JAPAN・WIZARD

左藤 友大

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Historia Ⅳ

人狼(25)

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そしてユータは千守呂美という人物の正体そして今まで彼女が行ってきた犯行の経緯をシンに教えた。彼女の顔を知っている被害者達からは千守呂美はとても愛くるしくて可愛い女の子だったと口を揃えて話していた。小顔で甘え上手で目はキュルッとしていて仕草や顔を見るだけでハートを掴まれてしまうぐらい相当可愛い女の子だったと聞く。
そんな少女漫画みたいな子がこの世にいるのかと思ったが千守は自身のあざと可愛さで男達をノックアウトさせ男性達を高額な投資をさせたり結婚資金を要求したりと好き放題したに違いない。それだけじゃない。男性被害者達の中には千守と親密な交際をしていた事を奥さんにバレて離婚した元既婚者もいた。
千守呂美は五年間、恋愛詐欺を続け彼女の魅力に惹きつけられた男性達は自ら蜘蛛の巣に引っ掛かり餌食となった。彼女が取った犯行の手口を聞けばかなり手馴れている様子。
数多の男達を手玉にし弄んだ千守呂美。本来ならば男達は執念深く彼女を探し当てようとし裁判を開いたりして訴えるはずだが今の彼らは既に千守の事は諦めていた。
騙された自分も悪いが偽りとはいえ彼女と過ごした時間が楽しかったらしくもうどうでもいいと思っていた。結局、彼女の足跡は掴めず捜査二課も千守呂美の捜索は終焉を迎え結果お開きになった。そして、恋愛詐欺から三年後、今度は殺人事件を起こした。
詐欺から殺人に転身するとは一体何を考えているのやらと思うがその真相はここから始まる。
「詐欺の次は殺人。なんと不愉快極まりもない。そんな愚か者を野放しにするわけにもいかない」
まるで舞台演劇を見ているかのようにわざとらしい演出をするユータ。
こうやって謎解きをしているのも頭を使うのが苦手な彼ならではできる「演技力」というたわものだ。
「そんな凶悪犯な千守呂美さんなのですが、今ここにいます」
はっきりと犯人がこの紳士服専門店に潜んでいると断言したユータ。
このアトリエのどこかに千守呂美張本人がいると言ったのだ。
何かの冗談なのかと思った百地だが彼らは真剣だった。
「そう。千守呂美は・・・・」
ユータは人差し指をビシッと向ける。
「あなたです。百地りりさん」
迷探偵が示したその指先には真顔でこちらを見る百地の顔が見えた。
自分が犯人だと宣言された百地は表情をしかめるどころか苦笑いをして何かの間違いじゃないかと思っていた。
「私ですか?私が尾上くんと永嶺くんを殺した千守呂美だと?」
苦笑していた顔が急に納得いかない曇りある表情に変わった。
「冗談じゃありません!根拠はあるんですか?私が千守呂美だという証拠はどこにあるんですか?私の名前知っていますよね?私の名前は百地りり。苗字も名前も全然違うのに私が二人を殺した犯人にするなんてひどいです」
不満なのか頬を膨らませる百地。小顔だから頬を膨らませてもとても可愛い。
あまりのあざと可愛さにユータは心を奪われそうになる。
しかし、彼女のペースに流されてしまうと足をすくわれる。キュルッとした眼差しと愛くるしさで男のハートを掴む「チャーミング」という危険な魔力に囚われないように振り切ろうとする。
「あなたが千守呂美ご本人だという証拠はあります。あなたの名前です」
スーツの懐からメモ帳を取り出しパラパラとページを捲りペンを走らせる。
「あなたの名前を英文字で表記にするとこうなります」
メモ帳の紙には「MOMOCHI RIRI」という英語が書いてある。
「そして、この名前のアルファベットの位置を変えてカタカナに変換すると」
ユータは再びメモ帳にペンを走らせて本人に見せた。
メモ帳用紙には「MOMOCHI RIRI」→「CHIMORI ROMI」→「チモリ ロミ」→「チモリ トモミ」=「千守 呂美」と書かれていた。
「つまり。あなたの名前は「アナグラム」で出来ているんです。アナグラムとは何か?シン。分かるな?」
ユータは隣にいる頼れる相棒また一緒にいないと困る有能な助手、そして彼がいないと探偵としての自分の面子が丸潰れになってしまう天才的な推理力を持つ親友に委ねた。
どうやら、また忘れたみたいでシンはやれやれと仕方がなく困った迷探偵さんに代わって説明した。
「アナグラムというのは言葉や単語の文字を並び替えることで別の意味を持つ言葉や単語がでてくる云わば言葉遊びみたいなものです」
シンが説明し終わると「その通り」と初めから知っていたかのように首を縦に振るユータに「何がその通りだ」と心の声で言葉を投げかける。教えた通りに推理を披露すればいいのにこいつ忘れやがって。と愚痴りたいところだが、ここは堪えてシンが考えて答えを見出した推理を丸パクリしているユータに任せるしかない。
「そんなの当てつけじゃないですか。私は尾上くんと永嶺くんを殺していません。本当です!」
百地はまだユータの推理に納得していない。
優しかった尾上と見知らぬ人である永嶺を何の理由もなく殺すなんて絶対に有り得ない何かの間違いだと否定する。
「あなたが『狼人間強化変身薬』を使って二人を殺害したことは間違いありません。これが何よりの証拠です」
負けずとアナグラムで作った名前と違法魔法薬リストを突き出す。
阿津瀬は二人の口論をただ見守るだけで二人の間に入り込む隙はなかった
ユータは彼女が事件の真犯人だと言い放つが百地は一歩も譲らず自分は潔白だと否認し続ける。今回の狼人間事件の謎を解いたシンは自分の推理は100%正しくて犯人は間違いなく「百地りり」という偽名を使った千守呂美で間違いないと思っている。
初めて百地に会った時、気になる点がいくつかあったことをシンは気づいていたのだ。
「賀茂さんひどいです。私の名前がアナ何とかだって勝手当てつけたり私が尾上くんと永嶺くんを殺したとか。それに、私が狼人間だなんて訳分からない事を言い出したり変な言いがかりをして私を犯人にするなんて。私、賀茂さんなら犯人を捕まえてくれるって信じていたのに。きっと尾上くんと永嶺君の無念を晴らしてくれると思ったのに。あんまりです。ひどい」
百地の瞳は潤んでいて涙目になってユータを訴える。
声を震わせて泣く彼女を見た時、ユータは一瞬ドキッとした。涙目はキュルキュルしていて泣いている様子が愛らしくて胸が刺さる。
しかし、ユータは彼女の可愛らしい仕草にかぶりを振る。彼女のこの可愛さが被害者達の人生を狂わせた。この女は惚れた男を食い物にする化け物だ。と頭の中で理解しているが百地は少女漫画に飛び出した可愛らしくて美しいヒロインみたいな人物なので注意していても彼女の瞳や愛らしく泣いている姿を見ると引き込まれてしまいそうになる。
阿津瀬も濡れ衣を着せられた悲しいヒロインを熱演する彼女を見て可哀想に思い心を奪われそうになった。
百地は涙目になった瞳から一粒の水滴を落とす。
訳の分からない話で勝手に犯人にされた悲劇のヒロインとなってユータ達を困惑させようとしている。計算高い女というよりただのあざとい女としか見えないが百地の悲しんでいる顔はどうも見ても芝居臭いとは思えないぐらい本格的だった。
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