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風の国《シレジア》編 王子の帰還
4-25 持つべきもの
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ゾフィも外へ行くつもりなのか雪の階段に乗ったので、彼女までいなくなる前にユリアはゾフィに尋ねた。
「ねぇゾフィさん。ゼフィール大丈夫なの?」
「問題ありませんわよ」
振り向いたゾフィが優しい笑みを浮かべる。
「疲れが多少取れた上に極度の緊張状態から解放されて、頭が回りだしたのでしょう。夢にまで出てきてしまう程思い詰めていることがあるようですけど、吐き出してしまえば、案外落ち着くものでしてよ」
「そんなもの?」
「ええ、わたくし達も経験してきたことですから。彼だけ超えられないはずはありませんでしょう?」
それに、と、下を見下ろした彼女は呟く。
「為政の側は汚い世界なのですから、清濁合わせ飲めるようになって頂かなくては困りますわ」
その言葉を最後にゾフィも外へ出た。エレノーラは他の部屋を使えるようにしてくると言って扉から出ていき、部屋にはユリアだけになる。
(私に出来ることなんてないし、どうしよう)
窓から外を見下ろす。
丁度、マルクがゼフィールを殴り飛ばしたところだった。柔らかな雪にゼフィールは頭から突っ込みながら、それでも手を動かす。すると、景気良くマルクが吹き飛ばされていった。
(なんか、昔のゼフィールが使ってた風とは違うような。そういえば私、商隊に拾われる前のあいつも、最近のあいつも知らないのよね)
ふと、そんなことに気付く。
拾われた者同士、互いに過去には触れなかった。だから、知らなくても当然なのだが、考えてみれば寂しいことだ。
階下ではゼフィールとマルクが怒鳴り合っているけれど、何を言っているのかまでは聞き取れない。
(あいつ、あんなふうに感情のままに怒鳴れるんだ)
自分の知らなかった彼の一面に驚く。
ユリアの認識だと、ゼフィールは、ことが深刻になる程感情を抑え込むタイプだ。そして、表面上は何事もないかのように装おうとする。
そんな彼が感情を決壊させているのだから、よほどの事態なのだろう。
ゼフィールの過去も、現在も、ユリアは知らないことだらけで、存在が遠くて、手が届かない。
(私、ゼフィールのこと何も知らないのね)
ため息が出そうになる。
過去をほじくり返されれば彼は嫌がるかもしれない。今進行している何かにユリアも首を突っ込もうとすれば、やんわりと、手を引かせようとする可能性だってある。
それでも、せめて今のゼフィールに近付きたくて、足を踏み出す。彼の叫びを聞けばその一端でも知れるかと考え、雪の階段を降りゾフィの横に並んだ。ゾフィはちらりとユリアに視線を向けたけれど、特に何も言わない。
そんな彼女達の見ている前で男二人は泥臭く殴り合いを続けている。
「お前に想像できるか!? 目の前で誰も彼も肉片にされていく光景が」
「無理かしら~。見たことないし。で?」
「で? ってなんだ!? 心が痛まないのか!? 殺したのは何もしていない民達なんだぞ!」
「そんな言われてもね~。でも、五王国と王家を守るためなら、アタシもゾフィも、それくらいやるわよ」
「何?」
呆然として動きの止まったゼフィールの腹にマルクの拳がめり込む。ゼフィールは腹を押さえながらうずくまり、小さく咳き込んだ。
情があるならゼフィールが落ち着くのを待つべきだろうに、マルクは、追い打ちを掛けるようにゼフィールを蹴飛ばす。
「国を維持することを何だと思ってんの? 重犯罪者は処刑、時には、政治犯だって処刑するのよ。今更流す血の量が増えるからって躊躇しないわ。まぁ、少ないに越したことはないけどね」
蹴飛ばされたゼフィールは動かない。
そんな彼に歩み寄りながら、マルクは言う。
「アナタが国を想う心なんてそんなものだったってことよね。だから、小さい頃も簡単に逃げだせたし、今だって、泣き言ばっかり言えるんでしょう?」
「ちょっと、師匠! いくら師匠でも言い過ぎ!」
ユリアがマルクを止めようと足を踏み出すと、腕をゾフィが掴んだ。彼女は何も言わず、ただ首を横に振る。
「ゾフィさん?」
「貴女が割り込んでいい場面ではありませんわ。彼を信じて見守るのが、わたくし達に出来る精々でしてよ」
そう言われてしまっては、割り込むなんて野暮なことは出来ない。ユリアは拳を握りその場に留まった。
ゾフィはそんなユリアを見て満足そうに微笑み、視線を男達に戻す。
視線の先では、ゼフィールの真ん前まで到達したマルクが、ゼフィールを見下ろしながら喋っていた。
「《シレジア》の民も可哀想よね~。こんな腑抜けが王子様なんですもの」
「本当にな」
拳を握ったゼフィールが呟いた。彼は起き上がりはしたものの、下を向いたまま言葉を続ける。
「こんなへたれで、血が嫌いで、お前みたいにたくましくもなくて、お前達みたいに割り切ることすら出来ない俺を、王子にいだかないとならない民は大変だ。ネビスに収容されたのが俺でなくてお前だったなら、あんなに多くの犠牲も出なかっただろう」
彼はそのまま立ち上がると、マルクの胸ぐらを掴んだ。
「だがな、国や民を想う気持ちを安く見られては困る。こんな俺だと分かっていながら、希望を託して死んでいった者達もいるんだ。彼らの死に報いるためにも、俺は、国を取り戻さないとならないんだよ」
最後の方は絞り出すようにゼフィールが言った。
なのに、そんな彼を茶化すように、マルクはゼフィールの物真似をしだす。
「ご立派なことを言ってくれてるけど、アナタってば、後ろを振り返って、罰してくれ~って泣いてただけじゃない?」
「違うっ!」
ゼフィールが怒鳴る。けれど、彼はすぐに、マルクの胸倉をつかむ力を緩めた。
「いいや、違わないな」
小さな呟きが漏れる。
しばらく一点を見ていたゼフィールは、最後には、マルクの服から手を引いた。そうして、皮肉気に嗤う。
「……そうだ。確かに俺は、起きてしまったことばかり気にしていて、先を見ていなかった。お前の言うとおりだ。これでは死んでいった者達に示しがつかないな」
「あら? 急にどうしたの?」
大人しくなったゼフィールをマルクは不思議そうに見る。そんなマルクの胸に、ゼフィールは軽く拳をぶつけた。
「もやもやしていたことをわめき立ててたら、自分の発言の不毛さに気付いた上に、すっきりした。ようは、俺が、汚れることを受け入れさえすれば、全て解決だからな。もう後ろばかり見るのは止めだ。俺には託された仕事があるし、対峙する相手のことを考えると、時間も惜しい」
「あら。あらあらあらあら?」
いくらか茶化し気味ながらも、嬉しそうな表情をマルクが浮かべる。
ユリアの隣では、ゾフィがドヤ顔をこちらに向けた。
「ほら。ですから言ったでしょう?」
「本当。あんなに沈んでたのに、嘘みたい」
「経験者は語る、ですわよ」
小さく笑いながらゾフィは男達の方へ行く。彼女に気付いたゼフィールがゾフィに笑顔を向けた。
「ゾフィ。お前にも迷惑をかけたな」
「わたくしは見ていただけですわよ。貴方と殴り合ったのもマルクですし」
「あ、そういえば、地味に痛む所があるんだけど。どっちでもいいから治癒してくれない? もー、ゼフィールってば昔よりたくましくなってくれちゃってて、思ったより痛い目にあったんだけど」
「無駄にしごかれることが多かったからな」
ゼフィールは自らの痣を消し、マルクにも手をかざす。
彼の痣もすっかり癒すと、マルクとゾフィを見て口を開いた。
「俺はこれから王都を取り戻しに行かないとならない。悪いが、お前達の力を借りるぞ。折角ここまで来たんだ。最後まで付き合え」
「んま。開き直ったら大きく出たわね」
「どうせお前達、こんな、滅多にない騒ぎから手を引こうだなんて、思ってないだろう? 俺の記憶だと、お前達は根っからの祭り好きだからな」
言いながらゼフィールは胸元へ手をやる。彼が小さく呟くと、次の瞬間には、手の中に巾着が握られていた。中から見覚えのある指輪とピアスを取り出し、各々身に付ける。
そんな彼を見ながらゾフィが笑った。
「失礼ですわね。王子が国を奪還する手伝いという体裁は崩してませんわよ」
「それ言っちゃった時点で、ゼフィールの言葉全肯定なんですけどね」
マルクが困ったように肩をすくめる。しかし、否定はしないらしい。
ゼフィールも小さく笑うと、階段の方へ身を翻した。
「まぁ、お前達が何のために協力してくれようと構わない。国を取り戻さないことには始まらないからな。だが、途中で変な真似をすれば、お前達だろうと容赦はしない」
「あらやだ怖い。余計なことすると雷が落ちるらしいわよ、ゾフィ」
「何かするのは貴方でしょうに」
「んま。そんなことしないわよ。少ししか」
「少し?」
立ち止まって振り返ったゼフィールの眉が不愉快そうに片方上がる。
マルクは慌てて首と腕をぶんぶんと振った。
「やーね。冗談よ、冗談」
「絶対本気でしたでしょうに」
疲れた声をゾフィが出す。
ゼフィールもため息を一つつくと、ユリアの方を向いて首を傾げた。
「ユリア。そんな所に立ちっ放しで、部屋に帰らないのか?」
「帰らないのか? って。だって、なんか私の入れなさそうな雰囲気だったし」
「そんなこと気にしてたのか? らしくないな。そういうのはリアンの仕事だろうに」
あんまりな彼の言葉にユリアは頬を膨らませた。
「何よ。私だってたまには空気読むわよ」
「ああ、悪い。それじゃあ頼む。一緒に帰ろう。で、これからは空気なんて気にせず付いてきてくれ。お前とリアンがいないと、俺の荷を背負う手伝いをしてくれる奴がいないからな」
ゼフィールがおいでおいでする。
子供のように扱われたのは気に入らなかったけれど、彼がいつもみたいに優しい顔になってくれていたので、ユリアも機嫌を直してゼフィールの隣に行く。
すると、彼は薄く笑い、雪の階段を登って部屋への道を辿りだした。前を向いたまま彼は言う。
「ユリア、俺は弱い。今は強がっていられるが、また沈む日もくるだろう。その時は頼む。どうにかして浮かび上がらせてくれ」
なんだかゼフィールっぽくない素直な言葉に、ユリアは目を瞬く。
前を行く彼の背が昔と違って見えた。
(この前会った時から影はあったけど。なんか、大きくなった? ううん、強くなった? 別行動してる間に何があったのかしら?)
詳細が気になったが、今は尋ねない方がいいのだろう。落ち着いたら聞こうとだけ頭の片隅に留めておく。
けれど、ユリアが返事をしなかったからか、足を止めたゼフィールが心配そうに振り返った。
そんな彼の背をユリアは軽く叩く。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。あんたは今は、前だけ見て進みなさい」
顔に笑みを浮かべておいたら、ゼフィールも優しく笑い返してくれた。
再び前を向いて階段登りを再開した彼は、今度は別の話題を上げる。
「部屋に戻ったら作戦会議だな。民を傷付けずに王都を取り戻す方法を俺は思い付かない。お前達の知恵を貸してくれ」
「当然」
ユリアの後を登ってくるマルクとゾフィから頼もしい答えが返ってきた。
「ねぇゾフィさん。ゼフィール大丈夫なの?」
「問題ありませんわよ」
振り向いたゾフィが優しい笑みを浮かべる。
「疲れが多少取れた上に極度の緊張状態から解放されて、頭が回りだしたのでしょう。夢にまで出てきてしまう程思い詰めていることがあるようですけど、吐き出してしまえば、案外落ち着くものでしてよ」
「そんなもの?」
「ええ、わたくし達も経験してきたことですから。彼だけ超えられないはずはありませんでしょう?」
それに、と、下を見下ろした彼女は呟く。
「為政の側は汚い世界なのですから、清濁合わせ飲めるようになって頂かなくては困りますわ」
その言葉を最後にゾフィも外へ出た。エレノーラは他の部屋を使えるようにしてくると言って扉から出ていき、部屋にはユリアだけになる。
(私に出来ることなんてないし、どうしよう)
窓から外を見下ろす。
丁度、マルクがゼフィールを殴り飛ばしたところだった。柔らかな雪にゼフィールは頭から突っ込みながら、それでも手を動かす。すると、景気良くマルクが吹き飛ばされていった。
(なんか、昔のゼフィールが使ってた風とは違うような。そういえば私、商隊に拾われる前のあいつも、最近のあいつも知らないのよね)
ふと、そんなことに気付く。
拾われた者同士、互いに過去には触れなかった。だから、知らなくても当然なのだが、考えてみれば寂しいことだ。
階下ではゼフィールとマルクが怒鳴り合っているけれど、何を言っているのかまでは聞き取れない。
(あいつ、あんなふうに感情のままに怒鳴れるんだ)
自分の知らなかった彼の一面に驚く。
ユリアの認識だと、ゼフィールは、ことが深刻になる程感情を抑え込むタイプだ。そして、表面上は何事もないかのように装おうとする。
そんな彼が感情を決壊させているのだから、よほどの事態なのだろう。
ゼフィールの過去も、現在も、ユリアは知らないことだらけで、存在が遠くて、手が届かない。
(私、ゼフィールのこと何も知らないのね)
ため息が出そうになる。
過去をほじくり返されれば彼は嫌がるかもしれない。今進行している何かにユリアも首を突っ込もうとすれば、やんわりと、手を引かせようとする可能性だってある。
それでも、せめて今のゼフィールに近付きたくて、足を踏み出す。彼の叫びを聞けばその一端でも知れるかと考え、雪の階段を降りゾフィの横に並んだ。ゾフィはちらりとユリアに視線を向けたけれど、特に何も言わない。
そんな彼女達の見ている前で男二人は泥臭く殴り合いを続けている。
「お前に想像できるか!? 目の前で誰も彼も肉片にされていく光景が」
「無理かしら~。見たことないし。で?」
「で? ってなんだ!? 心が痛まないのか!? 殺したのは何もしていない民達なんだぞ!」
「そんな言われてもね~。でも、五王国と王家を守るためなら、アタシもゾフィも、それくらいやるわよ」
「何?」
呆然として動きの止まったゼフィールの腹にマルクの拳がめり込む。ゼフィールは腹を押さえながらうずくまり、小さく咳き込んだ。
情があるならゼフィールが落ち着くのを待つべきだろうに、マルクは、追い打ちを掛けるようにゼフィールを蹴飛ばす。
「国を維持することを何だと思ってんの? 重犯罪者は処刑、時には、政治犯だって処刑するのよ。今更流す血の量が増えるからって躊躇しないわ。まぁ、少ないに越したことはないけどね」
蹴飛ばされたゼフィールは動かない。
そんな彼に歩み寄りながら、マルクは言う。
「アナタが国を想う心なんてそんなものだったってことよね。だから、小さい頃も簡単に逃げだせたし、今だって、泣き言ばっかり言えるんでしょう?」
「ちょっと、師匠! いくら師匠でも言い過ぎ!」
ユリアがマルクを止めようと足を踏み出すと、腕をゾフィが掴んだ。彼女は何も言わず、ただ首を横に振る。
「ゾフィさん?」
「貴女が割り込んでいい場面ではありませんわ。彼を信じて見守るのが、わたくし達に出来る精々でしてよ」
そう言われてしまっては、割り込むなんて野暮なことは出来ない。ユリアは拳を握りその場に留まった。
ゾフィはそんなユリアを見て満足そうに微笑み、視線を男達に戻す。
視線の先では、ゼフィールの真ん前まで到達したマルクが、ゼフィールを見下ろしながら喋っていた。
「《シレジア》の民も可哀想よね~。こんな腑抜けが王子様なんですもの」
「本当にな」
拳を握ったゼフィールが呟いた。彼は起き上がりはしたものの、下を向いたまま言葉を続ける。
「こんなへたれで、血が嫌いで、お前みたいにたくましくもなくて、お前達みたいに割り切ることすら出来ない俺を、王子にいだかないとならない民は大変だ。ネビスに収容されたのが俺でなくてお前だったなら、あんなに多くの犠牲も出なかっただろう」
彼はそのまま立ち上がると、マルクの胸ぐらを掴んだ。
「だがな、国や民を想う気持ちを安く見られては困る。こんな俺だと分かっていながら、希望を託して死んでいった者達もいるんだ。彼らの死に報いるためにも、俺は、国を取り戻さないとならないんだよ」
最後の方は絞り出すようにゼフィールが言った。
なのに、そんな彼を茶化すように、マルクはゼフィールの物真似をしだす。
「ご立派なことを言ってくれてるけど、アナタってば、後ろを振り返って、罰してくれ~って泣いてただけじゃない?」
「違うっ!」
ゼフィールが怒鳴る。けれど、彼はすぐに、マルクの胸倉をつかむ力を緩めた。
「いいや、違わないな」
小さな呟きが漏れる。
しばらく一点を見ていたゼフィールは、最後には、マルクの服から手を引いた。そうして、皮肉気に嗤う。
「……そうだ。確かに俺は、起きてしまったことばかり気にしていて、先を見ていなかった。お前の言うとおりだ。これでは死んでいった者達に示しがつかないな」
「あら? 急にどうしたの?」
大人しくなったゼフィールをマルクは不思議そうに見る。そんなマルクの胸に、ゼフィールは軽く拳をぶつけた。
「もやもやしていたことをわめき立ててたら、自分の発言の不毛さに気付いた上に、すっきりした。ようは、俺が、汚れることを受け入れさえすれば、全て解決だからな。もう後ろばかり見るのは止めだ。俺には託された仕事があるし、対峙する相手のことを考えると、時間も惜しい」
「あら。あらあらあらあら?」
いくらか茶化し気味ながらも、嬉しそうな表情をマルクが浮かべる。
ユリアの隣では、ゾフィがドヤ顔をこちらに向けた。
「ほら。ですから言ったでしょう?」
「本当。あんなに沈んでたのに、嘘みたい」
「経験者は語る、ですわよ」
小さく笑いながらゾフィは男達の方へ行く。彼女に気付いたゼフィールがゾフィに笑顔を向けた。
「ゾフィ。お前にも迷惑をかけたな」
「わたくしは見ていただけですわよ。貴方と殴り合ったのもマルクですし」
「あ、そういえば、地味に痛む所があるんだけど。どっちでもいいから治癒してくれない? もー、ゼフィールってば昔よりたくましくなってくれちゃってて、思ったより痛い目にあったんだけど」
「無駄にしごかれることが多かったからな」
ゼフィールは自らの痣を消し、マルクにも手をかざす。
彼の痣もすっかり癒すと、マルクとゾフィを見て口を開いた。
「俺はこれから王都を取り戻しに行かないとならない。悪いが、お前達の力を借りるぞ。折角ここまで来たんだ。最後まで付き合え」
「んま。開き直ったら大きく出たわね」
「どうせお前達、こんな、滅多にない騒ぎから手を引こうだなんて、思ってないだろう? 俺の記憶だと、お前達は根っからの祭り好きだからな」
言いながらゼフィールは胸元へ手をやる。彼が小さく呟くと、次の瞬間には、手の中に巾着が握られていた。中から見覚えのある指輪とピアスを取り出し、各々身に付ける。
そんな彼を見ながらゾフィが笑った。
「失礼ですわね。王子が国を奪還する手伝いという体裁は崩してませんわよ」
「それ言っちゃった時点で、ゼフィールの言葉全肯定なんですけどね」
マルクが困ったように肩をすくめる。しかし、否定はしないらしい。
ゼフィールも小さく笑うと、階段の方へ身を翻した。
「まぁ、お前達が何のために協力してくれようと構わない。国を取り戻さないことには始まらないからな。だが、途中で変な真似をすれば、お前達だろうと容赦はしない」
「あらやだ怖い。余計なことすると雷が落ちるらしいわよ、ゾフィ」
「何かするのは貴方でしょうに」
「んま。そんなことしないわよ。少ししか」
「少し?」
立ち止まって振り返ったゼフィールの眉が不愉快そうに片方上がる。
マルクは慌てて首と腕をぶんぶんと振った。
「やーね。冗談よ、冗談」
「絶対本気でしたでしょうに」
疲れた声をゾフィが出す。
ゼフィールもため息を一つつくと、ユリアの方を向いて首を傾げた。
「ユリア。そんな所に立ちっ放しで、部屋に帰らないのか?」
「帰らないのか? って。だって、なんか私の入れなさそうな雰囲気だったし」
「そんなこと気にしてたのか? らしくないな。そういうのはリアンの仕事だろうに」
あんまりな彼の言葉にユリアは頬を膨らませた。
「何よ。私だってたまには空気読むわよ」
「ああ、悪い。それじゃあ頼む。一緒に帰ろう。で、これからは空気なんて気にせず付いてきてくれ。お前とリアンがいないと、俺の荷を背負う手伝いをしてくれる奴がいないからな」
ゼフィールがおいでおいでする。
子供のように扱われたのは気に入らなかったけれど、彼がいつもみたいに優しい顔になってくれていたので、ユリアも機嫌を直してゼフィールの隣に行く。
すると、彼は薄く笑い、雪の階段を登って部屋への道を辿りだした。前を向いたまま彼は言う。
「ユリア、俺は弱い。今は強がっていられるが、また沈む日もくるだろう。その時は頼む。どうにかして浮かび上がらせてくれ」
なんだかゼフィールっぽくない素直な言葉に、ユリアは目を瞬く。
前を行く彼の背が昔と違って見えた。
(この前会った時から影はあったけど。なんか、大きくなった? ううん、強くなった? 別行動してる間に何があったのかしら?)
詳細が気になったが、今は尋ねない方がいいのだろう。落ち着いたら聞こうとだけ頭の片隅に留めておく。
けれど、ユリアが返事をしなかったからか、足を止めたゼフィールが心配そうに振り返った。
そんな彼の背をユリアは軽く叩く。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。あんたは今は、前だけ見て進みなさい」
顔に笑みを浮かべておいたら、ゼフィールも優しく笑い返してくれた。
再び前を向いて階段登りを再開した彼は、今度は別の話題を上げる。
「部屋に戻ったら作戦会議だな。民を傷付けずに王都を取り戻す方法を俺は思い付かない。お前達の知恵を貸してくれ」
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