探求の槍使い

菅原

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迷宮

骨の群れ

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 スケルトンの動きはどれも不気味だった。歩く姿はぎこちなく、空ろの目は何を見ているのかわからない。中には錆び付いた剣と革製のチェストプレート程度の装備を身に着ける個体もいたが、どれもこれも草臥れていて役に立ちそうになかった。しかもスケルトンは、その武器を何の技術もなしに振り回すだけ。そんな拙い攻撃が、熟練した技術を持つラインハルトらに通用するわけがない。
『ギイイイイ!!』
 声帯もないのにどこから出しているのか、スケルトンは唸り声にも聞こえる雄叫びを出しながら、手に持った鋭い骨を振り回す。その骨の攻撃を掻い潜って、エンカは斧を振り回した。
「えいやぁああ!!」
 覇気の籠った掛け声とともに振られた斧は、尖った骨を持つスケルトンを横から薙ぎ払う。力の限り振り抜かれた斧は、一体のみならず二体目のスケルトンをも粉々に吹き飛ばした。自立する力を失い飛散する骨片が、石壁や石床を打ちばきばきと喧しい音を奏でる。その喧しさをものともせず、ラインハルトが躍り出た。
「はっ!!」
 続けてラインハルトが高速で三つの突きを放つ。その三つの突きは、それぞれ別の頭蓋骨の眉間部分に突き刺さり、忽ち三体のスケルトンを無力化して見せた。

 本来剣や槍という武器は、骨を避けて振るう物であった。そうしなければ忽ち刃は欠け、切れ味が落ちてしまう。即ち肉を断ち切る武器であり、骨のような固いものを砕く際に使う打撃武器とは言えない。一方斧は、元から叩き潰す要素を踏まえて作られた武器であった。自らが持つ重量を用いて、頑強な盾や鎧の上から叩きつけるように使う。槌にもよく似たその性能を見れば、骨のみで出来た体を持つスケルトンには槍よりも余程有利と言えるだろう。
 当然、自身が使う武器の性質をよく知る彼らはそれを知っていた。槍を振るラインハルトよりも、斧を振るエンカの方がスケルトン相手には相性が良い。またラインハルトは、カイネルのように魔法を扱えるわけではなく、槍のみを使う純粋な槍師である。たった一体だけ相手にするならばなんら問題はないかもしれないが、数十のスケルトンを相手にすれば、武器の劣化は免れない。ラインハルト以外の皆はそう思っていた。
 だが、彼の持つ槍は常軌を逸していた。
 師の持つ槍のおかげか、それとも怪しげな武器屋で見つけた槍のおかげか、将又それを融合させた英雄のおかげかはわからないが、どれだけの骨を突き刺しても、切りつけても刃毀れの一つも起こらない。ある時は穂先で貫き、ある時は柄で叩き折る。穂で真横から薙ぎ払い……そうして槍を回転させながら、ラインハルトは多くのスケルトンを倒していく。

 
 戦闘は絶えず続いた。部屋に雪崩込むスケルトンの勢いは衰えず、部屋の中には常に十近いスケルトンが犇めいている。エンカの斧が二体、ラインハルトの槍が三体、カイネルの矢が二体、シェインの魔法が三体それぞれ倒す頃、入り口の戸から再び十体のスケルトンが追加されるのだ。
 スケルトンの強さ自体は気にするほどではない。だが延々と続く戦闘に、一同は焦りを感じ始めた。
「ま、まだ終わらないんですか!?」
 カイネルが叫ぶ。既に持ち込んだ矢は打ち切り、矢筒の中は空っぽだ。それでも彼は、狩りの際に獲物を捌くために使うナイフと魔法を駆使して、迫るスケルトンを撃退している。だが魔力も有限ではない。このまま何時間と続けばいずれは枯渇し、戦況が覆る可能性も十分にある。
「埒が明かん! エンカ! 部屋の外に出るぞ!」
 体力の劣る後衛三人を少しでも楽にさせる為、ラインハルトは部屋の外まで戦線を引き上げる選択肢を選んだ。
 まだ余裕がありそうなエンカに声をかけると、カイネル、シェイン、兎の三人を残し、二人で部屋の外に躍り出る。

 部屋を飛び出したラインハルトは驚愕した。
 通路は決して広くはない。だが一体ずつしか通れない程狭くもない。その通路にびっしりと、髑髏が蠢いている。少なくともカンテラが照らすことのできる距離までは、スケルトンで埋め尽くされているのが見えた。
「……いけるか?」
 額から落ちる汗を腕で拭い、ラインハルトはエンカに尋ねる。するとエンカは、荒れた呼吸を整える為大きく息を吐くと大きな声で答えた。
「はっ! 当然!!」
 二人は犇めくスケルトン目掛け突撃する。
 戦闘はまだ続く。


 呻き声が通路の中を反響し、がらがらと耳障りな音が鳴る。通路での戦闘が始まってから倒したスケルトンはとうに百を超え、足元には踏み場もない程の骨が散らばっていた。
「もう! これ何時まで続くのよ!!」
「黙って倒せ! 体力の無駄だ!」
 口から恨み言を吐きながら、我武者羅に武器を振るう。そうして倒したスケルトンが百二十を超える頃、部屋の中からカイネルとシェインが飛び出した。
 カイネルは先の部屋での戦闘の跡から、使えそうな矢や尖った骨を集めてきて残弾を補充済みだ。シェインも予め持参した魔法薬にて魔力の回復を図っている。これにより再び四人体制になったパーティーは、スケルトンの殲滅速度を上げていった。

 更に時間が過ぎ去った。一体どれだけの数を倒しただろうか。長時間の戦闘に反し体は無傷に等しい。だが精神的な疲労はかなり強く、皆謂うほど余裕もない。戦線自体はじりじりと進み、分かれ道から部屋までの丁度真ん中あたりまで押し上げているが、通路は相変わらずスケルトンで満たされたままだ。
 ここまで来た時、パーティーに追いついた兎が声を上げた。
「この音は……っ! 皆さん! この奥にスケルトンではない何かがいます!」
「はっ! 漸く親玉のお出ましか!?」
 気持ちは焦れど道程は遅々として進まず。それでもラインハルトの槍はぶれることを知らない。一体、二体とスケルトンを倒し、更にパーティーは前進する。

 幾度となく続いた戦いも漸く終わりを迎える。遂に、スケルトンの列の終点が見えたのだ。残すは二十にも満たない数。カンテラの淡い光で見える範囲の中だけでも、最後尾が見えている。
 シェインの手から放たれた光弾がスケルトンを襲う。光弾は群れの最前にいる一体のスケルトンにぶつかると、途端に四散し、後続で揺れるスケルトンの腹を打ち抜く。次いで放たれるカイネルの矢。光弾を受けつつ倒れるまでに至らぬ髑髏の脳天を貫き、止めを刺した。間髪入れずエンカとラインハルトが飛び出し……
「これで……終わり!!」
 エンカの戦斧が最後のスケルトンを砕いた。
「兎! 親玉はどこだ!?」
 立ち上がるスケルトンがいないことを確認し、ラインハルトは叫ぶ。先の戦闘の最中に知らされた、スケルトンならざる者がどこへ行ったのかと。
 ラインハルトの叫びを受け兎は意識を耳に集中した。白く長い耳が、その音を聞き分けんと揺れ動く。そして捉える。二足で高速に動く何者かの足音を。
「広場の方です! ……速い!」
 分かれ道まで来ると兎は広間の方を指さす。それを受け、エンカとラインハルトが通路を駆けだした。
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