正義の味方!

菅原

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1章 

自己紹介

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 少女は森の中を歩いていく。
その足取りに迷いはなく、僕もそのあとに続いた。
辺りは木々が生い茂り、青々しい匂いが漂う。
生物も多いようで、鳥のさえずりや虫のなく声が聞こえた。
 暫く歩いてその町にたどり着く。
そこは見覚えがある場所だった。
『クイカの町』。
僕も行ったことがある場所だ。
大陸の中心にある首都とは遠く離れていて、西の端にあった気がする。
イベントも少なかったため、実装した時に行ったっきりで、それから行ったことはない。
 僕は少女と共に街の中へ入った。
大通りと思われる場所から路地に入り、家と家の間を歩いていく。

 いくつメカの角を曲がった時、僕はその異変に気付いた。
(……ちょっと待て。ここは……入れない場所じゃなかったか!?)
そこは確かに、昔来た時入れなかった区域だった。
アップデートは逐一チェックしていたが、ここが入れるようになった、なんて話は聞いたことがない。
僕は不安になりながらも少女を追う。
 彼女が立ち止まったのは、一件の宿。
少女が中に入っていくと別の女性と会話を始めた。
「お母さん!」
「ん?なんだいなんだい!涙なんか流して!」
開け放たれた戸から、抱きしめ合う二人を黙って見つめる。
これはどう捉えたらいいのだろう。
 かつてのゲームではありえないイベントに、マップ。
そして会話ができるNPC。
自分の置かれる状況に恐怖を覚えてくる。
 少女がお母さんと呼んだ女性が、僕に気付き声をかけてきた。
「あら、そちらは?」
僕は会釈をすると、少女が説明を始めた。

「というわけなの!」
説明を効いた彼女の母親は、笑いながら答える。
「なんだぁ、私はてっきり、色気のない娘が男を連れてきたもんだから……」
「お母さん!」
「まぁ、冗談は置いておいて、娘を助けてくれたみたいで、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀されたので合わせて会釈を返す。
 どう考えてもNPCとできるコミュニケーションを超えている。
僕はいてもたってもいられず、直接聞きだすことにした。
「あの……貴女達は、プレイヤー……なんですか?」
「ぷれいやー?」
二人とも首をかしげる。
キャラクターになりきっているのか、本当に知らないのか。
反応からは後者だと思われた。

 二人は狼狽える僕を中に招き入れ、一杯の果実水を出してくれた。
「今美味しいもの出しますから待っててください」
そういって少女は台所に引っ込んでいく。
 ほのかに香る柑橘系の匂い。
大人しくそれに口をつける。
すると……
(美味い。うま……い?あ、味がある!?)
そういえばさっきから匂いも感じる。
 ゲームの中では食べ物も所詮はデータ。
味なんてものはなく触感や、匂いといったものもない。
だが差し出された水からは、確かに果実の匂いと、甘みを感じることが出来た。
僕は現実に戻ったのかもしれないと、自分の体を慌てて確認するも、当然僕の体は、あのゲームのキャラクターの姿のままだ。
 困惑に沸騰する頭を果実水で落ち着ける。

「そういえば、名前効いてませんでしたね」
慌てる僕の前に料理が入った皿を持って来た少女はそういった。
「私の名前は“ヤナ・リュエン”といいます。年は18です。冒険者さんの名前を聞いてもいいですか?」
僕は本名を言おうかどうか、すごく悩んだ結果、キャラクター名を口にする。
「ガロンです……年は28」
 少女は……ヤナは僕の名前を小さく呟くと、母親の下へかけていった。
テーブルに置かれた皿の上には、美味そうな匂いを漂わせる魚の煮物のようなもの。
ぐぅ
腹が鳴った。
僕は再び思考を放棄して、料理を食べ始める。
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