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昨日の先輩と相川の会話について一晩中考えていたが、二人の言う俺と、自分の思う俺のキャラが違いすぎていて、夢でも見ていたんじゃないかって気になってきていた。
俺が聞き耳を立てていたなんて知るよしもない相川は、いつも通りに接してくれるし、盗み聞きがバレないように俺もいつも通りに接する。そんな一日を過ごし、俺の中で昨日の会話は夢だったということになりかけていた。
放課後、いつものように社会科資料室に向かう。だが、いつまで経っても先輩は現れなかった。
空が闇に包まれ始めたので、諦めて家に帰る。暗闇がそうさせるのか、なんとも言えない不安が襲う。
次の朝、学校に向かう俺の前を歩く金髪頭が目に入った。登校中に先輩に遭うのは初めてだ。なんだかワクワクして声をかけようとすると、先輩は小走りで前を歩く男子に近寄り、楽しそうに話を始めた。
相手はクラスメイトなのかな? 今までは被害妄想で誰とも打ち解けられなかった先輩だけど、似たような俺と出会って、お互いに自分を変えていこうって決めたんだもんな。
先輩が自分の殻を破って、新しい自分になろうって努力しているのを、同士として喜ばなくちゃいけないんだ。それなのに、なんでイライラしてんだよ、俺。なんで、俺以外の奴とは話さないで欲しいって思ってんの? なんで、先輩の特別は俺だけなのにって思って、泣きそうになってんの? わけ分かんねーよ。
先輩が新たな一歩を踏み出しているの目撃した日から、社会科資料室には行っていない。
友達として、同士として、喜ばなくちゃいけない成長なのに、喜べない自分。先輩だけが先に進んでしまい、残された俺は必死で先輩の足を掴み、先へ行かせまいとしてしまいそうで。
昼休み。いつものように屋上で相川と昼飯だ。
「どうした、何かあったか?」
「何でもない」
流れる雲を眺めて溜め息ばかりついている俺に、心配顔の相川が聞いてくる。
心配してくださいって態度だもんな。だからって、悩みは話したくない。俺って本当、面倒臭い奴だな。
「俺が何度も彼女を変えていた理由、教えてやるよ」
急に突拍子もないことを言い出した相川に振り向くと、真っ直ぐな瞳で遠い一点を見つめていた。
「本当は俺、ずーっと好きな奴がいたんだ。そいつを忘れさせてくれる娘を探すために、俺を好きだって言ってくれる娘とはみんな付き合った。でも、誰を抱いても、そいつを抱いてる妄想ばっかして、切なくなるだけだった」
相川の痛くて切ない気持ちが、その声色から伝わってくる。
「軽蔑した?」
「その気持ち分かるよ。誰だって苦しいのは嫌だし忘れたくなる。愛しさと同じだけ切なさもあるから。想いが強ければ強いほど、狂気的な愛になっていって相手をどうにかしてしまうんじゃないかって怯えることもあるだろうしな。女の子の気持ちも分かる。相川が好きだから、心はなくても体だけは愛して欲しいって。体だけでも必要としてくれるなら、それでも嬉しいって」
俺が罵倒するとでも思っていたのか、相川は驚いた表情で俺を見ている。
「でも、気持ち伝えれば良かったのに」
「だって、そいつ、男だったんだもん」
「お前、ホモなの?」
「ちげーよ。でも、そいつは特別だった。性別とか関係なくなるくらい、そいつは魅力的だった」
性別とか関係なく、人として……。入れ物なんて関係なく、中身だけを見て……。
「って、全部冗談だけどな」
ニヤッと笑い、しれっと言い放った相川。真剣に聞いていた俺は、ズコッという効果音がピッタリなずっこけをしてしまう。
「蒼井でよかったよ」
「何が?」
「親友が」
立ち上がり、んーっとひと伸びして照りつける太陽に目をやる相川の顔は、太陽と同じくらいキラキラ輝いていた。
日曜日。日本刀展が終わっても、続くはずだった関係。一緒に過ごしたいと言ってくれた先輩からは、何の連絡もない。新しい友達と交遊を深めているのだろうか?
瞼を閉じると浮かぶ、太陽みたいにキラキラ輝く笑顔。月のようなミステリアスなプリンスに、こんな少年のような表情があるって知った友達は、より先輩に惹かれていくんだろうな。
縁側に座って足をぶらぶらさせながら、頭上を見上げる。雲ひとつない青空だ。
ブルースってあるじゃん? あれの起源って、奴隷が労働中に歌っていた唄なんだってね。魂が震えるのは、どうしようもない憤りとか哀しみとかが詰まってるからなのかな。
ブルーって青空のことだと思う。手が届かないくらい高くて、掴みきれないくらい大きくて、眩しいくらい綺麗で。誰の上にも平等に広がっているのに、見上げる人々は平等ではない。
青空の壮大さに、自分の小ささを痛感してしまう。優しいのに、残酷。
沈んでいる時に見上げる青空は、心をどん底まで落としていく。落ちるところまで落ちたら、今度は手をさしのべて、上を向けるように優しく輝いてくれる。
明日の放課後、社会科資料室に行こう。先輩がいてもいなくても、二人が変わっていくことを誓った場所で、俺も変わるって誓おう。
先輩が変わっていっているのを、嬉しく思っているよって言おう。先輩と友達になれて良かったよって言おう。
俺、強くなるから。先輩と並んで冷ややかな目で見られても、笑い飛ばせるくらい強くなるから。だから、これからも横に並んでもいいですか? 護るとか護られるとか、癒すとか癒されるとか、そんなのいらないから、何も考えずに笑い合いたいだけなんだよ。
こんな俺は、先輩の求めている友達じゃないのかな?
俺が聞き耳を立てていたなんて知るよしもない相川は、いつも通りに接してくれるし、盗み聞きがバレないように俺もいつも通りに接する。そんな一日を過ごし、俺の中で昨日の会話は夢だったということになりかけていた。
放課後、いつものように社会科資料室に向かう。だが、いつまで経っても先輩は現れなかった。
空が闇に包まれ始めたので、諦めて家に帰る。暗闇がそうさせるのか、なんとも言えない不安が襲う。
次の朝、学校に向かう俺の前を歩く金髪頭が目に入った。登校中に先輩に遭うのは初めてだ。なんだかワクワクして声をかけようとすると、先輩は小走りで前を歩く男子に近寄り、楽しそうに話を始めた。
相手はクラスメイトなのかな? 今までは被害妄想で誰とも打ち解けられなかった先輩だけど、似たような俺と出会って、お互いに自分を変えていこうって決めたんだもんな。
先輩が自分の殻を破って、新しい自分になろうって努力しているのを、同士として喜ばなくちゃいけないんだ。それなのに、なんでイライラしてんだよ、俺。なんで、俺以外の奴とは話さないで欲しいって思ってんの? なんで、先輩の特別は俺だけなのにって思って、泣きそうになってんの? わけ分かんねーよ。
先輩が新たな一歩を踏み出しているの目撃した日から、社会科資料室には行っていない。
友達として、同士として、喜ばなくちゃいけない成長なのに、喜べない自分。先輩だけが先に進んでしまい、残された俺は必死で先輩の足を掴み、先へ行かせまいとしてしまいそうで。
昼休み。いつものように屋上で相川と昼飯だ。
「どうした、何かあったか?」
「何でもない」
流れる雲を眺めて溜め息ばかりついている俺に、心配顔の相川が聞いてくる。
心配してくださいって態度だもんな。だからって、悩みは話したくない。俺って本当、面倒臭い奴だな。
「俺が何度も彼女を変えていた理由、教えてやるよ」
急に突拍子もないことを言い出した相川に振り向くと、真っ直ぐな瞳で遠い一点を見つめていた。
「本当は俺、ずーっと好きな奴がいたんだ。そいつを忘れさせてくれる娘を探すために、俺を好きだって言ってくれる娘とはみんな付き合った。でも、誰を抱いても、そいつを抱いてる妄想ばっかして、切なくなるだけだった」
相川の痛くて切ない気持ちが、その声色から伝わってくる。
「軽蔑した?」
「その気持ち分かるよ。誰だって苦しいのは嫌だし忘れたくなる。愛しさと同じだけ切なさもあるから。想いが強ければ強いほど、狂気的な愛になっていって相手をどうにかしてしまうんじゃないかって怯えることもあるだろうしな。女の子の気持ちも分かる。相川が好きだから、心はなくても体だけは愛して欲しいって。体だけでも必要としてくれるなら、それでも嬉しいって」
俺が罵倒するとでも思っていたのか、相川は驚いた表情で俺を見ている。
「でも、気持ち伝えれば良かったのに」
「だって、そいつ、男だったんだもん」
「お前、ホモなの?」
「ちげーよ。でも、そいつは特別だった。性別とか関係なくなるくらい、そいつは魅力的だった」
性別とか関係なく、人として……。入れ物なんて関係なく、中身だけを見て……。
「って、全部冗談だけどな」
ニヤッと笑い、しれっと言い放った相川。真剣に聞いていた俺は、ズコッという効果音がピッタリなずっこけをしてしまう。
「蒼井でよかったよ」
「何が?」
「親友が」
立ち上がり、んーっとひと伸びして照りつける太陽に目をやる相川の顔は、太陽と同じくらいキラキラ輝いていた。
日曜日。日本刀展が終わっても、続くはずだった関係。一緒に過ごしたいと言ってくれた先輩からは、何の連絡もない。新しい友達と交遊を深めているのだろうか?
瞼を閉じると浮かぶ、太陽みたいにキラキラ輝く笑顔。月のようなミステリアスなプリンスに、こんな少年のような表情があるって知った友達は、より先輩に惹かれていくんだろうな。
縁側に座って足をぶらぶらさせながら、頭上を見上げる。雲ひとつない青空だ。
ブルースってあるじゃん? あれの起源って、奴隷が労働中に歌っていた唄なんだってね。魂が震えるのは、どうしようもない憤りとか哀しみとかが詰まってるからなのかな。
ブルーって青空のことだと思う。手が届かないくらい高くて、掴みきれないくらい大きくて、眩しいくらい綺麗で。誰の上にも平等に広がっているのに、見上げる人々は平等ではない。
青空の壮大さに、自分の小ささを痛感してしまう。優しいのに、残酷。
沈んでいる時に見上げる青空は、心をどん底まで落としていく。落ちるところまで落ちたら、今度は手をさしのべて、上を向けるように優しく輝いてくれる。
明日の放課後、社会科資料室に行こう。先輩がいてもいなくても、二人が変わっていくことを誓った場所で、俺も変わるって誓おう。
先輩が変わっていっているのを、嬉しく思っているよって言おう。先輩と友達になれて良かったよって言おう。
俺、強くなるから。先輩と並んで冷ややかな目で見られても、笑い飛ばせるくらい強くなるから。だから、これからも横に並んでもいいですか? 護るとか護られるとか、癒すとか癒されるとか、そんなのいらないから、何も考えずに笑い合いたいだけなんだよ。
こんな俺は、先輩の求めている友達じゃないのかな?
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