2 / 7
1章
7時
しおりを挟む
6時40分。SBI(学校捜査局)捜査チームの一つのボス、スーザン・ベケットは、硝子張りのオフィスの会議室にチームを集めていた。会議室の中心にあるホワイトボードには、事件の詳細や被疑者の顔が張り出され、広い机の上には捜査資料が並んでいる。
チームのメンバーは、自分を含めて6名。副官に置いているリアム・コナー、現場部隊のジャクソンとカミングス。分析官のティム・リー、そして新入りのマイケル・シーン。
そこまで複雑な事件ではないし、少し詰めの甘い被疑者だから朝を狙えば確実に確保できる。だが、ベケットは被疑者への警戒心を確保するその瞬間まで、緩める気はなかった。
「7時きっかりに男子寮に到着すること。部屋の前で待機して。気は決して抜かないで。」
ベケットは集めたチームに向けて、なるだけ落ち着いた声で、一人一人の目を見た。
「もっと早く待機した方がいいのでは?逃げられるかも。」
副官のリアム・コナーは低い声で言った。だが彼が憂わしげな表情になるのは無理もない。被疑者には職員室から試験問題と解答を盗み出した前科がある。
「そうしたいけど、規則よ。もどかしいけど我慢して。」
ベケットは淡白に返事をした。本当に規則を守るのなら7時にオフィスを出なければならないのである。これでも特別措置なのだ。
「ジャクソン、カミングス、行ってきて。シーンも連れて行って。ティム、監視カメラを見てて。」
ベケットが指示をすると、みな『了解』と言って会議室を出て行った。現場部隊はキビキビとオフィスを出発した。
6時55分。無線が入った。
“準備完了。待機します。”
現場部隊が被疑者の部屋の前でぴったりと張り付いたようだ。
「7時ぴったりに突入して。絶対逃がさないで。」
“了解”
張り詰めた空気が流れた。ベケットもコナーも一言も発しなかった。刻々と時計の針が時間を刻んでいた。時この5分間が永遠のように思える。時計の針はようやく7時を指した。現場部隊が突入した。ベケットはごくりと生唾を飲み、逮捕の連絡を待った。
“アンドリュー・パーカーは部屋にはいません。”
無線で報告を受けたベケットは肩を落とす。苛立った憤りがじりじりと胸の奥に食い込んでいた。察知して逃げるとは。してやられた。
「コナー、アンドリュー・パーカーを指名手配して。」
コナーは了解といって、ズンズンと会議室を出て行った。入れ替わるように、分析官のティムがベケットのオフィスへ入ってきた。
「ボス、突入チームの準備が整う2分前にはパーカーは部屋を出ています。彼の部屋の前にある監視カメラが捉えてました。」
「なぜ早く言わなかったのよ?」
「僕のミスで、カメラにアクセスするのに時間がかかりました。不注意です。すみません。」
「その後は?」
ベケットはミスをしたというのに飄々としているティムを前に、じんじんと音を立てて湧き上がってくる怒りをなんとか押さえつけていたが、口調は強まるばかりだった。
「抜け目がないようで、どこにも映ってません。まだ寮の中に潜んでいるかと。」
「分かった。今後も監視を続けて」
「了解、ボス。」
ティムはそう返事をして、部屋から出ていそいそと自分のデスクへ戻っていった。ベケットは無線を手に取って現場部隊からの報告を促した。
”部屋は証拠品の宝庫です。これまでの盗品と思われるものがベッドの下にわんさかと。”
「ありがとうジャクソン。手分けして、寮の中も捜索して。まだ外には出てないはず。」
”了解”
悪事を働き、逃げおおせるのは許さない。この世には誠実に生きている人が多くいるのだ。卑怯者が得をする社会であってたまるか。
ベケットは息を大きく吸い込み、ふっと鋭く吐き出した。彼女のつくる捜査網をかいくぐるのは不可能だ。
チームのメンバーは、自分を含めて6名。副官に置いているリアム・コナー、現場部隊のジャクソンとカミングス。分析官のティム・リー、そして新入りのマイケル・シーン。
そこまで複雑な事件ではないし、少し詰めの甘い被疑者だから朝を狙えば確実に確保できる。だが、ベケットは被疑者への警戒心を確保するその瞬間まで、緩める気はなかった。
「7時きっかりに男子寮に到着すること。部屋の前で待機して。気は決して抜かないで。」
ベケットは集めたチームに向けて、なるだけ落ち着いた声で、一人一人の目を見た。
「もっと早く待機した方がいいのでは?逃げられるかも。」
副官のリアム・コナーは低い声で言った。だが彼が憂わしげな表情になるのは無理もない。被疑者には職員室から試験問題と解答を盗み出した前科がある。
「そうしたいけど、規則よ。もどかしいけど我慢して。」
ベケットは淡白に返事をした。本当に規則を守るのなら7時にオフィスを出なければならないのである。これでも特別措置なのだ。
「ジャクソン、カミングス、行ってきて。シーンも連れて行って。ティム、監視カメラを見てて。」
ベケットが指示をすると、みな『了解』と言って会議室を出て行った。現場部隊はキビキビとオフィスを出発した。
6時55分。無線が入った。
“準備完了。待機します。”
現場部隊が被疑者の部屋の前でぴったりと張り付いたようだ。
「7時ぴったりに突入して。絶対逃がさないで。」
“了解”
張り詰めた空気が流れた。ベケットもコナーも一言も発しなかった。刻々と時計の針が時間を刻んでいた。時この5分間が永遠のように思える。時計の針はようやく7時を指した。現場部隊が突入した。ベケットはごくりと生唾を飲み、逮捕の連絡を待った。
“アンドリュー・パーカーは部屋にはいません。”
無線で報告を受けたベケットは肩を落とす。苛立った憤りがじりじりと胸の奥に食い込んでいた。察知して逃げるとは。してやられた。
「コナー、アンドリュー・パーカーを指名手配して。」
コナーは了解といって、ズンズンと会議室を出て行った。入れ替わるように、分析官のティムがベケットのオフィスへ入ってきた。
「ボス、突入チームの準備が整う2分前にはパーカーは部屋を出ています。彼の部屋の前にある監視カメラが捉えてました。」
「なぜ早く言わなかったのよ?」
「僕のミスで、カメラにアクセスするのに時間がかかりました。不注意です。すみません。」
「その後は?」
ベケットはミスをしたというのに飄々としているティムを前に、じんじんと音を立てて湧き上がってくる怒りをなんとか押さえつけていたが、口調は強まるばかりだった。
「抜け目がないようで、どこにも映ってません。まだ寮の中に潜んでいるかと。」
「分かった。今後も監視を続けて」
「了解、ボス。」
ティムはそう返事をして、部屋から出ていそいそと自分のデスクへ戻っていった。ベケットは無線を手に取って現場部隊からの報告を促した。
”部屋は証拠品の宝庫です。これまでの盗品と思われるものがベッドの下にわんさかと。”
「ありがとうジャクソン。手分けして、寮の中も捜索して。まだ外には出てないはず。」
”了解”
悪事を働き、逃げおおせるのは許さない。この世には誠実に生きている人が多くいるのだ。卑怯者が得をする社会であってたまるか。
ベケットは息を大きく吸い込み、ふっと鋭く吐き出した。彼女のつくる捜査網をかいくぐるのは不可能だ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる