探求の槍使い

菅原

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迷宮

未知なる脅威

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 広間に飛び込んだラインハルトは、予想よりも眩い部屋の明るさに目を細めた。薄暗い迷宮内、頼りになる明かりもカンテラが放つ淡い光だけという状況で、広間の光がより強烈に感じられたのだ。だが彼の足は止まらない。エンカが二度目の斧を振りまわそうとしている横を颯爽とすり抜け、ゴブリン目掛け槍が突きだされた。
 彼が振るう槍は、救世の魔法使い、ルイン・フォルトが扱う錬金術により強化された、師の遺品と自らの槍が融合した一品である。しかしこれを初めて手にしたあの瞬間よりこれまで、平和な旅路が続き終ぞ振る機会のなかったものでもあった。その一番最初の一突きを終え、ラインハルトの口元が思わず歪む。
(分かっていたが……なんと素晴らしい性能だ!)
 槍はゴブリンの体を容易く貫いた。本来であれば臓器や骨などに阻まれ、鈍い手応えが幾つか伝わる筈だ。だが槍は、まるで水面に突き入れるかの如く何の抵抗もなく貫通して見せたのだ。また、引き抜く際も殆ど力を使わずにするりと引き抜くことができた。
 ラインハルトは引き抜いた槍を大きく振り払う。すると槍の穂先は周りを囲むゴブリン二体の腹を切り裂いて見せた。飛散する血飛沫。その陰に見える彼の口元には明らかな笑みが浮かんでおり、恐怖に鈍いゴブリンを震え上がらせた。
『ギャッ! ギャッ! ニゲロ! ニゲ……』
 人間には聴き取れぬ魔物にのみ許された言葉も、最後まで語る暇はない。エンカが三体目のゴブリンを叩き伏せるころ、ラインハルトは笑いながら八体目のゴブリンの喉を貫いた。


 息を切らせながら兎が広間に飛び込む頃には、全てのゴブリンが駆逐された後だった。
 先まで生きていただろう二十にも及ぶゴブリンの死体が、広間の中央付近に転がっている。一帯は返り血で真っ赤に染まり、独特の悪臭が充満していた。
 周囲を見れば広間の全体像が見て取れた。広間は半球状のつくりとなっていて、天井の中心には大きな竪穴が開いている。そしてその竪穴からは眩い光が満ち満ちており、その光が広間全体を照らしていた。
 地下に似つかわしくない光景、その光景に不釣り合いな死臭と悪臭。それらに顔を顰めながら、兎は一先ずラインハルトへと近寄る。
「……怪我はありませんか?」
「無い。皆無事のようだ」
 兎より先に広間に入っていた者たちは、既に死体の処理を始めていた。
 ラインハルトとカイネルは、転がるゴブリンの体を拾い集め、広間の隅まで持っていき積み上げている。シェインはと言えば死体が退かれた血だまりに水を撒き、血を薄め清めていた。そしてエンカは、積みあがるゴブリンの死体とは対となる広間の端に座り込んでいるようだ。

 兎は次にエンカに近づく。
「エンカさん。大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だけど……駄目だったわ。この人、もう死んでたみたい」
 エンカの近くには一人の男の死体。ゴブリンの群れに囲まれていたもののようで、ぼろぼろになった鎧が酷く痛々しい。彼女は三体目のゴブリンを叩き伏せた後、彼を抱え上げ一時離脱をしていたのだった。
「……仕方がありません。私たちは、この人がここにいることすら知らなかったんですから」
 酷く落ち込んでいたエンカを見た兎は、自分がもっと早く気が付いていたら、と自責の念を抱きながらそう言った。

 ゴブリンの死体の処理が終わるころ、ラインハルトは兎とエンカの元へとやってきた。
「少々おかしいな」
「どうしましたか?」
 小首をかしげるラインハルトへ、兎は問いかける。するとラインハルトは、エンカの隣にある男の死体を見た。
「その男、鎧を着こんでいるが武器を持っていないようだ。この広間にあったのは棍棒だけでそれらしい物は一つも無かった。それに……体を見ればゴブリンに後れを取るようにも見えない。まぁ、数が数だったからな、袋叩きにされた可能性もあるが……流石に無抵抗でやられるわけもあるまい」
 ラインハルトは続けて、入ってきた通路と反対にある通路の方を見た。その時、エンカが広間に駆け込んだ時のことを思い出し口を開く。
「そういえば……私がこの部屋に入った時、ゴブリンの死体なんて無かったわ。ゴブリンも全員無傷で、争った感じも無かった」
「……もしかしたら、こいつはゴブリンにやられたのではないのかもしれないな」
 ラインハルトのその言葉に、兎は慌てて周囲の音に集中した。広間から延びる通路の奥まで、あらゆる微細な物音をも拾うつもりで耳を研ぎ澄ます。だが幸いにも、現段階では周囲に生物らしき者はいないようだ。
「周囲に生物らしい音は聞こえません」
「……兎に角、未知の生物がいるつもりで、注意して進もう」
 得も言われぬ不穏な空気に黙る三人。不意に、その背後からカイネルの声が聞こえた。
「ラインさん、とりあえずあんな感じでいいですかね?」
 ラインハルトは振り向くと、彼が指し示す方を見る。するとそこには、ゴブリン特有の、緑色の小ささな山が出来上がっていた。
「ん、ご苦労さん。本当は地面にでも埋めたいところだが、下がこれじゃあな……焼き払ってしまってもいいが、香ばしい匂いで他の何かをおびき寄せてしまうかもしれない。……ま、このままでもいずれそうなるだろうが、とりあえず休む時間は取れるだろう」
 ラインハルトはそこで漸く荷物袋を床に卸すと、その場に座った。

 迷宮に入って暫く経つ。外が見えぬから正確な時間帯は分からない。だが腹の減り具合から、既に食事の時間は過ぎ去っていることが分かる。事実、迷宮の外はとうに星が顔をのぞかせている頃合いで、多くの町人が就寝する頃だった。
 一同はひどく匂う広間の中で、少し遅い夕食を取る。それから部屋が明るく広いことを良いことに、見張りを変え替え仮眠をとることに決めた。
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