって建物の方へと歩き出す。
彼女らの姿が見えなくなるまで、町人らから声が上がることは遂になかった。
試合を終え戻ってきたシェインを出迎えるラインハルトは、外の方を見ながら口を開く。
「随分早かったな。それにとても静かだ」
「ちゃんと注意したんですけどね、あまり舐めないでって」
引きずってきたトージェスの体を壁に寄せるシェイン。それを手伝いながらカイネルは言った。
「僕もシェインさんの魔法が見たかったです」
「あはは、人に見られるのは苦手かな」
苦笑いを浮かべながらそう言うと、手のひらに着いた土汚れを払う。
部屋の奥から低い声が聞こえてきた。
「皆様、お疲れ様にございます。これにて全ての戦士様が一度試合を行われました。結果をご報告いたしますので、皆さま外にお集まりください」
促され、戦士は揃って外へ。その際、シェインの魔法によって修復された会場を見て、数人の戦士が驚きの声を上げる。
再び選別試合が始まる前のように、フロベルティの下へと集う。それからフロベルティ自ら試合を経ての合格者の発表を始めた。
「戦士諸君、ご苦労であった。これより合格者の名を読み上げる。名を呼ばれた者はこの場に残ってくれ。……ザック・フロント、ザグド、バーディウス……」
ラインハルトと戦い敗れたザグドが呼ばれる。
「……エンカ、ウェルソン……」
カイネルに敗れたエンカも呼ばれる。
「……ロィエル・ジェム、マインフォール……以上で全部だ。おめでとう」
湧き上がる歓声。呼ばれた者は手を上げ喜び、呼ばれなかった者は俯き嘆く。呼ばれなかった者らの中には既に歩き去る者もいたが、当のラインハルトらはこの結果に異論を訴えるしかなかった。
戦士が集う集団から一つ身を乗り出し、ラインハルトは叫んだ。
「すまない。結果について説明を求めたいのだが」
途端ざわめく観衆。しかしフロベルティは冷静だった。反論が来るとわかっていたのか笑みを讃えながら対応を始める。
「……試合結果と採用結果は直接関わらないと言った筈だが……まぁいいだろう。ラインハルト、君と……その隣の弓使い、カイネル。そして最後に戦った魔法使い、シェイン。君たちが選ばれなかった理由は幾つかあるが、共通する大きな理由は‟仲が良い”からだ」
「はっ……仲が良かったらいけないのか? そもそもそんな条件は聞いていないのだが」
理由を聞いてみても納得できないラインハルトは、鼻で笑うと更に疑問を投げかける。
「絶対というわけではないさ。だが君たちは駄目だ」
対してフロベルティは頑なな態度で言い放った。
フロベルティが開始の合図を出した。周囲からなど目になるかわからない歓声が上がる。これまでの戦いは素晴らしいものだった。この試合もきっと、素晴らしいものになるだろうと期待してのことだ。だが……試合は一瞬のうちに終わることになる。
開始の合図とともに走り出すトージェス。サーベルを手に全身を立派な鎧で固める姿は、とても迫力があり鬼気迫るものがある。それに対しシェインはたった一つの魔法を放った。放たれた魔法は雷。振りかぶられたサーベル目掛けて迸ったそれは、鉄で出来た刀剣を駆け抜け、サーベルを握るトージェス自身に襲い掛かったのだ。その威力は凄まじく、周囲にばりばりという不快な音が響き渡る。周囲からは悲鳴が上がり、若干の焦げ臭さに顔を顰める町人ら。トージェスは悲鳴を上げることもできずに昏倒してしまい、目を見張る攻防など無いままに、試合は終わってしまったのだ。
トージェスはシェインを侮っていた。理由はやはり有利と思われた組み合わせ。今回催された試合の条件下において、最も有利なのは武器を振るう戦士たちである。試合開始時の距離的に、魔法使いや弓使いが攻撃に移るよりも早く戦士が攻撃対象に到達することができる。またその距離は接近戦を常とする戦士らにとって、圧倒的優位に立つことができる距離でもあった。そういった状況に加え、歴戦の戦士と自負するトージェスは、仮に魔法が放たれたとしても回避する自信を持っていた。だからこそ最短距離でシェインの元まで駆け寄ったのだ。しかし、シェインの魔法を操る力はそれらをすべて上回っていた。
始まったばかりの試合が早々に終わり、呆然とする町人達。今まで試合の前後で起きていた歓声も聞こえることはなく、余りにも一瞬の出来事で何が起こったのか理解できずに唯々戸惑うばかりだ。だが、頭上から眺めるフロベルティは全てを見ていた。
実に恐ろしきはシェインの選んだ魔法である。トージェスが持つ剣は、固く踏み固められた地面に容易く突き刺さる程の切れ味を持つサーベルだ。それが目の前で高速で振られるのであれば、誰だって恐怖に身がすくみ防御に移りたくなるものだろう。だがシェインはそれをしなかった。それどころか迫るサーベルを凝視し、更にはそのサーベルに手をかざしたのだ。
試合開始までの一連のやり取りを見て、シェインが魔法使いであると判断したフロベルティは、この光景を見た時、シェインが防御魔法を展開するとばかり思っていた。そうすれば、例え不完全といえどもトージェスの一撃をいなすことが出来た筈である。しかしシェインが選んだ手は守りではなく攻めの一手だった。攻撃をいなし万全の体勢で迎え撃つことができたというのに、その戦法を選ばなかったのだ。結果として成功したからよかったものの、もし失敗していたらかざした手から真二つに切り捨てられたかもしれないというのに。
静まり返った会場に、シェインの声が響く。
「あの……まだ試合は続くのですか?」
対戦相手は気絶しており勝敗は明らかだ。だがそれでも試合終了の声が掛からないことに、シェインは疑問を呈した。
観衆同様呆気にとられていたフロベルティは、その声で我を取り戻すと改めて階下を見下ろす。トージェスは身動き一つせず、完全に気を失っている。一方で困ったような顔で見上げるシェインの姿があった。
「あ、ああ、すまない。勝者、シェイン!」
試合の終わりを告げる声が響いても観衆静かだった。
そのことを気にもかけずに、シェインは倒れたトージェスを引きずって建物の方へと歩き出す。
彼女らの姿が見えなくなるまで、町人らから声が上がることは遂になかった。
試合を終え戻ってきたシェインを出迎えるラインハルトは、外の方を見ながら口を開く。
「随分早かったな。それにとても静かだ」
「ちゃんと注意したんですけどね、あまり舐めないでって」
引きずってきたトージェスの体を壁に寄せるシェイン。それを手伝いながらカイネルは言った。
「僕もシェインさんの魔法が見たかったです」
「あはは、人に見られるのは苦手かな」
苦笑いを浮かべながらそう言うと、手のひらに着いた土汚れを払う。
部屋の奥から低い声が聞こえてきた。
「皆様、お疲れ様にございます。これにて全ての戦士様が一度試合を行われました。結果をご報告いたしますので、皆さま外にお集まりください」
促され、戦士は揃って外へ。その際、シェインの魔法によって修復された会場を見て、数人の戦士が驚きの声を上げる。
再び選別試合が始まる前のように、フロベルティの下へと集う。それからフロベルティ自ら試合を経ての合格者の発表を始めた。
「戦士諸君、ご苦労であった。これより合格者の名を読み上げる。名を呼ばれた者はこの場に残ってくれ。……ザック・フロント、ザグド、バーディウス……」
ラインハルトと戦い敗れたザグドが呼ばれる。
「……エンカ、ウェルソン……」
カイネルに敗れたエンカも呼ばれる。
「……ロィエル・ジェム、マインフォール……以上で全部だ。おめでとう」
湧き上がる歓声。呼ばれた者は手を上げ喜び、呼ばれなかった者は俯き嘆く。呼ばれなかった者らの中には既に歩き去る者もいたが、当のラインハルトらはこの結果に異論を訴えるしかなかった。
戦士が集う集団から一つ身を乗り出し、ラインハルトは叫んだ。
「すまない。結果について説明を求めたいのだが」
途端ざわめく観衆。しかしフロベルティは冷静だった。反論が来るとわかっていたのか笑みを讃えながら対応を始める。
「……試合結果と採用結果は直接関わらないと言った筈だが……まぁいいだろう。ラインハルト、君と……その隣の弓使い、カイネル。そして最後に戦った魔法使い、シェイン。君たちが選ばれなかった理由は幾つかあるが、共通する大きな理由は‟仲が良い”からだ」
「はっ……仲が良かったらいけないのか? そもそもそんな条件は聞いていないのだが」
理由を聞いてみても納得できないラインハルトは、鼻で笑うと更に疑問を投げかける。
「絶対というわけではないさ。だが君たちは駄目だ」
対してフロベルティは頑なな態度で言い放った。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる