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迷宮
袋小路
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扉の先には部屋がひとつあった。精巧な作りだった扉とは似つかわしくない、みすぼらしい部屋だ。
そこから先に続く道は無く、分かれ道からこの部屋までは一本道である。つまり、この通路もこれまでと同様行き止まりの道となるわけだが……一行の中で一際文句が多かったエンカに落胆の色は見られない。
エンカが呟く。
「これって……あれよね?」
「……あれ?」
部屋の中を見渡したカイネルは、エンカが微笑む姿を見た。
「宝物が眠る場所。所謂宝物庫ね」
皆その言葉を聞き、部屋の中を見渡す。
部屋の中央には円形の机があり、三人分の椅子が置かれていた。また、壁際には本棚や小机も置いてあって、一定水準以上の環境が整っているように感じられる。一方、照明の類いは一切無く、部屋を照らす明かりはエンカが持つカンテラだけだ。
「とても宝物庫には見えませんけど……」
改めて、カイネルは薄明りの中部屋を見渡した。
光を反射する貴金属類は殆ど見当たらない。机や椅子は木製だったが、色は褪せ、今にも壊れてしまいそうな程朽ちていた。壁には真っ黒な布がいくつか吊るされている。本棚にある本も風化してしまっていて、元がどんな本か判別がつかない状態だ。誰の目からしても、そこが宝物庫であるとは微塵も思えない。
そんな部屋の有り様だというのに、エンカの目は少しも輝きを失ってはいなかった。
「迷宮にある部屋はどこもこんな感じよ。とっても汚くて古臭い。でも質の違いはあれど……」
そう語りながらエンカは、本棚にある本をそっと退けてみた。
「ほら、どこの部屋にもこんなのが眠っているわ」
出てきたものにふうと息を吹き掛け、埃を取り除く。そうして手にした物をカイネルに手渡した。
「これは……ナイフですか?」
カイネルの手には小さな刃物が握られていた。尤も、持ち手から刃に至るまでが錆び付いていて、刃物としての役割は果たせそうにない。全体の形でしかそれが何なのか判断できない程に劣化してしまっている。
とても使えなさそうな状態の短剣を前に首をかしげるカイネル。すると兎が声をかけた。
「まずは町に持ち帰って鑑定に出しましょうか。そうして漸くどんな物か分かるんです。ただの短剣の可能性もありますけど、運が良ければ一攫千金に値する魔法道具かもしれませんよ」
兎はカイネルの手の上から短剣を取ると、道具袋から布を取りだし包み込む。それから丁重に道具袋へ仕舞うと、改めて部屋の探索を開始した。
幾らか探索した結果、収穫は中々だった。
先ず本棚から見つけた短剣。次に壁にかけてあった草臥れた外套。そして机の下にあった髪飾り。どれもこれも丁寧に布でくるみ、いずれかの道具袋に仕舞われている。
「さ、後は戻ってからのお楽しみね」
ある程度の探索を終え、エンカはホクホク顔で床に置いていた自身の荷物を担ぎ上げた。
……その時。
からん。
兎の耳が、聞きなれない音を聴きとった。
始めて聞く音に耳を揺らす兎。続いて魔法による探知網を張っていたシェインが異変に気付く。
「……待ってください。何か……何かが近づいてきます」
突如として、部屋中に緊迫した空気が漂う。
「……ゴブリンか?」
昨日倒したゴブリンの同胞か。そう思ったラインハルトは、兎に詳細を訪ねた。すると兎は首を振る。
「何かはわかりませんが、ゴブリンではありません」
軽い物がぶつかり合うような音が幾重にも連なるが、そこに生物が発する呼吸音、鼓動音は一切聞こえない。
「十や二十じゃありませんよ、これ」
シェインはそう言うと、そそくさと部屋の入り口から離れた。
それが戦闘に備える為の行動であると察したラインハルトらは、すぐに隊列を組み直し、迫り来る物らを待ち伏せる。
暫くすると、ラインハルトの耳にも不気味な音が聞こえてきた。
からん、からん……ガリガリガリ……
前者は訓練の最中、はじけ飛んだ木剣が地面に叩きつけられるような音だ。後者は金属製の何かを石にこすりつけるような音に聞こえる。
どちらも環境音で片付けるには難しい音だった。……少なくとも、四方を石で囲まれた迷宮内にはそぐわない。これが『常に強風が吹いている』だとか『草木が生い茂っている』場所ならばまだ説明もついた。だが迷宮内にそんな場所はまだ見当たらない。
殊更不気味なのは、それらが一定の間隔で、反復して聞こえてくることだ。それはつまり風か何かの仕業ではなく、人為的な仕業であることを指し示す。
息を潜めどれだけの時間がたっただろうか。
一同は、聞こえてくる不気味な音の正体、未知の驚異の存在、後に待つであろう戦闘を少しでも有利に進める為……そうした様々な要因を鑑みて、部屋の中で息を潜ませることを選んだ。
音は、ゆっくりと、だが着実に部屋へと近づいてくる。音の最前線は既に扉の前まで来ているようで、今まさに扉を開け乗り込んできても可笑しくない位近くに聞こえる。しかし、音は部屋の直前まで近づくと、全て鳴りを潜めてしまった。
「……止まった?」
兎の次に耳が良いカイネルがぽつりと呟いた。それはとても小さな声だったが、静まり返った部屋の中にはよく響く。
誰もが戦闘を覚悟していた。
ところがいつまで待っても敵は現れない。それでも息を潜めているうちに一同は、もしかしたら本当は音だけで、外には何もいないのではないか。本当は迷宮内に木が生い茂る場所があり、偶々風が吹いて木が転がってきたのではないか、と思い悩むようになっていた。
思い悩む間も沈黙は続く。その沈黙があまりにも長いので、遂にラインハルトは、一度外を確認しようと槍を下ろした。
その瞬間。部屋の扉が勢いよく開かれた。
『ガアアアア!!!』
部屋に飛び込んできたのは、大量の動く骸骨だった。
大きいものはラインハルトよりも大きく、小さいものは兎よりも小さい。そうした不揃いの骸骨が大挙して押し寄せてきたのだ。
「あれはっ!? スケルトンです!」
敵を視認するや否やシェインが叫んだ。それと同時に、カイネルが二本の矢を放つ。
バキン!!
二つの矢は、それぞれ別の頭蓋骨を貫き、二体の骸骨を倒壊させた。
そこへ間髪いれず、前衛を担うエンカ、ラインハルトが骸骨の群れへ突撃を開始する。
「はあっ!!」
「ふっ!」
二人の攻撃により、瞬く間にスケルトンが三体倒れた。砕けた骨がガラガラと音を立て床を転がっていく。幸い一個体当たりの戦闘力はあまり高くないらしい。また、倒れたスケルトンが再び動き出す気配もない。
ところが、他のスケルトンは床に散らばる尖った骨をつかみ取ると、振り回しながら襲い掛かってきた。
部屋の中心にあった机が吹き飛び、丸椅子が崩れ落ちる。そうして、部屋の中で乱戦が始まった。
そこから先に続く道は無く、分かれ道からこの部屋までは一本道である。つまり、この通路もこれまでと同様行き止まりの道となるわけだが……一行の中で一際文句が多かったエンカに落胆の色は見られない。
エンカが呟く。
「これって……あれよね?」
「……あれ?」
部屋の中を見渡したカイネルは、エンカが微笑む姿を見た。
「宝物が眠る場所。所謂宝物庫ね」
皆その言葉を聞き、部屋の中を見渡す。
部屋の中央には円形の机があり、三人分の椅子が置かれていた。また、壁際には本棚や小机も置いてあって、一定水準以上の環境が整っているように感じられる。一方、照明の類いは一切無く、部屋を照らす明かりはエンカが持つカンテラだけだ。
「とても宝物庫には見えませんけど……」
改めて、カイネルは薄明りの中部屋を見渡した。
光を反射する貴金属類は殆ど見当たらない。机や椅子は木製だったが、色は褪せ、今にも壊れてしまいそうな程朽ちていた。壁には真っ黒な布がいくつか吊るされている。本棚にある本も風化してしまっていて、元がどんな本か判別がつかない状態だ。誰の目からしても、そこが宝物庫であるとは微塵も思えない。
そんな部屋の有り様だというのに、エンカの目は少しも輝きを失ってはいなかった。
「迷宮にある部屋はどこもこんな感じよ。とっても汚くて古臭い。でも質の違いはあれど……」
そう語りながらエンカは、本棚にある本をそっと退けてみた。
「ほら、どこの部屋にもこんなのが眠っているわ」
出てきたものにふうと息を吹き掛け、埃を取り除く。そうして手にした物をカイネルに手渡した。
「これは……ナイフですか?」
カイネルの手には小さな刃物が握られていた。尤も、持ち手から刃に至るまでが錆び付いていて、刃物としての役割は果たせそうにない。全体の形でしかそれが何なのか判断できない程に劣化してしまっている。
とても使えなさそうな状態の短剣を前に首をかしげるカイネル。すると兎が声をかけた。
「まずは町に持ち帰って鑑定に出しましょうか。そうして漸くどんな物か分かるんです。ただの短剣の可能性もありますけど、運が良ければ一攫千金に値する魔法道具かもしれませんよ」
兎はカイネルの手の上から短剣を取ると、道具袋から布を取りだし包み込む。それから丁重に道具袋へ仕舞うと、改めて部屋の探索を開始した。
幾らか探索した結果、収穫は中々だった。
先ず本棚から見つけた短剣。次に壁にかけてあった草臥れた外套。そして机の下にあった髪飾り。どれもこれも丁寧に布でくるみ、いずれかの道具袋に仕舞われている。
「さ、後は戻ってからのお楽しみね」
ある程度の探索を終え、エンカはホクホク顔で床に置いていた自身の荷物を担ぎ上げた。
……その時。
からん。
兎の耳が、聞きなれない音を聴きとった。
始めて聞く音に耳を揺らす兎。続いて魔法による探知網を張っていたシェインが異変に気付く。
「……待ってください。何か……何かが近づいてきます」
突如として、部屋中に緊迫した空気が漂う。
「……ゴブリンか?」
昨日倒したゴブリンの同胞か。そう思ったラインハルトは、兎に詳細を訪ねた。すると兎は首を振る。
「何かはわかりませんが、ゴブリンではありません」
軽い物がぶつかり合うような音が幾重にも連なるが、そこに生物が発する呼吸音、鼓動音は一切聞こえない。
「十や二十じゃありませんよ、これ」
シェインはそう言うと、そそくさと部屋の入り口から離れた。
それが戦闘に備える為の行動であると察したラインハルトらは、すぐに隊列を組み直し、迫り来る物らを待ち伏せる。
暫くすると、ラインハルトの耳にも不気味な音が聞こえてきた。
からん、からん……ガリガリガリ……
前者は訓練の最中、はじけ飛んだ木剣が地面に叩きつけられるような音だ。後者は金属製の何かを石にこすりつけるような音に聞こえる。
どちらも環境音で片付けるには難しい音だった。……少なくとも、四方を石で囲まれた迷宮内にはそぐわない。これが『常に強風が吹いている』だとか『草木が生い茂っている』場所ならばまだ説明もついた。だが迷宮内にそんな場所はまだ見当たらない。
殊更不気味なのは、それらが一定の間隔で、反復して聞こえてくることだ。それはつまり風か何かの仕業ではなく、人為的な仕業であることを指し示す。
息を潜めどれだけの時間がたっただろうか。
一同は、聞こえてくる不気味な音の正体、未知の驚異の存在、後に待つであろう戦闘を少しでも有利に進める為……そうした様々な要因を鑑みて、部屋の中で息を潜ませることを選んだ。
音は、ゆっくりと、だが着実に部屋へと近づいてくる。音の最前線は既に扉の前まで来ているようで、今まさに扉を開け乗り込んできても可笑しくない位近くに聞こえる。しかし、音は部屋の直前まで近づくと、全て鳴りを潜めてしまった。
「……止まった?」
兎の次に耳が良いカイネルがぽつりと呟いた。それはとても小さな声だったが、静まり返った部屋の中にはよく響く。
誰もが戦闘を覚悟していた。
ところがいつまで待っても敵は現れない。それでも息を潜めているうちに一同は、もしかしたら本当は音だけで、外には何もいないのではないか。本当は迷宮内に木が生い茂る場所があり、偶々風が吹いて木が転がってきたのではないか、と思い悩むようになっていた。
思い悩む間も沈黙は続く。その沈黙があまりにも長いので、遂にラインハルトは、一度外を確認しようと槍を下ろした。
その瞬間。部屋の扉が勢いよく開かれた。
『ガアアアア!!!』
部屋に飛び込んできたのは、大量の動く骸骨だった。
大きいものはラインハルトよりも大きく、小さいものは兎よりも小さい。そうした不揃いの骸骨が大挙して押し寄せてきたのだ。
「あれはっ!? スケルトンです!」
敵を視認するや否やシェインが叫んだ。それと同時に、カイネルが二本の矢を放つ。
バキン!!
二つの矢は、それぞれ別の頭蓋骨を貫き、二体の骸骨を倒壊させた。
そこへ間髪いれず、前衛を担うエンカ、ラインハルトが骸骨の群れへ突撃を開始する。
「はあっ!!」
「ふっ!」
二人の攻撃により、瞬く間にスケルトンが三体倒れた。砕けた骨がガラガラと音を立て床を転がっていく。幸い一個体当たりの戦闘力はあまり高くないらしい。また、倒れたスケルトンが再び動き出す気配もない。
ところが、他のスケルトンは床に散らばる尖った骨をつかみ取ると、振り回しながら襲い掛かってきた。
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