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アキとハル
初恋 sideH
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「やべ……」
全開の窓からカーテンを揺らして入ってくる生温い風が、ベッドの上で体育座りをして丸くなっているオレの体の表面を撫でて通りすぎていく。
アキは、あの夏の出会いを覚えていなかった。U―17代表の時の、オレにとっては待ち焦がれてた再会も、アキには初めての出会いとして記憶されていたのだ。
小学生の夏休みなんていったら、毎週試合をしていたものな。一度しか対戦していない奴のことなんて、覚えていないよな。
今、落ち着いて考えれば理解出来るのに、あの楽しい時間を過ごしているうちに、ずっと前からアキと一緒にいたみたいで、気持ちが通じ合っているのではないかと勘違いしてしまった。
それで、勝手に幸せになってしまって、突きつけられた現実に勝手に傷ついて、そんな馬鹿な姿を見られたくなくて逃げてきてしまった。
やっと近付いた距離が、これでまた離れちまうな……。
アキ、怒ってるよな? もう、食事になんて誘ってくれないよな。
もしかしたら、オレの気持ちがバレちまったかも。食事どころか、軽蔑して話だってしてくれないだろうな……。
「アキ……」
いくら泣いても、こぼれたミルクはグラスには戻らない。
こんな自分勝手な恋愛、ずっと物陰からこっそり見つめ続けていれば良かったんだ。
『チームメイト』として、楽しい時間を過ごそうとしていたアキと、不純な気持ちで『チームメイト』になったオレが、同じ時間を過ごせる訳なんてない。
オレは、このチームに移籍してきてはいけなかったんだ。
自分の事ばかり考えて、アキの事なんて考えていなかった。
アキにとって、オレは重荷になる。
そもそもこんなオレが、恋なんてしちゃいけなかったんだ……。
この恋は偽物か?
こんなに胸が苦しくて涙が溢れ出るのに、これが偽物だと言ったら、自分を、そしてアキを否定する事になってしまう。
ここで逃げてしまったら、この先は何事も中途半端で、何も手に入れられないまま終わってしまうだろう。
オレには、それがお似合い?
たった一つでも、本当に欲するものを手に入れられる人なんて、滅多にいるもんじゃない。
相当の才能と運、勿論努力も必要だ。
オレは、そんな選ばれた人間じゃない。
だからって、最初から諦めてしまったら、もしかしたら手に入っていたかもしれないものも、手に入れる事は出来ない。
本当に大切なものというのは、手に入れたものより、手に入れるまでの過程なのかもしれない。
心が激しく浮き沈みを繰り返す。
ヒラヒラと揺れるカーテンの向こうには、上の方が少し欠けた白い月が、ぼんやり光っている。
「飴、舐めよう」
頬を伝う苦しみの跡はそのままに、鼻をすすりながらベッドを降りて、テーブルの真ん中に置いてある硝子瓶のコルクの蓋を外す。
中にぎっしり詰まった、白くてまんまるな飴玉をひとつ取り出し、口に含む。
口内に広がる甘いミルク風味。懐かしくて愛しいその味が、心を鎮めていく。
あの日、アキがくれた飴玉。
あの日から切らす事なく、常に手元に置いている。
どんな時も心を落ち着かせてくれる、この魔法の飴玉のお陰で、安心して心置きなく落ち込めていた。
落ち込むだけ落ち込んだら、飴玉を舐めればいい。
この甘さとアキとの思い出が、オレの心を前向きにしてくれる。
否、本当は前向きになんかなっていない。
一時的に逃げている事を忘れ、前向きになった気分でいるだけだ。
アキ本人の知らないところでアキを利用して、自分を保とうとしていた。
このままでは、自分の力だけで前へ進んでいく事が出来なくなってしまう。
弱いままの、逃げる事しか出来ない自分で終わってしまう。
飴の瓶の横に置かれた白い封筒を掴む。
すると、ガサッとその中に入っている物体が動いた。
「もう、逃げるのはやめだ」
指先でそれを取り出し、自分自身に、そして見えない同士に誓いをたてるように呟く。
勇気が欲しくて、それを左薬指に嵌めようと指先までもっていくが、オレにはここはふさわしくないと思い、右の薬指に収めた。
月に照らした指輪は、柔らかな光を放つ。
再び封筒を手に取り、見えない同士の心のこもった愛の言葉を、指輪のついた指先でなぞる。
そしてその中に、重い想いを運んでくれた青い風船を入れ、一折り一折り思いを込めて、飛行機の形を作っていく。
生温い風が通り抜ける窓の外の、見えない同士と出会ったベランダに出ると、二人が前に進んでいけるようにと願いながら、まばらに星が瞬く天へと紙飛行機を飛ばす。
ゆっくりと弧を描き、夜の街へと吸い込まれていく紙飛行機。
大丈夫、オレ達はちゃんと自らの足で進んでいけるさ。否、進んでいかなければいけないんだ。
もう、これからは買う事のない飴玉を見つめる。
指輪を外し、飴玉の中に埋める。
この瓶が空になった時、中で力強く輝く指輪のように、オレも胸を張って歩いているはずだ。
「逃げねぇから……」
魔法の飴玉から、思い出の飴玉に変わるであろうそれを、もう一粒口に含んだ。
全開の窓からカーテンを揺らして入ってくる生温い風が、ベッドの上で体育座りをして丸くなっているオレの体の表面を撫でて通りすぎていく。
アキは、あの夏の出会いを覚えていなかった。U―17代表の時の、オレにとっては待ち焦がれてた再会も、アキには初めての出会いとして記憶されていたのだ。
小学生の夏休みなんていったら、毎週試合をしていたものな。一度しか対戦していない奴のことなんて、覚えていないよな。
今、落ち着いて考えれば理解出来るのに、あの楽しい時間を過ごしているうちに、ずっと前からアキと一緒にいたみたいで、気持ちが通じ合っているのではないかと勘違いしてしまった。
それで、勝手に幸せになってしまって、突きつけられた現実に勝手に傷ついて、そんな馬鹿な姿を見られたくなくて逃げてきてしまった。
やっと近付いた距離が、これでまた離れちまうな……。
アキ、怒ってるよな? もう、食事になんて誘ってくれないよな。
もしかしたら、オレの気持ちがバレちまったかも。食事どころか、軽蔑して話だってしてくれないだろうな……。
「アキ……」
いくら泣いても、こぼれたミルクはグラスには戻らない。
こんな自分勝手な恋愛、ずっと物陰からこっそり見つめ続けていれば良かったんだ。
『チームメイト』として、楽しい時間を過ごそうとしていたアキと、不純な気持ちで『チームメイト』になったオレが、同じ時間を過ごせる訳なんてない。
オレは、このチームに移籍してきてはいけなかったんだ。
自分の事ばかり考えて、アキの事なんて考えていなかった。
アキにとって、オレは重荷になる。
そもそもこんなオレが、恋なんてしちゃいけなかったんだ……。
この恋は偽物か?
こんなに胸が苦しくて涙が溢れ出るのに、これが偽物だと言ったら、自分を、そしてアキを否定する事になってしまう。
ここで逃げてしまったら、この先は何事も中途半端で、何も手に入れられないまま終わってしまうだろう。
オレには、それがお似合い?
たった一つでも、本当に欲するものを手に入れられる人なんて、滅多にいるもんじゃない。
相当の才能と運、勿論努力も必要だ。
オレは、そんな選ばれた人間じゃない。
だからって、最初から諦めてしまったら、もしかしたら手に入っていたかもしれないものも、手に入れる事は出来ない。
本当に大切なものというのは、手に入れたものより、手に入れるまでの過程なのかもしれない。
心が激しく浮き沈みを繰り返す。
ヒラヒラと揺れるカーテンの向こうには、上の方が少し欠けた白い月が、ぼんやり光っている。
「飴、舐めよう」
頬を伝う苦しみの跡はそのままに、鼻をすすりながらベッドを降りて、テーブルの真ん中に置いてある硝子瓶のコルクの蓋を外す。
中にぎっしり詰まった、白くてまんまるな飴玉をひとつ取り出し、口に含む。
口内に広がる甘いミルク風味。懐かしくて愛しいその味が、心を鎮めていく。
あの日、アキがくれた飴玉。
あの日から切らす事なく、常に手元に置いている。
どんな時も心を落ち着かせてくれる、この魔法の飴玉のお陰で、安心して心置きなく落ち込めていた。
落ち込むだけ落ち込んだら、飴玉を舐めればいい。
この甘さとアキとの思い出が、オレの心を前向きにしてくれる。
否、本当は前向きになんかなっていない。
一時的に逃げている事を忘れ、前向きになった気分でいるだけだ。
アキ本人の知らないところでアキを利用して、自分を保とうとしていた。
このままでは、自分の力だけで前へ進んでいく事が出来なくなってしまう。
弱いままの、逃げる事しか出来ない自分で終わってしまう。
飴の瓶の横に置かれた白い封筒を掴む。
すると、ガサッとその中に入っている物体が動いた。
「もう、逃げるのはやめだ」
指先でそれを取り出し、自分自身に、そして見えない同士に誓いをたてるように呟く。
勇気が欲しくて、それを左薬指に嵌めようと指先までもっていくが、オレにはここはふさわしくないと思い、右の薬指に収めた。
月に照らした指輪は、柔らかな光を放つ。
再び封筒を手に取り、見えない同士の心のこもった愛の言葉を、指輪のついた指先でなぞる。
そしてその中に、重い想いを運んでくれた青い風船を入れ、一折り一折り思いを込めて、飛行機の形を作っていく。
生温い風が通り抜ける窓の外の、見えない同士と出会ったベランダに出ると、二人が前に進んでいけるようにと願いながら、まばらに星が瞬く天へと紙飛行機を飛ばす。
ゆっくりと弧を描き、夜の街へと吸い込まれていく紙飛行機。
大丈夫、オレ達はちゃんと自らの足で進んでいけるさ。否、進んでいかなければいけないんだ。
もう、これからは買う事のない飴玉を見つめる。
指輪を外し、飴玉の中に埋める。
この瓶が空になった時、中で力強く輝く指輪のように、オレも胸を張って歩いているはずだ。
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