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14 回復魔法?

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「グレイ達は撒けたようだよ。少しペースを落としても大丈夫だよ。」

 クマ擬きの背中に乗り15分ほど移動した所で涼はクマ擬きに声を掛ける。ずっとクマ擬きが全速力で走っていたので、涼の腰はそろそろ限界であった。

『そうか。間もなく到着するがこぞうには迷惑を掛ける。』

 クマ擬きが走る速度を下げる。腰への負担が減り、涼はホッと息を吐く。

「困った時は助け合わないと。それより、あの子を救いたいって話していたけど、一体何があったの?」

『病じゃ。数日前から頭やお腹が痛いと言っていた。ワシも栄養価の高い木の実を食べさせたりしたが、全く良くならん。そこで誰かに助けを求めることにしたんじゃ。』

 病気か。この世界の病気は分からないけど、光魔法で回復ができるような話をグレイが口にしていた気がする。出来るか分からないけど、挑戦する価値はあるよね。

『…なあ、あの子に会う前にワシも一つ聞いていいか。』

「何?」

 クマ擬きの声のトーンが下がる。背中に乗っているので顔は見えないが真剣な顔をしているだろう。

 今いる場所が木が多く日陰なのが真剣な話しをする雰囲気に合い、僕はゴクリとつばを飲む。

『こぞうはあの子が魔人でも助けてくれるのか?』

「なんだ。そんな事か。ビックリさせないでよ。魔人か人かなんて関係ないよ。」

 どんな話しがくるのかドキドキしていた僕は、ほっとする。目的地に行く道に凶悪な魔物の住みかがあるから、一緒に戦ってほしい。とか、予想してたよ。

『…。』

「どうしたの。目的地に着いたの。」

『着いてはおらん。』

 クマ擬きが減速してそのまま止まってしまった。道を間違えたのかな。

『こぞうは変り者じゃな。』

「ああ、僕は地球人だからそう思うんじゃない。」

 変り者と言われた事に多少ショックは受けるが、異世界の常識を知らないので仕方ない。
 
『はああああ~!!』

「痛ぁ。」

 クマ擬きが驚いて立ち上がったので、涼はクマ擬きの背中から転がる。しかも綺麗に後転して近くの木に頭をぶつけた。痛い。たんこぶ出来たかも。

『こ、ここ、こぞうが地球の落ち人ぉ。つまり、つまり…お主は勇者か!?』

「そうらしいね。僕もさっき知ったばかりだけど、よく分かったね。」

『当然じゃ。地球の落ち人は勇者か聖女に決まっておる。まさか勇者に助けを求めるとは…。じゃが、他に助けてくれる者はおらん。ワシはどうすればいいんじゃ。勇者は魔族の敵。ラスボスじゃ。信用ならん。あっ、さてはあの子の所に案内だけさせて、あの子を殺すつもりじゃな。』

「違うから。」

 変な勘違いをしている。でも勇者が魔族の敵と考えるのは普通か。地球でも勇者が魔王を倒して幸せになる物語は多い。
 僕は他の勇者と同じ人間だ。魔族の敵だとクマ擬きは判断したんだ。僕は魔族を倒すつもりはない。だってーー。

「友達が言ってたんだ。種族関係なくみんなが仲良く暮らせる世界を作りたいって。確かにクマ擬きの言うように、その子が悪い魔人なら僕は倒すかもしれない。けど良い魔人なら僕は助けたいし、仲良くしたい。」
 
 まあ魔法の練習は殆んどしてないから、確実に僕の方が先にクマ擬きに倒されるけどね。

 …あれ?そう考えると今の状況って結構ヤバい。助けたいって感情だけで動いたけど、僕に出来る事は少ない。もし、その子を救えなくて怒ったクマ擬きに攻撃されたら…。

 感情だけで動くのダメ。グレイ早く追い付いて~。

『代わった勇者じゃ。』

「何か言った?」

『乗れと言った。早く行くぞ。』

 クマ擬きが涼の服を噛むと涼を空高く投げた。お、おお、落ちる。と、地面にぶつかる衝撃を覚悟した僕は咄嗟に目を瞑る。だが、思っていた衝撃がなく、ゆっくりと目を開ける。

『全速前進じゃ。』

「早いよ。こわいよ。落ちるよぉ。」

 クマ擬きの背中に着地した涼は、慌ててクマ擬きの首に腕を回す。クマ擬きは涼が乗ると全速力で駆け出した。腰が痛いとか、腕が痛いとか言ってる場合じゃない。涼は振り落とされないよう腕に力を込めた。







『さあ、目的地に着いたぞ。この洞窟の奥にあの子は居る。おや?こぞう元気がないようだがどうした?』

「…少し休憩させて。」

 体に力が入らない。グレイ達から逃げる時は全速力ではなかったんだ。あの時は茂みや木等の障害物のある走りづらい場所をわざと選んで走っていた。それが追っ手がいなくなり、クマ擬きが走りやすい場所を選んで走る。速度が違って当然だ。

『こぞうは体力が無いのう。ワシはあの子を連れて来るから、少し休憩しとれ。』

「すいません。」

 地面に寝転び、ぐったりとする僕にクマ擬きが気を使ったようだ。クマ擬きは2本足で器用に立つと、洞窟の中へ入っていった。
 病人に来てもらうのは申し訳ないが、今の内に休んで体力を回復させよう。…回復。



「体力よ、元に戻れ!」


 しーん。何も起こらなかった。魔法で体力の回復するかやってみたけど無理だった。魔法はまだ覚え初めだもんね。仕方のない事だが、こんな調子でクマ擬きが連れて来る子の病気を治せるのかな。

 こんな時近くにグレイが居たら、アドバイスを貰えるのにな。教わった事は頭でイメージする力が大切だ。って、くらいだもんね。


だるいの、疲労よ、飛んでいけ。」


 今度は外へ投げ捨てる感じでやってみた。呪文は「痛いの」より、今の自分にはこっちが合ってるとアレンジしてみた。僕自身これで治るとは思ってなかった。ただ、頭にふと浮かんだ。そんな軽い気持ちだった。

 やっぱり何も起こらないかと落胆すると、体から黒い球が出現したのだ。球は暫く僕の上空を浮かんでいたが、3つに分裂すると2つは森に、もう1つは洞窟の中へ飛んでいった。そして自分でもビックリするくらい元気になる体。
 
「ウソだよね。」

 なんと回復しました。魔法って便利だな。これなら、病気の女の子も治せるかも。と、自信が出てきたその時だった。

『ぎゃあ~‼』

 洞窟の中から突如クマ擬きの悲鳴がした。クマ擬きの身に何か起きたのか。僕は急いで洞窟に近付く。洞窟の外から中を覗くが真っ暗でクマ擬きの居場所は分からない。

「照らして。」

 魔法で小さな火と光の球を量産すると、洞窟へ放った。球は洞窟の至る所に配置される。これで進める。僕は走った。

「じぃじ、じぃじ。」

「見つけた。」

 別れ道の前で倒れるクマ擬きと、その横で泣きながら声を掛け続ける5才位の女の子を発見した。この子がクマ擬きの話していた病気の女の子。聞いていた話より元気そうだ。

 女の子は僕に気付くと、クマ擬きの体で自分を隠すようにして僕を伺う。女の子は重い病気では無さそう。今は倒れたクマ擬きが優先だ。

「大丈夫。ここで何が合ったの。」

『こぞうか。実は謎の黒い球体が襲ってきて、この子を守ろうと咄嗟に攻撃を受けたんじゃ。そしたら、急に体がふらつき近くの小石に躓いてワシは、…ワシはぎっくり腰になってしまったんじゃ‼あっ、いててっ。』
 
「だいじょうぶぅ。」



 謎の黒い球体。どうやら僕は気付かない内にクマ擬きを攻撃してしまった様だ。
 
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