BLUE DREAMS

オトバタケ

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セゾンとシキ

卒業

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 卒業式が終わり、校庭へ出る。
 あちこちから、別れを惜しむ声が聞こえてくる。
 見慣れているはずの風景なのに、なんだか知らない場所に見える。
 桜舞う頃、初めてここに訪れた時の気持ちと似ている。

 卒業の定番の曲を聞いたら、やはりグーッと込み上げてくるものがあって、瞬きをしたら零れ落ちてしまう、というとこまできていた。
 だけど、この歳になって男が卒業式で泣いてしまうなんていうのは末代までの恥だと、グッと耐えた。
 全ての行事が終わった後、誰もいないトイレの奥で、こらえていたものを全て吐き出した。
 落ち着いたのはいいけれど、こんな真っ赤な目では表には出ていけない。
 何度も冷水を顔にかけ、やっと人に見られても大丈夫な姿になったので、こうやってここに立っている。
 無意識に視線が探すのは、もちろん愛しいアイツの姿だ。

「あっ……」

 すぐに見つけた、ライトブラウンの頭。
 でも、その周りには、花に群がる蝶のように女子達が集まっている。
 セゾンもセゾンで、嬉しそうな顔をしてプレゼント受け取ったり写真を撮られたりしている。
 その姿を見ていたら、また視界がぼやけ始めてきた。

 式の間、ずっと頭の中を駆け巡っていたのはセゾンとの思い出で、凄く楽しくて幸せだった。
 でも、今日でここでの思い出は終わってしまうんだと思ったら、凄く切なくなって。
 誰でもないセゾンのことを思って先程まで泣いていたっていうのに、当の本人は笑顔で女子達とじゃれている。
 俺が一人で熱くなっているみたいじゃないか。馬鹿みてぇ……。

「あのー、シキ先輩……」

 固く拳を握って込み上げてくるものを我慢していると、背後から声が掛けられた。

「第二ボタン、戴けないですか?」

 振り返ると、小柄な女子が真っ赤な顔で俺を見上げていた。

「え?」

 第二ボタン? 鈍い光を放つそれに触れる。
 あぁ、好きな人に貰うってやつだよな。
 セゾンも、誰かに頂戴って言われているんだろうか? もう誰かに、あげてしまった後とか?

「何? 君、シキのボタン欲しいの?」

 どうしたらいいものか考えあぐねていると、聞き慣れた声が背後からして、声の主に肩を抱かれた。

「セゾン……」

 呆然と見つめる俺を見て、柔らかな笑顔を浮かべたセゾンが、そのまま女子の方を向く。

「悪いんだけどさぁ、シキには、もうボタンをあげる相手が決まってんだよ。ごめんねー」

 セゾンがひらひらと掌を振ると、潤んだ真っ赤な顔が、すいませんでした、と走り去っていった。

「あーあ、泣かせちまった。シキは罪な男だねぇ」
「あれはセゾンが……」
「俺のシキに、手ぇ出そうとする奴がわりぃんだよ」
「何だよそれ?」

 ぷくっと頬を膨らませ、あからさまに嫌そうな顔をするセゾンを見て、愛されてるんだなって改めて確認出来て自然と笑みが漏れてしまう。
 そんな俺の姿を見て、セゾンも微笑む。

「何だよ?」

 俺の胸元、学ランに付けられた上から二番目のボタン。さっき女子が欲しがってたそれを、大きな掌が包む。

「あっ……」

 パチッという音と共に、体が前に引っ張られる感覚がした。
 胸元を見ると、一個目と三個目のボタンの間が明らかにおかしい。

「やりぃ、シキの第二ボタン貰っちゃった」

 嬉しそうに、掌の上の小さな丸い物体を見せてくるセゾン。
 そういえばセゾンは、さっき女子になんて言ってたんだっけ……。
 回想の中のセゾンが口を開こうとすると、それを遮るように腕を引っ張られた。
 掌に、固い物体が当たる。

「俺の第二ボタンは、シキにやるな」

 早く早くぅと子供のような表情を見せるセゾンの願いを叶えるため、掌の中の物体をきつく握って思い切り引っ張る。

「確か部室に裁縫道具があったから、交換したボタンつけようぜ。で、ついでに……」

 自分の胸元を確認して満足そうに微笑んだセゾンが一転、夜の顔をして囁いてくる。

「この、エロ魔神!」
「えー、嫌なの?」
「別に……嫌じゃねぇけど……」

 また今日も、大切な思い出と大切な思い出の品が加わったようだ。
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