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第二章 アイリス三歳『魔力診』後

その9 サヤカとアリスの学園生活(中編)

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「お待たせ! あたしは螺堂らどう瑠璃亜るりあ。日本とスウェーデンのハーフ。ま、そんなことはどうでもいいんだけどね。よろしく。この私立旭野学園高校のスクールカウンセラーよ。今回の相談者は、あなたたち?」

 北欧系の美少女は、あたしと紗耶香を見た。
 足が、すくんだ。
 なんか。なんていうか、オーラ? すごい『圧』を感じた。
 あたし、月宮アリスは、返答できなかった。 

 だって……スーパーモデルみたいな並河香織さんは、あたしと同じ人類とは思えないような、すっごい美少女。
 スクールカウンセラーさんも、まったく普通じゃない美形だったのだ。

 完璧な美を形にあらわしたような美貌の、二十歳にもなっていなそうな少女。
 ほのかに青みを帯びた銀色の長いストレートヘア。
 透き通るような肌、眉毛もまつげも銀色。形のいい、薄い唇は、ごく淡いピンク、瞳はまるでアクアマリンみたいなきれいな水色。
 ほんとに人間!? って、疑いたくなる。
 まるで妖精みたいな……。

「すっごい、きれい」
 あたしの隣にいる紗耶香が、思わず、呟いた。
「うん。ものすごいキレイ」
 うなずき合う、あたしたち。

 ドキドキ、胸が高まる。
 この生徒会準備室……別名、よろず相談所、に集まっている、生徒会のトップ4は、全員美形なんだもの!
(あ、副会長の山本雅人さんは普通なのですけどね)

 あたしたちがアイドルやってる芸能界というところは、とにかく超美形で超可愛くてオーラがバッチリ輝いてる人たちが大勢いるわけだけど……この生徒会、なんで、とんでもないレベルの美形が揃っているの~!?

 なんかすでに、自分たちの悩みなんて、ささいなことなんじゃないかって気になってきたわ。

「なんでも相談してね!」

「はい、先生」

「あら、違うわよ。教師でも医者でもないから。そうねえ、瑠璃亜さん、って。名前で呼んでね」
 美少女が、ウィンクする。
 破壊力あるわ~。
「ちなみに、この学校の校医は、うちの兄なの。日本人だけど。病気については兄に、法律の絡む案件はスクールロイヤーに話を通すけど、それ以外の、もろもろ、よろず相談は、お任せね。 まっとうな方法でも、そうじゃなくても。スッキリ解決してあげる」

「瑠璃亜さんのは、かなり強引だけどね」
 生徒会長の伊藤杏子さん。背中の半ばまで届く、柔らかい巻き毛のような癖のある栗色の髪と、茶色い瞳。顔立ちは純粋に日本人っぽいから、色素が少しだけ薄いのかな。

「これまでにも前例があるから。解決は保証するよ」
 副会長の山本雅人さん。親しみのある、安心感の『普通人』枠。

「まかせて問題なし!」
 ちょっと目が覚めてきた感じの生徒会書記……名前はなんだったっけ? そうだ、充(みつる)って。それこそ芸能界にいそうな、かわいい系の美少年。

「うん、そういうことだ」
 早くもまとめに入ろうとしている、書記だと名乗ったけども、なんとなく……ラスボス感が漂う、並河香織さん。超美人。気になるのは隣に座っている『充』さんと婚約してるって。高校2年ですよね?

「じゃあ、話を聞かせてもらおうかな?」
 まだ少しだけ迷いがあった、あたしたちの背中を押したのは、並河香織さんだった。
 
          ※

「ストーカー? 気づいたのは、いつ頃から?」

「最近……高校に入った頃からです」

「今は五月だ。ここ一、二ヶ月のこと?」

 主に質問をするのは並河香織さん。
 あたしたちはうなずいて、話を始めた。

 高校入学を契機に電車で通学したいって決めて。
 四月の半ば頃からだった。
 その視線に気づいたのは。

 初めは握手会だった。
 ファンの人と直接、顔を見て握手してサイン。
 それは大好きなイベントだった。
 けど、この春先の会では、こわいことがあったの。

 ひとり、いつまでも手を握って離さない人がいて。
 スタッフの人が注意をしてくれて、助かった。

 そのことがあってから、握手会はとりやめになった。
 会場のスタッフから、あたしたち『サヤカとアリス』の所属事務所の社長に報告があがって、所属タレントの身の安全が第一だってことで、社長さんが決断した。
 だから、今後、このプロダクションでは握手会は行わない。

 このときは、ほっとした。
 だけど終わらなかったの。

 TVに出演して、局を出るとき。 

 最寄り駅のホーム。
 駅の階段を降りるとき。
 帰宅するためのバスに乗り換えるとき。

 ありふれた毎日の、生活の中で、ふと、誰かの『視線』を感じるようになったの。

 自宅まで来たらどうしよう?
 思いあまって紗耶香に打ち明けた。
 そしたら紗耶香も同じように悩んでた。
 でも両親に心配かけたくないというのは、紗耶香もあたしも同じ気持ちだったから。

 マネージャーに相談して、電車通学はやめることにしたの。
 仕事には車で送迎。

 学校は休みたくなかった。
 学園では、いやな視線は感じなかった。

 でも、外では、ずっと視線や、気配を感じていて。
 マネージャーから社長へ。
 そして、学園のオーナーをしている社長夫人から、伝言があったの。

 困っているなら、生徒会の『よろず相談』に、話しておくから。 
 そこに行ってごらんなさいって。

「そうなのー。わかったわ。もうだいじょうぶ! まかせて問題なし!」
 自信たっぷりに、瑠璃亜さんは、宣言した。

「ぜんぶおまかせで。どういう手段をつかうかは、ヒミツね。そこは聞かないでくれれば!」

 もちろん、あたしと紗耶香は、文句の付けようもなかった。

「「おまかせします! 瑠璃亜さん!」」


『グルルゥ』
 気のせいでなければ、そのとき。
 狛犬みたいに香織さんの両脇に控えていた、白犬と黒犬が。
 牙をむいて、天井近くをにらみ、低く、うなった。

 まるで、空中に何かを見てとったみたいに。


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 終わらなかった……すみません。
 あと一回、このエピソードが続きます。
 その後は、異世界(セレナン)のアイリスの視点に戻ります!
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