The Japanese tradition color~ショートストーリー~

小西 輝

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第二話 一言~梅鼠~

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「あの、すいません……。」
電話が鳴っているオフィスの中で、声を掛けられた。
「何?」
「今、お客様からお電話が入っているんですけれど……。」
俺の勤務先は重電機器メーカー。大きな電力を小さな家庭用電力まで落とす機械とかを作って売っている会社だ。そこで俺は日々営業として走り回っているんだが……。
「あの……。」
「あ、ごめん、出る。お待たせ致しました。妹尾です。」
俺のアシスタントをしてくれている遠野は新入社員で、まだまだ1人では何も出来ないことが多い。おかげで俺の仕事の効率は一向に上がらない。
「妹尾君、これ回しておいて。」
遠野の先輩にあたる、同じアシスタントの戸塚さんは仕事は出来るが教えるのが下手だ。口で言うより自分がやった方が早いというタイプなので、いつまで経っても遠野にまともに仕事を教えない。おかげで俺は先生役までやらされている。俺にゆとりを持って営業に行かせてくれ!
「……あの。すいません、いつも……。」
遠野が申し訳なさそうに頭を下げる。
「謝らなくていいよ。あの人がもうちょっとチームワークを覚えてくれたら良いだけなんだけどね……って内緒だぜ?」
俺はちょっと肩をすくめて、返答をした。
「はい。あ、妹尾さん。」
「何?」
「この機器の色なんですけれど、先ほどお客様が京都色で、って……わかります?」
遠野が、客に依頼された機器の発注書を見ながら、俺に尋ねてきた。
「京都色?!……あぁ、わかった。OKOK。」
俺はすぐにその色がわかったので、製造への発注依頼書にそのことを記載した。
「京都色、なんて色、あるんですか?」
遠野が不思議そうに尋ねる。
「いや。何ていうのかな。この機器は地域ごとにある程度色が決まっているんだよ。京都の色はこれ。」
俺は引き出しから色々な色に塗られた色見本を取り出すと、京都色、と顧客の言った色を指さした。
「……変な色よね。なんだかちょっと汚い感じがするわよねぇ。」
通りがかった戸塚さんが、色見本を覗き込んで一言言い放った。
俺はちょっとムッとしたが、ぐっと気持ちを腹の中に押し込んだのは自分でも上出来だ。
この渋い色が分からないからって、汚いはないだろ!
すると、一人合点がいったような顔した遠野が呟いた。
「あぁ、梅鼠うめねずが京都色だったんですか。」
反対側から覗きこんでいた遠野の一言に、俺はハッとした。普通に使われる色じゃないから、知っている人の方が少ない色だ。見本に名前は書いてあるけれど……。
「着物とかに使われる色ですよね。紅梅の花のような赤味がかったねずみ色を指すから、梅鼠っていうんですよね。」
遠野が楽しそうに言う。
「よく、知ってるな……。」
俺は遠野の言葉の意外性にびっくりしていた。
「あ、いえ、ちょっとかじったことがあって……。」
少し照れたように言う遠野に対し、正直、俺は驚きを隠せなかった。仕事が出来ない足手まとい、なアシスタントでしかなかった彼女に、こんな意外な知識があるなんて……。そんな彼女に比べると、先ほどの先輩アシスタントさんがなんだか小さく見えた。
ねずって江戸の頃に流行ったそうで、この梅鼠を鼠色の中でも粋な色の一つにあげた方もいらっしゃるそうですよ。」
遠野が嬉しそうに言う。
「へぇ……鼠色ってそんなにたくさんあるの?」
「はい。なんでも江戸の頃には四十八茶百鼠しじゅうはっちゃひゃくねずっていって、もの凄い数の色があったそうです。」
楽しそうに話す遠野が、なんだかとても可愛く見えた。
「……俺って単純だなぁ……。」
俺の呟きに遠野が不思議そうな顔をする。
とりあえず、俺は彼女から色の話をもっと聞きたいと思った。そしてそれと同時に歓迎会以外、一緒に食事もしたことがない彼女を、どうやって飲みに誘おうか、もう考え始めていた。
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