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木の国《ドレスデン》編 風の王子
1-2 見られた秘密
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◆
陽気な晴れ空の下、レンツブルク郊外に伸びる農道をゼフィール達は歩いていた。周囲に広がる耕作地にはカブが植えられ、陽の光を受けてすくすくと育っている。あと数週間もすれば収穫され、人や家畜の胃袋を満たすのだろう。
「リアン、まだー?」
「まだー? って言われてもさぁ。酒場で言われた集合場所だとそろそろのハズなんだけど……」
のんびりと景色を楽しんでいるゼフィールの横でユリアが欠伸をした。爽やかな風の吹きぬける農道を歩く事は、ゼフィールにとっては心地良い散歩なのだが、ユリアには暇らしい。
そんな二人の前を歩きながら、リアンは手に持った紙と景色を見比べながら必死に周囲を見回している。そうこうしている間に何かを見つけたのか、目を輝かせて道の先を指さした。
「あ、あった。多分、あそこに見える大木だよ。木の下に人立ってるし。あの人が依頼人のマルガレーテさんじゃないかな?」
リアンの指さした先には古ぼけた小屋が見える。その小屋を囲う崩れかけた塀の外側に生える大木。その下に一人の人物が立っていた。
こんな僻地に不自然に立っているのだから、あの人物が酒場に依頼を出していたマルガレーテなのだろう。後ろを向いているせいか、彼女はこちらに気付いていないようだ。
ぴったりとした白いパンツと茶色いブーツ、ピンクのタンクトップで身を包んだ彼女の髪は金色で長く、少しウェーブがかかっている。随分とガッシリとしているように見えるが、ゴロツキ達の捕縛の手伝いなんて依頼を出してくるような人物だ。それなりに鍛えているのだろう。
まだ距離がある間、ゼフィールは彼女の事をちょっと体格がいい女性だと思っていた。けれど、相手がハッキリ視認できる距離まで来ると、その考えを改めた。
鍛え抜かれた筋肉に包まれたマルガレーテの背丈はゼフィールより高く、体付きは男にしか見えなかったのだ。
「おい、リアン。依頼人の名前は本当にマルガレーテか?」
「言いたい事はよーーーく分かるよ。でも、ほら。決めつけるのって良くないじゃん?」
複雑な表情を浮かべながらリアンが苦笑いした。そのまま彼女に近付くと及び腰で声をかける。
「あの、マルガレーテさんですか? 酒場に依頼を出した」
「アタシの名前を知ってるってことは、アナタ達が依頼を引き受けてくれた人達かしら?」
振り向いたマルガレーテを見てゼフィールは一歩後ろへ下がった。
よく陽に焼けた肌。付けまつげをつけ、縁取りを真っ黒く塗った目。濃い頬紅に肉厚な唇。どう見ても化物にしか見えない。
それに、彼の声は明らかに男のものだ。だというのに、この喋り方。奇抜な外見といい、関わり合いになりたくない人種だった。
「あ、はい。そうです。僕がリアン、そっちがユリアとゼフィールです」
「リアン君に、ユリアちゃんに、ゼフィール君ね。アタシはマルガレーテ。ヨロシクね」
マルガレーテは笑顔でリアンと握手をすると、次いでユリア、そしてゼフィールに握手を求めた。
握手をしながら、マルガレーテの視線はゼフィールの指、そして左耳へと移動する。手を放すと、マルガレーテはゼフィールの顔へ手を伸ばし、耳元で揺れるピアスに触れた。
よく分からぬ何かを叫びながらゼフィールはマルガレーテの手を振り払った。そのまま数歩後ろへ下がる。
全身に鳥肌が立っている。無意識にピアスに触れると石の冷たさが心を落ちつけてくれた。
ゼフィールの左耳に揺れるピアスも五歳の時に受け継いだ家宝の一つで、闇のサファイアという。そんな大切なものを明らかに怪しい男に触れられたくなかった。
しかし、こちらが警戒しようがマルガレーテには関係無いらしい。手で口元を隠すと、もう片方の手をひらひらさせている。その行動は、まるでどこかのおばさんだ。
「あら、驚かせちゃった? ゴメンなさいね。アナタのつけてるアクセサリーが素敵だったものだから気になっちゃって。それって、どこで買ったの?」
「貰い物だ。買える場所なんて知らない」
「あらそうなの。残念ね」
残念と言う割にはマルガレーテにそんな雰囲気は見られない。そもそも、彼が身に付けているアクセサリーといえば、左腕にはまっている地味なブレスレットのみだ。本当に興味があるのかも怪しい。
ゼフィールの疑念を知ってか知らずか、マルガレーテは話を切り上げてリアンに向き直った。小屋を指さすと、ニッコリ笑う。
「挨拶はこれくらいにして仕事の話をしましょうか。ここって元々は空き家だったんだけど、最近この辺で暴れまわってるゴロツキ達が住みついちゃったみたいなの。でね、アタシが連中をとっちめるんだけど、その間、彼らが逃げちゃわないように扉を押さえておいて欲しいのよ」
「この時間って普通に出掛けてたりしないんですかね?」
「それは大丈夫。連中暴れまわるのはいつも夜だから、この時間は寝てるみたいよ」
「ちなみに相手の人数とか分かってるんですか?」
「えーっと、六人くらいじゃなかったかしら?」
「ねぇ」
先程からそわそわしていたユリアが小さく手を上げた。そして、マルガレーテを上目遣いに見上げる。
「マルガレーテさん、ゴロツキ達をとっちめる作業、私も加わっちゃ駄目? 相手の方が人数多いみたいだし、私も手伝えると思うの」
「え? ゼフィール君とリアン君じゃなくて、ユリアちゃんが手伝うの?」
「ユリア本気か?」
「だって、ゴロツキ相手って、運動不足解消にちょうど良さそうじゃない。怪我してもゼフィールが治してくれるだろうし」
怪訝な顔をするゼフィールにユリアがはじけるような笑顔を向ける。運動不足解消とかいうレベルではないと思うのだが、彼女にとってはそうなのだろう。
今更何を言っても無駄だろうし、ゼフィールは小さく溜め息をついた。それはリアンにしても同じだったようで、諦めの表情でマルガレーテに頭を下げている。
「あのー。大変申し訳ないんですが、よければうちのユリアも暴れさせてやってください」
「それは構わないけど。可愛い顔に傷が残っても責任取れないわよ?」
「ありがとう! なんか楽しみね!」
ユリアが目を輝かせながら拳を握る。
話がついたところで庭に入り小屋の周囲を一周した。木造煉瓦造りの平屋は扉が一カ所だけで、窓は全て板を打ちつけてある。これなら、扉さえ押さえてしまえば、中からは出てこれないだろう。
「それじゃ行くわよ。ユリアちゃん」
「いつでも」
小声で確認し合うと、マルガレーテとユリアはそっと小屋の中へ入って行った。静かに閉じられた扉に残った二人でもたれるかかる。
ゼフィールはやや細身の中背、リアンは中肉中背の体型だ。外開きの扉に男二人の体重を掛けておけば、そう簡単には開かないだろう。
扉を押さえるとすぐに小屋の中から怒声と騒音が響いてきた。それに混じるマルガレーテの楽しそうな笑い声。
誰かが逃げようとしているのか、扉にたまに衝撃がくるが、叫び声と共にそれもすぐに無くなる。
「やたらと笑い声が聞こえるが、何が楽しいのか分からんな」
「考えるだけ無駄だと思うよ。二人とも脳筋っぽいし」
「自分の姉の事なのに酷いな」
「ゼフィールにとっても義姉でしょ?」
ゼフィールとリアンはなんとなく顔を見合し、溜め息をついた。
「お前、絶対ユリアの教育間違えたよな」
「それ、君もだから。てか、僕、ユリアのお母さんじゃないからね!? 僕も普通の女子な姉が欲しかったよ」
リアンがしみじみとぼやく。
二人で不毛な会話をしていると小屋の中が静かになった。
「終わったから、もう扉押さえなくてもいいわよ~」
中からマルガレーテの声が飛んで来る。
ゼフィール達が小屋に入ってみると、ボコボコに傷めつけられたゴロツキ達が床に転がっていた。人数は六人。マルガレーテが言っていたとおりだったようだ。
どこから見つけてきたのか、マルガレーテは縄でゴロツキ達を縛り上げていっている。ゴロツキ達はボロボロだが、彼には傷の一つもなく、疲れた様子も全くない。
ユリアはと見ると、腕と頬に赤く腫れている場所があった。とりあえずユリアのもとへ行き彼女の腫れを癒す。まずは頬、次いで腕を。そして、尋ねた。
「他に痛い所は無いか?」
「大丈夫。狭かったせいで動きづらくてちょっとヘマしちゃったわ。次は全部避けてやるんだから」
「あそう。まぁ、ほどほどにな」
止めるのも労力の無駄なので適当に答えを返す。
ユリアの治療を終えると、マルガレーテが縛り上げたゴロツキ達の傷も癒してやった。青痣だらけの顔がなんとも痛々しい。
その様子を見ながらマルガレーテが口笛を吹く。
「あら、治癒魔法使えるのね。顔の腫れ、治してもらえて良かったわね。ユリアちゃん」
マルガレーテがユリアに向けて親指をグっと立てると、彼女も彼にグッと返した。
短い時間に友好が芽生えたようで、やはり、似た者同士なのだろう。
「あらやだ、こんな危ない物持ってたの? 素人が刃物なんて持っちゃ駄目よ」
マルガレーテはゴロツキのズボンからナイフを取り出すと、手元でヒョイヒョイ投げて遊び始めた。調子に乗ってきたのか、投げる高さも段々と高くなってきて変なパフォーマンスまでつきだしている。そして、彼が投げたナイフがゼフィールの右頬をかすめ、壁に突き刺さった。
ナイフで切られた銀髪が何本か床に落ちる。ゼフィールが頬に手を当ててみると、嫌な滑りを感じた。
(血!?)
慌てて傷を癒し頬を服の裾で拭う。誰かに見られていないかと周囲を見回してみたが、これといった反応をしている者はいない。
青い血を誰にも見られなかったようで、ひとまずほっとした。
「ゴメンなさいね~。うっかり手が滑っちゃって」
全く悪いと思っていない顔でマルガレーテがこちらに歩いて来た。そして、ゼフィールの横を通り過ぎざまにポツリと呟く。
「アナタの血、青いのね」
「!?」
その言葉に、ゼフィールはマルガレーテを凝視した。マルガレーテが壁に突き刺さっていたナイフを引き抜く。それで何かされるのではないかと、ゼフィールは身構え、彼と距離を取った。
しかし、予想に反してマルガレーテは何もせず、無造作にナイフを台の上に捨てた。再びゴロツキの所へ戻ると、未だに縛っていない者も縛り上げ、全員を立たせる。
「これで仕事はお終い。お手伝いしてくれてありがとうね。依頼料は酒場に預けておくから、そこで貰って頂戴」
ニッコリ笑うと、マルガレーテはゴロツキ達を引き連れ小屋から出て行った。
陽気な晴れ空の下、レンツブルク郊外に伸びる農道をゼフィール達は歩いていた。周囲に広がる耕作地にはカブが植えられ、陽の光を受けてすくすくと育っている。あと数週間もすれば収穫され、人や家畜の胃袋を満たすのだろう。
「リアン、まだー?」
「まだー? って言われてもさぁ。酒場で言われた集合場所だとそろそろのハズなんだけど……」
のんびりと景色を楽しんでいるゼフィールの横でユリアが欠伸をした。爽やかな風の吹きぬける農道を歩く事は、ゼフィールにとっては心地良い散歩なのだが、ユリアには暇らしい。
そんな二人の前を歩きながら、リアンは手に持った紙と景色を見比べながら必死に周囲を見回している。そうこうしている間に何かを見つけたのか、目を輝かせて道の先を指さした。
「あ、あった。多分、あそこに見える大木だよ。木の下に人立ってるし。あの人が依頼人のマルガレーテさんじゃないかな?」
リアンの指さした先には古ぼけた小屋が見える。その小屋を囲う崩れかけた塀の外側に生える大木。その下に一人の人物が立っていた。
こんな僻地に不自然に立っているのだから、あの人物が酒場に依頼を出していたマルガレーテなのだろう。後ろを向いているせいか、彼女はこちらに気付いていないようだ。
ぴったりとした白いパンツと茶色いブーツ、ピンクのタンクトップで身を包んだ彼女の髪は金色で長く、少しウェーブがかかっている。随分とガッシリとしているように見えるが、ゴロツキ達の捕縛の手伝いなんて依頼を出してくるような人物だ。それなりに鍛えているのだろう。
まだ距離がある間、ゼフィールは彼女の事をちょっと体格がいい女性だと思っていた。けれど、相手がハッキリ視認できる距離まで来ると、その考えを改めた。
鍛え抜かれた筋肉に包まれたマルガレーテの背丈はゼフィールより高く、体付きは男にしか見えなかったのだ。
「おい、リアン。依頼人の名前は本当にマルガレーテか?」
「言いたい事はよーーーく分かるよ。でも、ほら。決めつけるのって良くないじゃん?」
複雑な表情を浮かべながらリアンが苦笑いした。そのまま彼女に近付くと及び腰で声をかける。
「あの、マルガレーテさんですか? 酒場に依頼を出した」
「アタシの名前を知ってるってことは、アナタ達が依頼を引き受けてくれた人達かしら?」
振り向いたマルガレーテを見てゼフィールは一歩後ろへ下がった。
よく陽に焼けた肌。付けまつげをつけ、縁取りを真っ黒く塗った目。濃い頬紅に肉厚な唇。どう見ても化物にしか見えない。
それに、彼の声は明らかに男のものだ。だというのに、この喋り方。奇抜な外見といい、関わり合いになりたくない人種だった。
「あ、はい。そうです。僕がリアン、そっちがユリアとゼフィールです」
「リアン君に、ユリアちゃんに、ゼフィール君ね。アタシはマルガレーテ。ヨロシクね」
マルガレーテは笑顔でリアンと握手をすると、次いでユリア、そしてゼフィールに握手を求めた。
握手をしながら、マルガレーテの視線はゼフィールの指、そして左耳へと移動する。手を放すと、マルガレーテはゼフィールの顔へ手を伸ばし、耳元で揺れるピアスに触れた。
よく分からぬ何かを叫びながらゼフィールはマルガレーテの手を振り払った。そのまま数歩後ろへ下がる。
全身に鳥肌が立っている。無意識にピアスに触れると石の冷たさが心を落ちつけてくれた。
ゼフィールの左耳に揺れるピアスも五歳の時に受け継いだ家宝の一つで、闇のサファイアという。そんな大切なものを明らかに怪しい男に触れられたくなかった。
しかし、こちらが警戒しようがマルガレーテには関係無いらしい。手で口元を隠すと、もう片方の手をひらひらさせている。その行動は、まるでどこかのおばさんだ。
「あら、驚かせちゃった? ゴメンなさいね。アナタのつけてるアクセサリーが素敵だったものだから気になっちゃって。それって、どこで買ったの?」
「貰い物だ。買える場所なんて知らない」
「あらそうなの。残念ね」
残念と言う割にはマルガレーテにそんな雰囲気は見られない。そもそも、彼が身に付けているアクセサリーといえば、左腕にはまっている地味なブレスレットのみだ。本当に興味があるのかも怪しい。
ゼフィールの疑念を知ってか知らずか、マルガレーテは話を切り上げてリアンに向き直った。小屋を指さすと、ニッコリ笑う。
「挨拶はこれくらいにして仕事の話をしましょうか。ここって元々は空き家だったんだけど、最近この辺で暴れまわってるゴロツキ達が住みついちゃったみたいなの。でね、アタシが連中をとっちめるんだけど、その間、彼らが逃げちゃわないように扉を押さえておいて欲しいのよ」
「この時間って普通に出掛けてたりしないんですかね?」
「それは大丈夫。連中暴れまわるのはいつも夜だから、この時間は寝てるみたいよ」
「ちなみに相手の人数とか分かってるんですか?」
「えーっと、六人くらいじゃなかったかしら?」
「ねぇ」
先程からそわそわしていたユリアが小さく手を上げた。そして、マルガレーテを上目遣いに見上げる。
「マルガレーテさん、ゴロツキ達をとっちめる作業、私も加わっちゃ駄目? 相手の方が人数多いみたいだし、私も手伝えると思うの」
「え? ゼフィール君とリアン君じゃなくて、ユリアちゃんが手伝うの?」
「ユリア本気か?」
「だって、ゴロツキ相手って、運動不足解消にちょうど良さそうじゃない。怪我してもゼフィールが治してくれるだろうし」
怪訝な顔をするゼフィールにユリアがはじけるような笑顔を向ける。運動不足解消とかいうレベルではないと思うのだが、彼女にとってはそうなのだろう。
今更何を言っても無駄だろうし、ゼフィールは小さく溜め息をついた。それはリアンにしても同じだったようで、諦めの表情でマルガレーテに頭を下げている。
「あのー。大変申し訳ないんですが、よければうちのユリアも暴れさせてやってください」
「それは構わないけど。可愛い顔に傷が残っても責任取れないわよ?」
「ありがとう! なんか楽しみね!」
ユリアが目を輝かせながら拳を握る。
話がついたところで庭に入り小屋の周囲を一周した。木造煉瓦造りの平屋は扉が一カ所だけで、窓は全て板を打ちつけてある。これなら、扉さえ押さえてしまえば、中からは出てこれないだろう。
「それじゃ行くわよ。ユリアちゃん」
「いつでも」
小声で確認し合うと、マルガレーテとユリアはそっと小屋の中へ入って行った。静かに閉じられた扉に残った二人でもたれるかかる。
ゼフィールはやや細身の中背、リアンは中肉中背の体型だ。外開きの扉に男二人の体重を掛けておけば、そう簡単には開かないだろう。
扉を押さえるとすぐに小屋の中から怒声と騒音が響いてきた。それに混じるマルガレーテの楽しそうな笑い声。
誰かが逃げようとしているのか、扉にたまに衝撃がくるが、叫び声と共にそれもすぐに無くなる。
「やたらと笑い声が聞こえるが、何が楽しいのか分からんな」
「考えるだけ無駄だと思うよ。二人とも脳筋っぽいし」
「自分の姉の事なのに酷いな」
「ゼフィールにとっても義姉でしょ?」
ゼフィールとリアンはなんとなく顔を見合し、溜め息をついた。
「お前、絶対ユリアの教育間違えたよな」
「それ、君もだから。てか、僕、ユリアのお母さんじゃないからね!? 僕も普通の女子な姉が欲しかったよ」
リアンがしみじみとぼやく。
二人で不毛な会話をしていると小屋の中が静かになった。
「終わったから、もう扉押さえなくてもいいわよ~」
中からマルガレーテの声が飛んで来る。
ゼフィール達が小屋に入ってみると、ボコボコに傷めつけられたゴロツキ達が床に転がっていた。人数は六人。マルガレーテが言っていたとおりだったようだ。
どこから見つけてきたのか、マルガレーテは縄でゴロツキ達を縛り上げていっている。ゴロツキ達はボロボロだが、彼には傷の一つもなく、疲れた様子も全くない。
ユリアはと見ると、腕と頬に赤く腫れている場所があった。とりあえずユリアのもとへ行き彼女の腫れを癒す。まずは頬、次いで腕を。そして、尋ねた。
「他に痛い所は無いか?」
「大丈夫。狭かったせいで動きづらくてちょっとヘマしちゃったわ。次は全部避けてやるんだから」
「あそう。まぁ、ほどほどにな」
止めるのも労力の無駄なので適当に答えを返す。
ユリアの治療を終えると、マルガレーテが縛り上げたゴロツキ達の傷も癒してやった。青痣だらけの顔がなんとも痛々しい。
その様子を見ながらマルガレーテが口笛を吹く。
「あら、治癒魔法使えるのね。顔の腫れ、治してもらえて良かったわね。ユリアちゃん」
マルガレーテがユリアに向けて親指をグっと立てると、彼女も彼にグッと返した。
短い時間に友好が芽生えたようで、やはり、似た者同士なのだろう。
「あらやだ、こんな危ない物持ってたの? 素人が刃物なんて持っちゃ駄目よ」
マルガレーテはゴロツキのズボンからナイフを取り出すと、手元でヒョイヒョイ投げて遊び始めた。調子に乗ってきたのか、投げる高さも段々と高くなってきて変なパフォーマンスまでつきだしている。そして、彼が投げたナイフがゼフィールの右頬をかすめ、壁に突き刺さった。
ナイフで切られた銀髪が何本か床に落ちる。ゼフィールが頬に手を当ててみると、嫌な滑りを感じた。
(血!?)
慌てて傷を癒し頬を服の裾で拭う。誰かに見られていないかと周囲を見回してみたが、これといった反応をしている者はいない。
青い血を誰にも見られなかったようで、ひとまずほっとした。
「ゴメンなさいね~。うっかり手が滑っちゃって」
全く悪いと思っていない顔でマルガレーテがこちらに歩いて来た。そして、ゼフィールの横を通り過ぎざまにポツリと呟く。
「アナタの血、青いのね」
「!?」
その言葉に、ゼフィールはマルガレーテを凝視した。マルガレーテが壁に突き刺さっていたナイフを引き抜く。それで何かされるのではないかと、ゼフィールは身構え、彼と距離を取った。
しかし、予想に反してマルガレーテは何もせず、無造作にナイフを台の上に捨てた。再びゴロツキの所へ戻ると、未だに縛っていない者も縛り上げ、全員を立たせる。
「これで仕事はお終い。お手伝いしてくれてありがとうね。依頼料は酒場に預けておくから、そこで貰って頂戴」
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