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第四話
死神の代行人(2)
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辰巳は駐車場に車を置き降りてから宝泉寺まで歩きやっと着いた。宝泉寺の門を潜り辰巳は墓地の方へと入った。墓地は文字通りお墓がたくさんある場所。ここにあるお墓には亡くなった人の魂が眠っている。なので、あまり失礼な事をしてはいけないのだ。それに、宝泉寺はたくさんの木々が生えているのでセミの鳴き声も強く聞こえる。
辰巳が墓地を歩いていた途端、目の前に軍服姿の男性がじっと墓を見つめていた。辰巳は肩掛けバッグから昨夜、死神102号から受けとった白黒写真を見た。辰巳は白黒写真を見て目の前にいる男性の姿を見て確認した。白黒写真には軍服を着た男性の姿が写っていた。素を見て辰巳は思った。墓をじっと見つめている軍服の男性は間違いなくサイパンの戦いで死に霊になってから77年という長い年月を過ごし現世に残っていた佐々木祐三だった。辰巳は自分の考えが当たった事に喜びを感じた。しかし、これで終わりではない。長年、現世にい続けていた佐々木祐三にあの世へ行くよう説得しなければならない。でも、今でもこの時代の現世にいるという事は、まだやり残した事が成し遂げていないのかもしれない。なんせ、相手は太平洋戦争でアメリカ軍と戦った日本軍の兵士。きっと、プライドが高く気が強いかもしれない。五、六回だけ代行人をやった事はあるが、今までは現代で亡くなった霊をあの世へ送った事はあるが、過去の時代に生きていた霊をあの世へ行くよう説得するのは今回が初めてだ。それに、佐々木祐三の姿は全くもって人の姿をしている。死神102号の言う通り、悪霊化になっている様子は全く見えない。でも、本来なら二週間後ぐらいになると悪霊化するはずだが、一体どうやって悪霊化にならなかったのかが不思議に思える。それに、そんなに怖そうな人ではなさそうなので、もしかすると現世に留まる理由が分かるかもしれない。
辰巳は墓をジッと見つめている佐々木祐三の方へ行き声をかけた。
「あの・・・。佐々木祐三さんですか?」
すると、祐三は辰巳の声が聞こえたのか振り向いた。
「誰だ。お前は?」
「僕はー」
自分が誰なのか訊かれた辰巳は自己紹介をしようとした途端、祐三は驚いた顔をしていた。
「もしかして、お前。俺の姿が見えるのか?」
そう訊かれた辰巳は頷いた。
「あっ、はい。見えます」
「俺の姿が見える人間がいるとは。長年、現世にいて誰も気づいてもらえなかったのに」
辰巳は改めて自己紹介をした。
「初めまして。僕は、山崎辰巳と申します。あなたをお迎えに上がりました」
「お迎え?」
「はい。僕は、死神の代行人という死神の代わりに現世にいる霊をあの世へ送る使命を持つ者です。佐々木祐三さん。あなたは、77年前、サイパンの戦いにて戦死された方ですよね?」
すると、祐三は何か感づいたのか辰巳を警戒しだした。
「死神の代わりだと?だとすると、お前はあの死神の代わりに俺をあの世へ行くよう言いに来たのか?」
辰巳は祐三の事を怖そうな人ではないと思っていたが、なかなかの警戒心を持っていて手強そうな相手だと感じた。きっと、戦場での警戒心が残っているに違いない。
「そうです。あなたは、77年間、この現世にい続けています。これは、あの世の規律法によって禁じられています。本来は、亡くなってから二週間後、現世にい続けると悪霊化になるんです。佐々木さんの場合では幸い悪霊化していませんが、もし、悪霊になってしまったら、霊能力者の手によって消滅しもう二度と生まれ変わる事はできなくなります。とにかく、これ以上、現世にいるのは諦めてあの世へ行って頂けませんか?」
辰巳は強く説得した。二週間後まであの世へ行かなければ悪霊化してしまう事は、77年前に祐三の魂をあの世へ送るはずの死神253号から話を聞いているはず。辰巳は何としてでも、祐三をあの世へ行って欲しかった。
「断る!俺はまだやるべき事がまだ残っているんだ」
祐三はあの世へ行く事を否定した。やはり、まだやり残した事は成し遂げていない様だ。
「でしたら、協力させてください。代行人は、現世でまだ心残りがある霊の手伝いをすることができます。あなたがあの世へ行く残りのタイムリミットは、三日あります。この三日間、あなたのやり残した事が成し遂げるのをお手伝いします」
「それは・・・本当か?」
辰巳は強く頷いた。祐三は腕を組みながら黙った。どうやら、考えているみたいだ。でも、祐三の未練が果たせる事ができれば、何だってするつもりである。辰巳は過去に未練を残した霊と出会いあの世へ送った事がある。死んだ霊達が持つ未練は様々な思いを持っている。祐三は、過去の時代で何らかの理由で現世に残っているので、どんな未練を残しているのか気になっていた。
「本当に、協力してくれるんだな?」
「もちろんです。男に二言はありません」
辰巳は強く頷いた。
すると、祐三は腕組をやめた。きっと、辰巳の事を信じ始めたのであろう。
「俺が現世に残っているのは、人を捜しているんだ」
「人・・・ですか?」
祐三は頷いた。
「俺にはエツという妻がいたんだ」
「奥様がいらしていたんですか?」
「そうだ」
祐三は目を閉じ頭の中にある過去の記憶を蘇らせた。それは、エツという祐三の妻の姿だ。
「エツは、素晴らしい女性だった。彼女は、花のように美しく凛とした姿をしていながらも優しく、明るい人だった。初めて会った時は、あの美しさに見とれ好きになった。結婚した後、同居して将来の事を話したもんだ。彼女と話し共に過ごし巣時間は何よりも幸せだった。しかし、子供が産まれてから1年経ったある日、俺の所に召集令状が届いた。俺はお国の為に敵国と戦う為、妻と子を残し戦場へ向かった」
*
1942年(昭和17年)7月 日野市
暑い真夏の中、家の中から二人の夫婦と祐三の母親が出てきた。祐三は軍服を着ていた。
「それじゃ、行ってくるよ」
祐三は妻と祐三の母親に言った。
「祐三・・・。生きて帰ってくるんだよ」
祐三の母親は寂しそうな顔をして別れを惜しんでいた。
「俺なら大丈夫だ。母さん。親父の分も一緒に生きて必ず帰るよ」
悲しそうな顔を見せない祐三は笑顔で言った。あまり、母親に心配させたくないのだ。そして、一人の赤ん坊を抱っこしている妻は悲しそうな顔をしていた。その妻は美しく凛とした姿をしている。
「エツ。そんな顔をしないでくれ」
祐三は妻であるエツの顔を見た。エツは顔を上げた。
「・・・・本当に行ってしまうのですか?」
エツの悲しそうな顔を見て祐三も悲しくなりそうだった。しかし、ここで悲しんだら男の名折れだと思い決して悲しい顔をしないで笑顔だけ見せていた。
「ああ。これは、お国の為なんだ。この国、日本を守らなければいずれ、敵国が侵略してくるだろう。大丈夫。必ず、生きて帰るから。それに・・・」
祐三はエツが抱っこしている我が子の寝顔を見た。
「お前とこの子、信三を守る為にでもあるから」
エツは寝ている信三の顔を見た。
「・・・・途中までお見送りします。お母さん。この子をお願いします」
エツは寝ている信三を差し出した。
「分かったよ」
祐三の母親はエツに渡された赤ん坊の信三を受け取り抱っこした。
二人きりとなった佐々木夫婦は何も言わないまま黙って歩いていた。
すると、先頭で歩いていた祐三が立ち止まり振り向いた。
「ここで、大丈夫。後は一人で行く」
エツも立ち止まり頷いた。
「・・・はい」
祐三はまだ悲しんでいるエツを励まそうと明るい声を出した。
「元気出せよ。俺なら大丈夫。絶対に生きて帰るさ」
しかし、エツはまだ悲しんでいる顔をしながら俯いている。余程、祐三と別れるのが辛いのだ。それもそうだ。二人は愛し合っていたのだから。祐三はそっとエツの手を優しく握った。
「俺は、エツと結婚して良かったと心の奥底から思っている。お前がいたからこそ、信三が産まれ幸せな時間ができた。俺はお前の夫になって本当に良かった」
すると、エツは顔を上げた。
「そんな・・・そんな最後のお別れみたいな事を言わないでください・・・!私は、ずっと、これかもずっと、祐三さんを愛し続けたいのです・・!あの子と一緒に・・家族4人で暮らす事が私の夢でもあるんです。だから・・最後のお別れみたいに言わないで・・・」
エツはこみあげるような悲しい声を出し目が潤んでいて今にでも泣きそうだ。
「ごめん・・。でも、俺は死なない!お前と信三の為にも必ず生きて帰ってみせる・・!お前の所に・・!」
祐三は強くエツを抱きしめた。エツは祐三の最後の温もりを感じながら涙を流し抱きしめた。そして、祐三は抱きしめていたエツを離し言った。
「じゃあ、行ってくる」
祐三は振り向き前へ進んだ。エツは涙を流しながら祐三の背中を見て見届けていた。
*
2021年(令和3年)現代 日野市 宝泉寺
「そして、俺は2年間、敵国の兵と戦い死んだ・・。俺は、彼女との約束を果たせなかった・・・」
祐三は目を開け思い詰めた表情で言った。
「俺は・・・バカな男だ。生きて帰るって約束したのに、約束が守れなかった・・・・」
悲しい表情を見せた祐三に対し辰巳は励ました。
「お気持ちは分かります。ですが、あなたは決してバカではありません。あなた方が日本を守ってくれたおかげで、こうして平和な世の中になったのです。きっと、奥様も家族と国の為に戦ったあなたを誇りに思ったかもしれません」
祐三は辰巳の言葉を聞いて笑みを浮かべた。
「そうだな・・・。そうだよな。ありがとう」
辰巳は笑みを浮かべた。
「話が変わりますが、僕にやって欲しいことはありますか?力になります」
何か協力できるような事はないか祐三に聞いた。
「頼みたい事は、一つだけ。彼女、エツの行方を捜し見つけてくれないか?」
「エツさんの行方ですか?」
祐三は頷いた。
「俺は戦場で死に霊となってこの日野に戻ってきたのだが、エツの姿が見えなかったんだ。もちろん、エツの故郷である町田の方にも足を運んだ、いや、飛んだといえばいいのか?とにかく、彼女の故郷である町田へ行ったがエツと息子、お袋の姿はなかったんだ」
「なるほど。だから、あの世へ行くのを断っていたのですね?」
「ああ」
祐三は頷いた。妻のエツと息子の信三、そして母親の姿がなかったから、捜す為にあの世へ行かなかったという理由を知り調べがいがありそうな感じがした。
「それでは、僕がその祐三さんのご遺族の行方を捜し見つけて欲しいという事ですね?」
祐三は「そうだ」と言いながら頷いた。
「できるか?」
「出来る限り、捜してみます。ここ日野本町と町田市にはいなかったのですよね?」
「そうだ」
「でしたら、この二つ以外の他の町へ行って捜してみましょう。日野市には、日野本町以外に他にも町がありますからね。でも、あちこち日野市の町を転々と行き来したら大変なので、市役所へ行って訊ねてみるしかありませんね。佐々木さんも一緒に来ますか?」
「ああ。二人で相談しながら捜す方が手っ取り早いからな」
「分かりました。行きましょう」
祐三は頷き辰巳と共にエツと息子、そして祐三の母親探しが始まった。
夜、辰巳は家に帰っていた。帰った途端、ソファに座ってグッタリしながら翼が汲んでくれた麦茶を飲んでいた。
「ハァッ!生き返る」
「それで、佐々木祐三さんの遺族は見つかったの?」
辰巳は頭を横に振った。
「いや、ダメだ。まだ見つけていない。佐々木祐三さんの遺族を見つけるには、市役所へ行って佐々木家の家系を調べてもらうしかないんだ」
「じゃあ、調べてもらったら?」
「そう簡単に調べられるわけじゃないんだ。僕みたいな他人が佐々木家の家系を市役所の人が調べてくれるには、今の時代で生きている佐々木家の遺族本人から許可を貰わなくちゃいけないんだ。勝手に調べる事はできないだろ?」
「確かに。あれ?じゃあ、今の時代に生きている佐々木さんと同じ血が繋がっている遺族がどこへ引っ越したか訊けばよかったんじゃない?」
辰巳は首を振った。
「佐々木祐三のお孫さんはどこですか?と訊いても分からないよ。祐三さんの事を調べたいなら、祐三さんの血を引いている遺族から家系図調査の許可を貰わなくちゃいけないし、日本全国にいる「佐々木」という苗字を持っている全国人数は、およそ676000人もいるんだぞ?その676000人の中のたった一人が祐三さんと関係を持つ家族なんだ」
「佐々木」という苗字の全国人数が676000人もいると知った辰巳が口をあんぐりして俄然としていた。
「じゃ、じゃあ、捜しようないじゃん・・・!」
辰巳はソファに寄り掛かりため息を出した。
「そう。だから、正直、参っているんだ。代人ファイルには祐三さんの生年月日と出身地とかぐらいしか書いてないし・・・・」
珍しく辰巳が弱音を吐いた。
「お孫さんの名前とか書いてないの?」
「代人ファイルは、人間が持つ機密情報ファイルだけど、死者の家族については書いてないんだ。死者の家族の情報は、死神か本社で管理しているから」
「確か、祐三さんをあの世へ送るまで明日で後、二日でしょ?時間ないじゃん。」
「ああ・・。明日、祐三さんの妻であった市川エツさんの故郷である町田市へ行く」
「そうなんだ。それにしても、たった、三日だけじゃ調べられないよね。」
辰巳は苦笑いをした。
「仕方がないさ。死神局のお偉いさんが決めた事なんだから」
「それで、佐々木祐三さんは?」
「それが、家に招待しようとしたんだけど、他人の家には上がりたくないって言うもんだから、布多天神社まで送ったよ」
「早く祐三さんの関係者が見つかるといいね」
辰巳は頷いた。今日初日で祐三を見つけたのはいいが、肝心な関係者、遺族がどこへ行ったのか分からない。タイムリミットは二日後。辰巳は明日はエツの故郷である町田市へ行き、エツの遺族を捜すしかなかった。
二日後
辰巳は祐三を車に乗せ町田市に来た。町田市には七国山があり緑がある町だった。昨日の祐三の話では、エツは町田市の中西部にある根岸町に生まれ住んでいたと聞く。そして、そこにはエツが結婚した後も彼女の両親は根岸町に住んでいた事を聞く。辰巳は祐三の情報を頼りに根岸町へ目指した。きっと、エツの孫にあたる人に訊けば佐々木家の行方を知っているのかもしれない。それに、祐三は死んだ後、1年辺り戦場などの他の場所で彷徨っていたので、エツ達の行方が分からなかったのだ。
根岸町に入ると辰巳は祐三にエツの実家まで案内してもらう前に車を停める場所を探した。車を停める駐車場を探すとちょうど、パーキングエリアを見つけた。辰巳はパーキングエリアで車を停めてから降りた。根岸町は住宅街で家がたくさん建ってはいたが静かな所でもあった。その後は、祐三がエツの実家があった場所まで案内してくれた。辰巳は祐三の後を付いて行きながら先へと進んだ。少し迷いもしたが祐三は諦めず案内を続けた。それも無理もない。第二次世界大戦が終焉してから78年も経つので根岸町の風景は大分変ったのだから。祐三の話だとエツの実家へは4回ぐらい行った事があると聞いている。そして、年月が経ち町が変わっても日野市の日野本町と町田市の根岸町を行き来しながら捜していたみたいだ。もちろん、死神達に見つからないように。だから、日野市のどこにいるのか分からなかったのだ。でも、残りは後二日。何としてでも祐三の遺族の行方、そして彼の血を引いた遺族に会い成仏させたい。そんな気持ちが一杯だった。そして、祐三も妻と子がこの世にはいないのかもしれないと思ってもいたが、それでも愛する妻と我が子に会えるまであの世へ行くつまりは全くなかった。きっと、祐三は自分の家族を強く愛しているから77年間も現世に留まっていたに違いない。辰巳は自分の家族を持っていないので家族愛という気持ちは無くあまり実感が湧かない。こんなにも必死に家族を捜す祐三に辰巳はどれだけ家族を愛していたのか彼の話を聞いて少しだけ分かった気もした。暑い日差しの中、二人はエツが住んでいた実家の場所を探しやっと見つけた。
二人が見たエツの実家があった場所には違う人が住んでいる別の家が建っていた。それもそうだ。77年も経ったので、エツの実家はもう無くなり、違う家が建ち別の人が住んでいるのだから。さすがに知らない人の家にインターホンを押して「ここに市川エツさんのご実家がありましたよね?」と訊いたら、絶対に怪しまれるしおかしな人だと思われてしまう。辰巳は違う人が住んでいる家の前で考えていた。市川エツの遺族、または親族がどこに住んでいるのか分かれば、長い時間の中、捜す手間が省けて助かるが手掛かりなしではどうにもできない。これが、代行人の大変さの一つでもある。しかし、ここで捜索をやめて祐三に大人しくあの世へ行くよう説得しても、祐三は絶対にエツと息子の行方を知るまであの世へ行かないだろう。辰巳はバッグの中に入っている代人ファイルをもう一度、開いた。でも、エツの血を引いている遺族や親族の名前は書いていない。辰巳はこの死神の代行人の仕事でしばしば相手の遺族と親族の名前ぐらい教えてくればいいのに思う事が多い。それが、死神局のケチさだ。辰巳は祐三を誘い自分達がいる現在地から離れた。他人の家の前でウロウロしたりずっと立ったままでいると怪しまれてしまうからだ。現在地から離れた後、辰巳はズボンポケットからスマホを取り出し何やら打ち始めた。そして、打ち終わると自分のスマホを耳に当てた。
「もしもし。死神局ですか?代行人の山崎辰巳です。死神102号さんはいますか?」
死神局の中は、死神達が忙しそうに働いていた。あの世へ送った魂の行方不明や迷子を捜したり、現世でもうすぐ死んでしまう人間が魂になる所を見守ったり、書類整理や人間のデータ確認等もしている。
死神102号は、本局の人事にちょうど、戻って来た。すると、女性の死神が死神102号に近づいてきた。
「102号さん。代行人の山崎辰巳さんからお電話が着てるわ。今、保留にしてあるからすぐ出てやって」
死神102号は頷いた。
「分かった。ありがとさ~ん」
相変わらずの余裕さがある死神102号。
死神102号は、自分の席に座り固定電話機を取った。
「お待たせしました。こちら、死神102号」
辰巳はスマホを耳に当てながら話した。
「あっ、102号さん?こんにちは。辰巳です」
死神102号は、固定電話機の紐をクルクルと弄りながら話していた。
「辰巳さん。佐々木祐三さんの件はどうですか?」
辰巳は自分の後ろ上にいる祐三を見て話した。祐三は空中に浮かびながら景色を眺めながら辰巳の電話が終わるまで待っていた。
「佐々木祐三さんは、宝泉寺で見つかりました」
死神102号は受話器を持ちながらデスク上に足を乗せた。
「そうですか。良かったです。それで、ご用件は?」
辰巳は死神102号に用件を言った。
「現代にいる佐々木祐三さんと市川エツさんの遺族、または親族の名前を教えてください」
それを聞いた死神102号は断った。
「それは、できません。死者の遺族・親族は個人情報の一つ。死神局とあの世の記録係だけしか知らないトップ・シークレットなんです。辰巳さんもご存知でしょう?」
しかし、辰巳は諦めなかった。
「もちろん、分かっています。ですが、名前が分かったとしても肝心な居場所がつかめなければ今回の件は解決できないかもしれないんです」
死神102号も諦めなかった。
「現世の市役所に行けば宜しいのでは?」
「現世の市役所で相手の家系図を調べるとなると、本人からのサインを貰わなければ調べる事ができないんですよ。誰にも気づかれずこっそりと二人の遺族・親類の情報を引き出して教えてくれませんか?」
それを聞いた死神102号室は慌ててデスク上に乗せた足を下ろし背を低くして空いた左手で口元を隠しながら小声で言った。
「じょ、冗談はよしてくださいよ。そんな事をしたら俺、局長から即クビにされて強制的に肉体を引き離されて魂だけとなってルール違反を犯した罪で地獄行きなりますよ!俺にとっての100年の人生がパァになりますよ・・・!」
「男だろ?男ならドンと自信を持たなくちゃ」
受話器越しから聞こえる辰巳のセリフに死神102号は苦い表情を見せた。
「自信持てって・・・。簡単に言っていますけど、こちらには、リスクってものがあります。死者の遺族・親族の情報を代行人のあなたに教えるなんて無理です。俺にはできません」
すると、辰巳は話を変えた。
「では、こうしましょう。佐々木祐三さんか市川エツさんの遺族または親族の情報を教えてくれましたら、あなたの秘密を忘れてあげましょう。もし、情報を教えてくれないなら、局長さんにあなたの秘密をバラしますよ?」
すると、死神102号は背筋をピーンと伸ばして硬直した。
「秘密って・・・まさか・・・!」
受話器から辰巳の知っていそうな声が聞こえた。
「そうです」
すると、死神102号は顔をデスクの下に隠し小さな声を出した。
「わ、わかりました。やってみますので、それだけは・・!」
「分かれば宜しい」
憎たらしい辰巳の声が聞こえた。ここで死神102号の弱みを出すとはなんと、悪知恵を働く憎たらしい奴だ。
「じゃあ、どちらかのご遺族か親族の情報が見つけましたら、こちらからご連絡しますので」
「よろしくお願いします」
「はい。失礼します」
死神102号は受話器を戻し大きな溜息を漏らし体の力が抜けた。まさか、辰巳に脅されるとは思いもしなかった。
死神102号との電話を終えた辰巳は空中に浮いている祐三を呼んだ。辰巳に呼ばれた祐三はゆっくりと降りて辰巳から死神102号との話した結果を聞いた。
「では、分かるんだな?」
辰巳は頷く。
「はい。今、死神102号さんが現代に生きているあなたか市川エツさんのご遺族・親族の情報を探してくれています。少し時間がかかるかと思いますが」
「いや、いいんだ。居場所さえ分かればそれでいい」
祐三は納得したかのように笑った。余程、嬉しいのであろう。それに、辰巳が死神を脅すとは思いもしなかった。
辰巳が墓地を歩いていた途端、目の前に軍服姿の男性がじっと墓を見つめていた。辰巳は肩掛けバッグから昨夜、死神102号から受けとった白黒写真を見た。辰巳は白黒写真を見て目の前にいる男性の姿を見て確認した。白黒写真には軍服を着た男性の姿が写っていた。素を見て辰巳は思った。墓をじっと見つめている軍服の男性は間違いなくサイパンの戦いで死に霊になってから77年という長い年月を過ごし現世に残っていた佐々木祐三だった。辰巳は自分の考えが当たった事に喜びを感じた。しかし、これで終わりではない。長年、現世にい続けていた佐々木祐三にあの世へ行くよう説得しなければならない。でも、今でもこの時代の現世にいるという事は、まだやり残した事が成し遂げていないのかもしれない。なんせ、相手は太平洋戦争でアメリカ軍と戦った日本軍の兵士。きっと、プライドが高く気が強いかもしれない。五、六回だけ代行人をやった事はあるが、今までは現代で亡くなった霊をあの世へ送った事はあるが、過去の時代に生きていた霊をあの世へ行くよう説得するのは今回が初めてだ。それに、佐々木祐三の姿は全くもって人の姿をしている。死神102号の言う通り、悪霊化になっている様子は全く見えない。でも、本来なら二週間後ぐらいになると悪霊化するはずだが、一体どうやって悪霊化にならなかったのかが不思議に思える。それに、そんなに怖そうな人ではなさそうなので、もしかすると現世に留まる理由が分かるかもしれない。
辰巳は墓をジッと見つめている佐々木祐三の方へ行き声をかけた。
「あの・・・。佐々木祐三さんですか?」
すると、祐三は辰巳の声が聞こえたのか振り向いた。
「誰だ。お前は?」
「僕はー」
自分が誰なのか訊かれた辰巳は自己紹介をしようとした途端、祐三は驚いた顔をしていた。
「もしかして、お前。俺の姿が見えるのか?」
そう訊かれた辰巳は頷いた。
「あっ、はい。見えます」
「俺の姿が見える人間がいるとは。長年、現世にいて誰も気づいてもらえなかったのに」
辰巳は改めて自己紹介をした。
「初めまして。僕は、山崎辰巳と申します。あなたをお迎えに上がりました」
「お迎え?」
「はい。僕は、死神の代行人という死神の代わりに現世にいる霊をあの世へ送る使命を持つ者です。佐々木祐三さん。あなたは、77年前、サイパンの戦いにて戦死された方ですよね?」
すると、祐三は何か感づいたのか辰巳を警戒しだした。
「死神の代わりだと?だとすると、お前はあの死神の代わりに俺をあの世へ行くよう言いに来たのか?」
辰巳は祐三の事を怖そうな人ではないと思っていたが、なかなかの警戒心を持っていて手強そうな相手だと感じた。きっと、戦場での警戒心が残っているに違いない。
「そうです。あなたは、77年間、この現世にい続けています。これは、あの世の規律法によって禁じられています。本来は、亡くなってから二週間後、現世にい続けると悪霊化になるんです。佐々木さんの場合では幸い悪霊化していませんが、もし、悪霊になってしまったら、霊能力者の手によって消滅しもう二度と生まれ変わる事はできなくなります。とにかく、これ以上、現世にいるのは諦めてあの世へ行って頂けませんか?」
辰巳は強く説得した。二週間後まであの世へ行かなければ悪霊化してしまう事は、77年前に祐三の魂をあの世へ送るはずの死神253号から話を聞いているはず。辰巳は何としてでも、祐三をあの世へ行って欲しかった。
「断る!俺はまだやるべき事がまだ残っているんだ」
祐三はあの世へ行く事を否定した。やはり、まだやり残した事は成し遂げていない様だ。
「でしたら、協力させてください。代行人は、現世でまだ心残りがある霊の手伝いをすることができます。あなたがあの世へ行く残りのタイムリミットは、三日あります。この三日間、あなたのやり残した事が成し遂げるのをお手伝いします」
「それは・・・本当か?」
辰巳は強く頷いた。祐三は腕を組みながら黙った。どうやら、考えているみたいだ。でも、祐三の未練が果たせる事ができれば、何だってするつもりである。辰巳は過去に未練を残した霊と出会いあの世へ送った事がある。死んだ霊達が持つ未練は様々な思いを持っている。祐三は、過去の時代で何らかの理由で現世に残っているので、どんな未練を残しているのか気になっていた。
「本当に、協力してくれるんだな?」
「もちろんです。男に二言はありません」
辰巳は強く頷いた。
すると、祐三は腕組をやめた。きっと、辰巳の事を信じ始めたのであろう。
「俺が現世に残っているのは、人を捜しているんだ」
「人・・・ですか?」
祐三は頷いた。
「俺にはエツという妻がいたんだ」
「奥様がいらしていたんですか?」
「そうだ」
祐三は目を閉じ頭の中にある過去の記憶を蘇らせた。それは、エツという祐三の妻の姿だ。
「エツは、素晴らしい女性だった。彼女は、花のように美しく凛とした姿をしていながらも優しく、明るい人だった。初めて会った時は、あの美しさに見とれ好きになった。結婚した後、同居して将来の事を話したもんだ。彼女と話し共に過ごし巣時間は何よりも幸せだった。しかし、子供が産まれてから1年経ったある日、俺の所に召集令状が届いた。俺はお国の為に敵国と戦う為、妻と子を残し戦場へ向かった」
*
1942年(昭和17年)7月 日野市
暑い真夏の中、家の中から二人の夫婦と祐三の母親が出てきた。祐三は軍服を着ていた。
「それじゃ、行ってくるよ」
祐三は妻と祐三の母親に言った。
「祐三・・・。生きて帰ってくるんだよ」
祐三の母親は寂しそうな顔をして別れを惜しんでいた。
「俺なら大丈夫だ。母さん。親父の分も一緒に生きて必ず帰るよ」
悲しそうな顔を見せない祐三は笑顔で言った。あまり、母親に心配させたくないのだ。そして、一人の赤ん坊を抱っこしている妻は悲しそうな顔をしていた。その妻は美しく凛とした姿をしている。
「エツ。そんな顔をしないでくれ」
祐三は妻であるエツの顔を見た。エツは顔を上げた。
「・・・・本当に行ってしまうのですか?」
エツの悲しそうな顔を見て祐三も悲しくなりそうだった。しかし、ここで悲しんだら男の名折れだと思い決して悲しい顔をしないで笑顔だけ見せていた。
「ああ。これは、お国の為なんだ。この国、日本を守らなければいずれ、敵国が侵略してくるだろう。大丈夫。必ず、生きて帰るから。それに・・・」
祐三はエツが抱っこしている我が子の寝顔を見た。
「お前とこの子、信三を守る為にでもあるから」
エツは寝ている信三の顔を見た。
「・・・・途中までお見送りします。お母さん。この子をお願いします」
エツは寝ている信三を差し出した。
「分かったよ」
祐三の母親はエツに渡された赤ん坊の信三を受け取り抱っこした。
二人きりとなった佐々木夫婦は何も言わないまま黙って歩いていた。
すると、先頭で歩いていた祐三が立ち止まり振り向いた。
「ここで、大丈夫。後は一人で行く」
エツも立ち止まり頷いた。
「・・・はい」
祐三はまだ悲しんでいるエツを励まそうと明るい声を出した。
「元気出せよ。俺なら大丈夫。絶対に生きて帰るさ」
しかし、エツはまだ悲しんでいる顔をしながら俯いている。余程、祐三と別れるのが辛いのだ。それもそうだ。二人は愛し合っていたのだから。祐三はそっとエツの手を優しく握った。
「俺は、エツと結婚して良かったと心の奥底から思っている。お前がいたからこそ、信三が産まれ幸せな時間ができた。俺はお前の夫になって本当に良かった」
すると、エツは顔を上げた。
「そんな・・・そんな最後のお別れみたいな事を言わないでください・・・!私は、ずっと、これかもずっと、祐三さんを愛し続けたいのです・・!あの子と一緒に・・家族4人で暮らす事が私の夢でもあるんです。だから・・最後のお別れみたいに言わないで・・・」
エツはこみあげるような悲しい声を出し目が潤んでいて今にでも泣きそうだ。
「ごめん・・。でも、俺は死なない!お前と信三の為にも必ず生きて帰ってみせる・・!お前の所に・・!」
祐三は強くエツを抱きしめた。エツは祐三の最後の温もりを感じながら涙を流し抱きしめた。そして、祐三は抱きしめていたエツを離し言った。
「じゃあ、行ってくる」
祐三は振り向き前へ進んだ。エツは涙を流しながら祐三の背中を見て見届けていた。
*
2021年(令和3年)現代 日野市 宝泉寺
「そして、俺は2年間、敵国の兵と戦い死んだ・・。俺は、彼女との約束を果たせなかった・・・」
祐三は目を開け思い詰めた表情で言った。
「俺は・・・バカな男だ。生きて帰るって約束したのに、約束が守れなかった・・・・」
悲しい表情を見せた祐三に対し辰巳は励ました。
「お気持ちは分かります。ですが、あなたは決してバカではありません。あなた方が日本を守ってくれたおかげで、こうして平和な世の中になったのです。きっと、奥様も家族と国の為に戦ったあなたを誇りに思ったかもしれません」
祐三は辰巳の言葉を聞いて笑みを浮かべた。
「そうだな・・・。そうだよな。ありがとう」
辰巳は笑みを浮かべた。
「話が変わりますが、僕にやって欲しいことはありますか?力になります」
何か協力できるような事はないか祐三に聞いた。
「頼みたい事は、一つだけ。彼女、エツの行方を捜し見つけてくれないか?」
「エツさんの行方ですか?」
祐三は頷いた。
「俺は戦場で死に霊となってこの日野に戻ってきたのだが、エツの姿が見えなかったんだ。もちろん、エツの故郷である町田の方にも足を運んだ、いや、飛んだといえばいいのか?とにかく、彼女の故郷である町田へ行ったがエツと息子、お袋の姿はなかったんだ」
「なるほど。だから、あの世へ行くのを断っていたのですね?」
「ああ」
祐三は頷いた。妻のエツと息子の信三、そして母親の姿がなかったから、捜す為にあの世へ行かなかったという理由を知り調べがいがありそうな感じがした。
「それでは、僕がその祐三さんのご遺族の行方を捜し見つけて欲しいという事ですね?」
祐三は「そうだ」と言いながら頷いた。
「できるか?」
「出来る限り、捜してみます。ここ日野本町と町田市にはいなかったのですよね?」
「そうだ」
「でしたら、この二つ以外の他の町へ行って捜してみましょう。日野市には、日野本町以外に他にも町がありますからね。でも、あちこち日野市の町を転々と行き来したら大変なので、市役所へ行って訊ねてみるしかありませんね。佐々木さんも一緒に来ますか?」
「ああ。二人で相談しながら捜す方が手っ取り早いからな」
「分かりました。行きましょう」
祐三は頷き辰巳と共にエツと息子、そして祐三の母親探しが始まった。
夜、辰巳は家に帰っていた。帰った途端、ソファに座ってグッタリしながら翼が汲んでくれた麦茶を飲んでいた。
「ハァッ!生き返る」
「それで、佐々木祐三さんの遺族は見つかったの?」
辰巳は頭を横に振った。
「いや、ダメだ。まだ見つけていない。佐々木祐三さんの遺族を見つけるには、市役所へ行って佐々木家の家系を調べてもらうしかないんだ」
「じゃあ、調べてもらったら?」
「そう簡単に調べられるわけじゃないんだ。僕みたいな他人が佐々木家の家系を市役所の人が調べてくれるには、今の時代で生きている佐々木家の遺族本人から許可を貰わなくちゃいけないんだ。勝手に調べる事はできないだろ?」
「確かに。あれ?じゃあ、今の時代に生きている佐々木さんと同じ血が繋がっている遺族がどこへ引っ越したか訊けばよかったんじゃない?」
辰巳は首を振った。
「佐々木祐三のお孫さんはどこですか?と訊いても分からないよ。祐三さんの事を調べたいなら、祐三さんの血を引いている遺族から家系図調査の許可を貰わなくちゃいけないし、日本全国にいる「佐々木」という苗字を持っている全国人数は、およそ676000人もいるんだぞ?その676000人の中のたった一人が祐三さんと関係を持つ家族なんだ」
「佐々木」という苗字の全国人数が676000人もいると知った辰巳が口をあんぐりして俄然としていた。
「じゃ、じゃあ、捜しようないじゃん・・・!」
辰巳はソファに寄り掛かりため息を出した。
「そう。だから、正直、参っているんだ。代人ファイルには祐三さんの生年月日と出身地とかぐらいしか書いてないし・・・・」
珍しく辰巳が弱音を吐いた。
「お孫さんの名前とか書いてないの?」
「代人ファイルは、人間が持つ機密情報ファイルだけど、死者の家族については書いてないんだ。死者の家族の情報は、死神か本社で管理しているから」
「確か、祐三さんをあの世へ送るまで明日で後、二日でしょ?時間ないじゃん。」
「ああ・・。明日、祐三さんの妻であった市川エツさんの故郷である町田市へ行く」
「そうなんだ。それにしても、たった、三日だけじゃ調べられないよね。」
辰巳は苦笑いをした。
「仕方がないさ。死神局のお偉いさんが決めた事なんだから」
「それで、佐々木祐三さんは?」
「それが、家に招待しようとしたんだけど、他人の家には上がりたくないって言うもんだから、布多天神社まで送ったよ」
「早く祐三さんの関係者が見つかるといいね」
辰巳は頷いた。今日初日で祐三を見つけたのはいいが、肝心な関係者、遺族がどこへ行ったのか分からない。タイムリミットは二日後。辰巳は明日はエツの故郷である町田市へ行き、エツの遺族を捜すしかなかった。
二日後
辰巳は祐三を車に乗せ町田市に来た。町田市には七国山があり緑がある町だった。昨日の祐三の話では、エツは町田市の中西部にある根岸町に生まれ住んでいたと聞く。そして、そこにはエツが結婚した後も彼女の両親は根岸町に住んでいた事を聞く。辰巳は祐三の情報を頼りに根岸町へ目指した。きっと、エツの孫にあたる人に訊けば佐々木家の行方を知っているのかもしれない。それに、祐三は死んだ後、1年辺り戦場などの他の場所で彷徨っていたので、エツ達の行方が分からなかったのだ。
根岸町に入ると辰巳は祐三にエツの実家まで案内してもらう前に車を停める場所を探した。車を停める駐車場を探すとちょうど、パーキングエリアを見つけた。辰巳はパーキングエリアで車を停めてから降りた。根岸町は住宅街で家がたくさん建ってはいたが静かな所でもあった。その後は、祐三がエツの実家があった場所まで案内してくれた。辰巳は祐三の後を付いて行きながら先へと進んだ。少し迷いもしたが祐三は諦めず案内を続けた。それも無理もない。第二次世界大戦が終焉してから78年も経つので根岸町の風景は大分変ったのだから。祐三の話だとエツの実家へは4回ぐらい行った事があると聞いている。そして、年月が経ち町が変わっても日野市の日野本町と町田市の根岸町を行き来しながら捜していたみたいだ。もちろん、死神達に見つからないように。だから、日野市のどこにいるのか分からなかったのだ。でも、残りは後二日。何としてでも祐三の遺族の行方、そして彼の血を引いた遺族に会い成仏させたい。そんな気持ちが一杯だった。そして、祐三も妻と子がこの世にはいないのかもしれないと思ってもいたが、それでも愛する妻と我が子に会えるまであの世へ行くつまりは全くなかった。きっと、祐三は自分の家族を強く愛しているから77年間も現世に留まっていたに違いない。辰巳は自分の家族を持っていないので家族愛という気持ちは無くあまり実感が湧かない。こんなにも必死に家族を捜す祐三に辰巳はどれだけ家族を愛していたのか彼の話を聞いて少しだけ分かった気もした。暑い日差しの中、二人はエツが住んでいた実家の場所を探しやっと見つけた。
二人が見たエツの実家があった場所には違う人が住んでいる別の家が建っていた。それもそうだ。77年も経ったので、エツの実家はもう無くなり、違う家が建ち別の人が住んでいるのだから。さすがに知らない人の家にインターホンを押して「ここに市川エツさんのご実家がありましたよね?」と訊いたら、絶対に怪しまれるしおかしな人だと思われてしまう。辰巳は違う人が住んでいる家の前で考えていた。市川エツの遺族、または親族がどこに住んでいるのか分かれば、長い時間の中、捜す手間が省けて助かるが手掛かりなしではどうにもできない。これが、代行人の大変さの一つでもある。しかし、ここで捜索をやめて祐三に大人しくあの世へ行くよう説得しても、祐三は絶対にエツと息子の行方を知るまであの世へ行かないだろう。辰巳はバッグの中に入っている代人ファイルをもう一度、開いた。でも、エツの血を引いている遺族や親族の名前は書いていない。辰巳はこの死神の代行人の仕事でしばしば相手の遺族と親族の名前ぐらい教えてくればいいのに思う事が多い。それが、死神局のケチさだ。辰巳は祐三を誘い自分達がいる現在地から離れた。他人の家の前でウロウロしたりずっと立ったままでいると怪しまれてしまうからだ。現在地から離れた後、辰巳はズボンポケットからスマホを取り出し何やら打ち始めた。そして、打ち終わると自分のスマホを耳に当てた。
「もしもし。死神局ですか?代行人の山崎辰巳です。死神102号さんはいますか?」
死神局の中は、死神達が忙しそうに働いていた。あの世へ送った魂の行方不明や迷子を捜したり、現世でもうすぐ死んでしまう人間が魂になる所を見守ったり、書類整理や人間のデータ確認等もしている。
死神102号は、本局の人事にちょうど、戻って来た。すると、女性の死神が死神102号に近づいてきた。
「102号さん。代行人の山崎辰巳さんからお電話が着てるわ。今、保留にしてあるからすぐ出てやって」
死神102号は頷いた。
「分かった。ありがとさ~ん」
相変わらずの余裕さがある死神102号。
死神102号は、自分の席に座り固定電話機を取った。
「お待たせしました。こちら、死神102号」
辰巳はスマホを耳に当てながら話した。
「あっ、102号さん?こんにちは。辰巳です」
死神102号は、固定電話機の紐をクルクルと弄りながら話していた。
「辰巳さん。佐々木祐三さんの件はどうですか?」
辰巳は自分の後ろ上にいる祐三を見て話した。祐三は空中に浮かびながら景色を眺めながら辰巳の電話が終わるまで待っていた。
「佐々木祐三さんは、宝泉寺で見つかりました」
死神102号は受話器を持ちながらデスク上に足を乗せた。
「そうですか。良かったです。それで、ご用件は?」
辰巳は死神102号に用件を言った。
「現代にいる佐々木祐三さんと市川エツさんの遺族、または親族の名前を教えてください」
それを聞いた死神102号は断った。
「それは、できません。死者の遺族・親族は個人情報の一つ。死神局とあの世の記録係だけしか知らないトップ・シークレットなんです。辰巳さんもご存知でしょう?」
しかし、辰巳は諦めなかった。
「もちろん、分かっています。ですが、名前が分かったとしても肝心な居場所がつかめなければ今回の件は解決できないかもしれないんです」
死神102号も諦めなかった。
「現世の市役所に行けば宜しいのでは?」
「現世の市役所で相手の家系図を調べるとなると、本人からのサインを貰わなければ調べる事ができないんですよ。誰にも気づかれずこっそりと二人の遺族・親類の情報を引き出して教えてくれませんか?」
それを聞いた死神102号室は慌ててデスク上に乗せた足を下ろし背を低くして空いた左手で口元を隠しながら小声で言った。
「じょ、冗談はよしてくださいよ。そんな事をしたら俺、局長から即クビにされて強制的に肉体を引き離されて魂だけとなってルール違反を犯した罪で地獄行きなりますよ!俺にとっての100年の人生がパァになりますよ・・・!」
「男だろ?男ならドンと自信を持たなくちゃ」
受話器越しから聞こえる辰巳のセリフに死神102号は苦い表情を見せた。
「自信持てって・・・。簡単に言っていますけど、こちらには、リスクってものがあります。死者の遺族・親族の情報を代行人のあなたに教えるなんて無理です。俺にはできません」
すると、辰巳は話を変えた。
「では、こうしましょう。佐々木祐三さんか市川エツさんの遺族または親族の情報を教えてくれましたら、あなたの秘密を忘れてあげましょう。もし、情報を教えてくれないなら、局長さんにあなたの秘密をバラしますよ?」
すると、死神102号は背筋をピーンと伸ばして硬直した。
「秘密って・・・まさか・・・!」
受話器から辰巳の知っていそうな声が聞こえた。
「そうです」
すると、死神102号は顔をデスクの下に隠し小さな声を出した。
「わ、わかりました。やってみますので、それだけは・・!」
「分かれば宜しい」
憎たらしい辰巳の声が聞こえた。ここで死神102号の弱みを出すとはなんと、悪知恵を働く憎たらしい奴だ。
「じゃあ、どちらかのご遺族か親族の情報が見つけましたら、こちらからご連絡しますので」
「よろしくお願いします」
「はい。失礼します」
死神102号は受話器を戻し大きな溜息を漏らし体の力が抜けた。まさか、辰巳に脅されるとは思いもしなかった。
死神102号との電話を終えた辰巳は空中に浮いている祐三を呼んだ。辰巳に呼ばれた祐三はゆっくりと降りて辰巳から死神102号との話した結果を聞いた。
「では、分かるんだな?」
辰巳は頷く。
「はい。今、死神102号さんが現代に生きているあなたか市川エツさんのご遺族・親族の情報を探してくれています。少し時間がかかるかと思いますが」
「いや、いいんだ。居場所さえ分かればそれでいい」
祐三は納得したかのように笑った。余程、嬉しいのであろう。それに、辰巳が死神を脅すとは思いもしなかった。
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