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第三話 遠い日の冒険~葡萄色~
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私は小さい頃、山で遭難したことがある。幼馴染みの少年と二人、大人達に入ってはいけないと言われていた裏山に冒険に出掛けたのだ。途中、二人して野良猫らしきものを追掛けていくうちに、道がわからなくなってしまった。気がついた時には既に日は落ちかけ、辺りは暗くなり始めていた。
おやつ程度のお菓子しか持っていなかった私達は、あっという間に食べ尽くし、お腹を空かせていた。
「お腹空いたよぅ……お家に帰りたいよぅ……。」
「泣くなよ!大丈夫だから!きっと帰れるって!」
少年は年下の私を必死になって落ち着かせようと頑張っていた。自分もきっと心細かったに違いないのに。
「そうだ!」
彼は突然立ち上がると。少し歩いた所になっていた果実をもいで持ってきてくれた。
「ほら。これ、食べられるから!」
少年の手には小さな葡萄のようなものがあった。
「これ、なぁに?」
「葡萄葛って言うんだって。前に爺ちゃんが教えてくれたんだ。これ食べて元気出そう?俺が着いてるから大丈夫だって!」
彼に淡い恋心を抱いていた私は、彼の勧めるままにその果実を口にした。
「美味しい……。」
彼は自分では食べようとせず、あるだけを私に食べさせてくれた。すぐに日も沈みきり、私達は寄り添って眠った。
翌朝、戻らない私達を徹夜で探していた両親に発見され、私達は助かった。それからすぐ私は引っ越してしまい、あの子にお礼も言えないままになってしまった……。
「いらっしゃいませ。」
自動ドアをくぐると、私は着物が並んだ店内をぐるりと眺めた。
「何かお探しですか?」
店員の男性が近づいてくる。
「あの……お茶会に出るので、それに合うような着物を探しているんですけれど……。」
私は店員に来訪の理由を告げると、また店内を見渡した。
「お茶会ですか……そうそう、今日入ってきたんですけれど、こちらのお色味なんていかがでしょう?」
店員の男性|は、一つの生地を取り出すと、テーブルの上に広げた。
「葡萄色って言うお色みです。山葡萄のことを昔葡萄葛って言ったんですけれど、そのお色なんですよ。渋くて良い小紋になるかと……。」
店員はよほどその色が好きなのか、嬉しそうに言う。
「綺麗。葡萄葛、ですか……。」
「はい、私の一番のお勧めなんですよ。」
店員はそっと生地を撫でた。
「……私ね、昔葡萄葛に助けられたことがあるんですよね。」
「は?」
「山で迷子になって、お菓子も食べ尽くした時、一緒にいた子が葡萄葛を採ってきてくれたんです。」
私は、そっと葡萄色の生地に触れた。
「うん、きっと私が探していたのはこの色だったのかも。これに」
「裏山で猫を追いかけて道に迷った?」
「え?」
私の言葉に被せるように、店員が呟いた。その言葉の内容に驚いた私は、思わず店員の顔を見た。
「翌朝、親に見つけてもらって、助かった……。」
「どうして、それを?」
「……綺麗になってたから、分からなかったよ。……元気そう、だね。」
こんな偶然、小説の中にしかないと思っていた。あの遭難した裏山は既に開発され、今では住宅が山のように並んでいるらしいとは聞いていた。私はあの町を離れた後、転勤族の親についてあちこちへ行ったので、今では全く違うこの土地で一人暮らしている。そんな所で会うなんて……。
けれど、少し照れたようにはにかんでいる彼の笑顔は。あの時のまま、優しい笑顔だった。
「まぁ、立ち話もなんだし……後でお茶でも、どう?あ、良ければ、だけど……。」
葡萄葛の色が繋いでくれた再会は、なんだか甘酸っぱいような気分にさせた。
「そうね、いろんな話、聞かせて欲しいわ。」
おやつ程度のお菓子しか持っていなかった私達は、あっという間に食べ尽くし、お腹を空かせていた。
「お腹空いたよぅ……お家に帰りたいよぅ……。」
「泣くなよ!大丈夫だから!きっと帰れるって!」
少年は年下の私を必死になって落ち着かせようと頑張っていた。自分もきっと心細かったに違いないのに。
「そうだ!」
彼は突然立ち上がると。少し歩いた所になっていた果実をもいで持ってきてくれた。
「ほら。これ、食べられるから!」
少年の手には小さな葡萄のようなものがあった。
「これ、なぁに?」
「葡萄葛って言うんだって。前に爺ちゃんが教えてくれたんだ。これ食べて元気出そう?俺が着いてるから大丈夫だって!」
彼に淡い恋心を抱いていた私は、彼の勧めるままにその果実を口にした。
「美味しい……。」
彼は自分では食べようとせず、あるだけを私に食べさせてくれた。すぐに日も沈みきり、私達は寄り添って眠った。
翌朝、戻らない私達を徹夜で探していた両親に発見され、私達は助かった。それからすぐ私は引っ越してしまい、あの子にお礼も言えないままになってしまった……。
「いらっしゃいませ。」
自動ドアをくぐると、私は着物が並んだ店内をぐるりと眺めた。
「何かお探しですか?」
店員の男性が近づいてくる。
「あの……お茶会に出るので、それに合うような着物を探しているんですけれど……。」
私は店員に来訪の理由を告げると、また店内を見渡した。
「お茶会ですか……そうそう、今日入ってきたんですけれど、こちらのお色味なんていかがでしょう?」
店員の男性|は、一つの生地を取り出すと、テーブルの上に広げた。
「葡萄色って言うお色みです。山葡萄のことを昔葡萄葛って言ったんですけれど、そのお色なんですよ。渋くて良い小紋になるかと……。」
店員はよほどその色が好きなのか、嬉しそうに言う。
「綺麗。葡萄葛、ですか……。」
「はい、私の一番のお勧めなんですよ。」
店員はそっと生地を撫でた。
「……私ね、昔葡萄葛に助けられたことがあるんですよね。」
「は?」
「山で迷子になって、お菓子も食べ尽くした時、一緒にいた子が葡萄葛を採ってきてくれたんです。」
私は、そっと葡萄色の生地に触れた。
「うん、きっと私が探していたのはこの色だったのかも。これに」
「裏山で猫を追いかけて道に迷った?」
「え?」
私の言葉に被せるように、店員が呟いた。その言葉の内容に驚いた私は、思わず店員の顔を見た。
「翌朝、親に見つけてもらって、助かった……。」
「どうして、それを?」
「……綺麗になってたから、分からなかったよ。……元気そう、だね。」
こんな偶然、小説の中にしかないと思っていた。あの遭難した裏山は既に開発され、今では住宅が山のように並んでいるらしいとは聞いていた。私はあの町を離れた後、転勤族の親についてあちこちへ行ったので、今では全く違うこの土地で一人暮らしている。そんな所で会うなんて……。
けれど、少し照れたようにはにかんでいる彼の笑顔は。あの時のまま、優しい笑顔だった。
「まぁ、立ち話もなんだし……後でお茶でも、どう?あ、良ければ、だけど……。」
葡萄葛の色が繋いでくれた再会は、なんだか甘酸っぱいような気分にさせた。
「そうね、いろんな話、聞かせて欲しいわ。」
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