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しおりを挟む私には二人の妹がいます。
二人は双子で、名前をサツキとヒナタと言います。
いつも太陽のように明るくて、家族の誰よりも元気があるのがヒナタ。
いつもは無口、だけど家族の中で一番賢くて頼りになるのがサツキ。
二人とも顔が一緒で区別が出来ないくらいそっくりだけど、それでも二人は人間で性格はバラバラ。
でも、そんな内面がバラバラなサツキとヒナタですが、好きなものは意外なことに二人とも一緒なのでした。
少し前に「好きなものはなに?」と聞いたら。
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん…」
ヒナタは抱きつく勢いでそう言って。
サツキは服の裾をキュッと摘んでか細い声で言いました。
そうなんです…二人とも幼い頃から私のことが好きで好きで仕方がないようなんです。
確かに、長女として妹に好かれるように常に二人の模範として良い姉として振る舞ってきましたが、まさか二人が高校生にもなって私にべったりなのは少し心配なのです。
だって二人は私と違って優秀…。
こんな私にべったりしていないで、もっと相応しい人の隣にいて欲しい。
それに両親からも同じ事を言われています。
私は二人と違って凡人だから、二人の成長の妨げにはなってはならない…。
ひどい言い方ですが、両親の言うことは確かにその通りです。
なので私は考えました…。
二人がお姉ちゃん離れをするには、どうしたらいいのか?
どうしたら二人は私に興味をなくしてくれるのか?どうしたら二人は私ではなく他の事に目を向けてくれるのか?
そして、考え抜いた先にたどり着いたのが…。
◇
「「え……?お姉ちゃん、一人暮らしするの?」」
「うん、そろそろ一人立ちしないとって思ってましたし、いつまでもここにいちゃいけないと考えてたから…」
考え抜いた先に選んだのは、私がこの家から出ていくことでした。
物理的に距離を置いてしまえば、二人はきっと私に興味を無くしてくれる。
少し寂しいですし、かなりの決断ではありましたが…考え抜いた結果なので後悔はありません。
両親も私が出て行くことを願っていたのか、二つ返事で了承を貰いました。
ただ…問題は一人暮らしの後です。
私、残念ながら家事も炊飯も出来ない人間なので、一人になった矢先どんな試練があるのか考えただけでも身震いがします…。
洗濯とか掃除、いろいろ出来ますでしょうか?私ドジだから色々と……。
「お姉ちゃん…一人暮らしとか絶対無理がある…!それに」
「そうだよ!お姉ちゃん家事出来ないんだから無理して一人暮らしする必要ないよ!てかなんで今まで黙ってたの!?それに!」
「「お姉ちゃんが出て行くの…やだ!」」
「サツキ…ヒナタ…」
図星を突かれてしまい、思わず怯みます。
それに二人がここまで嫌がるなんて、想定を遥かに超えていました。
まさか二人して服の裾を伸びるくらいに掴んで、綱引きみたいに私を引っ張ってくるなんて…。
ここまでされると、少し心がグラッと来ます。
元々私は迫られると断れない人間なので、こんな風に求められてしまうとガチガチに固めたはずの硬い決心が、一気に頼りなくなって溶けてしまいそうです。
ですが、これは二人の事を思ってのこと!
サツキとヒナタに好かれてとても嬉しいのですが、私は二人の姉の前に…二人の障害です。
優秀な二人に…私のような重りはいりません!
「ごめんなさい…でも私、もう決めました!」
「家族に頼らず、一人立ちをします!二人には申し訳ないですが受け入れてください!」
「そんな…なんで…?受け入れられる訳ないよ…お姉ちゃん言ってたよね?私達を愛してるって…」
「う、うそ…!うそだよ!だってお姉ちゃん前に言ってたじゃん!ずっと私達と一緒にいてくれるって!」
「べ、別に離れて暮らすだけですし…って、二人ともすごい泣きそうな顔してます!」
サツキとヒナタの瞳の下にキラリと光る小さな雫。
うるうると揺らぐ瞳は今にも決壊寸前で…泣きそうな二人は私の服を離してはくれません。
まさかここまでお姉ちゃん好きだとは…。
想定を遥かに超えていて、ちょっと怖いです。
「お姉ちゃん…本当に出て行くの?」
「ねぇ、嘘って言ってよ…」
「うぐっ……でも私、もう家を借りましたし…それにさっきも言いましたがいつでも会えるんですから…」
「「それでもお姉ちゃんと離れ離れはイヤ…!」」
「そ、そう言われてもぉ……」
流石にこれ以上二人に関わっていると、私の決心が崩れてしまいます…。
多少心は傷付きますが、ここは心を鬼にして二人に現実を突きつけます!
「い、いい加減二人はお姉ちゃん離れをしてください!いつまでも私がいるとは思わないで!」
「それに、私はもう大人です!自立します!」
「本気なんだ…お姉ちゃん」
「なんで……」
レッサーパンダの威嚇のように、精一杯の勇気を奮い立たせて私は言いました。
二人は心の底から驚いているのか、暗い表情で私を見上げるように見ています…。
酷な事ではありますが、これも二人のため。
これがキッカケで二人も……。
「「私達がいないと、なにも出来ないくせに…」」
「…へ?」
この時、二人は諦めてくれると思ってました。
でも、返ってきたのは体が震えるほどの暗い感情に満ちた声でした。
二人の口から聞いたことのない暗い声、産毛が逆立つくらいぞわりとした感覚に、私はぽかんと呆けていると…。
「ねぇサツキ…もうどっちがお姉ちゃんを手に入れるとか…そんな話してらんないよね?」
「そうね…珍しくヒナタの言う通り、今はそれどころじゃない…」
「え?私を手にいれ…?え?」
「「お姉ちゃんは分からないと思うけど、私達はお姉ちゃんの事が好き」」
「いや、分からなくないよ?二人とも私が好きなのは十分に理解して…」
「ううん、分かってない…分かってないよお姉ちゃん。だって知らないでしょ?」
分かってないよ、とヒナタが首を横に振って否定する。
どういうこと?と不思議に思う私を横に、ヒナタは相変わらずのあどけない笑顔で言うのでした。
「私達がお姉ちゃんのこと、家族として好きだなんて一度も思ってない……ずっとずっと昔からお姉ちゃんのことを…」
「「恋愛対象として見てたんだから…♡」」
一瞬、ヒナタの綺麗な瞳が真っ黒に染まったような気がしました。
同時に耳元からサツキの声がすると、私の口元に湿った布のような物が当てられます。
いつのまに背後に…!なんていうのは今更。
その湿った布からは強烈な薬品の匂いがしました、鼻をツンと刺激するような異臭に目が眩みそうになると…身体の重みがストンと抜け落ちる感覚を覚えます。
思考が急激に去っていく…。
それは眠気にも似た感覚で、どこか気持ち悪い。
「二人とも…なんで」
「なんでもなにも、お姉ちゃんが出て行くから」
「私達の前から去って行くとか、許せないし」
「「だからお姉ちゃん…私達の本当の気持ち、その身体に刻み込んであげる♡」」
混濁する意識の中、初めて見る二人の歪んだ笑顔を見て…私は気付いてしまいました。
もしかして私は、盛大なミスをしてしまったのではないでしょうか?
サツキとヒナタはただ、少し姉が大好きで可愛い妹としか思ってなかったけど…ほんとは、ほんとうは……!
「これでようやく本当の私達をお姉ちゃんに見せられるねサツキ♪」
「うん…緊張はしたけど、もうお姉ちゃんに隠れて色々しなくてもいいのは…楽」
「サツキはお姉ちゃんの下着盗むの好きだったし、これで堂々としててもいいんじゃない?」
「は?それを言ったらヒナタだってお姉ちゃんの残り湯を飲んだりしてたじゃない」
「あれは別に汚くないし、いいと思うけど!」
本当は二人とも…。
ヤンデレだったんだ…!
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