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木の国《ドレスデン》編 風の王子
1-9 旅立ち
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◆
しばらく休んだ後、ゼフィールが全員の傷を癒し、無事森を脱出することができた。
泉の瘴気を浄化しても、森を覆っていた瘴気までは無くなっていない。しかし、大本が無くなったことで濃度が薄れ、時の経過と共に拡散して無くなりそうではあった。
ここから先の管理はマルクの母――国がどうにかしてくれるだろう。
驚いた事に、マルクの手伝いをしたことで多額の報奨金が出た。貰えるなどと思ってもいなかったので素直に嬉しかったのだが、額が凄い。しばらくは遊んで暮らせるほどだ。
予想外の収入に、お財布係のリアンは驚きつつも喜び、小躍りしていた。
マルクからの礼はもう一つあり、こちらもゼフィールを大いに喜ばせた。もう一つの礼、それは、国立図書館への入館許可だった。
本は貴重品だ。一般人が手にすることはほとんど無いといってもいい。レンツブルクに図書館があることは知っていたし、興味もあったが、一旅人であるゼフィールが入館するのは無理と諦めていた。
許可が降りて以降、ゼフィールは図書館に入り浸っている。
レンツブルクに帰ってきて一週間が経過した日の昼下がり。
あいも変わらずゼフィールは図書館で本を読んでいた。
本から知識を得るのは楽しかった。同時に、自分が何も知らぬということを再認識させてくれる。
ぬるま湯のような商隊での生活を脱し、自分の足で歩いてみると、世界は随分と違う。知っていると思っていた事は世界の極一部で、何も知らないのと大差ない。
その穴を少しでも埋めようとゼフィールは本を読み漁っていた。
根を詰め過ぎたのか、少し疲れを感じ、背もたれに身体を預ける。
窓から入ってくる光が見えた。
木造煉瓦造りのこの建物は、わずかにある窓にステンドグラスが嵌めこまれている。色つきの擦りガラスを通過してきた光は、淡い色光に偏光され、薄暗い館内を優しい光で照らしている。
ステンドグラスは《シレジア》でしか作られていないという。供給量も少ないので、かなり高価な品だと聞いた。《シレジア》ではありふれていた品なのに、外の世界で見つけたのは初めてだ。
トントントン
ゼフィールが座っている近くの本棚を誰かが叩いた。その音に、追憶にふけっていた意識が戻ってくる。
「は~い、精がでるわね。ちょっと外でお茶しない?」
そこにいたのはやはりマルクで。彼がどうやってゼフィールの居場所を見つけ出しているのか、不思議で仕方ない。
二人は連れだって近くの食堂に入った。今のマルクの髪型は出会った頃と同じで、ウェーブのかかった長い金髪だ。同じ鬘《かつら》を複数持っているのだろう。
個室に案内され、飲み物が運ばれてくると、マルクが口を開いた。
「森に出してた討伐隊が帰ってきたわ」
「それで?」
「行方不明になってた巡回騎士の亡骸は全部回収できたみたいね。瘴気に蝕まれた動物達も、見つけた分は退治したらしいわよ」
「討伐隊に被害は出なかったのか?」
「ちょっとした怪我人は出たらしいけど、死者は出なかったみたい。あの時頑張っておいた甲斐があったわね」
グラスの中の氷を指で回しながら、マルクが薄く笑う。つられてゼフィールの口元も緩んだ。
討伐隊の被害がわずかで済んだのは、泉の瘴気を浄化しておいたお陰だろう。それなりに痛い目にあったが、代わりに誰かが傷付かないで済んだのなら報われるというものだ。
「それで、《シレジア》行きの件なんだけど。《ドレスデン》と《シレジア》って、一般の商人は介さない国家間貿易してるのよ。で、その交易隊が定期的に出てるから、それに紛れちゃえば入れると思うわよ。ただ、あっちに着いてから自由に動きたいんだったら、何か考えないと駄目でしょうけど」
「そのことなんだが――」
手の中のグラスをゆっくりと動かしながら、ゼフィールは口をつぐんだ。グラスの中には氷の粒が所在なげに浮いている。グラスを少し動かすと氷も動き、グラスの端にあたって高い音を立てた。
「《シレジア》への入国、少し延ばせないか?」
「あら、どうして? アタシは構わないけど、何か理由があるの?」
「……少し、怖くなった」
「怖い?」
グラスの中で揺れる氷から視線を上げると、マルクが訝しげな表情でこちらを見ている。再びグラスへと視線を落とすと、ゼフィールはゆっくりとグラスを揺らした。
「七つの時、俺は殺されそうになった。それが怖くて逃げたんだ。《シレジア》から」
「……」
「覚悟したつもりだったんだがな。この前の一件で思い出してしまった」
短い間隔で氷が音を立てた。よくよく見てみると、手が小刻みに震えている。少し思い出しただけでこのザマだ。なんとも情けないと思う。
帰らずの森には《シレジア》と良く似た空気が漂っていた。そこで血が流れたせいで、昔を思い出してしまった。
帰りたい、と、思う。けれど、それと同じだけ強く、帰りたくないと思うのだ。酷く矛盾した想いだが、自分ではどうしようもない。
「それじゃぁ仕方ないわね。アナタが嫌がってるのに無理に連れて行くわけにもいかないし。それで、これからどうするの?」
「他の国に行ってみようかと思っている。ここにいると、どうしても《シレジア》の事を考えてしまうからな。それに……フラフラしてれば、また帰りたくなりそうな気がするんだ」
「ふーん」
マルクがズボンのポケットをゴソゴソとまさぐりだした。何かを取り出すと、それを指ではじいてゼフィールに寄こす。
飛んできた物を受け止めて確認してみると、それは指輪だった。石ははまっておらず、台座には樹木を簡略化したレリーフが刻まれている。
「これは?」
「蝋で封をする時なんかに使ってるんだけど。そのレリーフ、うちの家紋を簡略化したものなのよ。《シレジア》に行きたくなったでも、他の事でもいいんだけど、アタシに用がある時はそれを門番に見せて、"マルガレーテ"に会いに来たとでも言って頂戴。それでアタシに連絡が来るようにしておくわ」
「分かった。すまない。何かと手間をかけるな」
受け取った指輪をズボンのポケットに仕舞うと、ゼフィールはマルクに頭を下げた。
一見変態だが、物事をよく観察し、きめ細かく面倒を見てくれるマルクには頭が上がらない。この前の旅だって、危険はあったものの、マルクのお陰で多くのことを学べたのだ。どういう形であるにせよ、いつか恩返ししたいと思う。
「いいのよぉ。アタシにできる事なら何でも言って頂戴。アナタのことは女王にも言ってないから、できる事は限られるけど」
「俺のことを黙っていてくれるのが、何よりの助けだよ」
随分と氷の解けてしまった飲み物を口に運ぶ。
ぬるくはないが、キンとした冷たさは感じられない。まるで自分の中途半端な覚悟のようだ。
そんなゼフィールの弱さも、未熟さも、我儘まで含め、マルクは受け入れ見守ってくれている。長らく行方不明だったゼフィールが見つかったという事は、本来真っ先に上に報告せねばならぬ事柄だろう。だが、彼はそれをしないでくれている。
「お前って友達思いだったんだな」
「嫌だ。今頃気付いたの?」
マルクが大袈裟に溜め息をつく。それからは、留まる事を知らず愚痴が零れてきた。そんな愚痴を適当に流しながら、ゼフィールはしばしの談笑を楽しんだのだった。
◆
「二人とも、今、大丈夫か?」
酒場での演奏を終え宿に戻ると、部屋でくつろぐ双子にゼフィールは声をかけた。
マルクに貰った報償金のお陰で金銭に余裕はあるのだが、酒場回りは続けている。半分は楽しみなので、趣味と実益を兼ねて、というところだろうか。
それは双子にしても同様で、昼間は酒場の依頼をこなして過ごしているらしい。
「んー? 何?」
寝台に転がったままのリアンがゼフィールの方に顔を向けた。ユリアは何も言わないが、寝台の上で腕立てをしながら、顔はこちらを向いている。気にせず話せということだろう。
「《シレジア》行きのことなんだが気が変わった。少し、他の国に行こうと思うんだが、お前達はどうする?」
「私はあんたが心配でついて来ただけだから、どこでもいいわよ」
「僕もどこでもいいかなー。君達が心配だったのもあるけど、面白そうだからついて来ただけだし」
半分は別行動になることも覚悟して尋ねたのだが、これまでと変わらないことがアッサリと決まる。この身軽さが、なんとも二人らしい。
「他の国って、どこに行くのさ?」
相変わらず寝転んだままリアンが尋ねてきた。
少し間を置き、ゼフィールは答えを返す。
「南に下って《ライプツィヒ》に行ってみようと思ってる。お前達も行きたい所はあるか?」
「僕は危険が無い所に行きたいね。あれだけのことがあったし、心の洗濯とかしたいじゃない」
「私は修行か力試しが出来る場所に行きたいわ」
「ユリアまだ危ないことやりたいわけ!? マゾなの?」
「馬鹿なのあんた? 危険に対処できるように鍛えておくんじゃない」
双子が互いに信じられない、と、言い合いを始める。だが、二人の意見が割れるのはいつものことだ。無視してゼフィールは大陸地図を広げた。
先日読んだ《ライプツィヒ》の旅行記を思い出しながらルートを考える。三人の希望を全て叶えるなら、《ライプツィヒ》のどこかで休養を取った後、力試しにでも行くというのが妥当なところだろう。
「俺に提案があるんだが――」
口を開いたゼフィールを双子が視線で促す。
「《ライプツィヒ》にミーミルという景勝地があってな、そこでのんびりしてみるのも悪くないと思うんだ。観光の目玉のミーミルの泉は、水を飲めば知恵を授かるとか、泉で出会った男女は結ばれるとか言われているな」
「行こう。そこ決定! 泉の水をユリアに飲ませよう」
「なんで私に飲ませるのよ?」
「深く考えない方がお互いに幸せだと思うよ。ユリアが水飲んでる間に、僕は可愛い子とお知り合いになるからさ」
すぐに食いついたリアンはウフフと笑いながら遠い目をしている。既に自分の世界に浸っているようだ。
「しばらくゆっくりしたら、王都に行ってみたらいいんじゃないか? あそこには闘技場があるらしくて、日々剣闘士が雌雄を競っているらしいぞ」
「それって私も参加できるのかしら?」
「どうだろうな? 行ってみないことには何ともだな」
ふーんと、腹筋をしながら考えるユリア。
「面白そうだし、いいんじゃない? 強い人がいるってだけでも燃えるわよね」
「「いや、燃えないけど」」
男二人で即否定したが、ユリアはどこ吹く風だ。先ほどまでより筋トレに力が入っている。
次の行き先を決めた三人は、筋トレに精を出したり、妄想に耽ったり、思索に没頭したりと、思い思いの夜を過ごした。
しばらく休んだ後、ゼフィールが全員の傷を癒し、無事森を脱出することができた。
泉の瘴気を浄化しても、森を覆っていた瘴気までは無くなっていない。しかし、大本が無くなったことで濃度が薄れ、時の経過と共に拡散して無くなりそうではあった。
ここから先の管理はマルクの母――国がどうにかしてくれるだろう。
驚いた事に、マルクの手伝いをしたことで多額の報奨金が出た。貰えるなどと思ってもいなかったので素直に嬉しかったのだが、額が凄い。しばらくは遊んで暮らせるほどだ。
予想外の収入に、お財布係のリアンは驚きつつも喜び、小躍りしていた。
マルクからの礼はもう一つあり、こちらもゼフィールを大いに喜ばせた。もう一つの礼、それは、国立図書館への入館許可だった。
本は貴重品だ。一般人が手にすることはほとんど無いといってもいい。レンツブルクに図書館があることは知っていたし、興味もあったが、一旅人であるゼフィールが入館するのは無理と諦めていた。
許可が降りて以降、ゼフィールは図書館に入り浸っている。
レンツブルクに帰ってきて一週間が経過した日の昼下がり。
あいも変わらずゼフィールは図書館で本を読んでいた。
本から知識を得るのは楽しかった。同時に、自分が何も知らぬということを再認識させてくれる。
ぬるま湯のような商隊での生活を脱し、自分の足で歩いてみると、世界は随分と違う。知っていると思っていた事は世界の極一部で、何も知らないのと大差ない。
その穴を少しでも埋めようとゼフィールは本を読み漁っていた。
根を詰め過ぎたのか、少し疲れを感じ、背もたれに身体を預ける。
窓から入ってくる光が見えた。
木造煉瓦造りのこの建物は、わずかにある窓にステンドグラスが嵌めこまれている。色つきの擦りガラスを通過してきた光は、淡い色光に偏光され、薄暗い館内を優しい光で照らしている。
ステンドグラスは《シレジア》でしか作られていないという。供給量も少ないので、かなり高価な品だと聞いた。《シレジア》ではありふれていた品なのに、外の世界で見つけたのは初めてだ。
トントントン
ゼフィールが座っている近くの本棚を誰かが叩いた。その音に、追憶にふけっていた意識が戻ってくる。
「は~い、精がでるわね。ちょっと外でお茶しない?」
そこにいたのはやはりマルクで。彼がどうやってゼフィールの居場所を見つけ出しているのか、不思議で仕方ない。
二人は連れだって近くの食堂に入った。今のマルクの髪型は出会った頃と同じで、ウェーブのかかった長い金髪だ。同じ鬘《かつら》を複数持っているのだろう。
個室に案内され、飲み物が運ばれてくると、マルクが口を開いた。
「森に出してた討伐隊が帰ってきたわ」
「それで?」
「行方不明になってた巡回騎士の亡骸は全部回収できたみたいね。瘴気に蝕まれた動物達も、見つけた分は退治したらしいわよ」
「討伐隊に被害は出なかったのか?」
「ちょっとした怪我人は出たらしいけど、死者は出なかったみたい。あの時頑張っておいた甲斐があったわね」
グラスの中の氷を指で回しながら、マルクが薄く笑う。つられてゼフィールの口元も緩んだ。
討伐隊の被害がわずかで済んだのは、泉の瘴気を浄化しておいたお陰だろう。それなりに痛い目にあったが、代わりに誰かが傷付かないで済んだのなら報われるというものだ。
「それで、《シレジア》行きの件なんだけど。《ドレスデン》と《シレジア》って、一般の商人は介さない国家間貿易してるのよ。で、その交易隊が定期的に出てるから、それに紛れちゃえば入れると思うわよ。ただ、あっちに着いてから自由に動きたいんだったら、何か考えないと駄目でしょうけど」
「そのことなんだが――」
手の中のグラスをゆっくりと動かしながら、ゼフィールは口をつぐんだ。グラスの中には氷の粒が所在なげに浮いている。グラスを少し動かすと氷も動き、グラスの端にあたって高い音を立てた。
「《シレジア》への入国、少し延ばせないか?」
「あら、どうして? アタシは構わないけど、何か理由があるの?」
「……少し、怖くなった」
「怖い?」
グラスの中で揺れる氷から視線を上げると、マルクが訝しげな表情でこちらを見ている。再びグラスへと視線を落とすと、ゼフィールはゆっくりとグラスを揺らした。
「七つの時、俺は殺されそうになった。それが怖くて逃げたんだ。《シレジア》から」
「……」
「覚悟したつもりだったんだがな。この前の一件で思い出してしまった」
短い間隔で氷が音を立てた。よくよく見てみると、手が小刻みに震えている。少し思い出しただけでこのザマだ。なんとも情けないと思う。
帰らずの森には《シレジア》と良く似た空気が漂っていた。そこで血が流れたせいで、昔を思い出してしまった。
帰りたい、と、思う。けれど、それと同じだけ強く、帰りたくないと思うのだ。酷く矛盾した想いだが、自分ではどうしようもない。
「それじゃぁ仕方ないわね。アナタが嫌がってるのに無理に連れて行くわけにもいかないし。それで、これからどうするの?」
「他の国に行ってみようかと思っている。ここにいると、どうしても《シレジア》の事を考えてしまうからな。それに……フラフラしてれば、また帰りたくなりそうな気がするんだ」
「ふーん」
マルクがズボンのポケットをゴソゴソとまさぐりだした。何かを取り出すと、それを指ではじいてゼフィールに寄こす。
飛んできた物を受け止めて確認してみると、それは指輪だった。石ははまっておらず、台座には樹木を簡略化したレリーフが刻まれている。
「これは?」
「蝋で封をする時なんかに使ってるんだけど。そのレリーフ、うちの家紋を簡略化したものなのよ。《シレジア》に行きたくなったでも、他の事でもいいんだけど、アタシに用がある時はそれを門番に見せて、"マルガレーテ"に会いに来たとでも言って頂戴。それでアタシに連絡が来るようにしておくわ」
「分かった。すまない。何かと手間をかけるな」
受け取った指輪をズボンのポケットに仕舞うと、ゼフィールはマルクに頭を下げた。
一見変態だが、物事をよく観察し、きめ細かく面倒を見てくれるマルクには頭が上がらない。この前の旅だって、危険はあったものの、マルクのお陰で多くのことを学べたのだ。どういう形であるにせよ、いつか恩返ししたいと思う。
「いいのよぉ。アタシにできる事なら何でも言って頂戴。アナタのことは女王にも言ってないから、できる事は限られるけど」
「俺のことを黙っていてくれるのが、何よりの助けだよ」
随分と氷の解けてしまった飲み物を口に運ぶ。
ぬるくはないが、キンとした冷たさは感じられない。まるで自分の中途半端な覚悟のようだ。
そんなゼフィールの弱さも、未熟さも、我儘まで含め、マルクは受け入れ見守ってくれている。長らく行方不明だったゼフィールが見つかったという事は、本来真っ先に上に報告せねばならぬ事柄だろう。だが、彼はそれをしないでくれている。
「お前って友達思いだったんだな」
「嫌だ。今頃気付いたの?」
マルクが大袈裟に溜め息をつく。それからは、留まる事を知らず愚痴が零れてきた。そんな愚痴を適当に流しながら、ゼフィールはしばしの談笑を楽しんだのだった。
◆
「二人とも、今、大丈夫か?」
酒場での演奏を終え宿に戻ると、部屋でくつろぐ双子にゼフィールは声をかけた。
マルクに貰った報償金のお陰で金銭に余裕はあるのだが、酒場回りは続けている。半分は楽しみなので、趣味と実益を兼ねて、というところだろうか。
それは双子にしても同様で、昼間は酒場の依頼をこなして過ごしているらしい。
「んー? 何?」
寝台に転がったままのリアンがゼフィールの方に顔を向けた。ユリアは何も言わないが、寝台の上で腕立てをしながら、顔はこちらを向いている。気にせず話せということだろう。
「《シレジア》行きのことなんだが気が変わった。少し、他の国に行こうと思うんだが、お前達はどうする?」
「私はあんたが心配でついて来ただけだから、どこでもいいわよ」
「僕もどこでもいいかなー。君達が心配だったのもあるけど、面白そうだからついて来ただけだし」
半分は別行動になることも覚悟して尋ねたのだが、これまでと変わらないことがアッサリと決まる。この身軽さが、なんとも二人らしい。
「他の国って、どこに行くのさ?」
相変わらず寝転んだままリアンが尋ねてきた。
少し間を置き、ゼフィールは答えを返す。
「南に下って《ライプツィヒ》に行ってみようと思ってる。お前達も行きたい所はあるか?」
「僕は危険が無い所に行きたいね。あれだけのことがあったし、心の洗濯とかしたいじゃない」
「私は修行か力試しが出来る場所に行きたいわ」
「ユリアまだ危ないことやりたいわけ!? マゾなの?」
「馬鹿なのあんた? 危険に対処できるように鍛えておくんじゃない」
双子が互いに信じられない、と、言い合いを始める。だが、二人の意見が割れるのはいつものことだ。無視してゼフィールは大陸地図を広げた。
先日読んだ《ライプツィヒ》の旅行記を思い出しながらルートを考える。三人の希望を全て叶えるなら、《ライプツィヒ》のどこかで休養を取った後、力試しにでも行くというのが妥当なところだろう。
「俺に提案があるんだが――」
口を開いたゼフィールを双子が視線で促す。
「《ライプツィヒ》にミーミルという景勝地があってな、そこでのんびりしてみるのも悪くないと思うんだ。観光の目玉のミーミルの泉は、水を飲めば知恵を授かるとか、泉で出会った男女は結ばれるとか言われているな」
「行こう。そこ決定! 泉の水をユリアに飲ませよう」
「なんで私に飲ませるのよ?」
「深く考えない方がお互いに幸せだと思うよ。ユリアが水飲んでる間に、僕は可愛い子とお知り合いになるからさ」
すぐに食いついたリアンはウフフと笑いながら遠い目をしている。既に自分の世界に浸っているようだ。
「しばらくゆっくりしたら、王都に行ってみたらいいんじゃないか? あそこには闘技場があるらしくて、日々剣闘士が雌雄を競っているらしいぞ」
「それって私も参加できるのかしら?」
「どうだろうな? 行ってみないことには何ともだな」
ふーんと、腹筋をしながら考えるユリア。
「面白そうだし、いいんじゃない? 強い人がいるってだけでも燃えるわよね」
「「いや、燃えないけど」」
男二人で即否定したが、ユリアはどこ吹く風だ。先ほどまでより筋トレに力が入っている。
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