その男、幽霊なり

オトバタケ

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高校生活

12

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「拓也、アーン」

 フォークでケーキの先っちょを切った雅臣が物凄く嬉しそうな顔をして、それを口許に差し出してくる。ケーキが落ちても大丈夫なように広げた掌を下に添えているところがなんとも雅臣らしくて、照れ臭いけど望みを叶えてやろうかという気になってくる。流石に満面の笑みを浮かべるのは憚られるので、ひょっとこ面を晒してまで動かした表情筋を固めて、無表情で口を開く。
 口内に入ってきたケーキの旨さは一日経っても変わらない。甘さ控えめのクリームが舌の上で蕩けていくのを堪能して飲み込んでいく。

「次はアンタの番な」

 何故かフォークを持ったまま固まっている雅臣に声を掛けると、はっとしたように目を見開いた。そして、照れ臭そうに笑いながらフォークを渡してきた。
 一条お抱えのシェフならば、これより旨いケーキを作る職人がいるかもしれない。だけど、俺と食べることに意味を見出してくれている様子だから、昨夜家族と共に食べた時より旨く感じてしまった俺のように、どのケーキよりも美味しいと感じてくれるだろうか。食べさせてくれた手作り弁当の高級感の漂う味を思い出し、育ってきた環境のあまりの違いを今更ながら実感して不安になってくる。
 うだうだ考えていると、アーンと雛鳥のように口を開け続けている雅臣が不審に思ってしまう。俺が食べさせて貰った先っちょの続きをフォークで切り、舌に載せるように口内に挿し込む。閉じた口許がモゴモゴ動いたのでフォークを抜くと、うっとりと目を細めた雅臣は、ゴクリと喉仏を上下させて嚥下していった。
 弁当を食べる雅臣を見て抱いてしまった劣情が、再び沸き上がってくる。もしかして、さっき雅臣が固まっていたのは、俺がケーキを食べている姿に欲情していたからなのか?

「拓也、アーン」

 ニヤリと艶っぽく口許を弛ませた雅臣が、ケーキに人差し指を伸ばして生クリームを掬った。魔法の呪文でも唱えられたかのように、生クリームが、それの付いた指が欲しくて堪らなくなって素直に口を開く。してやったりとほくそ笑むような、いらやしい笑みを湛えて口内に挿し込まれた指に、乳飲み子のように吸い付く。
 口内に広がった甘みが消えてもチュウチュウ吸い続けてしまう俺。雅臣は、その様に苦笑しながら、新たにケーキを切った。吸われていない方の掌に、それを載せて差し出してくる。次の獲物に狙いを定め、指から口を離す。一口でケーキを食べ、掌に残った生クリームを猫のように舐めていく。

「僕にも食べさせて」

 欲情しているのだと分かる掠れた声で囁いてきた雅臣が、マタタビで狂った猫のように俺が舐めている掌を引き離してしまった。非難の視線を浴びせようと顔を上げると、噛み付くように唇を塞がれた。反射的に唇を開くが、挿し込まれると予想していた舌は、口の周りをペロペロと舐め回している。

「ご馳走様でした」

 何周か回った後に離れていった顔が、落とし穴の仕掛人のように楽し気に綻ぶ。

「もう食べないのか?」
「頂けるのなら食べたいです」

 俺の質問に答えた顔が、誘うように笑う。とうに羞恥心の消えてしまっている俺は、ケーキに載った真っ赤な苺を摘まんで生クリームまみれにする。そしてソレを舌に載せ、雅臣に差し出す。ゴクリと喉を鳴らした雅臣の青い瞳が、炎のように揺らめく。

「いただきます」

 興奮で上擦ってしまっている声で告げて手を合わせた雅臣が、俺の両肩に掌を載せてゆっくり顔を近付けてくる。蛇のように突き出された舌が、俺の舌に載る苺に付いた生クリームを舐めとっていく。目の前の青い瞳に宿る欲情の炎がどんどん大きくなっていく様に、満足感と甘い痺れで腰の辺りが震えてくる。
 粗方のクリームを舐め取ったのかジュルッと唾液を飲み込んだ雅臣が、肉食獣のようにぎらぎらした瞳で俺を凝視し、唇に貪り付いてきた。挿し込まれた舌が苺を絡め取り、自分の口内で噛み潰して溢れ出た甘酸っぱい果汁を俺の口内に流し込んでくる。互いの口内に苺の果汁を送り合うように、舌を行き来させて絡ませ合う。鼻から抜ける甘い香りが、なんだかいけないことをしているような気にさせて、より気持ちが昂ってくる。
 二度達して溜まったマグマを出し切ったと思っていた前は、そんなことなど忘れたように力を取り戻して先端から涎を垂らし始めている。まだ雅臣の形で空洞を保っていそうな異物感の残る後ろも、食むモノがなくなったことに気付き、どこにいってしまったんだと探すように蠢動しだす。バスローブの布地一枚では、すぐにこの体の変化に気付かれてしまう。雅臣ならこの反応を嬉しいと思ってくれるんだろうが、淡白で不能になっても特別困らないと言っていたくせに、すぐに獣に支配されてしまう自分が恥ずかしくて、変化がバレないように腰を引いてしまう。
 濃厚な口付けに夢中で俺の動きに気付いていない様子の雅臣にグッと肩を押され、背中がソファーに沈む。鼻だけでの呼吸では酸素が足らなくなり頭がぼうっとしはじめてくる。雅臣は頃合いだと判断したのか、解くのが困難だと思われるほどに絡まり付いていた舌が、自分の吐息しか吸わせないとばかりに塞いでいた唇と共に離れていく。
 遠くなっていく綺麗な顔との間には、蜘蛛の糸のような唾液が伸びている。帰り道に見た桜の花弁に似た薄ピンク色の糸だ。微かに口内に残る苺の香りに、とんでもなくいやらしいキスを自分から仕掛けてしまったのだと気付かされ、全身が発熱したように火照ってくる。

「もっと食べさせて」

 熱に侵されているのを隠さない妖艶な笑みを浮かべた雅臣に、バスローブの合わせを開かれる。下半身は布で隠されたままだが、桜色に染まった上半身の前面を晒け出され、羞恥と期待で変な表情を浮かべてしまっただろう顔を見られたくなくて背ける。だが、顔はすぐに雅臣に向けることとなる。肌にひんやりとしたものが載せられた感触がして腰が跳ね、何をされたのか確かめるためにだ。

「何やってんだよ」
「特別なケーキは極上のお皿で頂くべきでしょう?」

 食べるのが堪らなく楽しみだと言いたげな笑顔の雅臣が、フォークで細かく切ったケーキを俺の肌に載せていく。最後に胸の粒を隠すように少し大きめ切ったものを載せ、一口分が残る皿にフォークを戻した。

「いただきます」

 手を合わせた雅臣が、されようとしていることのエロさに固まっている俺の肌の上のケーキを食べていく。鎖骨や脇腹など、俺が感じる場所ばかりに置いたケーキを上品に食べると、ご馳走様とお礼をするように肌に吸い付いてキスマークを残していく。一口食べる毎に走る甘い痺れで腰が跳ねそうになるが、動いてケーキを落としたりしたら高そうなソファーを汚してしまうと思い、瞳を閉じて吐息を吐くことで耐える。

「絶景ですね」

 肌に点々と載せたケーキを次々と食べていった雅臣のうっとりとした声に薄目を開けると、胸に載せた二つだけが残っていた。胸の粒が小さなケーキに覆われている様はとんでもなく卑猥で、ガチガチに成長してしまっている中心からじわりと蜜が溢れ出してくる。

「美味しそうですね」

 ジュルリと舌舐めずりをして胸に食らい付いてくる雅臣。今までの焦らすような食べ方ではなく、何日か振りに餌を与えられた犬のような激しい舌遣いで食べてきて、我慢できずに腰が揺れてしまう。
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