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鉱槍蜘蛛との戦いより二十日も経つ頃、シウバリスとカミュラの二人は、かつてシウバリスが活動していた町、アルタナへと訪れていた。シウバリスの家から最寄りの農村へ向かい、街へと出向く乗合馬車に乗り込む。それから揺られること半日ほどの道のりだ。
「どうだい、久しぶりの町は」
「特に変わり映えしないな。まぁ町を出てからまだ二か月も経っていないから当然だろう」
周囲の町の様子を確認しながら、二人は町の傭兵組合へと向かう。彼を知っているのか、将又失った片腕のせいか、時折視線を感じながらも、特に問題もなく組合にはたどり着けた。
「ごめんよ。組合長はいるかい?」
カミュラは受付に立つ男性職員にそう尋ねた。シウバリスは彼女の後ろに控えたまま、対応は全て彼女に任せている。
「組合長ですか? 少々お待ちください」
待たされること暫く、受付の背後にある扉の奥へと通される。かつてシウバリスが組合長のブロウンと出会った部屋だ。そこで更に待っていると、一人の女性が姿を現した。
「お待たせ致しました。当組合の長を務めます‟パロマ”と申します」
「あれ? あんたの話じゃあ嫌なおっさんて話じゃ?」
現れた女性は自身を組合長だと名乗った。黒く長い髪、豊満な体、年はまだ若く二十代は確かだ。とても傭兵稼業を熟しているとは思えないその身なりに、シウバリスは首を傾げた。
「嫌なおっさん……もしやブロウン様の事でしょうか?」
パロマは、カミュラの視線の先にいるシウバリスへと目配せする。
「ああ、私が傭兵だったころはブロウンが組合長を務めていたが……」
「ええ、彼は職権乱用の容疑を受けまして、先日解雇されました」
「職権乱用? 一体何をしたのさ」
パロマの言葉にカミュラが興味を持った。二人は以前ブロウンが行った行動についてあれこれと話し合いを始め、その間シウバリスは思い人へ書いた手紙の事を思い出す。
(恐らく彼女の仕業だろうな)
出された茶を静かに啜るシウバリス。一連の流れを聞き終えたカミュラは、当初の目的を果たす為背負っていた荷物袋から気色の悪いものを取り出した。
「っ!? こ、これは……」
「一部報告は受けているだろうけど、こちらに鉱槍蜘蛛が一匹逃げてきたんだ。それを彼とあたしで討伐した」
「本当ですか!? 鉱槍蜘蛛は一級パーティーで討伐する対象です。それを……たった二人で?」
信じられない報告に狼狽るパロマ。目の前にいる二人の顔をまじまじと見る。
「殆ど彼がやったようなもんさ。あたしは止めを刺しただけ」
「貴方が……素晴らしいです! 貴方はこの組合の会員ですよね? 等級は幾つですか? まだ二級以下ならすぐにでも一級に……」
矢継ぎ早に捲し立てるパロマ。それをカミュラが遮った。
「残念だけど、もう傭兵はやめたんだってさ。それにもう復帰なんて出来ないよ」
カミュラはそういうと、自身の右肩を指さした。はっと息を呑むパロマ。改めてシウバリスの右腕を見る。
「も、もしやその傷は鉱槍蜘蛛との戦いで……?」
「ああ。まぁ命があっただけでもめっけものだ」
顔を青くしたり赤くしたりするパロマ。その様子を見て笑うカミュラ。姦しい二人のやり取りに、シウバリスは大きなため息をつく。
結局、シウバリスが解放されたのは日がすっかり落ちた後だった。何度も傭兵復帰を望むパロマを宥め、外からヤジを飛ばすカミュラを叱り、その最中で鉱槍蜘蛛と出会った一連の流れを話す。その話をする際には当然パロマから、何故一人で森にすみ始めたのか、傭兵を止める際何があったのか、等問い詰められた。当初は一身上の都合だと押しのけていたシウバリスだったが、カミュラが話し始めてしまったので概ねの質問に答えることになってしまった。
二人そろって組合を後にする際、シウバリスはカミュラに苦言を呈す。
「カミュラ。すまないが私のことはあまり他言しないでもらえないか?」
「どうしてだい? 別にいけないことをしていたわけじゃないじゃないか」
「それでもだ。言っただろう? 私は極力人と関わりたくないんだ。出来るだけ情報を残したくない」
「はぁ……難儀な性格だねぇ。ま、いいや。私の仕事ももう終わりだし、南の町に戻ったらもう会うこともないだろうしね。はいこれ」
「……? これは?」
カミュラは何かが入った布袋をシウバリスへ差し出した。暫くそれを怪訝そうに見ていたシウバリスだったが、彼女が一切手を引っ込める様子がなかったので、渋々とそれを受け取る。
「今回の報酬。活性化の調査がメインの依頼だったんだけどさ。討伐した分も報酬が出たんだよ。だからはい。あんたの取り分」
「そうか。……わかった。遠慮なく受け取らせていただく」
確かに布袋を受け取るシウバリス。正直、彼にはとても有難い話だった。鉱槍蜘蛛との戦闘で、彼は多くの物を失った。盾に右腕、各種狩猟道具、唯一残った剣もぼろぼろだ。今回のような有事が再び起きてしまった時の為に、再び幾つかの武装を整えねばならない。
カミュラと別れたシウバリスは、予算と相談しながらも可能な限り装備を整えた。鉱槍蜘蛛討伐の報酬は結構な額で、購入した装備は以前よりも上質な物ばかりだ。また武装品に加え、もう一つ、彼には準備しなければならない物がある。
(片腕の生活はいずれ限界がくる。腕の代わりを探さねば)
失った腕の代替品。所謂義手だ。総数は決して多くはないが、手に入らないわけではない。流石に元の腕のように自由が利くわけではないが、無いよりは遥かにましだろう。更には鉄よりも強固な鈍鋼の盾。鉄より切れ味の良い鋭鋼の剣。戦闘で失った特殊瓶を数種。鎧も新調した。結局全てを揃える頃には、受け取った報酬の殆どが消え去ってしまった。
買い物を終えてから一晩を宿で過ごし、荷物を持って家へと帰宅する。乗合馬車に乗り込み一息つく。慣れぬ義手に加え大荷物を抱えているのだ。その足取りはどうしても重くなる。
荷物もあったせいでシウバリスが自宅につく頃にはとっぷり日が暮れてしまっていた。移動だけだったというのに丸一日歩き続けていたような感覚だ。疲労が無いと言えば嘘になるが、それでも自分の家に帰れたことに安心できた。
「病み上がりにはきつい旅だったな」
一日中抱えていた荷物を家の中に仕舞い、その日はすぐベッドで眠りについた。
「どうだい、久しぶりの町は」
「特に変わり映えしないな。まぁ町を出てからまだ二か月も経っていないから当然だろう」
周囲の町の様子を確認しながら、二人は町の傭兵組合へと向かう。彼を知っているのか、将又失った片腕のせいか、時折視線を感じながらも、特に問題もなく組合にはたどり着けた。
「ごめんよ。組合長はいるかい?」
カミュラは受付に立つ男性職員にそう尋ねた。シウバリスは彼女の後ろに控えたまま、対応は全て彼女に任せている。
「組合長ですか? 少々お待ちください」
待たされること暫く、受付の背後にある扉の奥へと通される。かつてシウバリスが組合長のブロウンと出会った部屋だ。そこで更に待っていると、一人の女性が姿を現した。
「お待たせ致しました。当組合の長を務めます‟パロマ”と申します」
「あれ? あんたの話じゃあ嫌なおっさんて話じゃ?」
現れた女性は自身を組合長だと名乗った。黒く長い髪、豊満な体、年はまだ若く二十代は確かだ。とても傭兵稼業を熟しているとは思えないその身なりに、シウバリスは首を傾げた。
「嫌なおっさん……もしやブロウン様の事でしょうか?」
パロマは、カミュラの視線の先にいるシウバリスへと目配せする。
「ああ、私が傭兵だったころはブロウンが組合長を務めていたが……」
「ええ、彼は職権乱用の容疑を受けまして、先日解雇されました」
「職権乱用? 一体何をしたのさ」
パロマの言葉にカミュラが興味を持った。二人は以前ブロウンが行った行動についてあれこれと話し合いを始め、その間シウバリスは思い人へ書いた手紙の事を思い出す。
(恐らく彼女の仕業だろうな)
出された茶を静かに啜るシウバリス。一連の流れを聞き終えたカミュラは、当初の目的を果たす為背負っていた荷物袋から気色の悪いものを取り出した。
「っ!? こ、これは……」
「一部報告は受けているだろうけど、こちらに鉱槍蜘蛛が一匹逃げてきたんだ。それを彼とあたしで討伐した」
「本当ですか!? 鉱槍蜘蛛は一級パーティーで討伐する対象です。それを……たった二人で?」
信じられない報告に狼狽るパロマ。目の前にいる二人の顔をまじまじと見る。
「殆ど彼がやったようなもんさ。あたしは止めを刺しただけ」
「貴方が……素晴らしいです! 貴方はこの組合の会員ですよね? 等級は幾つですか? まだ二級以下ならすぐにでも一級に……」
矢継ぎ早に捲し立てるパロマ。それをカミュラが遮った。
「残念だけど、もう傭兵はやめたんだってさ。それにもう復帰なんて出来ないよ」
カミュラはそういうと、自身の右肩を指さした。はっと息を呑むパロマ。改めてシウバリスの右腕を見る。
「も、もしやその傷は鉱槍蜘蛛との戦いで……?」
「ああ。まぁ命があっただけでもめっけものだ」
顔を青くしたり赤くしたりするパロマ。その様子を見て笑うカミュラ。姦しい二人のやり取りに、シウバリスは大きなため息をつく。
結局、シウバリスが解放されたのは日がすっかり落ちた後だった。何度も傭兵復帰を望むパロマを宥め、外からヤジを飛ばすカミュラを叱り、その最中で鉱槍蜘蛛と出会った一連の流れを話す。その話をする際には当然パロマから、何故一人で森にすみ始めたのか、傭兵を止める際何があったのか、等問い詰められた。当初は一身上の都合だと押しのけていたシウバリスだったが、カミュラが話し始めてしまったので概ねの質問に答えることになってしまった。
二人そろって組合を後にする際、シウバリスはカミュラに苦言を呈す。
「カミュラ。すまないが私のことはあまり他言しないでもらえないか?」
「どうしてだい? 別にいけないことをしていたわけじゃないじゃないか」
「それでもだ。言っただろう? 私は極力人と関わりたくないんだ。出来るだけ情報を残したくない」
「はぁ……難儀な性格だねぇ。ま、いいや。私の仕事ももう終わりだし、南の町に戻ったらもう会うこともないだろうしね。はいこれ」
「……? これは?」
カミュラは何かが入った布袋をシウバリスへ差し出した。暫くそれを怪訝そうに見ていたシウバリスだったが、彼女が一切手を引っ込める様子がなかったので、渋々とそれを受け取る。
「今回の報酬。活性化の調査がメインの依頼だったんだけどさ。討伐した分も報酬が出たんだよ。だからはい。あんたの取り分」
「そうか。……わかった。遠慮なく受け取らせていただく」
確かに布袋を受け取るシウバリス。正直、彼にはとても有難い話だった。鉱槍蜘蛛との戦闘で、彼は多くの物を失った。盾に右腕、各種狩猟道具、唯一残った剣もぼろぼろだ。今回のような有事が再び起きてしまった時の為に、再び幾つかの武装を整えねばならない。
カミュラと別れたシウバリスは、予算と相談しながらも可能な限り装備を整えた。鉱槍蜘蛛討伐の報酬は結構な額で、購入した装備は以前よりも上質な物ばかりだ。また武装品に加え、もう一つ、彼には準備しなければならない物がある。
(片腕の生活はいずれ限界がくる。腕の代わりを探さねば)
失った腕の代替品。所謂義手だ。総数は決して多くはないが、手に入らないわけではない。流石に元の腕のように自由が利くわけではないが、無いよりは遥かにましだろう。更には鉄よりも強固な鈍鋼の盾。鉄より切れ味の良い鋭鋼の剣。戦闘で失った特殊瓶を数種。鎧も新調した。結局全てを揃える頃には、受け取った報酬の殆どが消え去ってしまった。
買い物を終えてから一晩を宿で過ごし、荷物を持って家へと帰宅する。乗合馬車に乗り込み一息つく。慣れぬ義手に加え大荷物を抱えているのだ。その足取りはどうしても重くなる。
荷物もあったせいでシウバリスが自宅につく頃にはとっぷり日が暮れてしまっていた。移動だけだったというのに丸一日歩き続けていたような感覚だ。疲労が無いと言えば嘘になるが、それでも自分の家に帰れたことに安心できた。
「病み上がりにはきつい旅だったな」
一日中抱えていた荷物を家の中に仕舞い、その日はすぐベッドで眠りについた。
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