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迷宮
入宮
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迷宮への入り口は、町の最西端にあった。
特に複雑な道のりではない。町を横断する大通りを道なりに進めば自然と辿り着く。だが、進めば進むほどに町を行く人たちは姿を消し、やがて賑やかだった装いは次第に薄れていった。
迷宮への入り口は小さな宮のようになっていた。そこはかとなく厳かで、得も言われぬ神々しさを讃えている。
一方で周囲には、似通った看板を掲げた店が立ち並び、閑散としていながらもやや乱雑に見えた。
「あのレンズの看板は何の店なんだ?」
ラインハルトは近くの建物に掲げてある木製の看板を指さし兎に問いかけた。
「あれは『鑑定所』です。迷宮より戻ってきた探求者たちは、持ち帰った宝物をああいった店で調べてもらうのです」
「成程……しかしあんなに必要なのか?」
周囲にある鑑定所は優に十を越える。ところが近くに人影がいないことから、現在新たに挑む探求者は僅かに五人。仮に一人につき一店舗利用したとしても余りある数だ。
ラインハルトの問いかけに対して、兎は手袋をした手で一つの店の店先を指差した。
「格式が違うんですよ」
ラインハルトは細い指の先を見る。するとそこには看板と同じく木製の立て札に「一品どれでも金貨一枚」と書かれていた。
「一品どれでも……金貨一枚? ううむ、相場が分からないから安いのかどうか分からないな」
そう言いつつ、ラインハルトは隣の店の店先を見る。
「……銀貨十枚? また極端に低いな」
よくよく周囲の店先を見れば、どれもこれも異なった金額を設定しているようだ。
兎は語る。
「ですから腕前が違うのです。基本的には値段に比例して鑑定師も優秀になります。要するに、より宝物の情報を引き出せるのです」
「成る程……宝の鑑定すらも財布事情によって選べるわけか」
「ええ。私たちももしかしたら利用するかもしれません」
そんなやり取りを経て、一行は迷宮の入り口がある宮に辿り着いた。
宮は町にある他の建築物とは一風変わった造りだった。柱の一つから壁の一角に至るまで、非常に精巧な装飾が散りばめられており、美術的な美しさを放っている。そしてそもそも建材から違っていた。町にある建物は大半が木材から作られていたが、その建物は石材を加工して作られていたのだ。それも唯の石材ではないようで、表面を滑らかに加工してあり亀裂や繋ぎ目の様な物すら見当たらない。
そんな美麗な宮の入り口には、二人の武装した男がたっていた。
「そこの者ら、止まれ」
低く、威圧する声で制止される。
ラインハルトらは言われた通りに立ち止まると、相手の出方を伺った。
「代表者は誰だ?」
男が問いかける。すると一行の中から、兎が一歩前に出た。
「お前がリーダーか。此処がどういった所か分かっているのか?」
「迷宮の入り口にございます」
兎の答えに男らは顔を見合わせた。
顔も体も、肌の一部すらも覆い隠した彼女の声が、女のものであったことに驚いたようだ。
だが狼狽えたのも一瞬。すぐに顔を引き締めると仕事を始める。
「……わかっているならいい。では入宮料として……」
「はい。こちらに」
男が言い終わるよりも早く、兎は懐から金貨を五枚取り出すと、男へと手渡した。
「む……確かに」
男は金貨の枚数と頭数が合致していることを確認すると、漸く険しい顔を崩した。
「この先がどういったところか、よく理解しているようだな。迷宮内はとても危険な場所だ。決して気を抜くなよ。無事を祈る」
「ありがとうございます」
迷宮に入る許可と気遣いを受け、兎は律義に辞儀を返す。そして一同は宮の中へと足を踏み入れた。
宮の中は外に比べ簡素なつくりだった。
入ってすぐ目の前に下へと続く階段が口を開け、左右に一つずつ扉が佇んでいるのが見える。扉にはそれぞれ足の模様と目の模様が刻まれていて不気味な空気を醸し出していた。
「……悪趣味な場所だ」
ラインハルトの呟きに、カイネルとエンカが同意する。だがシェインだけは、興味深そうにその扉を見つめていた。
「こちらの扉が帰還の魔導紙を使用した際に戻ってくる場所です。こちらが休息所。そしてあの階段が、迷宮への入り口です。浅層であればこの階段から戻ることも可能ですが、奥に行けば行くほどその可能性は低くなります。……さて、準備はよろしいですか?」
兎は振り向くと真っ赤な瞳で一同を見渡した。ここまで来ておきながら再び投げかけられた問いかけ。それはまるでラインハルトらを試しているかのようにも見えた。
「大丈夫だ。行こう」
兎を前に一同は力強く頷いた。
兎もまた頷くと、揃って階段を下って行く。
階段が終わるとそこには、舗装された狭い通路が伸びていた。二列では歩けるが、三列では難しそうだ。少なくとも、入り乱れての戦闘は不可能だろう。
通路に入ると一同は、予め決めていた隊列を組む。その間、ラインハルトは以前宿屋の店主から貰った地図を取り出した。
「役に立ったらいいんだがな……」
改めて見てみると何とも酷いものだった。蛇がのたうった後のような線が描かれているだけで、外壁や目印のようなものは一切ない。地図だと明言されなければ、まったくもって理解できないだろう。
「それが地図ですか?」
「ああ、今は現役を退いた戦士からの譲りものだ。……正直、あまり期待はしていないのだが」
ラインハルトは何度か地図を回転してみた。しかし、臨んだ答えは返ってこない。
先頭を行くエンカが歩き出す。続いてラインハルトが、三番手に兎が入り、シェイン、カイネルと続く。
そこまで来て漸く、兎はそれまでずっとかぶっていたローブを外した。真っ白な耳がぴょこんと伸び、周囲の音の感知を始める。
「では行きましょう。周囲には十分注意してください」
いよいよ、迷宮の探索が始まった。
特に複雑な道のりではない。町を横断する大通りを道なりに進めば自然と辿り着く。だが、進めば進むほどに町を行く人たちは姿を消し、やがて賑やかだった装いは次第に薄れていった。
迷宮への入り口は小さな宮のようになっていた。そこはかとなく厳かで、得も言われぬ神々しさを讃えている。
一方で周囲には、似通った看板を掲げた店が立ち並び、閑散としていながらもやや乱雑に見えた。
「あのレンズの看板は何の店なんだ?」
ラインハルトは近くの建物に掲げてある木製の看板を指さし兎に問いかけた。
「あれは『鑑定所』です。迷宮より戻ってきた探求者たちは、持ち帰った宝物をああいった店で調べてもらうのです」
「成程……しかしあんなに必要なのか?」
周囲にある鑑定所は優に十を越える。ところが近くに人影がいないことから、現在新たに挑む探求者は僅かに五人。仮に一人につき一店舗利用したとしても余りある数だ。
ラインハルトの問いかけに対して、兎は手袋をした手で一つの店の店先を指差した。
「格式が違うんですよ」
ラインハルトは細い指の先を見る。するとそこには看板と同じく木製の立て札に「一品どれでも金貨一枚」と書かれていた。
「一品どれでも……金貨一枚? ううむ、相場が分からないから安いのかどうか分からないな」
そう言いつつ、ラインハルトは隣の店の店先を見る。
「……銀貨十枚? また極端に低いな」
よくよく周囲の店先を見れば、どれもこれも異なった金額を設定しているようだ。
兎は語る。
「ですから腕前が違うのです。基本的には値段に比例して鑑定師も優秀になります。要するに、より宝物の情報を引き出せるのです」
「成る程……宝の鑑定すらも財布事情によって選べるわけか」
「ええ。私たちももしかしたら利用するかもしれません」
そんなやり取りを経て、一行は迷宮の入り口がある宮に辿り着いた。
宮は町にある他の建築物とは一風変わった造りだった。柱の一つから壁の一角に至るまで、非常に精巧な装飾が散りばめられており、美術的な美しさを放っている。そしてそもそも建材から違っていた。町にある建物は大半が木材から作られていたが、その建物は石材を加工して作られていたのだ。それも唯の石材ではないようで、表面を滑らかに加工してあり亀裂や繋ぎ目の様な物すら見当たらない。
そんな美麗な宮の入り口には、二人の武装した男がたっていた。
「そこの者ら、止まれ」
低く、威圧する声で制止される。
ラインハルトらは言われた通りに立ち止まると、相手の出方を伺った。
「代表者は誰だ?」
男が問いかける。すると一行の中から、兎が一歩前に出た。
「お前がリーダーか。此処がどういった所か分かっているのか?」
「迷宮の入り口にございます」
兎の答えに男らは顔を見合わせた。
顔も体も、肌の一部すらも覆い隠した彼女の声が、女のものであったことに驚いたようだ。
だが狼狽えたのも一瞬。すぐに顔を引き締めると仕事を始める。
「……わかっているならいい。では入宮料として……」
「はい。こちらに」
男が言い終わるよりも早く、兎は懐から金貨を五枚取り出すと、男へと手渡した。
「む……確かに」
男は金貨の枚数と頭数が合致していることを確認すると、漸く険しい顔を崩した。
「この先がどういったところか、よく理解しているようだな。迷宮内はとても危険な場所だ。決して気を抜くなよ。無事を祈る」
「ありがとうございます」
迷宮に入る許可と気遣いを受け、兎は律義に辞儀を返す。そして一同は宮の中へと足を踏み入れた。
宮の中は外に比べ簡素なつくりだった。
入ってすぐ目の前に下へと続く階段が口を開け、左右に一つずつ扉が佇んでいるのが見える。扉にはそれぞれ足の模様と目の模様が刻まれていて不気味な空気を醸し出していた。
「……悪趣味な場所だ」
ラインハルトの呟きに、カイネルとエンカが同意する。だがシェインだけは、興味深そうにその扉を見つめていた。
「こちらの扉が帰還の魔導紙を使用した際に戻ってくる場所です。こちらが休息所。そしてあの階段が、迷宮への入り口です。浅層であればこの階段から戻ることも可能ですが、奥に行けば行くほどその可能性は低くなります。……さて、準備はよろしいですか?」
兎は振り向くと真っ赤な瞳で一同を見渡した。ここまで来ておきながら再び投げかけられた問いかけ。それはまるでラインハルトらを試しているかのようにも見えた。
「大丈夫だ。行こう」
兎を前に一同は力強く頷いた。
兎もまた頷くと、揃って階段を下って行く。
階段が終わるとそこには、舗装された狭い通路が伸びていた。二列では歩けるが、三列では難しそうだ。少なくとも、入り乱れての戦闘は不可能だろう。
通路に入ると一同は、予め決めていた隊列を組む。その間、ラインハルトは以前宿屋の店主から貰った地図を取り出した。
「役に立ったらいいんだがな……」
改めて見てみると何とも酷いものだった。蛇がのたうった後のような線が描かれているだけで、外壁や目印のようなものは一切ない。地図だと明言されなければ、まったくもって理解できないだろう。
「それが地図ですか?」
「ああ、今は現役を退いた戦士からの譲りものだ。……正直、あまり期待はしていないのだが」
ラインハルトは何度か地図を回転してみた。しかし、臨んだ答えは返ってこない。
先頭を行くエンカが歩き出す。続いてラインハルトが、三番手に兎が入り、シェイン、カイネルと続く。
そこまで来て漸く、兎はそれまでずっとかぶっていたローブを外した。真っ白な耳がぴょこんと伸び、周囲の音の感知を始める。
「では行きましょう。周囲には十分注意してください」
いよいよ、迷宮の探索が始まった。
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