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第一章:第二王子の婚約者
05
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約束通りリュカ殿下のお母様アシュリ様は、リュカ殿下の子供頃の話を聞く事ができた。
『カエルが目の前に飛び出して泣いたり、虫が身体に付いて泣いたり、本当に泣き虫だったのよ』
「私もカエルや虫は苦手だからなんとも言えないですけど」
『女の子はいいのよ。その方が男の子は、女の子を守りたくなるよ。――そうそう、夜中に自分の影に驚いて騒ぎになった事もあるのよ』
楽しそうに話すアシュリお義母様。
泣いた話ばっかり話されているリュカ殿下は気の毒に思うけど、今はクールでかっこいい姿しか見たことないから嬉しく思う。無愛想というわけでは無いけど、笑ったところはまだ見たことは無い。
リュカ殿下の子供時代の話が聞けるなんて貴重なことよね。
そういえば――。
前世で、ワンちゃんの散歩のとき、いきなり大きな黒い影が現れて悲鳴を上げて驚いたことを思い出した。自分の影を見て驚いた。
近くにいた近所のおばさんや、知らない人達が何事かと私の方を見ていて、居た堪れなくなり、早く逃げなくてはと、気持ちだけが焦って、悪い事をした気分になった。つい最近の高校生の時の出来事。
高校生にもなって、自分の影に驚いたことが恥ずかしくて、居た堪れなくて、穴があったら入りたいって、正に今の私の状況のことだと身を持って知った。
人間は不思議な生き物で、自分と似ているものに親近感が湧く。
『今じゃ考えられないでしょ? 子供が大きくなるのは早いものね』
懐かしそうに、それと同時に寂しそうな顔。本当はもっと一緒に過ごしたかったに違いない。母として愛情を注ぎ抱きしめたり、時には厳しく、子供の成長を間近で見守りたかったはず。急に、命を落とされて嘸かし無念だったはず。
この能力が無ければこうしてリュカ殿下の子供の話をお義母様から聞けることは無かったと思うと、怖い思いばっかりした記憶も流すことまではできないけど良かった思える。
明日、話を聞いてみようと思う。
口止めはされていないし、アシュリお義母様から聞いた話を訊ねてみることにした。
翌朝――。
いつも通りに一緒に朝食を食べている時、ステラは早速、リュカ殿下に訊ねる。
「リュカ殿下は今でも、カエルや虫は苦手ですか?」
言い方を間違えてしまった。"今でも"と、聞くと、知っているように聞こえる。アシュリお義母様から聞いているから間違えてはいない。
まあいいかとステラは思い直した。
「――今も昔も苦手ではない」
動揺する素振りが見えたけど、知られたくなかったのかな? 或いは、何故? 知っているって気持ちか、または両方かな? ふふふ、リュカ殿下が私を見つめる姿が可愛い。
「私は苦手です。あのグロディスクな生き物、目の前を通り過ぎるだけ鳥肌が立ちます」
リュカ殿下は何故、いきなりその様な事を話すのか当然わかっていない。まさか、知らないうちに御自分のお母様から子ども時代の話されているなんて夢にも思わないでしょうし。すごく可愛く思える。
今、目の前にいるリュカ殿下が、カエルや虫が目の前を通ったり、くっ付いただけで泣くぐらいに怖かったことや、自分の影に驚いた経験がある事に。やっぱり、今のリュカ殿下からは想像できない。思い出してはにやけそうになる顔を引き締めて無を作る。
ちょっと険しそうに見つめられているけど、その姿さえも可愛く見えるから不思議に思う。
食べ終わったのでいつものように、手を合わせて言葉を告げる。
「ご馳走様です」
初頭の頃を思い出す。
食前後に「いただきます」や「ご馳走様です」と告げる文化は無く、何をしているだと不審に思われたことを、癖というものは怖いなってその時に思った。そして、私はこう答えた。
――全てものに命があり、命を頂く事への感謝の言葉でもあり、この食材に料理に関わった農家やシェフ達の感謝の言葉なんです。と、伝えた事を思い出す。そして、リュカ殿下は「いい言葉だな」と、答えた。今では、リュカ殿下も言ってくれるようになった。
食べ終わった皿を使用人が片付けて、いつも通りにリュカ殿下を見送るのが日課になっている。
「いってらっしゃい」
「行ってくる」
見送る必要ないって、始めのうちは言われたけど、忘れているふりをして続けていたら、今じゃ日課になって、リュカ殿下も諦めて受け入れている。
好きにして良いとも言われたからね、好きにしているだけと、言い聞かせて。
新婚ホヤホヤの夫婦みたいで楽しいしね。
……まだ、結婚はしていないけど。
本当に厭ならもっと強く拒否しているはずと勝手に解釈している。
✳︎ ✳︎
「殿下、――調査の結果でございます」
リュカは、パラパラと巡りながら例の結果を読んでいく。
「非道なもんだな」
書類の内容は、屋根裏部屋に押し込められて、一日一食のお粗末な食事。その一日一食の食事も無い日もあったと書かれている。
使用人紛いな雑務を押し付けられ、気に入らない時には手を挙げられていたとも書かれている。
血の分けた実の父親コールテン・カメロン伯爵は見てみにふり、伯爵夫人と異母妹のやりたい放題で、昔からの使用人やステラ嬢に良くする使用人は何かと理由をつけて辞めされたと。
伯爵夫人や異母妹の味方の使用人からも同等の扱いを受けていたと、カメロン家の元使用人からの証言。
「カメロン伯爵は婿のはずだが……」
形式な後継者のステラ嬢を懸念に扱い、カメロン伯爵家と関係ない、仮の伯爵夫人でしか無い女のやりたい放題で、異母妹のアンジェラはステラ嬢と半分血は繋がってはいるが、カメロン伯爵家と関係のない他人でしかない。
「御認識に通りです」
病的なくらいに痩せ細っていたから何かある事は、重々に既知の上だが、此処まで酷い状況とは思いもしなかった。
手に力が入り、紙がくしゃくしゃになる。
「如何致しますか?」
「ステラ嬢にまずは話を聞く」
「素直に話してくれるでしょうか」
「わからない」
わからない。と、答えたが素直に話すとは到底に思えない。
口止めされているに違いない。
口止めされていても彼女の状況を見れば一目瞭然なんだが、俺になら暴露ても問題ないと思ったか。彼女と同様に噂が絶えないから見逃してくれるとたかを括ったか。或いは馬鹿にしているか。
リュカはステラの部屋の前まで出向き、扉を叩く。
「はーい。――少しお待ちください」
壁を挟んだ向こう側からステラの声が聞こえてきて、扉が開く。
「――リュカ殿下」
「聞きたいことがある、入っていいか?」
「はい、どうぞ」
ステラ嬢に招かれて部屋へと入る。
一つ屋根の下で共に暮らしてはいたが、ステラ嬢の部屋に入るのは初めて妙にそわそわする。
気を取り直して、目的を思い出した。
「何でしょうか?」
「君は、――ステラ嬢は虐待されていたのか?」
直接過ぎたか。もう少しマイルドに聞くべきだったかと考えていると、それが何かと言いたげで見つめる。
少し考えた後、頷き控えめに肯定の言葉を口にした。
「――…はい」
「やはりそうか。悪いと思ったが、君の事を調べてもらった」
「ふふ、やっぱりリュカ殿下は優しいですね」
「怒らないのか?」
勝手にプライベートの事を調べられて嫌な気分にさせたかと危惧したが、ステラは不思議に首を傾げる。
「怒る? そんな事はあり得ません。――私の姿を見て、可笑しいと判断なさったから調べてくれたのでしょう? 一ミリの興味がなければ気付きません」
「ステラ嬢は、どうしたい」
「私は、もうあの家と関わりたくないので何もしなくてもいいです。リュカ殿下が気づいてくれた、それだけで私は救われた気分です」
「わかった。君の望むようにしよう」
「ありがとうございます」
彼女が降伏を願っていないなら目を瞑ることにしよう、今は――。
だが、再び、彼女を傷つけるよう事が有れば、その時は已む得ない。
彼女が望まなくても、法のもと裁きを受けて貰う。
取り敢えず、引き出しの奥に閉まって、その時に備えて今後も調査を進めなくてはならない。
何か変な動きが有れば直ぐ対応できるように。
『カエルが目の前に飛び出して泣いたり、虫が身体に付いて泣いたり、本当に泣き虫だったのよ』
「私もカエルや虫は苦手だからなんとも言えないですけど」
『女の子はいいのよ。その方が男の子は、女の子を守りたくなるよ。――そうそう、夜中に自分の影に驚いて騒ぎになった事もあるのよ』
楽しそうに話すアシュリお義母様。
泣いた話ばっかり話されているリュカ殿下は気の毒に思うけど、今はクールでかっこいい姿しか見たことないから嬉しく思う。無愛想というわけでは無いけど、笑ったところはまだ見たことは無い。
リュカ殿下の子供時代の話が聞けるなんて貴重なことよね。
そういえば――。
前世で、ワンちゃんの散歩のとき、いきなり大きな黒い影が現れて悲鳴を上げて驚いたことを思い出した。自分の影を見て驚いた。
近くにいた近所のおばさんや、知らない人達が何事かと私の方を見ていて、居た堪れなくなり、早く逃げなくてはと、気持ちだけが焦って、悪い事をした気分になった。つい最近の高校生の時の出来事。
高校生にもなって、自分の影に驚いたことが恥ずかしくて、居た堪れなくて、穴があったら入りたいって、正に今の私の状況のことだと身を持って知った。
人間は不思議な生き物で、自分と似ているものに親近感が湧く。
『今じゃ考えられないでしょ? 子供が大きくなるのは早いものね』
懐かしそうに、それと同時に寂しそうな顔。本当はもっと一緒に過ごしたかったに違いない。母として愛情を注ぎ抱きしめたり、時には厳しく、子供の成長を間近で見守りたかったはず。急に、命を落とされて嘸かし無念だったはず。
この能力が無ければこうしてリュカ殿下の子供の話をお義母様から聞けることは無かったと思うと、怖い思いばっかりした記憶も流すことまではできないけど良かった思える。
明日、話を聞いてみようと思う。
口止めはされていないし、アシュリお義母様から聞いた話を訊ねてみることにした。
翌朝――。
いつも通りに一緒に朝食を食べている時、ステラは早速、リュカ殿下に訊ねる。
「リュカ殿下は今でも、カエルや虫は苦手ですか?」
言い方を間違えてしまった。"今でも"と、聞くと、知っているように聞こえる。アシュリお義母様から聞いているから間違えてはいない。
まあいいかとステラは思い直した。
「――今も昔も苦手ではない」
動揺する素振りが見えたけど、知られたくなかったのかな? 或いは、何故? 知っているって気持ちか、または両方かな? ふふふ、リュカ殿下が私を見つめる姿が可愛い。
「私は苦手です。あのグロディスクな生き物、目の前を通り過ぎるだけ鳥肌が立ちます」
リュカ殿下は何故、いきなりその様な事を話すのか当然わかっていない。まさか、知らないうちに御自分のお母様から子ども時代の話されているなんて夢にも思わないでしょうし。すごく可愛く思える。
今、目の前にいるリュカ殿下が、カエルや虫が目の前を通ったり、くっ付いただけで泣くぐらいに怖かったことや、自分の影に驚いた経験がある事に。やっぱり、今のリュカ殿下からは想像できない。思い出してはにやけそうになる顔を引き締めて無を作る。
ちょっと険しそうに見つめられているけど、その姿さえも可愛く見えるから不思議に思う。
食べ終わったのでいつものように、手を合わせて言葉を告げる。
「ご馳走様です」
初頭の頃を思い出す。
食前後に「いただきます」や「ご馳走様です」と告げる文化は無く、何をしているだと不審に思われたことを、癖というものは怖いなってその時に思った。そして、私はこう答えた。
――全てものに命があり、命を頂く事への感謝の言葉でもあり、この食材に料理に関わった農家やシェフ達の感謝の言葉なんです。と、伝えた事を思い出す。そして、リュカ殿下は「いい言葉だな」と、答えた。今では、リュカ殿下も言ってくれるようになった。
食べ終わった皿を使用人が片付けて、いつも通りにリュカ殿下を見送るのが日課になっている。
「いってらっしゃい」
「行ってくる」
見送る必要ないって、始めのうちは言われたけど、忘れているふりをして続けていたら、今じゃ日課になって、リュカ殿下も諦めて受け入れている。
好きにして良いとも言われたからね、好きにしているだけと、言い聞かせて。
新婚ホヤホヤの夫婦みたいで楽しいしね。
……まだ、結婚はしていないけど。
本当に厭ならもっと強く拒否しているはずと勝手に解釈している。
✳︎ ✳︎
「殿下、――調査の結果でございます」
リュカは、パラパラと巡りながら例の結果を読んでいく。
「非道なもんだな」
書類の内容は、屋根裏部屋に押し込められて、一日一食のお粗末な食事。その一日一食の食事も無い日もあったと書かれている。
使用人紛いな雑務を押し付けられ、気に入らない時には手を挙げられていたとも書かれている。
血の分けた実の父親コールテン・カメロン伯爵は見てみにふり、伯爵夫人と異母妹のやりたい放題で、昔からの使用人やステラ嬢に良くする使用人は何かと理由をつけて辞めされたと。
伯爵夫人や異母妹の味方の使用人からも同等の扱いを受けていたと、カメロン家の元使用人からの証言。
「カメロン伯爵は婿のはずだが……」
形式な後継者のステラ嬢を懸念に扱い、カメロン伯爵家と関係ない、仮の伯爵夫人でしか無い女のやりたい放題で、異母妹のアンジェラはステラ嬢と半分血は繋がってはいるが、カメロン伯爵家と関係のない他人でしかない。
「御認識に通りです」
病的なくらいに痩せ細っていたから何かある事は、重々に既知の上だが、此処まで酷い状況とは思いもしなかった。
手に力が入り、紙がくしゃくしゃになる。
「如何致しますか?」
「ステラ嬢にまずは話を聞く」
「素直に話してくれるでしょうか」
「わからない」
わからない。と、答えたが素直に話すとは到底に思えない。
口止めされているに違いない。
口止めされていても彼女の状況を見れば一目瞭然なんだが、俺になら暴露ても問題ないと思ったか。彼女と同様に噂が絶えないから見逃してくれるとたかを括ったか。或いは馬鹿にしているか。
リュカはステラの部屋の前まで出向き、扉を叩く。
「はーい。――少しお待ちください」
壁を挟んだ向こう側からステラの声が聞こえてきて、扉が開く。
「――リュカ殿下」
「聞きたいことがある、入っていいか?」
「はい、どうぞ」
ステラ嬢に招かれて部屋へと入る。
一つ屋根の下で共に暮らしてはいたが、ステラ嬢の部屋に入るのは初めて妙にそわそわする。
気を取り直して、目的を思い出した。
「何でしょうか?」
「君は、――ステラ嬢は虐待されていたのか?」
直接過ぎたか。もう少しマイルドに聞くべきだったかと考えていると、それが何かと言いたげで見つめる。
少し考えた後、頷き控えめに肯定の言葉を口にした。
「――…はい」
「やはりそうか。悪いと思ったが、君の事を調べてもらった」
「ふふ、やっぱりリュカ殿下は優しいですね」
「怒らないのか?」
勝手にプライベートの事を調べられて嫌な気分にさせたかと危惧したが、ステラは不思議に首を傾げる。
「怒る? そんな事はあり得ません。――私の姿を見て、可笑しいと判断なさったから調べてくれたのでしょう? 一ミリの興味がなければ気付きません」
「ステラ嬢は、どうしたい」
「私は、もうあの家と関わりたくないので何もしなくてもいいです。リュカ殿下が気づいてくれた、それだけで私は救われた気分です」
「わかった。君の望むようにしよう」
「ありがとうございます」
彼女が降伏を願っていないなら目を瞑ることにしよう、今は――。
だが、再び、彼女を傷つけるよう事が有れば、その時は已む得ない。
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