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風の国《シレジア》編 王子の帰還
4-24 罪と罰
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◆
ユリア達がロードタウンに戻ると、騎手の言葉どおり《ザーレ》人達はいなくなっていた。彼らを拘束していた縄と衣類だけが地下広間に散乱していたのが生々しい。
事態を確認したマルクとゾフィの動きは早く、彼ら二人で後始末を全て引き受け、張本人のゼフィールをこの件から締め出した。代わりにゼフィールに言い渡していたのは、血を落としてとっとと寝ろ、ということだけだ。
その待遇にゼフィールは不服そうにしていたけれど、相当疲労していたのだろう。リアンが着替えを持って浴室に行った時、そこで半分寝ていたなんていう話を聞いた。
特に仕事のないユリアがゼフィールの部屋に行ってみると、彼は静かに眠っていた。ただ、いつもはのんきに寝る彼なのに、今は眉間に皺を寄せている。
ユリアは寝台縁に腰掛けゼフィールの手をとった。
「何があったのか知らないけど、今くらい休んでいいのよ」
枕元で囁いてみたけれど、彼の表情は軽くならない。
(小さい頃みたいにはいかないか)
少しだけ落胆し、つないだ手に視線を落とす。
随分とあやふやな記憶ではあるけれど、出会って間もなかった頃、ゼフィールがこんな顔でうなされていることは度々あった。あの時は手をつなげば落ち着いてくれたものだが、今の彼には効果が無いらしい。
だからといって、他に彼の緊張を解せる手段は思いつかない。
そのままゼフィールの手を握っていると扉の方で物音がした。顔を向けてみたけれど、誰も入ってこない。
気のせいかと顔を戻すと、ノックも無しにリアンが入ってきた。
彼は真っ直ぐに寝台脇に来てゼフィールを覗き込む。
「彼、ずっとこんな感じ?」
「ええ」
「こんなんじゃ、エレノーラさんもあんな顔になるはずだよ」
「エレノーラさん?」
「あれ? 来てたんじゃないの? さっき暗い顔で部屋の前に立ってたけど」
「来てないけど。何か用だったのかしら?」
「さぁ?」
どうにも分からず二人で顔を見合わす。
リアンの顔を見ていても楽しくないのでユリアはゼフィールに視線を戻したけれど、彼は難しい表情のままだった。
それから二日が過ぎ、未だ起きてこないゼフィールのもとにユリアが向かっていると、彼の部屋の中から騒ぎ声が聞こえた。
「ゼフィール目が覚めたの!?」
問いかけながら部屋に駆け込む。
はたして、ゼフィールは目覚めてはいた。けれど、寝台の上でマルクに押さえ込まれている状態はどう見ても異常だ。
さっきからよく分からないことを喚いているゼフィールの顔は見えない。けれど、彼を押さえるマルクと、そんな二人を見つめるゾフィの表情は揃って険しい。
事態が飲み込めず、丁度近くにいたリアンにユリアは尋ねた。
「これ、どういう状況なの?」
「ゼフィールが目を覚ましたと思ったら、突然泣きながら叫び出してさ。ほら、ゼフィールが目を覚ましたらマルクさん達を呼べって言われてたじゃん? だから、呼んできて、今この状態」
参ったようにリアンが寝台の方を指す。
「泣く?」
不穏な言葉に、ユリアはゼフィールの近くへ寄った。彼の顔を覗き込んでみると、涙でぐちゃぐちゃになっている。大人になってから、こんな彼を見たのは初めてだ。
「ゼフィール、どうしたの? 怖い夢でも見た?」
なるべく優しい声になるように気をつけて尋ねる。
そのお陰か、ゼフィールが虚ろな瞳をユリアに向けた。そして、唇を震えさせながら小さな声で言ってくる。
「お前でもいい。俺を罰してくれ」
「罰する?」
「聞かなくていいわよ、ユリアちゃん」
間髪入れずにマルクが言った。
「でも、師匠」
話すら聞いてやらないのか、と、ユリアはマルクに文句を言おうとしたけれど、マルクはユリアを一瞬見ただけで、顔をゼフィールの方へ戻してしまう。
「ほらゼフィール。アナタがいつまでも馬鹿なこと言うから、ユリアちゃんを困らせちゃったじゃない。《ザーレ》は非道のあまり天の裁きが下って滅んだ、ってことにするって言ってるでしょ。もう噂を流し出してるんだから、肝心のアナタがそれじゃ困るのよ」
有無を言わさぬ調子でマルクが言う。
ゼフィールは首を横に振り、声を震わせた。
「《ザーレ》の連中の目が忘れられないんだ。あの濁った目で俺を責め立ててくる。なんで自分達が死んで、お前が生きてるのかって」
「それで? 夢の話でしょ?」
マルクは取り付く島もなくゼフィールの言葉を切り捨ててしまう。更に涙を流しながらゼフィールは言葉を続けた。
「血の臭いが消えないんだ。夢なんかじゃない、俺はネビスでは多くの同胞すら死に追いやったんだぞ!? そんな俺が無罪で許されていいはずがない」
「ええ、そうですわね」
それまで黙っていたゾフィが口を開いた。
「貴方が《ザーレ》を滅ぼしたのも、ネビスでしたかしら? そこでご同胞を殺してしまわれたのも事実なのでしょう。ですが、そんなことを公表しては、危険人物として貴方が処刑される可能性が出てきてしまいますのよ」
「それだけは困るのよね。アナタには何が何でも儀式を受けてもらわなきゃなんないし」
「人命よりそんなものが大切だと?」
「ええ、大切ですわ。ですから、貴方とこの国を守るためなら、わたくし達なんでもしますわよ。黒も白に塗り替えましょう」
「そんなの受け入れられるか!」
ゼフィールがもがこうとしているけれど、マルクが変わらず押さえ続ける。それでもゼフィールは叫ぶように言葉を吐き出した。
「お前達は俺が何をしたか知らない。だからそんなことが平気で言えるんだ!」
「残念だけど――」
マルクが低い声で返す。心なしか、声に哀愁が混じっているのは気のせいだろうか。
「アタシ達、アナタ以上にアナタのことを知ってるの。だからね、フレースヴェルグの言ってたことと、アナタが喚いてた言葉だけで、《ザーレ》であったことは概ね分かってるのよ。その上で言ってんの」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
ゼフィールの視線が鋭くなる。
彼と、マルク、ゾフィの三人の間に流れる空気は険悪そのものだ。
仲裁に入るべきなのだろうが、ユリアには話の内容が分からなさすぎて口を出す余地がない。リアンでさえ困り顔で蚊帳の外だ。
どう動くべきかユリアが悩んでいると、マルクがこちらを向いた。
「あー、ユリアちゃんにリアン君。今聞いた話は口外しちゃ駄目よ。ゼフィール、アナタも分かってるわね? アレクシア様にだけは報告してもらわないといけないけど。口裏合わせてもらわないといけないものね」
「お前達どこまで――」
ゼフィールの言葉を遮るように遠慮がちなノックの音が響いた。リアンが扉を開けてやると、バスケットを持ったエレノーラが困ったように立っている。
彼女は数歩前に出ると、バスケットを身体の前にかざした。
「あの、頼まれていたお食事を持ってきたのですが」
「ああ。ありがとうね。リアン君、それ持ってきてくんない?」
「はいはい」
バスケットを受け取ったリアンが寝台脇にくる。
マルクはバスケットを覗き込み、肉を掴むと、無理やりにゼフィールの口の中に突っ込んだ。
「アナタお腹が空いてるせいで考えが猛烈に後ろ向きなのよ。これでも食べて落ち着きなさい」
「しゅきふぁってしやふぁっへ」
いくらか自由になったゼフィールの手がマルクの胸にかざされる。途端にマルクが吹き飛ばされた。
普通ならそのまま壁に激突して怪我でもしそうな勢いだったのだが、マルクは軽々受け身を取っている。そして、大したことではないように肩を竦めた。
「荒っぽいわね。アナタ、性格の根っこ、結構攻撃的なんじゃない?」
「お前に対してだけだ」
口の中のものを吐き出しながらゼフィールがマルクを睨む。かと思うと、彼は口を押さえながら下を向き、次の瞬間には胃の中身まで戻してしまった。
「うわ、ちょっとゼフィール何してるのさ!? よりにもよって寝台の上とか最悪じゃん。ほら、どきなよ。汚したもの洗わなきゃ」
リアンはバスケットから取り出したナプキンで未だにえづいているゼフィールの口周りを強引に拭う。拭き終わると、手で「どけ」と、指示した。
ゼフィールはなんとも情けない顔をしていたが、ふらふらと身体を動かす。
そんな彼の近くにエレノーラがやってきて、寝台脇にしゃがみ、ゼフィールを見上げた。
「お好きな物を用意したつもりでしたが、お口に合いませんでしたか? ゼフィール様」
「エレノーラ殿? なぜ貴女がここに?」
彼女の存在に今気付いたとばかりに彼は目を大きくする。しかし、すぐに無機質な笑みを浮かべた。
「ああ、これは貴女が用意してくれたんですね。それなのに無駄にしてしまってすいません。今は、血を類推させる物は食べたくないんです」
優しい声音でゼフィールは言う。
けれど、彼の態度が作りものだとユリアには分かった。十年以上付き合っているのだ。まがい物と素の違いくらいは分かる。
エレノーラにもそれが分かったのかは謎だが、彼女は悲しそうに首を横に振った。そして、再度ゼフィールを見上げる。
「そのようにへりくだって頂かなくていいのです。マルク様から事情は伺いました。お帰りなさいませ、ゼフィール様。できれば以前のようにエレノーラとお呼び下さい」
ようやく寝台縁まできたゼフィールはそこで固まり、少しだけエレノーラを凝視した。けれど、一瞬後には、ばつが悪そうな表情を浮かべながらも穏やかに言う。
「そう。お前にも知られてしまったんだね、エレノーラ」
「はいはい、感動の再会は寝台からどいてやってよ。汚れが敷布の下まで行っちゃうじゃん」
そんなゼフィールをリアンは容赦なく突き飛ばす。寝台の主がいなくなると手際よく汚れてしまったリネンを剥がし、部屋を出て行ってしまった。
一方の、突き飛ばされたゼフィールは、マルクに首根っこをつかまれている。
マルクはゼフィールに笑顔を向けると、彼を引きずりながら窓辺に向かった。そして、この寒い中、窓を全開にする。その上で外を指さした。
「空気の入れ替えしている間に、アナタの性根でも叩きなおしましょ。雪に頭から突っ込めば汚れた顔も綺麗になるし、頭も冷えて、一石二鳥ね! ゾフィ、ちょっと、雪で階段作ってくれない? 三階から飛び降りると彼が怪我しそうだし」
「は? 何を?」
怪訝そうな声をゼフィールが漏らす。けれど、マルクは完全に無視だ。
「マルクも怪我するような一般人になってくれていいですのよ」
ため息をつきながらゾフィが扇子を動かす。
にんまりと笑ったマルクは、ぐったりしたゼフィールを連れて外へ飛び出して行った。
ユリア達がロードタウンに戻ると、騎手の言葉どおり《ザーレ》人達はいなくなっていた。彼らを拘束していた縄と衣類だけが地下広間に散乱していたのが生々しい。
事態を確認したマルクとゾフィの動きは早く、彼ら二人で後始末を全て引き受け、張本人のゼフィールをこの件から締め出した。代わりにゼフィールに言い渡していたのは、血を落としてとっとと寝ろ、ということだけだ。
その待遇にゼフィールは不服そうにしていたけれど、相当疲労していたのだろう。リアンが着替えを持って浴室に行った時、そこで半分寝ていたなんていう話を聞いた。
特に仕事のないユリアがゼフィールの部屋に行ってみると、彼は静かに眠っていた。ただ、いつもはのんきに寝る彼なのに、今は眉間に皺を寄せている。
ユリアは寝台縁に腰掛けゼフィールの手をとった。
「何があったのか知らないけど、今くらい休んでいいのよ」
枕元で囁いてみたけれど、彼の表情は軽くならない。
(小さい頃みたいにはいかないか)
少しだけ落胆し、つないだ手に視線を落とす。
随分とあやふやな記憶ではあるけれど、出会って間もなかった頃、ゼフィールがこんな顔でうなされていることは度々あった。あの時は手をつなげば落ち着いてくれたものだが、今の彼には効果が無いらしい。
だからといって、他に彼の緊張を解せる手段は思いつかない。
そのままゼフィールの手を握っていると扉の方で物音がした。顔を向けてみたけれど、誰も入ってこない。
気のせいかと顔を戻すと、ノックも無しにリアンが入ってきた。
彼は真っ直ぐに寝台脇に来てゼフィールを覗き込む。
「彼、ずっとこんな感じ?」
「ええ」
「こんなんじゃ、エレノーラさんもあんな顔になるはずだよ」
「エレノーラさん?」
「あれ? 来てたんじゃないの? さっき暗い顔で部屋の前に立ってたけど」
「来てないけど。何か用だったのかしら?」
「さぁ?」
どうにも分からず二人で顔を見合わす。
リアンの顔を見ていても楽しくないのでユリアはゼフィールに視線を戻したけれど、彼は難しい表情のままだった。
それから二日が過ぎ、未だ起きてこないゼフィールのもとにユリアが向かっていると、彼の部屋の中から騒ぎ声が聞こえた。
「ゼフィール目が覚めたの!?」
問いかけながら部屋に駆け込む。
はたして、ゼフィールは目覚めてはいた。けれど、寝台の上でマルクに押さえ込まれている状態はどう見ても異常だ。
さっきからよく分からないことを喚いているゼフィールの顔は見えない。けれど、彼を押さえるマルクと、そんな二人を見つめるゾフィの表情は揃って険しい。
事態が飲み込めず、丁度近くにいたリアンにユリアは尋ねた。
「これ、どういう状況なの?」
「ゼフィールが目を覚ましたと思ったら、突然泣きながら叫び出してさ。ほら、ゼフィールが目を覚ましたらマルクさん達を呼べって言われてたじゃん? だから、呼んできて、今この状態」
参ったようにリアンが寝台の方を指す。
「泣く?」
不穏な言葉に、ユリアはゼフィールの近くへ寄った。彼の顔を覗き込んでみると、涙でぐちゃぐちゃになっている。大人になってから、こんな彼を見たのは初めてだ。
「ゼフィール、どうしたの? 怖い夢でも見た?」
なるべく優しい声になるように気をつけて尋ねる。
そのお陰か、ゼフィールが虚ろな瞳をユリアに向けた。そして、唇を震えさせながら小さな声で言ってくる。
「お前でもいい。俺を罰してくれ」
「罰する?」
「聞かなくていいわよ、ユリアちゃん」
間髪入れずにマルクが言った。
「でも、師匠」
話すら聞いてやらないのか、と、ユリアはマルクに文句を言おうとしたけれど、マルクはユリアを一瞬見ただけで、顔をゼフィールの方へ戻してしまう。
「ほらゼフィール。アナタがいつまでも馬鹿なこと言うから、ユリアちゃんを困らせちゃったじゃない。《ザーレ》は非道のあまり天の裁きが下って滅んだ、ってことにするって言ってるでしょ。もう噂を流し出してるんだから、肝心のアナタがそれじゃ困るのよ」
有無を言わさぬ調子でマルクが言う。
ゼフィールは首を横に振り、声を震わせた。
「《ザーレ》の連中の目が忘れられないんだ。あの濁った目で俺を責め立ててくる。なんで自分達が死んで、お前が生きてるのかって」
「それで? 夢の話でしょ?」
マルクは取り付く島もなくゼフィールの言葉を切り捨ててしまう。更に涙を流しながらゼフィールは言葉を続けた。
「血の臭いが消えないんだ。夢なんかじゃない、俺はネビスでは多くの同胞すら死に追いやったんだぞ!? そんな俺が無罪で許されていいはずがない」
「ええ、そうですわね」
それまで黙っていたゾフィが口を開いた。
「貴方が《ザーレ》を滅ぼしたのも、ネビスでしたかしら? そこでご同胞を殺してしまわれたのも事実なのでしょう。ですが、そんなことを公表しては、危険人物として貴方が処刑される可能性が出てきてしまいますのよ」
「それだけは困るのよね。アナタには何が何でも儀式を受けてもらわなきゃなんないし」
「人命よりそんなものが大切だと?」
「ええ、大切ですわ。ですから、貴方とこの国を守るためなら、わたくし達なんでもしますわよ。黒も白に塗り替えましょう」
「そんなの受け入れられるか!」
ゼフィールがもがこうとしているけれど、マルクが変わらず押さえ続ける。それでもゼフィールは叫ぶように言葉を吐き出した。
「お前達は俺が何をしたか知らない。だからそんなことが平気で言えるんだ!」
「残念だけど――」
マルクが低い声で返す。心なしか、声に哀愁が混じっているのは気のせいだろうか。
「アタシ達、アナタ以上にアナタのことを知ってるの。だからね、フレースヴェルグの言ってたことと、アナタが喚いてた言葉だけで、《ザーレ》であったことは概ね分かってるのよ。その上で言ってんの」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
ゼフィールの視線が鋭くなる。
彼と、マルク、ゾフィの三人の間に流れる空気は険悪そのものだ。
仲裁に入るべきなのだろうが、ユリアには話の内容が分からなさすぎて口を出す余地がない。リアンでさえ困り顔で蚊帳の外だ。
どう動くべきかユリアが悩んでいると、マルクがこちらを向いた。
「あー、ユリアちゃんにリアン君。今聞いた話は口外しちゃ駄目よ。ゼフィール、アナタも分かってるわね? アレクシア様にだけは報告してもらわないといけないけど。口裏合わせてもらわないといけないものね」
「お前達どこまで――」
ゼフィールの言葉を遮るように遠慮がちなノックの音が響いた。リアンが扉を開けてやると、バスケットを持ったエレノーラが困ったように立っている。
彼女は数歩前に出ると、バスケットを身体の前にかざした。
「あの、頼まれていたお食事を持ってきたのですが」
「ああ。ありがとうね。リアン君、それ持ってきてくんない?」
「はいはい」
バスケットを受け取ったリアンが寝台脇にくる。
マルクはバスケットを覗き込み、肉を掴むと、無理やりにゼフィールの口の中に突っ込んだ。
「アナタお腹が空いてるせいで考えが猛烈に後ろ向きなのよ。これでも食べて落ち着きなさい」
「しゅきふぁってしやふぁっへ」
いくらか自由になったゼフィールの手がマルクの胸にかざされる。途端にマルクが吹き飛ばされた。
普通ならそのまま壁に激突して怪我でもしそうな勢いだったのだが、マルクは軽々受け身を取っている。そして、大したことではないように肩を竦めた。
「荒っぽいわね。アナタ、性格の根っこ、結構攻撃的なんじゃない?」
「お前に対してだけだ」
口の中のものを吐き出しながらゼフィールがマルクを睨む。かと思うと、彼は口を押さえながら下を向き、次の瞬間には胃の中身まで戻してしまった。
「うわ、ちょっとゼフィール何してるのさ!? よりにもよって寝台の上とか最悪じゃん。ほら、どきなよ。汚したもの洗わなきゃ」
リアンはバスケットから取り出したナプキンで未だにえづいているゼフィールの口周りを強引に拭う。拭き終わると、手で「どけ」と、指示した。
ゼフィールはなんとも情けない顔をしていたが、ふらふらと身体を動かす。
そんな彼の近くにエレノーラがやってきて、寝台脇にしゃがみ、ゼフィールを見上げた。
「お好きな物を用意したつもりでしたが、お口に合いませんでしたか? ゼフィール様」
「エレノーラ殿? なぜ貴女がここに?」
彼女の存在に今気付いたとばかりに彼は目を大きくする。しかし、すぐに無機質な笑みを浮かべた。
「ああ、これは貴女が用意してくれたんですね。それなのに無駄にしてしまってすいません。今は、血を類推させる物は食べたくないんです」
優しい声音でゼフィールは言う。
けれど、彼の態度が作りものだとユリアには分かった。十年以上付き合っているのだ。まがい物と素の違いくらいは分かる。
エレノーラにもそれが分かったのかは謎だが、彼女は悲しそうに首を横に振った。そして、再度ゼフィールを見上げる。
「そのようにへりくだって頂かなくていいのです。マルク様から事情は伺いました。お帰りなさいませ、ゼフィール様。できれば以前のようにエレノーラとお呼び下さい」
ようやく寝台縁まできたゼフィールはそこで固まり、少しだけエレノーラを凝視した。けれど、一瞬後には、ばつが悪そうな表情を浮かべながらも穏やかに言う。
「そう。お前にも知られてしまったんだね、エレノーラ」
「はいはい、感動の再会は寝台からどいてやってよ。汚れが敷布の下まで行っちゃうじゃん」
そんなゼフィールをリアンは容赦なく突き飛ばす。寝台の主がいなくなると手際よく汚れてしまったリネンを剥がし、部屋を出て行ってしまった。
一方の、突き飛ばされたゼフィールは、マルクに首根っこをつかまれている。
マルクはゼフィールに笑顔を向けると、彼を引きずりながら窓辺に向かった。そして、この寒い中、窓を全開にする。その上で外を指さした。
「空気の入れ替えしている間に、アナタの性根でも叩きなおしましょ。雪に頭から突っ込めば汚れた顔も綺麗になるし、頭も冷えて、一石二鳥ね! ゾフィ、ちょっと、雪で階段作ってくれない? 三階から飛び降りると彼が怪我しそうだし」
「は? 何を?」
怪訝そうな声をゼフィールが漏らす。けれど、マルクは完全に無視だ。
「マルクも怪我するような一般人になってくれていいですのよ」
ため息をつきながらゾフィが扇子を動かす。
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