転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

文字の大きさ
43 / 362
第二章 アイリス三歳『魔力診』後

その10 サヤカとアリスの学園生活(後編)

しおりを挟む
         10

 あたし、月宮アリスと親友の相田紗耶香、二人でアイドル『サヤカとアリス』が春から入学した市立旭野学園高校というところは、とんでもない学校だった。
 というのは。
 たとえば、建物とか設備とかリッチなのに、授業料がすっっごい安い。
 利益をあげようなんて思ってなくてオーナーの道楽なんじゃないの?
 お金が余ってしょうがないから節税のために学園を経営してるんじゃないの?
 そんな学校です。

 学院の施設として病院があるとかカウンセラーがいるとか。やたら設備は整ってるし学食はただでおかわり自由でめちゃ美味しいし。
 生徒会役員がスーパーな人ばかりだとかおまけに美形揃いだとか、しかもなぜか副会長は普通人。

 そして学園の七不思議をあげたらきっと入ると思うことの一つ。
 北欧系美少女スクールカウンセラー。
 螺堂らどう瑠璃亜るりあさん。
 彼女は人間と言うより妖精なんじゃないのかなって思うようなキレイな人で、見た目、あたしたちと年齢はそんなに変わらなそうなんだけど。気さくで屈託がなくて明るくて、ステキ。

 おまかせでいいかって聞かれた、あたしと紗耶香は。思わず、お願いしますってハモっちゃった!

          ※

 空中を……天井の方をちらっと見やって、瑠璃亜さんが言う。
「そうねぇ。今のところ、穏便な方法でいく? 少々回り道のようでも、そのほうがいいかもね。あたしが直接手を出すと、やりすぎちゃう」
「じゃあ、うちの子たちに、おつかいを頼もうかな」

 なんのことか、わからないけど。
 香織さんが、そばに付き従っていた白犬と黒犬に両手をまわして抱き寄せ。囁いた。
「おつかいだよ『牙』『夜』。あの子たちの匂いをたどって、みつけて、連れておいで」

 すると『牙』と呼ばれた白犬が、あたしのほうへ。
 そして『夜』と呼ばれた黒犬が、紗耶香のほうへ、タッタッと足取り軽くやってきてた。
 しめった鼻先を、ぺたっとほっぺにつけて。ふんふんと、においを嗅いだ。
 ……、と思ったら、二頭はそのまま出入り口に向かって駆けていって。
 壁を通り抜けた。
 壁なんてなかったみたいに。

「え!?」
「やだ何!? なんなの?」
 あたしと紗耶香が驚いて立ち上がろうとしたら、

「だいじょーぶよ! 座ってちょっと待ってて。お茶でもいかが? 雅人くん!」

「はいはい。用意してあるよ」
 生徒会副会長である山本雅人くんが、ほかほかの湯気の立つティーカップを、あたしと紗耶香の前に置いた。
 準備してあったってこと?

「カモミールティーと、紅茶のシフォンケーキ、生クリームホイップ添え」
 笑顔につられてカップを口に運んだ。

「わあ。いいにおい!」
「おいしい!」

「よかった。カモミールはリラックス効果があるんだよ」

「初めていただきました!」

「へえ。アイドルって、おいしいものはいっぱい食べたり飲んだりしてるんじゃないの?」
 素朴な疑問を投げかけてきたのは、香織さんの婚約者、沢口充さん。 
 
「そんなことないですよ。うちの父はごく普通の会社員だし」と、紗耶香。

「うちもです。パパはIT技術者っていうのだけど、身体を壊して退職して、在宅でホームページ管理とかをフリーでやってるので」と、あたし。
 紗耶香のうちもあたしの家も、普通に慎ましく暮らしている。ギャラは手つかずで預金してるって。あたしたちの将来のために。

「あたしたち、庶民的なアイドルなんです」
「妹とか子どもや孫みたいな感じで」

 だから正直困ってる、ストーカー。
 恋愛とか独占とかの対象にはしてほしくない。
 あたしたち、いつか恋して結婚とかしたいなとは、ばくぜんと思ってるけど、リアルには考えてなかった。

 ただ好きだから歌っているだけ。踊っているだけ。
 それで誰かがひとときでも楽しんでくれたらいいなって。

「ふぅん。そうなの。あなたたち二人とも、かっわいいわね~」
 気がついたら瑠璃亜さんが、ニコニコ笑ってた。
 あれおかしいな。考えてること、だだもれで喋っちゃってたのかな。紗耶香と顔を見合わせた。
 お互いに、きょとんとしてる。

「お茶、もう一杯いかが?」
 雅人さんがおかわりを持ってきた。
「こんどのはローズヒップ。ビタミンCが豊富なんだ」

「雅人、茶にはまってるから」
「おまえも飲んどけ」
 充さんにも、同じようにローズヒップ茶が渡された。
 きれいな赤い色をしたお茶で、少し酸味がある。爽やかな味だ。

「いいのかな。あたしたち、おいしいお茶とお菓子をいただいて、のんびりしちゃって」
 紗耶香がお茶を飲みながら、ほっこり、だけど腑に落ちないように首をかしげた。

「だいじょうぶ。そろそろ、戻ってくるよ」
 香織さんの、予告どおりに。

 壁に大きな穴が開いたと思うと、少し前に出て行った白犬と黒犬が、戻ってきたのだ。
 二匹は何かを口にくわえていた。
 そして香織さんの前に戻ると、咥えて運んで来たそれを、ぺっと落とした。

 ……二人の、男子を。

 床に落とされた二人は、驚いたように周囲を見回した。
 おとなしめの感じの二人。一人は純粋日本人で黒髪直毛メガネかけてて色白な少年で、もう一人は、金髪巻き毛の、整った顔立ちをした少年だった。
「こっ、ここはどこだ?」
「吉祥寺にいたはずなんだけど」

「あれっ」「あらっ」あたしと紗耶香は同時に声を上げた。

「このひと……電車で通学してたとき、よく駅のホームで見かけてたひとです」
 あたしは黒髪直毛の少年の前に立った。

「こっちの人は、吉祥寺で道を尋ねてきたわ」
 金髪巻き毛の少年を見下ろして、紗耶香が茫然として呟いた。

「へー。こいつらがストーカーなのか」
 山本雅人さんが、今までとは違う、真剣で張り詰めた声を出した。

「ちょい待って! ちがう、ちがいます。なんだかわからないけど、ぼくたちはストーカーじゃありませんっ」
「むしろ逆! 親衛隊です! 二人にヘンなヤツが近寄らないようにいつも用心してるんですっ」

 ちなみに床に吐き出された二人は、よだれまみれでした。香織さんの犬たちにベロベロなめられているの。

「ね? この子たち、ストーカーに心当たりがありそうよ。協力してくれるよね?」
 瑠璃亜さんは、床にうち捨てられてへたり込んだままの彼らに近寄り、にっこり。

「もちろん協力してくれるよね? 最上(さいじょう)キリコくん、ジョルジョ・カロスくん」

「なんで僕たちの名前を?」
「見てたの!?」

「あたしの情報網はすごいのよ。うふふ」
 瑠璃亜さんは曖昧に微笑んだ。

「我が校にようこそ。あたしは生徒会長、伊藤杏子。我が校の生徒を守るのは当然のつとめ。情報提供とか、協力してくれれば、悪いようにはしないわよ」.

「ちなみに協力してもらえない場合はそれなりの処遇をするので、そのつもりでね」
 香織さんは冷ややかに宣言。
 確実にあたりの気温が下がったような……。

「おれ……いや、わたしは並河香織。この学校のオーナー、並河家の娘だ。学園でのことは全て、わたしの裁量に任されている。返答は? きみたちは我々の味方か、敵か」

「香織さん、もうちょい柔らかに! 相手、凍ってるから!」
 慌てたように充さんが割って入った。

 このままだと香織さんが最上さんとジョルジョくんを血祭りにあげそうな気がしたのだろう。
 あたしも、なぜか、そんな予感がして、怖くなっちゃったの!

 するとキリコさんとジョルジョくんは思いあまったように、香織さんに訴えた。

「ぜんぶ言います! ぼくらの手にはあまって、どうしたらいいか困ってて」

「二人して彼女たちを付け狙ってるストーカーの素性を調べ上げたまでは良かったんだけど、ぼくら一般人だし捜査とかできる権限なんてなくて手詰まりで」

「じゃあ決まり」
 瑠璃亜さんは、白い両手を打ち合わせた。
「情報提供で協力してくれたら、ストーカーは排除できるわ。それにきみたちは『サヤカとアリス』の恩人ってことで、すっごく感謝されるでしょうと。何よりのご褒美なんじゃない?」 

 いたずらっぽくウィンクしたのでした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回は、このエピソードの完結編です。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...