90 / 124
西の都
来客
しおりを挟む
フロベルティは語る。
「理由を説明する前に、先ずは君たちが確かに優秀な戦士であることを認めよう。類まれなる技と才能を持ち、集った戦士たちの中でも屈指の実力を有していた。……しかし、私は優秀な戦士が欲しいのではない。優秀な探索者が欲しいのだ。優秀な探索者というのは即ち、生きて成果を持ち帰る者を指す。つまり君たちがどれだけ優秀な戦士であろうとも、生きて迷宮から戻らぬものに用はないのだ」
「……それではまるで、俺たちが迷宮から戻れないと言っている風に聞こえる」
ラインハルトは語尾を強くしてそういうと、フロベルティを睨みつける。一方フロベルティも視線を揺らすことなく見返してきた。
「私はそう言っているのだ。まぁ断言はできないが、そうなる可能性は高いと言えるだろう。例えば迷宮内で、危機的な状況に陥ってしまった時、例えば予期せぬ強敵と出会いそれが到底敵いそうもない時、君は其方の二人を見捨てて私のもとに戻ってくることができるかね?」
フロベルティのその言葉に、ラインハルトは固まってしまった。
ラインハルトにとってカイネルとシェインは、既に仲間となっている。それを見捨てるなどということを、尊敬する師は教えていなかった。必然、彼が仲間を見捨てるという選択肢を思いつく筈も無く、それを強要された場合実行できるかどうか、考える間でもなかった。
ラインハルトの対応を受け、目論見通りであったことにほくそ笑むフロベルティは更に続けた。
「恐らく君は自らの身を犠牲にしてでも仲間を守ろうとするのだろう。それは戦士、騎士としては立派な行いで、素晴らしく優秀なことだ。そのおかげでそこの二人が生き残れるというのなら私も何ら文句はない……が、迷宮はそんな甘い場所ではない事を私は知っている。優秀な者が劣る者を庇うこと、それは場合によってチーム全体の生存率を下げることにもなりかねない。それでは私が困るのだ。私は迷宮の深淵を覗きたい。だから手に入れた成果を持ち替える物を望んでいるのだ。どんな手を使ってでも生きて戻る気概を持つ、狡猾な者が必要なのだ。少なくとも君たちはその条件に当てはまらない」
そこまで言うとフロベルティは、ラインハルトから視線を切り問答を打ち切った。
「では呼ばれた者は再び中に入ってくれ。今後についての話をしよう。以上で選別式を終了する。戦士の諸君、本当にご苦労だった」
全てを言い終えたフロベルティは、そのまま自身の別宅へと入っていく。
祭りが終わり、集まった観衆らは散り散りと。参加していた戦士たちもその場を後にし始めた。やがて最後まで残っていたラインハルトたちも、これ以上話が進まないと察し、とりあえず拠点である宿へと戻ることにした。
そこはかとなく暗い雰囲気を纏いながら宿に着くと、奥の部屋から店主が飛んできた。
「どうだった!? ……その顔は駄目だったみたいだな」
店主の理解は早く、三人の顔を見て全てを悟る。
「ああ、優秀な騎士はいらないと言われた。仲間を見捨てでも戻ってくることが大事だそうだ」
ため息交じりにそう答えるラインハルト。落胆する一同を見た店主は、そういえばと声を上げる。
「お前さんにお客さんだ。疲れているところすまないが頼む」
「……客?」
ラインハルトは顔を顰めた。彼はこの町に来てまだ日が浅い。当然知り合いなどいる筈も無く、自身を訪ねてくる人物にとんと心当たりがなかった。
それはカイネル、シェインも同様だったらしく、不思議そうな顔でラインハルトの顔を見る。
ラインハルトは再びため息をついた。
(もう来てしまっているものを追い返すのも忍びない。会うだけあってみようか)
そう思ったラインハルトは、店主を見て頷くと店主に連れられて客の元へと向かう。
通されたのは食堂から更に奥にある一室だ。質素なつくりの宿の中でも一際立派なつくりの部屋で、俗にいう応接間にあたる部屋だった。
「お待ちどうさん。ご要望の品だ」
店主は来客へ向けてそう言うと、入口付近の椅子に座った。
店主がいなくなり開けた視界に移ったのは、頭をすっぽりと覆い隠す程大きな頭巾をかぶった小さな人だ。
「お待ちしていました。ラインハルト様」
美しく透き通った声が部屋に響く。幼く若い……少女の声だ。
少女は丸いテーブルの前で背もたれのある椅子に座り、少し湯気の立つカップを手に取っている。ラインハルトはその対となる席に座ると、すぐに質問を投げかけた。
「……すまないが、どこかで面識が? 君のような幼子とは出会う機会もなかったように思うが」
極力威圧せぬように、慣れぬ言葉で語り掛けるラインハルト。その問いかけに少女はカップを置いて答える。
「先ほどの選抜試合を拝見しておりました。ラインハルト様、カイネル様、シェイン様。何方様も素晴らしい力をお持ちの要で」
空いた手で顔を覆い隠す頭巾をずらす。すると兎のように真っ赤な目が露になった。
「成程。では俺たちが選ばれなかったことも知っているわけか」
「ええ。だから私はここに来ました」
少女は背筋をピンと伸ばしたまま、ラインハルトを真っすぐに見つめる。
「……ラインハルト様。私と共に、迷宮へと潜ってはいただけませんか?」
その言葉に店主は椅子から身を乗り出し、カイネルとシェインは顔を見合わせる。
そしてラインハルトは、真っ赤なその瞳を見つめた。
「理由を説明する前に、先ずは君たちが確かに優秀な戦士であることを認めよう。類まれなる技と才能を持ち、集った戦士たちの中でも屈指の実力を有していた。……しかし、私は優秀な戦士が欲しいのではない。優秀な探索者が欲しいのだ。優秀な探索者というのは即ち、生きて成果を持ち帰る者を指す。つまり君たちがどれだけ優秀な戦士であろうとも、生きて迷宮から戻らぬものに用はないのだ」
「……それではまるで、俺たちが迷宮から戻れないと言っている風に聞こえる」
ラインハルトは語尾を強くしてそういうと、フロベルティを睨みつける。一方フロベルティも視線を揺らすことなく見返してきた。
「私はそう言っているのだ。まぁ断言はできないが、そうなる可能性は高いと言えるだろう。例えば迷宮内で、危機的な状況に陥ってしまった時、例えば予期せぬ強敵と出会いそれが到底敵いそうもない時、君は其方の二人を見捨てて私のもとに戻ってくることができるかね?」
フロベルティのその言葉に、ラインハルトは固まってしまった。
ラインハルトにとってカイネルとシェインは、既に仲間となっている。それを見捨てるなどということを、尊敬する師は教えていなかった。必然、彼が仲間を見捨てるという選択肢を思いつく筈も無く、それを強要された場合実行できるかどうか、考える間でもなかった。
ラインハルトの対応を受け、目論見通りであったことにほくそ笑むフロベルティは更に続けた。
「恐らく君は自らの身を犠牲にしてでも仲間を守ろうとするのだろう。それは戦士、騎士としては立派な行いで、素晴らしく優秀なことだ。そのおかげでそこの二人が生き残れるというのなら私も何ら文句はない……が、迷宮はそんな甘い場所ではない事を私は知っている。優秀な者が劣る者を庇うこと、それは場合によってチーム全体の生存率を下げることにもなりかねない。それでは私が困るのだ。私は迷宮の深淵を覗きたい。だから手に入れた成果を持ち替える物を望んでいるのだ。どんな手を使ってでも生きて戻る気概を持つ、狡猾な者が必要なのだ。少なくとも君たちはその条件に当てはまらない」
そこまで言うとフロベルティは、ラインハルトから視線を切り問答を打ち切った。
「では呼ばれた者は再び中に入ってくれ。今後についての話をしよう。以上で選別式を終了する。戦士の諸君、本当にご苦労だった」
全てを言い終えたフロベルティは、そのまま自身の別宅へと入っていく。
祭りが終わり、集まった観衆らは散り散りと。参加していた戦士たちもその場を後にし始めた。やがて最後まで残っていたラインハルトたちも、これ以上話が進まないと察し、とりあえず拠点である宿へと戻ることにした。
そこはかとなく暗い雰囲気を纏いながら宿に着くと、奥の部屋から店主が飛んできた。
「どうだった!? ……その顔は駄目だったみたいだな」
店主の理解は早く、三人の顔を見て全てを悟る。
「ああ、優秀な騎士はいらないと言われた。仲間を見捨てでも戻ってくることが大事だそうだ」
ため息交じりにそう答えるラインハルト。落胆する一同を見た店主は、そういえばと声を上げる。
「お前さんにお客さんだ。疲れているところすまないが頼む」
「……客?」
ラインハルトは顔を顰めた。彼はこの町に来てまだ日が浅い。当然知り合いなどいる筈も無く、自身を訪ねてくる人物にとんと心当たりがなかった。
それはカイネル、シェインも同様だったらしく、不思議そうな顔でラインハルトの顔を見る。
ラインハルトは再びため息をついた。
(もう来てしまっているものを追い返すのも忍びない。会うだけあってみようか)
そう思ったラインハルトは、店主を見て頷くと店主に連れられて客の元へと向かう。
通されたのは食堂から更に奥にある一室だ。質素なつくりの宿の中でも一際立派なつくりの部屋で、俗にいう応接間にあたる部屋だった。
「お待ちどうさん。ご要望の品だ」
店主は来客へ向けてそう言うと、入口付近の椅子に座った。
店主がいなくなり開けた視界に移ったのは、頭をすっぽりと覆い隠す程大きな頭巾をかぶった小さな人だ。
「お待ちしていました。ラインハルト様」
美しく透き通った声が部屋に響く。幼く若い……少女の声だ。
少女は丸いテーブルの前で背もたれのある椅子に座り、少し湯気の立つカップを手に取っている。ラインハルトはその対となる席に座ると、すぐに質問を投げかけた。
「……すまないが、どこかで面識が? 君のような幼子とは出会う機会もなかったように思うが」
極力威圧せぬように、慣れぬ言葉で語り掛けるラインハルト。その問いかけに少女はカップを置いて答える。
「先ほどの選抜試合を拝見しておりました。ラインハルト様、カイネル様、シェイン様。何方様も素晴らしい力をお持ちの要で」
空いた手で顔を覆い隠す頭巾をずらす。すると兎のように真っ赤な目が露になった。
「成程。では俺たちが選ばれなかったことも知っているわけか」
「ええ。だから私はここに来ました」
少女は背筋をピンと伸ばしたまま、ラインハルトを真っすぐに見つめる。
「……ラインハルト様。私と共に、迷宮へと潜ってはいただけませんか?」
その言葉に店主は椅子から身を乗り出し、カイネルとシェインは顔を見合わせる。
そしてラインハルトは、真っ赤なその瞳を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる